ビアンエッセイ♪

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■15813 / 親記事)  ]×]
  
□投稿者/ エビ ちょと常連(53回)-(2006/08/12(Sat) 13:03:50)
    ]×]─


    10×10。
    ten×ten。


    (短いのもあるじゃーん)

    その辺は気まぐれに(笑)



    宜しく。





    (携帯)
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■15814 / ResNo.1)  Blue day diary1
□投稿者/ エビ ちょと常連(54回)-(2006/08/12(Sat) 13:06:26)
    3番線に到着の電車は─



    月曜日が。



    黄色い線まで下がって─



    月曜日が来る度に。



    整列乗車にご協力を─




    月曜日が来る度に思う。





    朝7時30分、
    家を出て。


    最寄り駅までは徒歩10分。


    大きなバスターミナルを備えた駅に着いたら時計を確認して。


    少し歩みを早め階段を昇る。


    ピッ─


    ガチャン─


    ICカードの電子音とアナログ式の定期券の音。


    混在する広い改札。


    サラリーマンもOLも学生もチビっ子も。


    動きは早く誰も無口で。


    “改札を詰まらせたら顰蹙を買う”


    云々ではなく。


    ここはきっと。


    「社会」をまっとうに生きる人間でありたいならば、
    ならば誰しもが。



    ただ静かに。


    ただ素早く。



    息を止めて通らなければならない、




    ゲートなのだ。




    ピっ─




    私もちゃんと。


    他の人に遅れを取ることなく定期券を差し込み。



    その門を抜けた。






    ジリジリ…。



    朝から響き渡る蝉の声で。


    今日から7月が始まった事を思い出す。



    ………っつい。



    制服のカッターシャツの首にじんわり汗が滲み。


    直射日光に眉をしかめた。




    ホームを埋め尽くす人々。


    新聞、
    本、
    ケータイ…。


    手にしながら。


    皆、
    下を向いている事。


    皆、
    決まって下を向いている事に。



    私は最近気付いた。




    ちゃんと早起きして。


    ちゃんと決まった電車に乗る為。


    ちゃんと二列に並んでる。



    当たり前のこの景色に。


    日本人て勤勉な人種だなぁなんて。



    疲れない?



    なんて。







    バカみたい。





    なんて。







    3番線に到着の電車は─



    44分。



    私の“決まった”電車がホームに滑り込み。




    みんなバカみたい。





    冷めた目をしながら。





    人波に飲まれないように、
    必死に。





    私も電車に乗り込んだ。






    月曜が。




    月曜が来る度に思う。








    こういう毎日を続けていつの間にか年を取ることが。





    人生?







    17歳。





    高校生のガキに何が分かると言われれば。







    それまでだけれど。








    (携帯)
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■15815 / ResNo.2)  Blue day diary2
□投稿者/ エビ ちょと常連(55回)-(2006/08/12(Sat) 13:09:17)
    月初の月曜─


    その朝の電車の混み方はハンパなく。


    “不快な接触”


    満員電車を評し、
    そんな事を書いていたコラムを思い出した。


    私の顔のすぐそばには太ったオヤジの汗ばんだ腕。


    すぐ後ろでパサパサと広げられる新聞に、不自然な角度で首をもたげる。


    左手を圧迫するリュックに。


    どこかすぐ近くから大音量で漏れるヘッドホンの音。


    …………。


    ……………。


    身動きひとつできないこの空間では。


    ため息すら許されない気がしてくる。


    嘆くでも逃げるでもない。


    ただ、
    耐えるのみ。



    寿司詰めの箱に収まること20分─


    電車は次の駅に着いた。


    “左側の扉が開きます。ご注意…”


    降車する人の動きが激しく髪がボサボサになった。



    ……もー…。



    家からここに至るまでの道のりで。



    ……もーやだ。



    随分疲れてる。



    のに─



    …………っ?



