ビアンエッセイ♪

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■17848 / ResNo.30)  ◆昴さんへ
  
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(15回)-(2007/02/02(Fri) 04:30:58)
    あら、名称って期間を置くと一から出直しなんですね。
    知らなかった。

    天才??
    まさか。まさかまさか。
    それより天災ですよ、心配なのは。
    これだけ降雪量が少ないと、
    今に物凄い事が起こるんじゃないかと、
    そんな気がしてなりません。
引用返信/返信 削除キー/
■17849 / ResNo.31)  ◆ビヨンセさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(16回)-(2007/02/02(Fri) 04:36:05)
    まぁ、なんて嬉しい事を言って下さるのでしょうか。
    どうもありがとうございます。

    しかし、毎晩無駄に更新チェックさせてしまっているとは・・
    申し訳ない。。

     これからは貴方のその労苦を無駄にせぬよう、
     ちゃきちゃき更新します!

    と宣言できればいいのですが。
    ほら吹きにはなりたくないので、誓えません。

    ゆるりと見守って下さいね。
引用返信/返信 削除キー/
■17855 / ResNo.32)  あおい志乃さま
□投稿者/ ぶきっちょ 一般♪(1回)-(2007/02/04(Sun) 18:26:51)
    はじめまして、
    ぶきっちょと申します。


    前々から読ませていただいたんですが思い切っての感想を書かせていただきます。



    全ての登場人物の方を大好きに愛おしく思えてしまう作品ですね、
    私的に誰がいいとか悪いじゃなくて皆がぶきっちょは大好きです。


    女の職場で働くぶきっちょとしては何だか親近感も湧いてしまいました。


    更新楽しみに待っていますが、
    あおいさんのペースで待っていますのでどうかお気使いなく★



    あなたの綴る文章が大好きなぶきっちょでした。





    ―でわでわ。




       ぶきっちょ

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■17882 / ResNo.33)  Re[1]: あおい志乃からご挨拶
□投稿者/ 綾乃 一般♪(1回)-(2007/02/09(Fri) 10:43:33)
    いただいたメールを不注意で消してしまい返信できませんでした。
    申し訳ありません。
    これで投稿できるようになりましたでしょうか?
引用返信/返信 削除キー/
■17886 / ResNo.34)  ◆綾乃さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(18回)-(2007/02/11(Sun) 00:21:02)
    ありがとうございます。
    おかげで不具合は解消されました。
    お手数おかけ致しました。
引用返信/返信 削除キー/
■17888 / ResNo.35)  ALICE 【45】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(20回)-(2007/02/11(Sun) 00:29:31)
    「ね、アリスってさ」


    上体を倒して私の胸にもたれる、
    アリスの後頭部に顎を乗せながら、声を掛けると、


    「ん?」

    と、アリスが私を見上げた。


    「名前、アリスって名前さ、自分で付けたって?すみれちゃんが前にそんな事言ってた。それホント?」

    「んーー、そういえば言ったか」

    「言ったんだって。ホントに自分で付けたの?」


    顔に掛かった髪を指で払いながら、

    「そうだよ」 とアリスが答える。


    「へぇ・・。それってさ、名前の候補を書いた紙を沢山床にばらまいて、
     で、赤ん坊のアリスがハイハイして、最初に辿り着いた・・」

    「違うよ」


    まだ話し終わらない内に、アリスが私の言葉を遮る。

    「違うの?じゃあどんな方法で?」

    「方法って、普通にだよ。気が付いたら私の名前が無かったから、だから自分で考えただけ」


    ・・・んん?

    どういう、事だろう。
    気が付いたら名前が無かったって、いったい何歳の時の話だ?

    「三つになる頃だったと思うけど」

    私の心を見透かしたように、アリスが言う。


    「え??3歳?」

    「多分ね。【Alice's Adventures in Wonderland】が私のイチバン好きな本だったから。
     本文全部書き写すくらい気に入ってた」

    「ちょっ・・待って。え?話が、分からないんだけど」

    「だから、本の登場人物の名前を貰っただけだって」


    なんだそれは。余計に頭が混乱してきた。


    「待って、それってさ、3歳のアリスがさ、本を読んで、そこに出てくるヒロインを真似て、
     “そうだ、私の名前コレにしよーーっと”、って、そういうコト??」

    「アハハっ何その下手な芝居。ルーイって変ね」


    小馬鹿にしたようにフフンと笑って、
    アリスが私に向き直って座る。


    「変なのはそっちでしょう。なんで名前が無いのよ」

    「なんでって、そんなの、誰も付けなかったからでしょう?」

    「親は?読み書きの出来る3才児を育て上げるほどの親が、
     名前を付けないなんてあり得ないでしょう?」


    と、言ってしまってから、

    ああしまったと、私は後悔した。


    アリスの瞳がサッと曇るのが、
    見て取れたからだ。


    慰安旅行の温泉宿、
    乳白濁の湯で温まった体に五月の夜風を感じながら、
    並んで歩いた月夜の晩に、

    アリスは言っていた。


    “自分の事を心配する親はいない”


