ビアンエッセイ♪

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■18109 / ResNo.40)  ◆ゆららさんへ
  
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(25回)-(2007/02/24(Sat) 02:41:59)
    ここら辺は、
    ホント読んでいても面白くないと思います。。
    それでも後々、見逃せないキーになってくるので、
    またその時にでも読み返して下されば・・。
引用返信/返信 削除キー/
■18110 / ResNo.41)  ALICE 【48】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(26回)-(2007/02/24(Sat) 02:53:29)
    その人は、


    記憶の中で、
    私を取り囲むように見つめていた。





    ―――ああ、あの時、

    所長が私の胸にかすみ草を挿したあの夕暮れの帰りの車内、


    運転席の窓から見た、何十枚もの同じポスター。


    そこから私を見つめていた無数の瞳。


    ああ、まさにあの女性、

    名前は、名前は・・


    クレノ・シン。紅野心。


    そう、この有名な女優が、アリスの母親・真白と似ているのだ。



    雰囲気こそ全く違うが、
    顔立ちの特徴がかなり一致する。

    というより、この紅野心、アリスともよく似ている。

    それもそのはず、
    母親と似た顔立ちの人間に、
    その娘が似ているのも無理はない。


    しかし、

    どちらかと言えば、
    アリスと真白を直結して考えるよりも、

    二人の間に紅野心を置いて、
    間接的に三人を繋げる方が、しっくりくる。

    つまり、
    真白と紅野心が似ていて、
    紅野心とアリスが似ている。

    そんな感じなのだ。


    本当に、とてもただの【他人の空似】だとは思えない。
    血の繋がりを感じずにはいられないのだ。

    どうして今まで気付かなかったのだろう。


    こんな事って、あるのだろうか。



    私の腿を枕に、
    無警戒にすやすや寝息を立てるアリスの寝顔を見つめながら、
    私は堪りかねて呟く。


    「何が何だか、分からない」


    本当に、分からない。


    この巨大な迷路の全体図が、朧気にも見えてこない。


    けれど、


    迷路の中心にいるアリスは、

    きっと私に手招きをしている。


    いや、

    そこから連れ出して欲しいと、

    私に訴えかけていると、そう感じるのだ。







    ねえアリス、



    そうなんでしょう?


引用返信/返信 削除キー/
■18112 / ResNo.42)  ALICE ☆あおい志乃さんへ
□投稿者/ ゆらら ちょと常連(83回)-(2007/02/24(Sat) 03:45:29)
    やだなぁ☆ずっと読んでますよぉ〜☆
    おとなしく静かに〜そっと☆ひっそりと☆

    真夜中に「アリス」を読めてラッキーでした♪

    今は物語の伏線部分で後々意味を持つ箇所なんですよね☆
    う〜ん♪楽しみながら読んでますから大丈夫です♪

    またまったりと待ってますので☆では・・☆
引用返信/返信 削除キー/
■18270 / ResNo.43)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(347回)-(2007/03/08(Thu) 02:42:47)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    更新してない時にスレッドが上がってしまう事は
    志乃さんの本意ではないかもしれませんね・・・

    お久しぶりです昴です
    アリスとルイ子の二人でベッドに居ても
    何も始まらない(←そういう意味では)のに
    どんどん複雑になって、いつもハラハラドキドキ

    お仕事がお忙しそうですが体調に気をつけて
    完結まで頑張りましょう
    (最近昴も停滞気味です)
引用返信/返信 削除キー/
■19114 / ResNo.44)  ALICE 【49】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(1回)-(2007/05/23(Wed) 01:13:09)
    2007/06/03(Sun) 10:00:55 編集(投稿者)

    “ 藤鷲塚 紅乃 (fujiwashizuka kureno )”



