ビアンエッセイ♪

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■17529 / ResNo.70)  海鏡の光橋-9-
  
□投稿者/ 金丸 大御所(267回)-(2006/12/24(Sun) 03:07:26)
    タケちゃんを抜かして

    女3人がほろ酔いになった頃


    タケちゃんが四季の煙草の量を注意した

    そこから

    タケちゃんは四季への不安と不満を言い始めた

    静かに聞く四季と

    全てを言い切らないような

    でもちゃんとわかってほしいような

    そんな言い方を四季に向ける


    二人の姿を

    なんの不思議もなく

    恋人同士ならば普通のことと


    少しこの二人のこうゆう姿を見れて嬉しく思った。


    あぁ

    すごい好きなんだなぁ と

    私はタケちゃんの話を聞いていた


    私は

    タケちゃんに

    四季は本当にタケちゃんが好きなんだよ と伝えたかった


    最近酒に弱くなった四季は途中でグラグラしはじめて

    眠そうだったので「ここで寝ればいいよ」と頭を膝に誘導した


    四季が本当に寝たのかわからないうちに

    タケちゃんは言い出さなかったことを話し始めた


    不安をかかえて

    でもグチグチ言いたくなくて

    もどかしくて

    イライラして


    そんな姿をみて


    あぁ

    本当にまっすぐな人なんだと

    本当に熱い思いのある人なんだと思っていた


    でも

    私は助言することを躊躇った

    これは

    この二人の

    この恋人達の問題であり

    私は
    私がここで何かを言うことを許さなかった



    一通りタケちゃんが吐き出すと

    一息ついて

    こんなだけどこいつが居てくれてありがたいと思っていると

    ともさんに向かって言った。


    深読みしなければ解らないこと言うともさん

    時折深読みする余裕もなくタケちゃんは思いのたけをぶつけるのだろう


    少しすっきりした顔をしたタケちゃんをみて

    少し安心した


    四季を「そろそろ帰るよ」と耳元で言う

    タケちゃんとともさんは「揺り起こしていいよ。そうなったら全然起きないから」と笑って言った

    でも低血圧だしなぁ と

    なんだか起すのがもったいなくて

    出来るだけ優しく起した。


    起き上がった四季がグデグデで

    初めてこんな酔ってる姿を見た と

    内心すごく嬉しかった。




    グデグデで立つのもやっとな四季をタケちゃんに任せ

    会計を済ませた。


    階段を降りるのもやっとな四季をタケちゃんが支え

    その後ろを私が歩く


    こいつ一人で立ててねぇよ と笑いながら

    近くのコンビニに入った

    四季があまりにグデグデすぎて迷惑になるので

    タケちゃんと四季と私は外に出た


    後ろから支えられてるのにまだグラグラして

    初めて見る表情にも

    二人の姿も

    寒い寒いと嘆く四季に

    この寒空のなか自分の上着を四季に着せるタケちゃんの姿



    嬉しくて

    愛しくて

    四季を見つめると

    四季がいきなり抱きついてきた



    四季の眼差しには

    なんだか想いが溢れているようで

    幸せな気分になり

    少し照れくさくなって笑ってしまった


    ともさんが飲み物を買ってコンビニから出てくると

    すぐ横にあるカラオケボックスに入った


    そのボックスは狭くて

    ともさん四季わたしで一列になって

    私の前にタケちゃんが座り

    L字になる

    しかも四季はブーツを脱いで

    タケちゃんは四季の足を自分の膝の上に乗せ



    やっべぇ。狭いし動けねぇ

    と私はちっちゃくなった


    四季以外が歌って

    時折四季を見ると

    すごく優しい目で

    寄り添いたいと思った



    あいにく動けず

    私はただ目で伝えるしかなかった


    タケちゃんの歌声は少し高くて

    優しい声だった


    そんな歌声で歌う歌がものすごい古い曲ばかりで

    しかも上手くて

    アンバランスなはまりが

    少しおかしくて

    有る意味すごいと思った


    私も負けじと古い曲を選曲し

    ラブミーテンダーを歌った

    何これカナふってねぇじゃん!!と少しあせりながら

    悪い目を凝らして

    わからないところはニュアンスで歌い

    サビは想いをこめて歌った


    あいらぶゆーだぞこんにゃろめ

    と歌い終わった後に四季を見ると

    何故だかみんなが拍手して

    えぇー音痴だったのに何故?!