    と。


    やはりあれは、
    両親の存在が既に無いという意味合いだったのか。


    「アリス、ごめ・・」

    「読み書きは自分で覚えた」 謝り切れぬうちにアリスが早口で語る。

    「うん、デリカシーの無い事言ってごめん。両親をそんなに早くに亡くしているって、知らなくて」

    「生きてたけど?」

    「・・え?」


    話の展開に付いていけず、
    瞬きを繰り返した私をチラリと一瞥して、


    「男が死んだのは私が十の時だから」


    そう呟いたアリスは、
    自分の膝に肘を付いて頬杖を付く。


    「男・・お父さん、よね?」


    無言でいるが、否定しないところを見ると、
    どうやらその解釈で間違ってはいないようだ。


    「親がいたのなら、どうして?」

    「どうして?」

    私の質問を反芻したアリスの声には、
    まったく感情が込もっておらず、
    それでもアリスの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

    その冷たい微笑みに、
    私は一瞬呼吸を止めた。


    「男は月に一度の頻度で食糧を運んできたわ。
     数十キロの米の袋だった事もある。
     私の事を雀か何かだと思ってたのかしらね」


    そう言って小首をかしげたアリスは、
    短くアハハと乾いた笑い声を上げた。


    一緒になって笑っていいのかどうなのか、
    場の雰囲気を読み損ねた私は、
    泣き笑いのような微妙な表情をしたのだろう。

    「へーんな顔」

    そう言ってアリスが悪戯っぽくニィっと唇の端を上げたので、
    ホッとした私は、

    “お米って、冗談でしょ?”

    と軽口を叩こうとし、
    口をつぐんだ。


    次の瞬間にはもう、
    アリスの顔から笑みが跡形もなく消え去っていたからだ。


    「それから男は私を魔女の所に幾たび連れ出した」


    真夜中の夢を語った時と同じように、
    アリスは再び淡々と語り出す。

    けれど、
    恐怖におののいていた先刻とは違い、
    その目は深い憎しみの感情をたぎらせているように見えた。


    「そんな者が、まともな名前を付けられる訳がない。
     あの男が魔女の名で私を呼ぶ度に、私は自分が汚されていくのを感じた。
     あの男は死んで当然だったのよ」