    なんと堅苦しい名前だ。


    インターネットの検索サイトに “ 紅野 心 ” と打ち込み、

    ヒットしたフリー百科事典に載せられていた彼女の本名に、
    私は思わず顔をしかめた。


    『紅野 心(本名:藤鷲塚 紅乃)―――女優。
     華道の代表的流派【華道家元藤鷲塚】三十二世 藤鷲塚 爵師(fujiwashizuka sakunori)の長女として、
     19**年に生まれ、現在33歳。
     次期家元藤鷲塚 朗(fujiwashizuka rou)を兄に持つ。』



    どこか良家の出であった事を何となく認識してはいたが、
    三十世代も続く華道の家の出身だったとは、知らなかった。

    ブラウン管の中で彼女が放つオーラのようなものは、
    他の女優と比べても群を抜いているという印象があったが、
    なるほど、家柄がそれに一役買っているのかもしれない。


    しかし、
    検索にかけて最初に辿り着いた彼女の公式HPには、
    バイオグラフィ欄にもどこにも、
    本名や出生については載せられていなかった。



    マウスを下へスクロールすると、
    彼女の出演した映画のタイトルがずらっと続いている。


    『Underground』

    というタイトルには、見覚えがあった。



    再び最上面に戻り、
    最初に見た紅野心のプロフィール写真をもう一度眺める。

    一昨日の晩、写真で見たアリスの母親、真白の顔を、
    思い出して頭の中で重ねてみる。

    やはりとてもよく似ているが、
    雰囲気が全く違う。対照的だ。

    真白と紅野心、
    二人はまるで、白と黒、

    いや、

    白と・・





    「あ!!この人!!!!」


    突然の大声に思わずビクッと肩を上下させて振り返ると、
    すみれちゃんが私のすぐ後ろに立って、
    目を大きく見開いていた。


    「この人ですよ!私がこないだアリスに似てるって言った人、この人です!!」


    興奮した様子で、私のパソコンの画面を覗き込む。


    「あ〜なるほどね。確かにね」

    と、昼食の弁当と箸を手に持ちながら、
    リリーも寄って来る。


    「えぇ!?誰って??どれどれ??」

    食後は絶対に横にならねばならないと、
    ソファに寝ころんで漫画本を読んでいた三葉が飛び起きて来、
    私の膝の上に滑り込んだ。


    これで、
    外出で不在のアリスと所長を覗く4Fの全員が、
    私のデスク周りに密集している事になる。


    「紅野心!なるほど〜似てるっすね!怪しいトコだらけってのも、あの謎女アリスとカブる!」

    アリスの事を語る三葉の言葉には相変わらず少し棘がある。

    「本当、紅野心さんって怪しいくらい綺麗ですよねえ」
    「え?怪しいってそういう意味じゃなくて…すみれさん知らないんすか?」

    「ああ、兄殺しの事?」


    「兄殺し!?」 「兄殺し!?」


    リリーの口から飛び出した、とんでもない言葉に、
    私とすみれちゃんの声が綺麗にシンクロした。


    「あれ、ルイ子さんも知らないんすか?まぁ、けっこう前の話ではありますけどね」
    「でもかなり有名だし、大概は知ってると思うけど。ネットで検索すれば死ぬほど引っかかるんじゃない?」

    「いや璃々子さん、それがそうでもないんすよ。数はあっても、どれも噂話の域を出ないレベルばっかなんすよね」
    「へぇ〜そうなんだ。当時の関係者の暴露とか無いわけ?」