    と疑問を抱いた




    一時間ほどでカラオケを出てタクシーを拾った

    四季とともさんが家の階段を上がると

    階段の前でタケちゃんは飲み物の入ったビニール袋を私に渡し

    「帰るね。今日はごめんね。」と少し気まずそうに言った

    「ううん。全然いいよ。」

    「入っちゃっていいよ。」

    「うん。」

    そう答えたけど私は最後まで見送りたかった

    「今日はありがとう。」

    「私こそ。気をつけてね。」

    「本当に入っていいよ。」

    「ううん。」

    タケちゃんがバイクを走らせ

    バイバイをして階段をあがった


    無事に帰れるといいな


    ドアを開けると二人はもう着替えてメイクを落としていた

    「はえーな。」

    「あれ?タケちゃんは?」

    「帰ったよ。」

    「そか。」


    私も恐らく泣かないどろうとしてきたメイクを落とし、着替えた


    歯を磨いて部屋に戻ると

    「5分海貸して」

    と四季が言うので

    布団の上にいる喋り足りないともさんを残し

    四季のベッドにもぐりこんだ

    いつから箱は放たれたのかわからないが

    四季の出した腕に

    すんなりと潜り込み

    腕枕で寄り添った


    大きく毛布をかぶせ

    見えるのは四季の顔と

    部屋の光だった
引用返信/返信 削除キー/
■17533 / ResNo.71)  海鏡の光橋-10-
□投稿者/ 金丸 大御所(268回)-(2006/12/25(Mon) 01:46:43)
    包まれる感覚

    伝わる温もり


    久しぶりに感じた

    この染み込むような幸せ



    四季がおでこにキスをする


    コッソリと

    優しく

    柔らかい温もりが伝わる



    なんだか恥ずかしくて

    でも幸せで

    嬉しくて


    四季の背中に回した腕で

    噛み締めるように抱きしめる



    髪を撫でる四季の手は

    愛おしむように髪を滑る



    また優しく


    唇から愛が伝わる



    染み込んだ幸せは

    キスをしたいと願わせる



    苦しい程切なくて

    躊躇いも鳴り止まない



    このベッドの上は

    たった二人の世界



    切なさと

    染み込むような幸せと

    心地良い愛が渦を巻く



    ともさんがトイレに立ち上がって


    部屋の中が本当に二人きりになった時


    四季がまぶたにキスをした



    キスしたいと


    強く願った時


    躊躇いを振り払うように起き上がる


    この二人きりの時間は短い



    でも


    やっぱり勇気が無くて


    また四季の腕に潜り込む




    何故だか


    躊躇いがあるにも関わらず


    何かに背中を押され


    四季を見つめ


    キスをした



    一瞬の


    儚い感触



    躊躇いも

    渦巻く幸せと愛も

    恐怖も

    切なさも

    何かが解き放たれた感覚も


    全てが


    嵐のように襲う



    震えた私が


    抱き締めた時


    四季が耳元で


    そっと



    静かに



    優しく




    「ありがとう」



    そう言って抱き締めた




    色んなものが込み上げて


    今にも泣きそうになる



    この数年

    葛藤し

    苦痛に包まれていたものが解放される



    それが渦の中に入り


    威力が増す




    強く



    強く抱き締めた後


    顔を上げ


    意識もしていないのに笑顔になる




    さっきよりも優しく


    四季は髪を撫でる




    恥ずかしくて俯くと


    「もう一回」


    と四季が呟く




    次は躊躇うことなく


    確かめるように



    唇を合わせる

    すがるように

    重ねた唇は


    儚く儚く


    強くなる愛情に合わせるよう





    心臓が締め付けられ


    背中が熱くなる




    一瞬


    今背中触られたら絶対声でるからお願いだから触らないで。と頭をよぎる



    すぐさまそんな考えは吹き飛び


    切なさが波になる




    唇を離し


    ただ四季を見つめる



    ただ純粋な想いが伝わってほしいと

    見つめた

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■17536 / ResNo.72)  海鏡の光橋-11-
□投稿者/ 金丸 大御所(269回)-(2006/12/26(Tue) 01:30:24)
    とても寒い日