    アリスの口から流れ出る言葉は、
    まるで現実味が無く、
    これもまた悪夢の解説の続きなのだろうかと、
    そんな疑いが私の頭に浮かんだ。


    けれど目の前で目を鈍く光らせるアリスが、
    あまりに美しく、この生活感の溢れかえる部屋に似つかわしくないので、

    アリスがフィクションを語っているというよりは、
    彼女自身がフィクションの世界の住人のようで、

    だんだんと彼女を遠くから見つめ出している自分に私は気が付いた。


    アリスと自分の間に下りかける見えないベールを、
    私は瞬きで振り払う。


    「魔女って、アリスのお母さん・・?」


    久々に発せられた私の相槌に、
    アリスが大きく目を見開く。

    「まさか!!」

    「あ・・ごめん」


    信じられないという顔つきでアリスが声を大きくしたので、
    私は咄嗟に気弱な声を出す。


    「母は、男と魔女の被害者だった。母は体が弱くて・・。
     とても弱い人だったから、だから私を育てられなかったんだ」


    憎しみの込められていた瞳が、
    瞬く間に悲しみの色に様変わり、

    そしてさらに嬉々とした輝きを放った。


    「見る??」


    弾んだ声でそう尋ねたアリスは、
    私の返事を待たないうちからベッドを跳ね降り、
    ハンガーに吊されていた自分の上着をまさぐりだした。


    「お母さんの写真でも持ってるの?」

    そう聞き返しながら、
    まさかアリスに限って、
    そんなあからさまに健気な習慣など持っていないだろうにと、
    私は首を振った。

    瞳をキラキラさせながらベッドへ戻って来たアリスが、
    握りしめていた左手を、私の顔の前でパッと開く。


    そこにあったのは、
    見覚えのあるシルバーの小さな円筒。



    ―――これは・・



    そうだ、ダイナに追われていたアリスを拾ったあの日、
    彼女が車に置き忘れていた、
    あのリップスティックだ。


    「これ、お母さんのモノだったのね」

    私の言葉には答えずに、
    アリスは軽く指で捻って、スティックのキャップを外した。


    と、そこから姿を現したものは、


    アリスの唇の色をしたピンクの紅ではなく、

    筒に沿って丸められた、小さな紙のように見えた。



    白く細い指をゆっくりと動かし、

    宝の地図をもったいぶった仕草で見せびらかすように、


    アリスは誇らしげな顔で、



    それを私の顔の前で広げて見せた。

引用返信/返信 削除キー/
■17889 / ResNo.36)  ◆ぶきっちょさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(21回)-(2007/02/11(Sun) 00:34:40)
    思い切って声を掛けて下さって、
    ありがとうございます。
    とっても素敵な感想を述べて下さって、
    ありがとうございます。
    励みになります!
引用返信/返信 削除キー/
■17947 / ResNo.37)  ALICE 【46】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(23回)-(2007/02/18(Sun) 01:26:53)
    それは、


    一枚の古い写真だった。



    白と薄緑のグラデーションに染められた、
    上品な振袖に身を包んだ、
    とても、とても美しい女性が、

    趣のある和室の畳の上に正座をして、

    写真の中からこちらに微笑みかけていた。


    そんなはずはないのに、
    私はこの女性と、
    以前どこかで会った事があるような気がした。


    「“真っ白”って書いて、真白、ましろ。母の名前。私の、母の名前」



    【真白】



    本当に、その名に相応しい人だと感じた。


    “色白”と言うよりも“白色”の肌。
    新雪のように真っ白な肌。

    アリスと、よく似ている。



    ―――この人が。アリスを産んだ人。



    変な、感じだ。


    そりゃあアリスだって人の子だと、
    分かってはいたけれど、

    けれど、

    本当の本当は、
    物語の中から突然飛び出して、
    この世界に迷い込んでしまった、

    アリスって、
    そんな架空の人物なんじゃないだろうかと、

    私は心のどこかでそう思っていたのかも知れない。



    そうか、

    この人からアリスは産まれたんだ。



    母はとても弱い人だったと、アリスが言ったように、
    写真の中の彼女は着物の上からでも分かる程華奢な体つきで、
    その笑顔も儚げだった。


    【佳人薄命】のごとく、

    病ゆえの短命だったのだろうか。



    私は写真に手を添えて、
    今一度真剣に、今は亡きアリスの母親を見つめた。





    「ルーイ、見過ぎ」

    悪戯っぽくそう言ったアリスが、
    私の手から写真をサッと引き抜いて自分の胸に押し当てる。


    「あぁ、ごめんごめん」

    「私に似てるって、そう思ってたんでしょう」


    明らかに同意の他は期待していないその問いかけに、

    私は笑って、「そうね、そっくり」 と答えた。


    「でしょう。私、母親似なんだよね」


    幼い子供のように、アリスが顔をほころばす。


    確かに、
    アリスと真白はとてもよく似ている。
    だが、写真を見た瞬間に、
    彼女の顔と、誰か別の人物が、
    強烈に私の記憶の中でダブった気が、した。

    すごく、この真白という女性に似た誰かを、
    私は知っている気がするのだ。

    しかし、
    確信も持てないそんな余計な戯れ言で、
    こんなに無防備に笑うアリスの眉をひそめさせるなど、
    馬鹿らしい以外の何ものでもない。


    「本当、よく似ているよ」


    私はもう一度そう繰り返した。


    「この写真はメリーがくれた」

    「メリー?」

    「そう。メリーは私以外で私のことを“アリス”って呼んでくれた初めての人」


    私の頭の中にクエスチョンマークが無数に浮かんでいる事など知らないアリスは、
    満足げにそう言うと、
    真白の写真をクルクルと丸めて再びリップスティックの中に仕舞った。


    「そのケースも、お母さんの物なの?」

    「これ?うん、そう。多分。うん。家にあったから」


    するとアリスは急に、
    輝いていた目の光を失い、表情に影を落とした。

    「私・・」


    そう言って言葉を切ったアリスを、
    私は無言で見守る。


    「私、母のこと、覚えていないの」

    まるで、
    許し難い大罪を告白するように、
    アリスは小さくそう言った。


    「2歳の時までは、一緒に暮らしていたはずなのに。気が付いたら、私一人で・・」

    「ちょっと、待ってアリス…2歳?2歳でしょう?
     そんなの覚えてなくて当然よ。いくら貴女が天才児だったとしても・・」

    「ううん、そうじゃないの。
     メリーのことは覚えてるの私。母親と暮らしてたことも、覚えてる。
     でも、どんな風にそうしていたのかが思い出せない、記憶が無い。
     以前はここにいて、今はもういない。それだけはハッキリと分かった。それだけ。
     私がこんなだから、母を余計苦しめたのかもしれない。きっとそうなんだ」



    いったいメリーって誰なの?
    そもそも、それは人の名前なの?
    “余計”苦しめたって、
    じゃあ貴方の母親を煩せたというその他の主な要因は何なの?
    それがアリスの父親と魔女なの?