    「無いんす。事務所と、それと実家の力だと思うんすけどね」
    「あぁなるほどね。あの家って身内に政治家もいるし、警察の上の方とかも押さえてそうよね」

    「そうそうっ!」


    「ちょっと、二人でどんどん進むのやめてよ」 リリーと三葉の盛り上がりに私は待ったをかけた。

    「そうよ、ねぇリリー、どういう事なの?」 すみれちゃんも堪りかねてリリーの腕を揺さぶる。


    「アンタ達、ほんっと何も知らないのね」
    「うるさいな」

    「まぁまぁ、今説明しますから」 三葉が睨み合うリリーと私の間に割って入った。


    「紅野心には兄貴が二人いたんす。上の方は若くして亡くなってるんすけど。
     年が近い方は、次期藤鷲塚三十三世のイケメンっすよ」

    「藤鷲塚朗?」 私の言葉に、「もちろん」 と三葉が親指を立てた。

    「えっ!?紅野心さんって、藤鷲塚朗と兄妹なのぉ!?」

    「え、すみれさん、そこから説明必要すか・・」 三葉の言葉に同調し、リリーもはぁと溜息のジェスチャーをする。


    すみれちゃんには悪いが、リリーに鼻で笑われるのは癪なので、
    私も実は今しがた紅野心と藤鷲塚家の繋がりを知ったのだとは、
    言わないでおいた。


    「私、昔から彼の作品何回か観に行ってるのよ?本人と会った事もあるけど、でも全然知らなかった」

    「え!そうなんすか!?めちゃくちゃイイ男でしょう?
     最近歌舞伎とか能とかの世界でも、ちょっと顔がイイからってタレント紛いな事する人多いですけど、
     そんなのと比べモノにならないっすよね??」

    「ん〜、顔は特に比べた事がないけれど、でもメディアに露出するのは嫌いみたいね。
     伝統を誇りに思う気持ちは、確かに今の若い人達よりも大きいのかもしれないわ」


    すみれちゃんの言葉を聞きながら、
    私はいつか一度だけニュースで見た彼(か)の若き華道家を思い出していた。
    カメラに向かってニコリともしない整った顔立ち、
    全身から浮世離れしたオーラが漂っている男だと感じた気がする。

    確かに藤鷲塚という名前は有名だが、
    この家の人間は滅多にメディアには登場せず、
    伝統文化という家の敷居を高く持ち、
    常人からは距離を置いている感がある。

    そういう価値観から考えると、
    藤鷲塚の家にとって、“女優”という肩書きを持つ紅野心の存在は、
    あまり喜ばしいものではないのではないだろうか。

    そして紅野心のHPに、藤鷲塚の文字が一つも無いのは、
    彼女の側からも、実家との繋がりを敬遠している事の表れと考えるのが自然だ。

    双方が互いに関係を公にする姿勢を取らないのであれば、
    私やすみれちゃんのように、
    紅野心と藤鷲塚の関係を知らない人間も、そう少なくないのではないだろうか。


    「おっと、今は朗はどうでもいいんだった」

    ようやく私の膝から降りた三葉が、今度は私のデスクの上に腰掛ける。

    「肝心なのは、上の兄貴、ジャクっすよ」


    「ジャック?」 「外人さん??」

    同時に声を裏返した私とすみれちゃんを、
    リリーが冷ややかな目で見る。

    「ばーか。ジャ・ク、だよ。静寂の寂。間抜け」

    「あ、そですか」 外人にさん付けするすみれちゃん程、間は抜けていないと思うが。


    リリーと私のやりとりに三葉がケタケタと笑い声を上げる。

    「もぉ〜コントじゃないんすから。で、その肝心の長男は、問題児だったんすよ。
     問題児っていうか、異端児っていうのかな。頭の方は、恐ろしく良かったみたいっすけどね」

    「顔もね」 とリリーが付け足す。

    「問題児って、不良だったの?」


    ・・ふ、不良・・。
    久しく聞かないすみれちゃんのその表現にリリーも反応したらしく、
    笑いを堪えるように口元がひくついている。

    「不良〜・・まぁそういう表現もありっすかね。なんていうか、とにかく変わり者だったんすよ。
     天才と馬鹿は紙一重って言いますしね。とにかく並の協調性を持ち合わせてなかったようで。
     子供時代はかなり陰気だったって噂ですし、十代に入ると派手に遊び出したみたいっすけど、
     それでも、気味悪い男だったって。普通じゃない、狂った感があったとか」

    「てかさ」 とリリーが私の隣のアリスの席に腰掛けながら口を挟む。

    「三葉って何でそんな詳しいわけ?10年前に長男の事件が起こった時、私は高3だったし、
     嫌でもワイドショーの特集とかで藤鷲塚家の事情通になったけど、アンタ当時小学生でしょ?」


    ―――え?