    熱い飲み物を飲んだ時

    口から喉へと熱が降りるように


    高まる感情が

    体の中を駆け巡る




    それに反発するように

    心の中は

    優しく


    温かくなっていく




    ただゆったりと


    好きという感情が

    体の中も心の中も

    流れ流れて

    もう

    四季しか見えなくなる



    渦巻いていたものは

    はじくように散り散りになり

    熱となる



    こだまするように

    不安も響く



    沢山たくさんの言葉が


    一つの言葉になり

    口から出そうになる



    けれど

    その言葉は


    頑なに箱から出なかった



    だから

    言えない代わりに見つめた


    言えない代わりに抱きしめた


    言えない代わり

    唇に込めた




    私が保っていた距離


    キスを怖がり


    頑なに守った壁が無くなる



    いつも


    いつも


    四季の頬に手を触れたくなる



    寄り添うように

    傍に居たいと想う



    この限られた時間


    この二人寄り添う時間



    包み込むように

    心に色づけし描く




    違和感も

    恐怖もないこの温かさ届く距離



    心の中


    寄り添う



    髪や頬を撫でる四季の手に

    手を触れたくなる



    目を閉じる間

    四季を見つめる間

    四季の腕の中目を閉じる間


    柔らかな

    柔らかな

    優しく温かい想いが

    包み込む






    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■17537 / ResNo.73)  海鏡の光橋-12-
□投稿者/ 金丸 大御所(270回)-(2006/12/26(Tue) 01:51:44)
    朝目が覚める


    昨夜飲んだアルコールのせいで喉が渇いている



    ペットボトルに入った麦茶を音を立てて飲んだ


    けれど足りなくて喉はすぐ渇く


    タバコに火をつけ

    深く吸いこむ


    夜のことを思い出し

    フッと幸せがまた咲き誇る




    しばらくして二人共ちゃんと目を覚まし

    四季が麦茶を飲むと

    私も とペットボトルを手にする


    ようやく渇きは無くなった



    「どこ行くかぁ。」

    「んーどこでも。」

    「ピアスだろー…。新宿か中野だなぁ」

    「んー。」


    くっついた腕から伝わる温もりが心地良い


    「ピアス開けるのに戻ってくるなら中野かなぁ。」


    四季にピアス開けてと頼んだからだ


    何故だかピアスを開けたいと思った時

    四季に開けてほしいと思った


    「んー。」


    行くところが決まったのに

    二人共動こうとしない



    私は離れたくなくて

    四季が起き上がるまでくっついていた


    四季が起き上がると私も起き上がる



    抵抗なくくっついた


    あぁ

    距離がなくなったんだと

    嬉しくなる



    「お前ほっぺた柔らかいなぁー」

    そう言って四季は頬をスリスリする

    私は何も言わずに微笑む



    「ぶーにぶーにぶーにぶーに」

    スリスリしながら四季が言う


    「ぶにぶに言うなや」

    頬を離さずに笑って言う



    ゆったりと

    ゆったりと

    優しく

    心地良い雰囲気が二人を包む



    こんなイチャイチャすんの初めてやなぁ

    と内心少し恥ずかしくも嬉しくなる



    この時間

    こんな時間を過ごせるならば私は

    何にでも耐えられる


    何よりも


    愛おしいこの時間を

    過ごせるならば






    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■17581 / ResNo.74)  海鏡の光橋-13-
□投稿者/ 金丸 大御所(271回)-(2006/12/31(Sun) 20:56:03)
    離れ難かった