    だから魔女って、何なのよ。


    質問は山のようにあるが、

    抽象と具象の糸が不規則に織り混ざったアリスの話に土足で踏み込んで、
    リアリティを与えてくれと、
    そんなデリカシーのない要求をする勇気は、
    私にはない。

    アリスに自身の内面を明かす許しを与える、
    この雰囲気を壊さないよう、慎重に行動せねば。


    夢か現実か、区別が付かないようなストーリーを語る、
    架空の存在か実在か、区別が付かないほど美しいアリス。

    いっそのこと、この少女を含め何もかもがお伽話であったなら、
    こんなに頭を悩ます事もないのにと思いつつ、

    いやしかし、
    現にアリスは私と同じこの世界に生きる人間なのだから、
    彼女を取り巻く黒い霧の正体を暴いて、
    もっとアリスの実質に触れたいと、
    必死に現実を追い求める私。

    異質な空気の漂う部屋の薄明かりに、
    真っ赤な薔薇や、
    箒に乗った魔女の幻が浮かんでは消える。


    なんてサイケデリックでアカデミック。


    絵心に乏しい私も今なら、

    マルク・シャガール顔負けの、
    夢、色彩溢れる印象的な絵画を、

    巨大なキャンパスに踊らせる事ができるかもしれない。



    けれどやっぱり絵心の無い人間の住まいには、
    絵の具もキャンパスも揃っていなくて、

    そしてそれらの材料がたとえ揃っていたとしても、
    絵心のない私は絵筆を握る気にもならない訳で、

    ただただアリスの中心に近付く為に、
    無難な質問が何処かに落ちていないかと、
    試行錯誤を繰り返すのだ。


    やはりここは、
    一番具体性を持つ、真白に焦点を絞った方が良さそうだと、
    私は判断した。


    「2歳の時に、お母さんは・・亡くなったの?」

    「母は、魔女の名が付いた私を傍に置いておくのが怖かったんだと思う。
     だから、出て行ったんだ。
     その途中で、男と魔女と仲間達に捕まった」


    ・・・また、男と魔女のご登場だ。


    それでもアリスが本当に全てを淡々と語るので、
    ぼぅっとしていると、
    その内容が現実離れしている事をつい忘れてしまいそうになる。

    ファンタジックな物語を話すファンタジックに美しいアリスを、
    ただ見つめていたい気持ちになるのだ。


    が、そういうわけにはいかない。



    きっとアリスは、

    何らかの助けを必要としているのだ。


    ―――と思うのだが…。



    それにつけても、

    アリスの話は滑稽である。


    ―――魔女の名前?


    “アリス”という名のどこが、
    そんなに恐ろしい名前なのだろう。


    ―――母親が男と魔女と仲間達に捕らえられた?


    “男”は父親だとして、
    やはり“魔女”が鍵のようだ。


    この暗号の解き明かしをしてくれと、
    アリスに問いかけようものなら、
    その瞬間からアリスが口を閉ざしてしまいそうで、
    今は訊くに訊けない。

    それに、アリスは最初から、
    暗号を語っているつもりも意識もなさそうだ。


    本当に、言葉を慎重に選ばねばならない。



    もしかすると裁判の時よりも、
    脳をフル回転させているかもしれない、
    そんな私の奮闘など知らないアリスは、
    とろんとした目をして、
    長い睫毛を数回瞬かせる。


    「ねむたくなった?」


    私の太股を枕にして寝転がるという動作で、
    アリスは質問に答えた。


    「母は・・」

    仰向けに寝転がったアリスが、虚ろな目で口を開く。








    「逃げ出す途中で魔女に殺されたんだ」

引用返信/返信 削除キー/
■18072 / ResNo.38)   ALICE 読んでます☆
□投稿者/ ゆらら ちょと常連(82回)-(2007/02/21(Wed) 14:20:21)
    アリスの過去が少しずつアリスの口から語られてきて