    「まぁまぁ、興味ある分野ってのは人それぞれっすよ」


    三葉がランドセルを背負いながらゴシップを追い掛けていた事など、
    この際どうでもいい。

    10年前に高校3年生?

    と、いう事は。という事はだ。
    リリーって今、28歳??

    当然の如く自分と同じか、もしくは下だと思い込んでいた。

    実年齢を知っていたところでリリーに対する私の態度が今より丁寧になったとも思わないが、
    それにしてもリリーにしてみれば生意気な新人だっただろうなと、
    私はほんの少し反省した。
    ほんの少しだが。


    「で、」 と三葉がワイドショーを再開する。

    「璃々子さんが今言ってしまいましたが、今から10年前に事件は起きました。
     当時寂28、紅野心23っすね。
     ある晩ホテルの一室から110番があったんです。そして、そこに警察が辿り着くと…」





    すみれちゃんの、

    コクッと唾を飲み込む音が聞こえた。
引用返信/返信 削除キー/
■19115 / ResNo.45)  ◆ゆららさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(2回)-(2007/05/23(Wed) 01:14:06)
    ゆららさん、お久しぶりです。
    お元気でしたか。

    もうすぐ梅雨入りですね。
引用返信/返信 削除キー/
■19116 / ResNo.46)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(3回)-(2007/05/23(Wed) 01:14:58)
    停滞気味、ではなく、
    完全停滞、になっていました。

    ははは。
引用返信/返信 削除キー/
■19120 / ResNo.47)  NO TITLE
□投稿者/ 凌 一般♪(1回)-(2007/05/23(Wed) 08:02:46)
    続きが読めることとても嬉しいです。
    無理せずに、ですよ。
    実はずっと待ってました。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■19155 / ResNo.48)  あおい志乃さん♪
□投稿者/ 昴 大御所(384回)-(2007/05/28(Mon) 01:11:07)
http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/
    人様のことは言えません
    昴も似たようなもんです(爆)
    投稿数リセットに首の皮1枚で繋がっている感じでしょうか
    ボチボチでいいので完結を目指しましょう(←自分に言ってる)

    ゆっくりでも楽しみにして
    ちゃんと拝読してますよ
引用返信/返信 削除キー/
■19163 / ResNo.49)  ALICE 【50】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(4回)-(2007/05/29(Tue) 02:41:49)
    2007/06/03(Sun) 10:17:50 編集(投稿者)
    2007/05/30(Wed) 22:49:35 編集(投稿者)

    「“まるで血の雨が降ったようだった”」


    三葉が声を低くして、そう言った。


    「新聞の一面に載った一文っすよ。
     警察が駆けつけると、そこには喉を掻き裂かれて既に絶命している寂と、
     血塗れの紅野心がいたんです」





    ―――“血の雨”



    その言葉に、私は頭をガンと殴られた気分になった。



    それはまさしく、アリスの、アリスの夢。
    偽のペンキを塗られた薔薇のガーデンで。
    アリスに降り注いだ雨。


    先月出張で一泊したホテルの部屋を思い浮かべ、
    血に染まって呆然とこちらを見る紅野心をそこに立たせてみようと試みたが、
    その人物がどうしても、アリスの顔に描かれた。


    「紅野さんが寂さんを殺したのだったら、どうして捕まらなかったの?」


    すみれちゃんの言う通りだ。いったい何故・・?


