ビアンエッセイ♪

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■19467 / ResNo.70)  ALICE 【55】
  
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(18回)-(2007/07/13(Fri) 01:17:10)
    一言で言うならばそこは、




    異空間だった。





    4αほどの広さのその場所は、

    公園というよりもただの荒れた庭だった。




    中央にある煉瓦造りの丸い井戸や、

    同じく煉瓦で出来た立水栓、


    幾何学的に張り巡らされたウォーキングロードのタイルなどを見ると、


    かつては此処が素敵で愛らしい花園であった事が予想されるが、


    今では、まず井戸が干からびている事は確認せずとも想像が付くし、

    花壇は所々崩れ落ち、

    タイル道も歩く人が居ない為か半分以上が土で隠れているという有様だ。



    外壁は、扉に巻き付いた蔦を見て予想した通り、

    薔薇の幹がその全面を覆っていたが、


    そこに花は一つも見当たらない。



    扉を抜ける時、光に包まれた瞬間は、

    この先はもしかすればアリスの夢のガーデンに繋がっているのかも知れないと、

    そんな予感がしていたのだが、


    そんなはずが無いのは勿論のこと、

    薔薇の咲き乱れるガーデンどころか、


    手入れなど数十年はされていないだろう、荒れ具合だ。






    それでもここには、何か精錬された透明感が溢れかえっていた。


    異空間だと感じたのは、

    荒れたその様子からではなく、

    文字通り空間が、外と中では異なるように思えたからだ。



    園内の木漏れ日は明らかに、
    外界のそれよりも数段柔らかに見え、

    植物の緑も、
    絵に描いたような艶めきを放っている。


    何よりも、

    空気が違う。



    一歩足を踏み入れた瞬間、

    私の鼻腔に風が走るように流れ込み、


    血管を駈け巡って、


    私の体の内を流れていた呼気を、

    全く新しく入れ替えてしまったような、



    そんなハッとするほど颯爽とした感覚に襲われたのだ。



    澄み切った清らかな空気は、

    そして何とも言えない良い香りがした。


    とにかくこの崩れかけの庭園は、

    言葉では表現できない、独特の雰囲気を持っていた。




    風に吹かれて頬にかかった髪を払い、

    無意識に首の後ろを手で撫でた私は、


    いつの間にか体から汗がすっかり退いているのに気付いた。




    改めて園内を見渡すと、


    豊かに葉を付けた2本のオリーブと思われる木の、

    右側の幹の陰から、


    風に吹かれて揺らめく長い髪が見えた。



    陽の光で金色に輝くその繊細な糸が、

    この園に充満する香りの発端のように感じられた。



    そっと近付くと、


    そこには木の根元に寄りかかって眠るアリスの姿があった。



    髪と共に長い睫毛が揺れ、

    白い肌は純白の鳩の羽根よりも滑らかに輝き、

    耳を澄ませば微かに聞き取れる寝息は、

    どんなに美しい鳥のさえずりよりも愛らしかった。



    華奢な体を頼りなげに横たえるその姿は、

    あまりに美しく儚く、




    瞬きをすれば、





    次の瞬間には消えてしまうのではないかとさえ思われた。

引用返信/返信 削除キー/
■19468 / ResNo.71)  ◆昴さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(19回)-(2007/07/13(Fri) 01:23:26)
    見落とすことや、
    または文末が質問系ではないと、
    ここで切りよく終わらせようと、
    コメントを見送ることもありますので、
    特に深い意味がある訳ではないのです。
    だから、私からの返事がなくても、
    あまりお気になさらないで下さいね(*´ェ`*)

    小説、昴さんも頑張って下さいね。
引用返信/返信 削除キー/
■19469 / ResNo.72)  ◆なつきさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(20回)-(2007/07/13(Fri) 01:34:46)
    難しいですね。
    確かにここは、話し合いをする主旨の掲示板ではないので、
    何列にも渡ってレスのし合いが続いている光景は、
    少しこの場所の目的に外れているのかもしれません。
    けれど応援のメッセージは確かに励みになりますし、
    その境界線の定義は分かり難いかもしれませんね。

    小説を書いている側が、そのレスを読んで不快に思うようでなければ、
    いいんじゃないかな?という気もしますが、
    閲覧している方達が、何か違和を感じるのであれば、
    やっぱりそれも良くないのでしょうね。

    とりあえず私は、
    今のところどんなメッセージでもありがたく読ませて頂いています。

    ん〜〜(u_u)ムズカシイ!
引用返信/返信 削除キー/
■19501 / ResNo.73)  ALICE 【56】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(21回)-(2007/07/18(Wed) 23:53:12)
    私は屈んで、

