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■19755 / ResNo.80)  ALICE 【58】
  
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(26回)-(2007/08/11(Sat) 02:09:34)
    「もしかして、私がどこの事務所に所属してるのか、ダイナに言っ・・」


     −勿論!−


    雪花のしてやったりな声が響いた。





    ・・ああ、やってしまった。





     −自慢出来る部分は、しとかないとね。ん?何?まずかったの?−


    「いや、大丈夫」



    勿論、全然、大丈夫ではない。


    あまかった。

    こんな経路でボロが出るとは。



    忘れていた先刻までの検察官とのやりとりが、
    再び思い煩いとなって胸に舞い戻って来る。

    思考がマイナスになってきた、分かり易い証拠だ。



    「ダイナは、どんな反応だった?」


     −“へぇ”ってさ。リアクション薄くてガッカリだったわ。彼女、加賀美絢のこと知らないのかもね。忙しいモデルだし−


    「そう、ね」



    勿論、知らないハズがない。




     −とにかくさ、ちゃんと連絡入れるのよ?−


    「ははは」



    笑うしかないだろう。




     −笑ってんじゃないわよ。じゃあね。 ・・ っと、それから−


    「何?」


     −前も言ったけど、喰われるなよ−


    「…ご忠告どうも」


     −じゃ〜ね−




    “既に喰われました”

    などと言える訳もなかった。







    なんと言う事だ。


    とりあえず頭の中を整理しよう。


    私の立場は今、どれだけ危うい所に位置するのか。



    まず、

    加賀美所長とアリスが、私の知人である事は、
    間違いなくダイナに知られてしまった。


    雪花の寛大な“フォロー”のおかげで。


    『ありがた迷惑』とはまさにこういう事を言うのだ。

    口止めをしていなかった自分が悪いのだけれど。



    しかし、ダイナがあの夜語った、
    忘れられない過去の登場人物が、

    他でもない加賀美絢とアリスであると、

    私が知っているという事は、まだダイナの知る所ではないのだ。



    勿論、訝しがってはいるだろうが。


    あの夜の自分を振り返ってみる。


    忘れられない元恋人、つまりアリスの事を、
    むやみに聞き出そうとしてはいなかっただろうか。

    不自然なほど、アリスの話に食い付いてはいなかったろうか。


    意識的に控えてはいた為、大丈夫だとは思うが、

    酔うほどでは無かったとは言え素面ではないのだから、
    完璧に演技を出来ていたとは断定出来ない。


    それはダイナも同じだが。


    だいいち、

    話の最後でそれまで“アイツ”と呼んでいた忘れられない女を、
    つい“アリス”と無意識のうちに口走ったのはダイナの方だ。


    ああ、でも、

    ダイナのこのミスで、私の言い訳の幅がかなり広がるのだろう。




    そうだ、相手がダイナであれば、

    いくらでも誤魔化しが利く。


    例え、


    全てが始まったあの日に、
    アリスを乗せて真っ青なスポーツカーを振り切ったのが私だと、ダイナが知ったとしても、

    大した事ではない。


    彼女が復讐にどれだけ精を注ぎ込む性格かは分からないが、
    殺されはしないだろう。



    そう、ダイナは、問題ではないのだ。

    アリスに知られなければよいのだ。


    言い換えれば、


    アリスにだけは知られてはいけないのだ。



    ダイナと寝たことを。



    それを防ぐ為には、やはりダイナを何としてでも誤魔化さねばなるまい。






    だけど、



    私とダイナの一夜を知ったからと言って、

    アリスが何をする訳でもないとは思う。




    だから、ただ、私が嫌なのだ。

    アリスに知られたくないのだ。


    なぜ?