    ドサドサと電車を降りていく人波の中で一瞬。


    私のお尻に伸ばされた手。


    小柄なサラリーマンの背中が逃げるように去るのが目に映り。



    はは…。



    怒りではなく。



    猛烈な空しさがこみ上げてきた。





    “扉が閉まります”


    降りてきた人の1.2倍の人が電車に乗ってきて。


    再び動き出した寿司詰めボックス。


    乗車の波に押された私だたどり着いたのは。


    扉のそばの柱。





    今の私は。





    疲れてるんだと思う。





    月曜の朝─




    始まった一週間。



    続く日常。



    すべてに。




    疲れているんだと思う。





    ガタンガタン─


    さっきの駅を出てから5分。


    電車は赤い橋を渡る。


    川と、原っぱと、
    春には荘厳な桜並木が広がるこの場所は。


    私が通学途中で唯一好きな景色。



    桜の木が鮮やかな緑の葉を揺らすのを見ていると。




    その川岸で、
    家族でバーベキューをした遠い夏の日を思い出し。




    ガタ、ン─



    橋を渡り終える頃には。



    “今が”



    渡り終える頃には無性に。



    “今が楽しくない訳じゃない”




    無性に泣きたくなった。







    ぐっと奥歯を噛み。




    扉の窓の外に視線を遣り過ごしていた。




    時─












    「カオコワイヨ」







    (携帯)
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■15816 / ResNo.3)  Blue day diary3
□投稿者/ エビ ちょと常連(56回)-(2006/08/12(Sat) 13:11:57)
    「カオコワイヨ」



    ……………。



    “顔、恐いよ?”
    だと。


    変換できたのは何秒か経ってからで。


    それが私に向けられたものだとはすぐに分かった。


    涙を堪え、
    窓にかじりつく私の顔は確かに変だったろう。



    でも何だ、
    でも何だ、
    でも何なんだよ?


    わざわざ満員電車でそんな事言う必要ないじゃん。


    恥ずかしいやら腹立つやらでいっぱいの私は。


    「何だとテメー」


    くらいの言葉を心の中でスタンバイし。


    “顔恐いよ”


    その声の発生元、
    私の左後方に顔を向けた。


    月曜の朝からケンカ売ってくるのは誰じゃコ…、



    コ……ラ?






    え。









    「おはよ」




    そこには。



    私と同じ服を着た女子生徒がひとり。



    ついでに彼女は。




    私のクラスメイト。





    「おはよ」



    そう私に言った彼女と。



    「お…はよ」



    思わずそう返した私。



    私達が言葉を交わすのは。



    7月の今日の日が初めてだった。







    な、んだ?


    なんだなんだ??



    私の頭の回りにポッポッポっと疑問符が咲く。




    彼女、


    田中という名の彼女。


    彼女の席、
    廊下側の後方の机は空白であることがうちのクラスの常。



    “遅刻と欠席の常習魔”



    「田中は…。今日もおらんのか〜」


    担任がカリカリと出席簿にペンを滑らせる朝の光景や。


    空の机。



    それはうちのクラスで“当たり前”になっていたもの。



    で………。






    そんな彼女と。



    今日電車で逢った私。


    極自然に「おはよ」と声をかけられ。


    「顔恐いよ」
    と突っ込まれた今朝。



    すべてが私にとってはちょっと不思議だったけれど。





    ガタンガタン─




    私より10cmは背の高い田中が後ろに立ってから。


    これはもっと不思議なことに。




    ラッシュの不快さを私が感じることはなかった。






    人混みから守ってくれているような感じ。



    そして。




    時折りぶつかる半袖の腕と腕。






    “不快でない接触”





    ……………。




    ……………。





    私達はそこからしばらく言葉を交わす事なく。






    ただ。







    30cmの距離を保ち立っていた。







    (携帯)
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■15817 / ResNo.4)  Blue day diary4
□投稿者/ エビ ちょと常連(57回)-(2006/08/12(Sat) 13:14:30)
    今日は学校来てるんだね?


    何でまたいきなり“おはよ”なの?


    私そんな恐い顔してた?


    ってかいつからこの電車に乗ってたの?




    訊きたい事はたくさんあれど。


    満員電車、
    方向転換もままならない。


    それに…。



    言葉をむやみに交わすより、
    後ろに立つ彼女の存在を静かに感じる事の方が。



    何だか心地いい。






    電車は小さな街を抜け。


    私達の高校がある市内へ入った。



    微妙な減速が、
    到着駅が近い事を伝え。



    着く。



    着いちゃう、
    なぁ…。




    30cmの均衡の終わりを少し寂しく感じた頃─




    “まもなく─駅”



    低いアナウンスが車内に響いた。



    キューっ。


    ブレーキ音が大きくなり。



    “左側の扉が開きます”



    電車はホームへ入った。




    握っていた学生カバンを持ち直し。



    私が“なんとなく降車準備”をしようとした。




    その時。










    「───っか」






    田中がポソっと。







    「サボろっか」






    プシュー─




    私達がいた反対側の扉が開き。


    何割かの乗客が降車の動きを見せる。



    “今日暑いね〜”