    そっとアリスの頬に触れた。


    壊れないように、優しく。そっと。



    するとアリスは音もなく瞼を開き、

    色素の薄い瞳で私を見上げたので、


    私は微笑んで彼女に「おはよう」と言った。



    それからアリスの髪に付いたオリーブの葉を手で軽く払い、

    「いい夢、見てたのかな。起こしてごめん。でもお弁当早く食べないと、午後の仕事に遅れるわ」

    と、弁当の包みを掲げて見せた。



    アリスは目を細めて微笑んだ。

    「一瞬、夢が叶ったのかと思った」


    「え?」


    「アリスの物語の最後を知ってる?」


    ・・・ああ、不思議の国の話か。


    「うん、なんとなく。確か、夢オチだったのよね」

    「そう。トランプに襲われて悲鳴を上げたアリスは目を覚まして、
     自分がお姉さんの膝に頭を載せて眠っていた事に気付くの」



    アリスは眩しそうに遠くを見ながら、続ける。



    「“本当によく寝たわね”って言いながら、お姉さんはアリスの頭に落ちてきていた葉っぱを優しく払い除ける。
     アリスが夢の国での冒険を話して聞かせると、お姉さんはアリスにキスをして、こう言う。

     
     “it was a curious dream, dear, certainly! But now run in to your tea, it's getting late”」



    うっとりするほど綺麗な声と発音で、

    アリスは歌うように本の中の台詞を口ずさんだ。



    「子供の頃、何度も何度もこの箇所を繰り返して読んだ」


    遠くを見つめるアリスの横顔に、

    私は見とれて、

    見惚れた。


    「眠る前に本を閉じてからも、目を閉じてからも、頭の中で唄うの。

     it was a curious dream, dear・・・dear. My dear」




    ベッドの上で小さく小さく丸まって、自分の腕で体を抱いて、

    自分の為に子守歌を歌う、

    小さなアリスを思い浮かべ、

    私の胸は切なさで痛んだ。



    「いつか私のことも、そうやって起こしてくれる人が現れたらいいと思った。
     “あなたは奇妙な夢を見ていたのよ”って。
     “そんなことより、走っていってお茶にしましょう”って。
     誰かがそう言って、私の今までの人生を全て夢に変えてくれる事を、私は毎晩願ったの」





    これ以上、

    聞いている事は出来なかった。




    幼いアリスが、どんな思いで自分を“アリス”と名付けたのか、

    それを考えると、

    胸が押し潰されそうになった。


    眠れば悪夢を見、

    目が覚めても、全て夢だと思いたい程の日常が待ち受けているだけの、

    そんなアリスの苦しみを、


    今すぐここで取り去る事が出来たなら、


    その力が私にあったなら、


    どんなにか良いだろう。








    溢れる思いは言葉にならなかった。



    自分の痛々しい物語を、美しい声で歌い上げるアリスの唇を、




    私は言葉の代わりに唇で制した。











    私達は、


    本当にほんの数秒、軽く唇を重ねた。



    顔を離すと、アリスは私が何かを言い出すのを待つような目で、

    じっと私を見つめた。



    “全ては夢なのよ”

    と、今はまだ、言えない。


    アリスの見ている悪夢の正体さえ、私は知らないのだから。





    今の私に言える事は―――





    「お昼、作って来たから。早く食べよう」





    そう言った私を、アリスはしばらく黙って見つめ、

    それからうつむき、小さくコクッと頷いた。


    アリスの睫毛に光るものが見えた気がしたが、


    私は気付かないふりをした。


    その涙が何を意味するのか、

    うれし涙なのか、それとも、

    やはり自分を救うことの出来る人間などいないのだという、


    絶望の涙なのか、


    私には分からなかったからだ。




    けれど必ず、

    そう必ず、

    私はアリスを救い出してみせる。


    真っ赤な薔薇と血の雨が降る悪夢のガーデンから、


    花の咲かない暗く冷たい現実から、



    アリスを連れ出してみせる。



    私は、固く心に誓った。















    アリスと初めてキスをしたこの場所を、


    この日の輝きを、

    木漏れ日や風の薫り、


    その全てを、



    私は今も忘れていない。
引用返信/返信 削除キー/
■19502 / ResNo.74)  感想
□投稿者/ 麻 一般♪(16回)-(2007/07/19(Thu) 08:17:10)
    2007/07/19(Thu) 08:17:57 編集(投稿者)

