ビアンエッセイ♪

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■16935 / ResNo.90)  宏子と悠紀 6
  
□投稿者/ つちふまず ファミリー(182回)-(2006/10/16(Mon) 23:59:44)
    夜になるとぐっと気温が下がって行くんだなと、

    感じながらベンチに腰を下ろす。



    「はい、どうぞ」



    袋から取り出された缶を悠紀から受け取る。



    何も言わずにタブを引くと少し泡が溢れて来た。


    「ぷはー」



    んまい、と。
    悠紀は言いながら、ジーンズの足を組んだ。



    私も泡を先に口に含みながら喉に入れる。




    「はー…」



    「落ち着いた?」



    悠紀は私の顔を見ずに、そう言った。



    「ん?んー…。」



    「ひろこはー、すぐ悩むからー、ねー?」



    冗談混じりの悠紀の声を受ける。


    「悩みっていうか…」


    悩み、なんだろうか。
    今私の中にある、
    この気持ちは。



    「………。」



    悠紀は黙って、またビールを飲んだ。





    賃貸だけど家があって─


    贅沢は出来ないけど、生活は出来て。


    仕事をして。


    一番好きな人と、一緒に住んでいる。





    何が─




    一体私の中に何が存在しているのだろう。




    「ねー宏子」



    「んー?」



    「最近エッチしてないねー」



    「………は」



    何を言い出すんだか。


    私は呆れながら、
    悠紀を見た。




    「だってさー、やっぱさー、一緒に住んじゃうとさー、」



    くるくると缶を回しながら、ぶつぶつと悠紀は呟く。



    「確かに回数は減ったよね」



    「うん」



    そうです、と。
    悠紀は語尾を荒げた。



    「別に私は嫌じゃないよ?するのは」



    素直な言葉が、出てくれたなと思った。



    「本当に?」



    「うん」



    嫌じゃない。
    ただ、


    回数が減っただけ。
    だと私は思う。



    「そっかー、ぬふふふ」


    「怪しいから」



    悠紀の組んだ足を叩くと、パチンとジーンズが鳴った。



    「昔は猿みたいだったよねー」



    アハハ、と。
    悠紀は笑う。



    「本当だよね。何だったんだろう、あれは」



    寝る事も、
    食べる事も、
    朝も昼も夜も。



    何もかも境目なく、
    お互いを求め合っていたあの頃。




    きっと─


    あの頃のあの感覚はもう戻らない。




    だけど─




    「宏子、綺麗になった」

    「え」




    また突然何を言い出すんだと再び悠紀を見る。




    ビールの効果か、悠紀の頬は少し赤く染まってて。





    私は笑った。





    (携帯)
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■16936 / ResNo.91)  宏子と悠紀 7
□投稿者/ つちふまず ファミリー(183回)-(2006/10/17(Tue) 00:02:10)
    「ふふふ」