    ホームを歩く同じ学校の生徒の声も聞こえる。




    だけど─





    ……………。



    ……………。




    私はカバンを握ったまま。



    その場を動けない。



    降りるはずの駅に着いたけれど。



    出るはずの扉と反対側を向いたまま。





    動けずにいて。






    田中もまた。





    私の後ろから去ろうとはしなかった。







    “間もなく扉が閉まります”



    プルプルという合図は。



    降車のリミットを知らせると同時に。





    いつもと違う月曜日。




    そのスタートを私に告げていた。







    プシュー─



    扉が閉まり。


    電車が再び走り出す。




    相変わらず30cmの距離で立ったままの二人。





    “サボろっか”





    心臓の鼓動の早さを誤魔化す為に。



    私は更にカバンを強く握る。






    扉の窓ごしに、
    ふっと彼女が目が合う。






    サラサラとかかる前髪の、
    その奥の瞳が。










    くくっと笑みをたたえていた。







    (携帯)
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■15818 / ResNo.5)  Blue day diary5
□投稿者/ エビ ちょと常連(58回)-(2006/08/12(Sat) 13:19:41)
    “次は──駅”


    高校がある駅は、
    その線の終点から4つ手前で。


    “次は──駅”


    電車を降りなかった私達は。


    “次は──駅”


    だんだん人が少なくなっていく電車の中。


    “次は終点──駅”



    相変わらず言葉を交わすことなく立っていて。



    “この電車は回送に…”


    そのアナウンスを聴いてやっと。



    「終点だって」



    「うん」



    当たり前の事実を確認し合い。




    「降りよか」



    「うん」



    選択肢のない行動を確認し合う。





    ホームに出ると。


    一時間前よりも遙かに威力を増した太陽が空にあり。



    「暑…」



    思わず眉をしかめたけれど。



    何かが違い。
    何かが違った。




    こんなに暑いのに。


    月曜の朝なのに。





    ワクワクしている私がいて─






    「ふー」



    「暑ぃ」



    ふたり、
    腰掛けたホームのベンチ。



    「……………」



    「……………」



    横を向いた田中と、
    下を向いた私。




    しばしの沈黙。



    だけれど…。





    「飲みもん買ってくる」



    そう言ってベンチを立った彼女が戻ってきた時。



    「どっち」



    愛想のカケラも無く私に訊くその手には。



    2本。
    缶ジュースが収まっていた。





    「ふ…」



    私はそれが嬉しくて。



    「ふふ…」



    とても嬉しくて。



    「くふふ…」



    ニヤニヤしながらカルピスに口をつけていると。




    「何」


    怪訝な顔で田中が顔をしかめた。



    「いやぁ」


    「何」


    「だからー」


    「ん?」



    話をするのは今日が初めてなのに─



    何故だろう。



    この人には…、
    ある。




    危うさと。




    微かな安心。




    この人の存在には。



    そんなものがある。








    「田中ってイイ奴かも」



    私が言うと。




    「は?」と。



    「訳分かんないし」
    と悪態をついた彼女の顔は。



    ほんのり赤かった。







    「ゴホンっ」



    駅員さんがこちらをチラチラと見ている。


    制服姿のふたりが8時半を過ぎてここにいては、
    やはりマズい。




    プルプル〜♪


    目の前には発車間際の電車。





    「行こう」


    田中の言葉に。



    「うん!」




    私は従った。





    (携帯)
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■15819 / ResNo.6)  Blue day diary6
□投稿者/ エビ ちょと常連(59回)-(2006/08/12(Sat) 13:22:01)
    「行こう」


    「うん!」


    プルプル〜♪


    発車寸前の電車。


    「ダッシュ」


    「ま、待っ!」



    「ん。ほら」


    「あ、りがと…」


    おずおずと伸ばした手を強く引かれ、
    私達は電車に飛び乗った。



    さっき繋いだ左手は、まだ少し熱い。





    ガタンガタン─


    行きとは逆の電車。


    その時間、乗る人の数はまばらで。
    7人掛けの座席をふたり占め。




    “──駅”


    高校のある駅を通った時私は何となく顔を上げられず…。


    月曜が来る度、
    “平坦な日常”を嘆く私だけれど。


    田中が聴いたら笑うかな?


