| 2007/08/17(Fri) 16:29:42 編集(投稿者)
「ね、本当に大丈夫?」
「だーいじょーぶですよぅ!主任は心配しすぎですって!!」
帰り道にお客さまに頼まれた靴を届ける…、そう彼女に告げると
篠原は非常に嬉しそうに、翌日の遅番を自ら引き受けた。
篠原が1人で遅番をやるのは、今までに無いことだった。
「そうですかぁ。ついに主任にも春が…!!」
「ち、違うわよ!何言ってるの、ばかね。女性よ?」
そういうものの、胸が高鳴った。
女性だからと言って、私の場合、恋愛対象にならないわけじゃないのだ。
いやむしろ、女性だからこそ…と言うほうが正しい。
「ほら、主任!帰ってくださーい。残業するとSVに怒られますよ〜」
いつも私が彼女に言う台詞を、ニヤニヤしながら投げ掛けてくる。
「では、お先、失礼致します…。」
「はーい♪後は任せてください!」
篠原を残して行くことに対して、大きな不安はあったけれど。
彼女と出会ってから4日後、
私は彼女の働いているお店に顔を出すことになっていた。
確かここを右に曲がってすぐのはずだ。
先程駅を降りて見た地図を思い出しながら歩く。
こんなうちの近くの地図を見るのなんて、
このあたりに住むようになってから初めてかもしれない。
いつも目に入るお店にしか行ったことなかったから。
繁華街から少し歩いて表通りから裏路地に入り、
二回右折、一回左折したところに、入り口に白熱灯が
灯っている階段が見えた。入り口に店の名前が書いてある看板がある。
フランス語だろうか。b e a u ……読めない。
けれどあそこを降りていったところにあるのが、彼女の働く店だろう。
隠れ家のような雰囲気を醸し出していて、気になるけれど入りづらい、
そんな趣を持つ店だった。
階段を一歩一歩降りていくと、音楽が聞こえてくると共に
クーラーで冷やされた空気が足元から感じられた。
ボサノバのリズムに心躍らされて、緊張しながら階段を降りきると、
左手にはバーカウンターがある、こじんまりとしたお店に辿り着いた。
カウンターが8席、テーブル席が4つ。
20人も入ればいっぱいになってしまう店だった。
カウンターの向こう側に並ぶリキュールの棚が赤とオレンジの照明で
ライトアップされていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
まだ早い時間のせいか、私の他にお客さまは、テーブル席にいる
3人組の女性客だけのようだった。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうから、私に向かって声が掛かる。
ふと視線を上げると、カウンターには彼女がいた。
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