    いつも更新されるたびにこの小説を読ませていただいてます。

    とても内容が深く面白い小説だと思います。

    アリスとルイ子にはくっついてもらいたいなと思います。

    これからも更新頑張ってください<(_ _)>

引用返信/返信 削除キー/
■19532 / ResNo.75)  ■あおいさん
□投稿者/ ぎのご 一般♪(1回)-(2007/07/27(Fri) 11:25:20)
    話がすすんでて、かなり小躍りヽ(´▽`)/ですよ

    数秒のアリス達のキスを想像して…なんか胸がキュンキュンですよ(*´`)
    最後の「今も忘れない」みたいなのが、かなり気になりますね( ̄(エ) ̄)

    猛暑で軽く腐敗きのこになりかけなぎのごでした

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■19619 / ResNo.76)  ALICE 【57】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(22回)-(2007/08/06(Mon) 02:39:52)
    検察官との第一回目の交渉を終えた私は、


    帰りの車内で、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。



    交渉場所となった向こうの事務所を出てから最寄りのコーヒーショップに車を入れ、
    ドライブスルーにするか少し迷った末、

    今から事務所に帰れば昼食の機会を逃す可能性がある為、

    ここで軽く腹ごしらえをしていくことに決めた。



    駐車場のスペースが空いていた割に、
    店内は混み合っていた為意外に思ったが、

    客層が十代であるのを見、
    今日が土曜日であるのを思い出した。


    注文カウンターの前に3つ続く列の内、
    店内側の一番左の列に並びながら、

    上方のメニュー板を見上げていると、

    私の前に並んでいた男子高校生3人組がカウンターに呼ばれるのと同時に、


    私のショルダーバッグのポケットの中で携帯が振動した。



    取り出して見ると、

    雪花からの着信だった。



    「はい」


     −もしもしルイ子?今仕事?−


    「一仕事終えてお昼買ってるところよ」


     −お疲れ。ところでさ−


    「“ところで”が早いわね」



    注文を終えた男子高校生達が各々のトレーを持ち、
    カウンターに添って左に流れた。

    次のお客様どうぞ、と、
    店員に声を掛けられ、

    私は前に進みながら、
    少しの間、会話を中断する旨を雪花に伝えようとした。

    携帯電話片手に通話をしながらの応対など、
    いくら客の立場と言え、
    節度が無くて私は好きではないからだ。


    だが、



     −アンタ、ダイナとどうなってんの!?−




    スピーカーから響いた雪花の台詞に、

    私は言いかけた言葉を呑み込まざるをえなかった。



    「え・・・どうって・・」


    店内でお召し上がりですか、それとも・・と、
    こちらが電話中である事に気付いていないかのように、

    マニュアル通りの笑顔で店員が言う。


    大学生アルバイターという風なその男性店員は、
    白い太縁の今時な眼鏡をしていたが、

    その奥にある瞳は少しも笑っていない。



    眠っていても答えられそうなマニュアル通りの質問に、

    何故か頭が少し混乱した。



    「あ・・ここで、持って帰りません」



    生まれ故郷が日本であることを疑いたくなるような私の返答に、


    店員が神経質そうに眉をピクリと動かし、

    雪花が受話器の向こうで「ん?何って?」と訝しげな声を上げる。


    「ちょっ・・と、待って」


    ダイナ、まさか、
    あの夜の事を雪花に話したのか?

    なぜ?

    私はどう答えればいいのだ?


    私が窮地に立たされている事など知らない店員は、

    ご注文は?