    中学から高2の今日まで私は一度も、
    遅刻も欠席もしたことがない優等生だ。



    腕時計を見る。


    …………。


    とっくに一限目が始まっている時間。


    …いいのかな。
    ホントいいのかな、
    サボったりして。




    「ねー…」


    「何」


    彼女の話し方がボクトツとしているのは癖なんだろうなと。


    話し始めて90分の発見。




    「大丈夫なのかな、サボったりして」



    「んー」



    田中は何も答えない。


    あ、あー。
    何かヤだな。


    イイコちゃんの質問みたいで。


    悔しい。



    すると田中は半袖からスラリと伸びた腕を組んで。


    「今日月曜だよね」


    確かめるように話す。


    「うん、月曜」


    本来私のブルーデー。


    「なら大丈夫、問題無し」


    その口調があまりに確信に満ちていたので。


    「何で?」


    訊くと。



    「月曜は午前から吉田は他校に出張。川上も一緒に行く」


    「……そ、なの?」


    吉田、とは私達の担任で。川上は副担任。


    彼らの決まった行動、私は気付かなかった。


    「そ。だから月曜は休んでも平気。ウザい電話もない」


    「…………」


    「月曜日はサボり公認デーなの」


    …あきれた。


    「知能犯」



    「まあね」


    と。


    田中がニヤっと笑った時。





    ガタン─





    「あ」




    電車は。


    あの赤い橋の上を渡り始めた。


    開けてある窓から差し込む強い風。


    光る水面、
    揺れる緑。


    夏の空。







    「昔この川辺でよく遊んだなぁ」


    そう呟いた田中に。


    「私もだよ」


    とは話さず。




    「へえ…」





    小さな偶然を。






    胸の中で大切にしまった。





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■15820 / ResNo.7)  Blue day diary7
□投稿者/ エビ ちょと常連(60回)-(2006/08/12(Sat) 13:24:21)
    「狭いけど」


    「あ、ありがと」


    人のおうちにお邪魔するのはいくつになっても緊張する。


    今日初めて話した人の家となると。



    …尚更だ。




    ガタンガタン─


    朝の通勤通学タイムとは違う、穏やかな電車の中。


    「ねー」


    「何」


    「どするの?これから」


    「んー」


    “サボる”
    時に何をしたらいいか分からない私。


    でも何か素敵な提案をして田中をノリ気にさせたいものだ。


    何がいいかなどこがいいかな…。


    あ〜思いつかない。


    ダメだつまんない奴だと思われちゃ…、



    いやぁぁぁー!







    「とりあえずウチ来れば」




    へ。




    「このカッコじゃどこにも行けないし」



    あ、そですね。
    制服じゃね…。





    「とりあえずウチ来て着替えなよ」








    そうして今─



    「茶でいいよね」


    「あ、ありがと」


    私は田中んちの田中ん部屋でお茶を飲んでいる。





    「あり得ない話なんだけど。この家クーラーないの。悪いね」


    「平気だよ」


    「偏屈な父さんでさ。クーラーなんて身体に悪い!って」


    「そなの?アハハ」



    田中の口から“父さん”の言葉が出てきたのは。


    少し意外だった。


    田中の部屋をぐるっと見渡す。


    ベッドに小さなテーブル、本棚にコンポ…。


    そこはごく普通の、
    女子高生の6畳。


    田中んちもまた、
    ごく普通の公団の一室。




    カラン─



    田中と私のグラスの氷が。


    溶けてゆく。




    「私さ」


    「ん?」


    ふっと顔を上げた田中と目が合い。


    「…え…と」


    妙に照れる。


    「なんだよー」


    珍しく見せてくれた笑顔には。


    「…え、と」



    猛烈に照れる。




    「…何でもない」



    「あそ」




    実は…。


    田中はすんごいお金持ちのお嬢様なんじゃないだろうかというイメージがあった。


    サボり魔で、
    でも成績はイヤミに良くて。


    孤高であることがハマるそのルックス。





    「田中ってさ、超カッコよくな〜い?」


    「あ、私も思ってた!」



    友達がそんな風に話すのを聴いたのも、一度や二度じゃない。


    その度、


    「興味ない」


    言っていた私だったけれど。





    カラン─




    暑い部屋で氷が溶けていくのは。





    当たり前の事。






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■15821 / ResNo.8)  Blue day diary8
□投稿者/ エビ ちょと常連(61回)-(2006/08/12(Sat) 13:26:51)
    「ねー」