    「殺人を犯しても、罪に問われない最も簡潔な理由は?弁護士諸君」


    リリーの質問に、私とすみれちゃんは声を揃えた。


    「正当防衛」 「正当防衛」


    「大正解っす」 三葉が指を鳴らす。

    「紅野心自体、危なかったんすよ。下腹を深く刺されてて。
     抑えるのに使ったシーツが、全部真っ赤に染まってたって言いますから、相当でしょうね」


    聞いているだけで貧血を起こしそうな話だ。


    「凶器になったナイフも、寂が購入した物だと裏付けが取れたようっす」

    「つまり寂さんは、紅野さんを本気で殺そうとしていたって、いうこと?」

    「それはそうよすみれ。じゃなかったら、正当防衛になる訳ないじゃない」

    「そんな、実の妹なのに・・動機は?」



    そう、肝心なのは動機だ。


    「問題はそこっすよ。その動機っていうのが、動機っていうのが・・」

    「何なのよ」 私はもったいぶる三葉を急かす。


    「動機は、ずばり・・・不明です」


    「はぁ!?」

    「えーーー分からないの?」 すみれちゃんも気落ちした声を出す。


    「まじ、はっきりした事は分からないんすよ。まぁ、色々マスコミの間で説は出たんですけどね。
     結局核心を突いたものは無くて、真相は闇の中ってヤツっすよ。ねっ、璃々子さん?」


    「そうだったわね」

    残り2年で三十路街道を走り出すとは到底思えない、
    クリクリした大きな黒目を上方に向けて、
    当時を思い出すようにリリーが相槌を打つ。


    「動機もハッキリしないのに、よく正当防衛ですんなり片付いたわねぇ。死人に口なしって事かしら」

    さすがはヤリ手弁護士。
    おっとりしていて抜けている事が多いが、
    すみれちゃんのこういう切り口は鋭い。


    「まぁそれもあるけど・・・なんとなく分かりそうなもんじゃない?」

    リリーが試すような目で私をチラリと見る。


    「寂の人格、生前の評判が悪かった。そしてそれゆえに、藤鷲塚の家が、彼を見捨てた、って辺りかな」

    「ルイ子さん、ご名答」 三葉が片目を閉じ、リリーがフンッと笑う。


    「藤鷲塚の人間が、どういう証言をしたのか、その詳細は不明ですけど、
     とにかく寂を庇うような意見は無かったって事っすね。
     全員一致で、紅野心の側に付いたってわけっすよ」


    それは、十分納得のいく展開だ。
    藤鷲塚といえば、先刻リリーも言っていたように、
    身内に政治関係者もおり、
    それに確か、家元の妻の実家が、
    大手製薬会社、青葉グループだったように思う。

    金の亡者にスキャンダルは禁物。
    身内の人間に不名誉が降りかかるのを防げないのなら、
    その対象は二人よりも一人の方が良い。

    そしてどちらを選ぶかとなれば、
    それが幼少期から異端とされていた、寂の方になるのは当然だ。
    長男という立場ゆえ後継者とはいえど、
    すでに代わりは決まっている。
    もしかすれば、
    弟の朗が三十三代目となる事は、
    寂が死ぬ前から決まっていたのかもしれない。
    そうであれば、目の上のタンコブを取り除く機会である。
    とまで思ったかどうか、
    藤鷲塚の人間の心を私は知らないが、
    とにかく寂は切り捨てられたのだ。