    と言った切り、笑顔で固まり続けている。


    私は電話のマイクを口元からずらし、

    ラテをトールサイズで早口に頼み、

    カスタマイズは割愛して「それから」と、
    カウンターに敷かれたサイドメニュー欄を選びにかかった。


    並んでいる間に、アボガドとトマトのサラダにしようと決めていたのだが、
    私が指差したのは、

    何故かその隣のメニューだった。


    「真イカと海老のシーフードサラダですね?」


    と繰り返した店員の言葉に、

    『いいえ、イカはあまり好きではないんです』

    とは言えず、


    黙って頷いた。




    フードの番号札を受け取って左にずれると、


     −ちょっと、何なのよ?−


    と、しびれを切らして雪花がしゃくり上げた。


    「ごめん。・・それで、ダイナが、何だって?」



    声に動揺が表れないよう注意しながら、

    私は店内を見回し、奥のコーナー席が空いているのを確認する。



     −何だってじゃあないわよ。バーで飲んだ日以来、アンタからまったく連絡が来ないって、ダイナ怒ってたわよ」

    「え?連絡?」

     −番号、渡されたんでしょう?−


    思わずトレーに載せてある楕円形のフード番号札を見たが、


    ああ、そうだと私は思い出した。



    あの日、

    遅刻ギリギリの時刻に飛び起きた私が、
    ベッドを抜けて出勤の用意をしている間、

    ダイナはいかにも低血圧そうな不機嫌な顔つきでコーヒーをすすっていたのだが、


    それじゃあと部屋を出て行こうとした私に、

    自分の連絡先を書いたメモを寄越したのだった。


    Queen's Birth以来の所長と事務所で顔を合わせる事を考えると、
    あの時はそれどころではなく、

    それきり今まですっかり忘れてしまっていた。



    そういえばあのメモはどうしたのだろう。

    席に向かって歩きながら考える。

    捨てた覚えもないから恐らく手帳のカバーに挟んであるのだろう。


    言われてみれば、ダイナの方はこっちの連絡先を知らないのだ。



     −まぁ、私が帰った後、そこまで二人で盛り上がった訳じゃないだろうしね。
      番号渡されたって社交辞令かもしれないし、なかなか本当に電話掛けようって気になれないのも分かるけどさ−


    あ・・そう、か。


    それだけか。


    力が抜けた。


    あの夜の淫らな秘密は未だ秘密のままで、

    太陽の下に放り出されてはいないのだと知った私は、


    安堵のあまり、辿り着いた席のソファに落ちるように座った。



    弾みでトレーの上のカップがぐらつく。



    「ごめんごめん。そっか、なるほどね」


     −何がなるほどよ。昨夜遅くにダイナがお店に来たのよ。まったくフォローするの大変だったのよ?
      ルイ子は私が彼氏に会う為にあの日帰ったって事、バラしたっていうのにね−


    「えぇ?ああ、ごめん。あれね。でも私が言わなくても、ダイナ気付いてたわよ。その事で責められたの?」


     −“彼氏と仲良くね”って、サラッと言われただけよ−


    「よかったじゃない」 すっかり気を楽にした私はリラックスした気分でカップに口を付けた。


     −“よかないわよちっとも!私にはもはや興味ナシって感じよ。ルイ子の事は、だいぶ気に入ったみたいだけど−


    「え、そうなの?ふーん」


    鼻腔から、口の中から、深く染み入る豆の香りについつい間の抜けた相槌を打つ。
    胃が空腹で伸縮し、イカのサラダでさえ待ち遠しく感じる。


    番号札をテーブルの脚に付いたフックに掛けた。


     −ふーんじゃないわよ。それなのにアンタときたらさ。あのダイナから番号教えられて、放っておくなんて。
      ほんと、フォローした私に感謝すべきよ−


    フンッと鼻を鳴らす雪花の様子が目に浮かぶ。


    「ありがと。フォローって、どうやって?」 なんの気なしに私はそう訊いた。


     −“あの人、売れっ子弁護士なもので、寝る暇もないくらい忙しいんだと思います。私のメールにも返事さえしませんもの”
      って言っておいたわよ−





    コーヒーを飲み込むはずみで鳴った喉の音が、

    やけに大きく耳に響いた。




    嫌な、


    予感がする。
引用返信/返信 削除キー/
■19622 / ResNo.77)  ◆麻さんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(24回)-(2007/08/06(Mon) 02:44:22)
    こんばんは、メッセージありがとうございます。
    嬉しいです。

    ルイ子とアリスですか。
    もしこの二人が恋人同士になったとしたら、
    ほのぼのやっていくんでしょうね。

    小説なんかには出来ないくらい、
    平和な毎日のやりとりを。
引用返信/返信 削除キー/
■19623 / ResNo.78)  ◆ぎのごさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(25回)-(2007/08/06(Mon) 02:45:12)
    あれ?
    なんだかお名前の濁点が増えているような・・。
    気のせいかしら。
引用返信/返信 削除キー/
■19646 / ResNo.79)  ■あおいさん
□投稿者/ ぎのご 一般♪(2回)-(2007/08/06(Mon) 13:11:55)
    ギク……やはり濁点多いか(-_-;)

    久しく感想書いてなかったのて゛名前忘れてしまいましたよ…って、さすがあおいさんスルドイですね(-_☆)キラリ そのスルドサでこの猛暑をのりきってください(←意味不)
    ルイ子と同じくイカが苦手なことに喜びのぎのごでした☆

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/

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