    いつまでも

    いつまでも

    くっついていたかった。


    けど

    ピアスを買いに行くのは中止にしたくなかった。

    自分のピアスを買うだけなら、すんなりやめにしただろう。

    四季が

    「シンプルなピアスがほしい」と前に言っていて

    ピアスを買いに行く本当の理由はそれだった。


    アクセサリーを贈る主義ではないのだけれど

    何故だか望む物を贈りたいと思った。


    財布の中には

    二人分のピアスを買うお金と

    私が開ける為のピアッサーを買うお金が入っていた。


    しぶしぶながらも用意をして四季の家をでる

    中野の駅に着き、近くのビルでピアスを眺めた


    なんとまぁ可愛らしいピアスばかり。

    うーんと唸りながら二人でピアスを見る。


    案外安いことに驚いた。

    なかなか気に入るものがなくて

    四季がお父さんへ贈るプレゼントを見ることになった。


    「たっけ」値札を見て呟く四季

    階を変えて、和物を置く店で買うことにした。


    ラッピングを待っている間

    プラプラと店内を見てまわる。


    二人の間にあった距離が


    私が保っていた距離がないことに気づいた



    ラッピングが終わり、ご飯を食べることにし、近くのパスタ屋に入り

    注文したものが来るまで話していた




    「お前と居ると可愛く見えて仕方ないんだよね。」と笑って話す四季


    恥ずかしくて仕方ない私


    昨日のタケちゃんが言っていたことも話し

    あんまり心配かけんなよ と心の中で呟いた。


    パスタが来て

    「和風のが食べたいって言ってたくせに私もろチーズたっぷりじゃんね」

    鶏肉とチーズのパスタ混ぜながら言った

    「ほんとにね。」と笑って四季はタラコのパスタを一口パクッと食べる


    四季が食べ終わるころには

    まだ私は4分の1残っていて

    「食べるの遅いね」と言われてしまった

    「パスタは遅いねぇ」少しだけ箸を早くする

    音と巻きつけるパスタの量を気をつけていると、どうしても遅くなってしまうのだ

    若干固まり始めたチーズに苦戦しながらも食べ終わり

    ウーロン茶を飲み干し、煙草に火をつける


    少しお腹が落ち着き

    レジへと向かった。

    財布を出すと

    「いいよ。」と四季はお金を出した

    私は納得いかないような顔をすると

    「これ昨日のやつだから」と

    昨日置いていくつもりでテーブルに置いたカラオケのお釣りだった

    しぶしぶ財布をしまい、パスタ屋を出た
引用返信/返信 削除キー/
■17582 / ResNo.75)  海鏡の光橋-14-
□投稿者/ 金丸 大御所(272回)-(2006/12/31(Sun) 21:25:41)
    少し歩き、ジュエリーショップのショーケースを眺めているとき

    財布がないことに気づいた。


    「財布がない。」

    「は?」

    バッグの中もポケットの中にも財布は無かった。


    「やっぱりない。」

    「パスタ屋か?」

    「わかんない。」

    二人で歩いてきた道を戻る


    なるべく早く

    目を凝らし

    早く

    早く



    パスタ屋に戻り、「財布落ちてませんでしたか?」と店員に言う

    「いつごろですか?」

    「10分も経ってないです。」

    店員は引き出しを開けたり、かごを漁る

    「ないみたいですね。」と言うと上役の人に伝える

    「もし見つかった場合ご連絡致しますので、連絡先とお名前を書いていただけますか?」と白い紙を出す

    書き終えた番号と名前は

    焦りとパニックのせいか少し歪んでいた。


    もう見つからないかもしれない

    と店を出たときにフッと考えた


    「交番にいこう」と向かった

    歩いている最中

    「なんか焦りはあるけど危機感ないわ。」と笑って言った

    「あー、あたしも落としたときそんなだった。」と四季と二人で早足で歩く


    交番に着き「財布落としたんですけど、とどいてませんか?」

    そう言うと若い警察官は用紙を出して「記入してもらえますか?」と

    ボールペンを出した

    四季は外に出て待っていてくれた


    自分では大丈夫だと思っていても

    字は歪んで

    漢字はまったく出てこない。

    「どんな字でしたっけ?」と聞くと

    若い警察官は丁寧に教えてくれた。


    用紙に書き終り、手渡すと若い警察官は電話をかけ始めた

    頭の中は混乱しているのか

    冷静なのかわからない


    四季は外に居る

    あぁ

    待っててくれている

    とボーっと考えていた


    「はい、じゃぁこれもし見つかった時に管理センターにもって行けば渡されますから。あと、保険証の再発行のときに必要になるかもしれないので、ちゃんと保管しておいてください。」