    「あはは」


    二人笑いながら、
    ビールを口に含む。



    「ひろこ」


    「んー?」



    悠紀の方を振り返ると、掠めるように。



    キスをされた─



    「……よし」



    何がよしなんだか…。



    「酒臭いよ悠」


    「こっそりげっぷした後だったから」


    「んもー」



    バシバシ、と悠紀の足を二回叩くと。
    痛い痛い、と悠紀は笑った。


    悠紀の左手を繋ぐ事が出来なかった私だけれど。




    こういうキスは悪くないと思う。




    特にこんな夜は─




    「あのさー宏子」




    悠紀は前を見つめながら、空になった缶をメキメキと潰した。




    「何?」



    「………」




    大事な事を言う時。
    悠紀はこうして、必ず前置きを置く。


    頭の中で反芻してからではないと悠紀は言葉にしない。




    「宏子の不安、わかるよ」



    ボソボソと紡ぐ言葉が、悠紀にとっては精一杯の言葉だ。



    「うん」



    素直に頷いた。



    「だから、あの」



    どんな言葉が出て来るのか─




    こんな夜は、
    隣で静かに待ちたい。




    「…………」




    そろそろ喉元まで達しているのだろうか、


    悠紀は私を見て。
    口を少し開いた。




    とその時─




    「…………、いて」




    あ。




    カンカンカン、と。
    私と悠紀の間に。




    何かが落ちた。




    悠紀は頭をさすって、上を見上げる。




    私は悠紀との間に落ちたソレを摘んだ。




    「どんぐり」




    じゃん、と悠紀は。
    二重の目を細めた。




    「だね。…ぷっ」


    「どんぐりー」




    埋めた宝物を掘り起こした犬みたいに、


    悠紀は私の手からどんぐりを摘んで。




    「帽子かぶってるね」




    さながら子どもみたいに、笑った。




    「悠紀とどんぐり。」


    「え?」


    「いや、なんて似合う組み合わせなんだろうって思ったから」


    「なんじゃそりゃ」


    「さーてどんぐりも落ちて来た事だし帰ろっか」




    私がお尻を払って立ち上がると。




    「わけわかんないよー」



    悠紀は口をすぼめて、潰した缶を袋に入れた。




    今欲しいのは─




    多分言葉ではないんだと気付いて。







    小走りに私を追いかける悠紀を見て微笑んだ。





    (携帯)
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■16938 / ResNo.92)  宏子と悠紀 8
□投稿者/ つちふまず ファミリー(184回)-(2006/10/17(Tue) 00:04:50)
    「ねーえ」


    「んー?」




    ドトールの前を通り過ぎる。



    私達のマンションまでは後少しだ。



    「悠紀さ、今特別欲しいものってある?」



    前を見ながら聞く。





    「んー……」





    「私ね、ないんだ」





    結局は思い付かない。




    正確に言えば─


    “努力して手に入れたい”


    ものが、いつからか無くなってしまったんだと実感する。





    「私もないなぁ…」





    欲しいものが思い付かない私達。



    エッチが減った私達。



    喧嘩も減った私達。



    “好き”も。



    “愛してる”も。



    囁く事はまれになった私達。





    でも─







    「でも幸せだよ」







    笑うと。







    「そっか」







    悠紀も笑った。






    友人から披露宴に誘われた今夜─




    それを断った今夜。







    私は今─




    2DKの狭い間取りで。
    日当たりが悪くて。


    隣に整形外科があって。雨戸が壊れている家に住んでいて。


    なかなか正社員になれなくて、安月給で。




    いつもヘラヘラと笑っている恋人と住んでいる。










    女性である彼女と、生活を共にしている。










    世間が決めた結婚適齢期が、果たしていつまで私にまとわりつくのか。







    想像もつかないけれど。







    少なくとも、
    今日と似たような明日は来るのだから。







    今日は帰ったら、電気を点ける前に。








    玄関で悠紀とキスをしようと思う。




    びっくりさせるかもしれないけれど、




    たまにはいい。






    「マグロ祭り忘れてたよ!」




    「お腹空いたー」




    「もう出前終わってるかなぁ…」




    「いいじゃんカップ麺で」




    「んー…ま、いっか」






    深いキスをしたら、お湯を沸かせて。






    二人で麺をすすろう。






    それからお風呂に順番に入って。






    髪を乾かしたら、テレビを二人で見よう。









    こんな夜はきっと─







    互いに求める事はしない。









    こんな夜はそっと。




    二人で寄り添って、













    手を繋いで眠りたい。










    fin.




    (携帯)
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■16976 / ResNo.93)  Re[2]: 宏子と悠紀 8
□投稿者/ Qoo 一般♪(1回)-(2006/10/19(Thu) 11:06:57)

    はじめまして。毎回楽しみにしてます
    「スマイルスマイル」ほぼ二年前の作品ですよね。
    個人的にすきだったので、テキストで残しておいたのを
    今日見つけて読み直していました。
    やっぱいいです☆また長いの期待してます〜
引用返信/返信 削除キー/
■17517 / ResNo.94)  はい!
□投稿者/ はなつんば 一般♪(1回)-(2006/12/22(Fri) 22:51:04)
    お元気ですか?

    がんばれ!! 毎日を

    そう応援してますよ
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