    私が話しかけ。


    「ん?」


    田中が答える。


    私達の会話はこうして始まることが多い。


    「どうしてあんま学校来ないの?」


    「んー」


    「言いたくなかったらいいよ」


    訊かれたくない質問かもしれない。


    「いや。ナイーブな理由はないよ」


    私の心中を読んで田中は笑う。


    「学校は嫌いじゃないし…手首もこの通り綺麗だしね」


    ヒラヒラと左手首を見せて笑う田中の不謹慎さも。


    私は嫌いじゃない。


    「ふふ。でもじゃあ何で来ないの?」


    「…突っ込むね」


    「うん」



    知りたいから。
    あなたの事。



    観念したように田中は。



    「おいで」


    立ち上がり。


    「?」


    「こっち」


    私も座布団から立ち、部屋を出た田中の後に続く。


    田中の部屋の隣、
    そのドアが。


    カチャ─


    開き。



    「どうぞ」


    田中が私を中へ誘う。


    一歩二歩、
    歩みを進めて中へ入ると。





    「……すご…」



    そこには。



    「まだ描きかけ」




    巨大なキャンバス。


    そこに幾重にも重ねられたらしき油絵の具。



    描きかけだという絵が、圧倒的な存在感を放っていた。





    「絵を描いてるの?」


    「そう」


    「毎日?」


    「ほぼ毎日」


    「だから学校サボる?」


    「……」


    「何?」


    ポリポリと鼻を掻きながら田中は。


    「夢中で描いてたら…」


    “気付いたら朝になってるんだ”


    そう続けた。



    「…ぷ」


    「笑うな」


    「だってコドモみたい」


    「…それは認める」


    「でも」


    「ん?」




    「素敵」




    粗いドッドが描き出す、裸婦の姿。


    あの絵も。


    よく見るとあなたの爪にこびりついてる絵の具も。



    「素敵だよ」





    「…ゴォっホン」


    照れ隠しのセキばらい。





    「ふふ…」




    「アハハ」




    夏の日差しが差し込むその部屋で。



    半袖のカッターシャツとチェックのスカートの私達。



    制服という窮屈な服を着せられた今が。


    今が本当は。


    人生の中で一番自由な時であると私達が気付くのは。




    まだ何年か後─





    「着替えよっか」



    「うん」




    皆が古文の授業を受けている頃、私達は制服を脱ぎ。






    ジーパンで冒険に出た。





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■15822 / ResNo.9)  Blue day diary9
□投稿者/ エビ ちょと常連(62回)-(2006/08/12(Sat) 13:29:22)
    「金ない」


    「私も」


    冒険の交通手段は?


    キコ、
    キコキコ。



    「真夏にチャリとかありえないー」


    お金持ちかと思ってたのに田中よ。


    「うっせ。5kg痩せろ」


    私を後ろに乗せて自転車をこぐ田中は。
    額に汗でご機嫌ナナメ。


    「ハイ頑張ってこぐー。ふふ」



    長い登り坂を過ぎ、
    道は緩い下り坂。



    「ねー」


    「ん?」


    「いつから見てたの?」


    今朝私が電車で恐い顔してるの。
    いつから?



    「…………だよ」


    進む自転車。


    風の音に消され、
    声は届かない。



    「え?何?」


    「…………」


    「田中ー」


    「…………」


    「聞こえなかったー」


    「…………」



    あれ?
    マジ機嫌悪い?



    自転車の後ろに横向きに座った私は、
    プラっと放り出された自分の足を眺め。



    「たーなーかー…」


    Tシャツの裾をつまむ。



    すると彼女はまっすぐ前を見たまま。






    「ずっとだよ」




    「…え?」





    「ずっと見てた」





    「…………」




    そ、それって…。



    「恐い顔してんのずっと見てたってコトー?恥ずかしいじゃんよバカー」


    ぺちぺち背中を叩くと、私の方を一瞬振り返った田中。





    「バカはそっちじゃー!」



    ぐっとハンドルを握ると─



    「キャー」



    全力でペダルをこぎ始めた。



    落とされないように、
    背中につかまり。




    「ねー」


    「んー?」


    大きな声で尋ねてみる。



    「田中って下の名前なんてゆーの?」


    実は知らない。



    「…碧だよ。田中ミドリ」



    「へー!そなんだ。私の名前知ってるよね?」


    微かな不安。


    「…知らん」


    的中か。



    「ひどーい。私の名前は…」






    「藍」




    …なんだ。



    「知ってんじゃん」






    「知らねーよ」





    「何よもー!」






    碧と藍。



    私達を足したら、
    何色が生まれるんだろう?







    キーっ─



    「着いたよ」



    「わ…。懐かしい」



    そこはあの赤い橋のたもと。


    大きな川の岸辺。





    「行くか」




    「うん!」




    走り出した私達。






    大嫌いな月曜日の。







    悪くない一日が過ぎてゆく。







    (携帯)
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