    「はい、わかりました。ありがとうございます」

    外に居る四季に「終わったよ。」と声をかけた


    「あーあ。」と呟くと

    「まぁこんなこともある。」と四季は優しく言う


    もう一度通った道を行く

    今度はゆっくり

    隅々まで


    「明日銀行行ってお金おろさなきゃなぁ」

    「なるべく早い方がいいからね」

    「あー…いてぇー」

    頭を抱えるように言った後

    財布に入っていたものを思い出した





    四季が新宿のパスタ屋で

    紙ナプキンに

    「お前の子供の名前考えたんだよね。」と

    書いてくれたもの


    四季がトイレに行ったとき

    そっと財布にしまったあの紙



    生まれない子供の名前を

    書き出したあの紙は

    私の悲しみや寂しさを増幅させ

    時間が経つにつれ温かさをくれ

    私の中で強さをくれた


    四季の温かさや優しさ

    私の願いや悲しさ

    混ざり合い

    いつしか

    かけがえのないものとなっていた



    大切に

    大切に

    なくさないように家においておきたいけど

    傍においておきたかったあの紙



    その紙をなくしたことに気づき

    そこから私は「いたい」としきりに言うようになった
引用返信/返信 削除キー/
■17583 / ResNo.76)  海鏡の光橋-15-
□投稿者/ 金丸 大御所(273回)-(2006/12/31(Sun) 21:45:59)
    いたい




    いたい




    心が静かに叫びだす


    「あの紙なくした。」

    「紙?」

    「前に四季がパスタ屋で書いてくれた紙。」

    「あぁ…。」

    「いたい…みんなが言う痛いじゃなくて、ほんとに心が痛い。」

    んーと四季は手を差し伸べた

    その手を握り

    「泣きそう」

    もう

    止められなかった


    人の行きかう混雑した道で

    私は歩きながら涙をこぼした


    もう止まらない


    いつも人前では絶対泣かない私が

    こんな混雑した道で

    気にする余裕もなく泣き出す


    ぬぐっても

    ぬぐっても

    流れ出てくる


    四季が不意にわき道に入り

    抱きしめてくれた


    もう

    少しだけ我慢していたものがあふれ出す


    なくした

    なくした

    傍から居なくなった

    失った



    自分の中

    自分より大切な想いのつまったものが


    もう

    ここにはない



    四季から離れ

    涙を拭いた

    「どうする?どっか入る?飲みにいく?」

    「…あるきたい」

    「ん。」


    また手を握り締め歩き出す


    私は


    もう

    あれがどこにあるのか

    ここには無いことを知っていながら

    解っていながら

    目は宙を彷徨いながら探していた




    心が閉じようとする



    それより強く早く

    なくしたものを求める想いがあふれ出す


    「こうえんいきたい」

    「ん。」


    何を見ているのかわからない






    なくしたものへの想い以外の感覚がなくなったようになっていた


    寒いのか

    この手から伝わる体温は温かいのか

    光はあるのか

    闇はあるのか






    公園に着くと

    四季は缶コーヒーをくれた

    私の好きなカプチーノ


    一口飲み

    息を吐き出すと

    涙が溢れた
引用返信/返信 削除キー/
■17584 / ResNo.77)  海鏡の光橋-16-
□投稿者/ 金丸 大御所(274回)-(2006/12/31(Sun) 22:49:08)
    「なくしたことへの後悔でも自分への怒りでもない。ただただ喪失感なんだよ」