    少し表情を寂しげにしたすみれちゃんが話を変える。

    「ホテル側に、何かを見たり聞いたりした人はいなかったのかしら」
    「ああっと、言い忘れてたんすけど、実は殺人の現場には、もう一人いたんですよね」

    「なんっでそんな大事な事を言い忘れるのよ」
    「だって仕方ないんすよルイ子さん、全然参考にならないんですもん」

    「で、それは誰よ?」


    答えを急かしながら、
    私は耳を塞ぎたい気分だった。

    血塗れのガーデンの夢を見始めたのは、
    10年前からだとアリスは言った。

    もし、その殺人現場に10歳のアリスが居合わせたなら・・


    「親戚か誰かだったと思います。確か・・30前後くらいの女の人だったんじゃないかな。
     詳しい情報は無いんすよね」


    三葉の言葉に私は胸を撫で下ろした。

    考えてみれば、
    ただ紅野心に容姿が似ているというだけで、
    アリスがこの事件に関わっているなど、
    可能性の低い話だ。

    いやしかし、
    もし血の繋がりがあるのなら、
    多少の関わり合いはあるのだろうが。

    けれど、
    もしアリスが藤鷲塚家の一員なら、
    あれほどまでにお金を必要とするのは不可解だ。


    だが、
    ただの遠い親戚なら。

    その事実をどうやって確かめる?


    アリスの苗字が“藤鷲塚”だったなら、一気に事が進むのに。



    「園真井・・か」


    無意識に、私はアリスの姓を呟いた。


    ―――“園真井 アリス”


    初めてそのサインを書類の隅に見つけた時、

    作られたように綺麗な名前だと思った。


    “ソノマイ”と読むのだと知った時、

    音楽のように美しい響きだと思った。



    「アリスの名前がどうかした訳?」

    「え、あ、いや、藤鷲塚とか、園真井とか、漢字三文字の苗字って富豪っぽいなと思って」

    「“加賀美” もっすよ!」 すかさず三葉が付け加える。

    「ガキっぽい発想」 すかさずリリーが憎まれ口を挟む。


    「うるさいわね」



    ・・・ダメだ。こんなやりとりをしている場合ではない。


    ここは一旦アリスの事は頭の隅に置き、

    紅野心の過去に話題を集中すべきだと、私は思い直した。


    「話戻すけど、部屋に居たその女性がどうして参考にならないワケ?本来なら重要参考人でしょ」

    「まぁ、そうなんすけどね。なんたって唯一の目撃証人ですから。見た事を、話す事ができれば、ですけど」

    「それってまさか・・」


    すみれちゃんが呟いた “まさか” の続きが、
    自然と私の口を突いて出た。


    「彼女も、死んでいたの・・?」


    「彼女は、生きてました。でも、彼女の“脳”が、死んでたんです」

    「植物人間ってやつね」 リリーが補足する。


    三葉とリリーの説明によれば、
    その女性は元々そのような状態だったのではなく、
    殺害の場面を目の当たりにしたショックで、
    発作を起こし、正気を失ったという。

    紅野心は寂に呼ばれてホテルの部屋に行ったというのだが、
    彼女の証言ではその時すでに、
    その女性は自由を奪われた状態にあったという事で、
    寂が何らかの理由で、
    紅野心と彼女を拉致し、危害を加える計画を立てていたと、
    当時のメディアは伝えたらしい。


    「ま、一般家庭で育った人間なんかにはわかりっこない、複雑な感情のもつれがあったんでしょうね。
     肉親同士の、恨みとか、妬みとか、そういう黒〜い何かが」


    三葉はそう言うと、
    私のPCのマウスのカーソルを右上に動かし、
    ネタは全て出し尽くした、という合図のように、
    開きっぱなしになっていた紅野心のウインドウを閉じた。



    三葉の口調からすれば、
    恐らく彼女はこの事件に関して出来る限りの調査をし尽くしたようだし、
    10年も前の事を今更私がネットサーフィンをして掘り起こそうとしたところで、
    そこから藤鷲塚家とアリスの繋がりを見つけ出す事は、
    不可能だろう。


    『女優の紅野心と似てるよね』と、アリスに直球を投げたらどうなるだろう。

    『誰それ、知らない』とあっさり返されて、
    結局他人の空似・赤の他人という結果で終わるかも知れない。

    だったら、紅野心なんかについてあれこれ考えを巡らすのは、
    ただの取り越し苦労である。


    今のところ結局、
    私はアリスの夢の解き明かしを少しも前進させていないのだ。


    溜息をつく代わりに、


    私は椅子に腰掛けたまま手足を広げて伸びをした。
引用返信/返信 削除キー/

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