    ルーイもますますアリスに惹きこまれてきましたね☆

    またまったりと、楽しみにしています☆
引用返信/返信 削除キー/
■18108 / ResNo.39)  ALICE 【47】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(24回)-(2007/02/24(Sat) 02:40:09)
    ・・・“殺された”。



    今夜アリスが語る奇妙な物語の中で、
    とうとう人が殺された。

    真白は、
    病死ではなかったのだろうか。

    アリスの話が文字通りの意味を持っておらず、
    ただ彼女の精神の闇を象徴的に表しているだけなのだとしても、

    “殺す” だの “殺される” だなどの表現が、
    好ましいとは決して言えない。

    ましてや、それが文字通りの意味合いなのだとしたら・・・。



    アリスが巻き込まれた、
    あるいは今尚その渦中にいるのかもしれない状況を感覚的に想像した私は、
    何とも言えない不安を感じた。


    アリスの背後には、きっと恐ろしく冷たい何かがある。

    アリスの園の中心に近付けば近付くほど、
    ここが、
    “花咲き乱れ、蝶舞い踊る”楽園ではないのだという、
    過酷な現実をじわりじわりと突き付けられる。

    頭上に立ちこめる暗雲の、
    計り知れない大きさに、
    圧倒されそうになる。


    けれど、

    そこから目を背け逃げ出す気持ちが、
    この心に微塵も存在しない事に気付き、
    数か月前までの、誰にも深入りせず心乱さず歩んできた自分と比較すれば、
    その変化には我ながら驚かずにはいられない。


    「真白さんは、逃げて何処へ行くつもりだったのかな」

    返事がないので、
    眠ってしまったのだろうかと思ったが、
    少し間を置いた後でアリスが呟いた。


    「母は私を・・私を・・・」

    「迎えに来ようとしてたのかな」


    妙な沈黙が流れる。

    まずい事を言ってしまったのだろうか。


    もしや、
    真白の死は、
    『道路に飛び出した幼い我が子アリスを救おうと、
     身代わりに車に跳ねられる』
    などという悲劇だったのだろうか。

    ありえなくはない。


    「・・ったらいいな」

    「え?」

    「私を迎えに来るつもりだったのなら、いいのに。・・・ありっこないけど」


    どうやら、
    交通事故説は流れたようだ。

    私は自分の仮説の陳腐さを秘かに恥じた。


    「あの日から、母は今日まで死に続けている」


    ―――“死に続ける”


    妙な表現だ。
    人は死んでしまえば何も続けられないというのに。


    もう少し具体的な答えを引き出す質問ができないだろうかと思ったが、
    気が付くとアリスは寝息を立て始めていた。


    相変わらず、寝付きがい・・





    「“曲がりっぱなしの廊下を私は黒い腕に引かれて走る”」



    突然の声に、ギョッとしてアリスを見下ろす。



    「“そして回りながら下へ下へと墜ちていく”」



    しっかりと目を閉じたアリスの口が、
    まるでそこだけ別の生き物のように動いた。




    私は、アリスの唇を見つめながら、
    しばらく視線を他へ移せないでいた。


    今のは、何だったのだ。


    確かにアリスは眠っている。

    ただの寝言と言うのには、
    どうもしっくり来ない、妙な違和感を感じる。


    アリスの口が語ったのには違いないが、
    もっと、アリスの潜在的な部分から発せられたとでも言うような、
    ああ、何と言えばいいのか、
    まるでアリスの体内にレコーダーが埋め込まれていて、
    そこに吹き込まれていた音声が流れ出したとでも言うような。


    そう、つまり、酷く機械的な感じがしたのだ。


    落ち着かない気分になった私は、
    ソッとアリスの手首に指を添えて、
    その熱と生ける血液の動きを感じ取り、胸を撫で下ろす。




    ダメだ、途方に暮れそうだ。

    謎が多すぎる。



    だが一つだけハッキリした事は、

    アリスが、母親の愛を切ないほど縋り求めていたという事だ。



    アリスの母親―――真白。


    写真で見る彼女は、本当に美しい人だった。

    アリスとよく似ていた。






    ―――“この人、アリスに似てますね”



    不意に私の記憶の中で誰かがそう呟く。



    ・・あれ?

    これは、誰が言ったセリフだったか・・。


    そうだ、すみれちゃんだ。

    あの時は確か、化粧品のテレビCMに出ていた女優の誰かを見て、
    彼女がそう言ったのだ。


    化粧品、か。









    ―――その時、


    私の頭にある人物の顔が閃いた。
引用返信/返信 削除キー/

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