    止まることなく流れ続ける涙


    存在しないものへの

    とめどない喪失感

    溢れてくる悲しみ


    あの紙へではなく

    あの紙にこもっていた

    四季の想い

    私の想い

    形なきものの

    あの温かさ



    声を上げず

    静かに

    静かに

    叫ぶように涙は流れる


    「なんでなくさなきゃなんなかったんだろう」

    遠くを見つめそう言うと

    「昨日までのお前を見守ってくれたのかもね。」

    「どうゆうこと?」

    「もう一人で頑張りなってことじゃないか?」


    なんでさ

    なんでいっちゃうのさ

    ひとつ達成できたからって

    いっちゃうようなそれだけの想いしかつまってた訳じゃねぇだろう



    怒りが湧く


    なんでいっちゃうのさ

    なんで置いていっちゃうのさ

    傍に居てくれてもよかったじゃないか

    ずっと見守ってくれてもいいじゃないか

    なんで傍から離れる必要があったのさ

    どうして

    どうして

    どうして傍から居なくなったんだよ


    「もう執着するなってことなのかな。」



    ずっと

    ずっと傍に居るものだと

    ずっと傍にあるものだと思ってた


    なくすなんて

    これっぽっちも思ってなかった

    ずっと

    ずっと温もりをくれるものだと

    そう思っていた



    なんでここに無いの



    全てが叫ぶように湧き出てくる


    全てが探すように湧き出てくる

    求めるように

    抱きしめようと

    もがいている


    怒りと悲願

    悲しみと懇願

    喪失感

    探すように

    もがくように

    求め続ける


    なんで

    なんで産むのを諦めた上になくさなきゃならなかったんだろう

    間違ったことだったのか

    私が何かしたんだろうか


    あのとき四季に抱いた愛が

    あまりにも大きくて

    だから

    いってしまったんだろうか





    もう




    戻ってこないだろう



    いくら待っても



    いくら探しても


    あれは


    もう私の元へは戻らない





    私と

    あの場所をつなげていた

    あの紙を失って

    私はまた

    あの場所を抱きしめることはできるのだろうか


    切れた手綱は

    姿形もなく消えた


    なくなったんだ


    もう





    ない

引用返信/返信 削除キー/
■17585 / ResNo.78)  海鏡の光橋-17-
□投稿者/ 金丸 大御所(275回)-(2006/12/31(Sun) 23:23:01)
    2006/12/31(Sun) 23:23:29 編集(投稿者)

    もう傍にないことを受け入れた時

    自然と涙は止まった


    呼吸を整え


    「もう落ち着いたよ。」

    「そか。」

    「ありがとう。」

    「寒くない?いく?」

    「そうだな。」


    また歩き出す


    寒さを感じているのかわからない

    それなのに震える



    「みてみて。歯がカチカチいってる。」

    「ふっ」



    寒いんだろうか


    よくわからない


    「あ、水分買ってかな。」

    「ん。」


    コンビニに入ると

    暖房が全身にあたる


    これは果たして暖かいんだろうか


    「お前は?」

    「ううん。」


    コンビニを出て歩く

    家に着き

    着替えた

    ベッドに入り

    四季を抱きしめる

    すがるように

    強く抱きしめる

    虚無感が

    喪失感がまた襲う

    けど

    体は震えるのに

    涙は出ない


    四季を見上げると

    包むように

    私を見つめた


    全てを

    今ここに居る私の全てを

    その目の奥へ

    連れて行ってほしいと

    そこへ行きたいと

    願った



    抱きしめる度

    強く還ってくる


    温もりを探すように

    私は四季を抱きしめる



    かえりたい

    そこへかえりたい


    あの場所を探すように

    抱きしめる


    心の中

    削ぎ取られた場所をつなごうと


    また

    その場所を受け入れようと

    抱きしめた



    フッと我に返り「今何時?」と聞いた

    「10時」

    終電で帰るならもう用意しなきゃならない

    でも

    探したいものがある


    ここに居たいと

    心の中呟く


    まだ

    離れたくない



引用返信/返信 削除キー/
■17587 / ResNo.79)  お久しぶりです☆
□投稿者/ 夏菜 一般♪(1回)-(2007/01/01(Mon) 04:01:09)
    明けましておめでとうございます♪

    いつもいつも金丸様の言葉が胸に沁みこんで・・・共感ってこぉゅことなんだなって思います。
    今、私はすごく辛い時期にあります。
    でも、金丸様の言葉を支えに頑張りますww

    これからも更新頑張って下さい(*^□^*)

引用返信/返信 削除キー/

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