    それは、多分・・・



    アリスには、

    私といる時に、安らぎを感じて欲しいと、願うから。



    それから、

    アリスの心に傷を付ける可能性のある事は、

    少しでも避けたいというのが私の本音だ。




    本当の信頼や安らぎを求める場合、

    男女の関係、
    いやこの場合、女女と言うべきか、

    恋愛関係、しいては肉体関係は邪魔だ。


    アリスは少なくともダイナに好感を持ってはいないだろうし。



    事は、慎重に運ばねばならない。



    まず、今私に迫られている決断は。



    ダイナに連絡をするか、しないか。



    これは、前者だろう。


    今ダイナに反感を持たれては、
    どこでアリスにあの一夜が伝わるか分からない。


    それから、ダイナからはもう少し、得られるかも知れない情報もある。


    次に、


    あの夜ホテルでダイナが語った過去の恋人と、彼女を奪った人間が、
    自分の同僚と上司だという事実に、

    私は気付いてるのだと打ち明けるか、それとも白を切るか。


    アリスに関する情報を得る目的でダイナと接触するのであれば、

    これも前者を選ぶ事になる。


    肝心なのは、打ち明ける程度だ。


    ダイナの気分を害さない方法を取らねばならない。


    まぁ、既に現時点でダイナが私に敵意を抱いていたなら、
    元も子もないが。


    雪花から私の所属事務所を聞いて、

    どれ程警戒しているか、だな。


    案外、
    ただの偶然としか考えていないかもしれない。



    推測したところで、前にも後ろにも進まない。



    隣のソファに置いていたバッグをたぐり寄せると、


    お待たせ致しましたと、女性の店員がテーブルの上に白い深皿を置いた。


    「13番のお客様、真イカと海老のシーフードサラダでございます」


    彼女は感じ良くニコッと笑うと、
    番号札を回収して去って行った。



    ドレッシングの酸い匂いが食欲を刺激したが、

    フォークではなくバッグの中のシステム手帳に手を伸ばした。



    主に名刺を収納してあるカバーの内側を探ると、

    やはり目当ての物がそこから出て来た。




    “ Dinah 090-xxxx-xxxx ”


    ホテルのウェルカム・スイーツに添えてあった、
    品書きのカードの余白部分に、

    青いペンでそう書かれている。


    私は携帯電話を開いて、
    番号を入力した。


    発信ボタンを押す前に、
    深呼吸する。


    魚介の香りが鼻腔に入り込み、
    余計に胃が下がった。



    ボタンを押して、電話を耳に当てる。





     −Hello!?−


    ワンコール目でいきなり威勢の良い声が響いた。


    戸惑いながらも私は声を落ち着け、

    「ダイナ?」

    と返答した。


     −そうですよ。貴方は?−


    「ルイ子です。分かりますか?」



    3秒ほど置いて、

     −久しぶり−

    と、返ってきた。

    明らかに落とされたトーンから、
    警戒心が伝わってくる。


    「お久しぶり。忙しいと思って、掛けるタイミングが分からなかったの」


     −雪花ね−


    「ええ、今、彼女と電話で話してたところ。どう?元気?」


     −ごめん、今時間無いのよ−


    「あ、ごめんなさい。それじゃあまた・・」


     −来週月曜、この間のホテルのバーで−


    「え?」


     −10時、午後よ。待ってるわ−



    私の返事を待つ気など到底無いという速さで、
    電話は切られた。


    アリスと恋仲になる女は、
    どうしてこうも強引なのだろう。



    とにかく、

    私が加賀美絢の事務所で働いているという事実が、
    やはりただの偶然だとはみなされていない事はハッキリした。



    溜息をついて握ったフォークは、
    私の心のように重かった。


    白いイカの輪を刺して口に含むと、

    やはり私の嫌いな味がした。



    予想もしなかったほどのスピードで整えられた駆け引きの舞台に向けて、

    エネルギーを溜め込むかのように、



    私はそれを黙々と食べ出した。
引用返信/返信 削除キー/
■19756 / ResNo.81)  ◆ぎのごさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(27回)-(2007/08/11(Sat) 02:11:10)
    イカ、お嫌いですか。

    私は大好きですよ。
    特にお刺身。

    ヤリイカ、アカイカ、
    こりこり系が好きです。

    タコも好きです。

    ナマコは嫌いです。
引用返信/返信 削除キー/
■19760 / ResNo.82)  i love you
□投稿者/ kanan 一般♪(1回)-(2007/08/11(Sat) 22:21:20)
    突然失礼します。カナンという者デス。
    カコログにも戻ってALICE全作品一気読みしまシタ!
    心打たれます、、、すごく奇麗な文章デスね(〃´Δ`)
    小説を読みすすめている間にすっかり虜になりましたデス、、、
    アタシは昼間ふつうのオフィスレディーしてマス。たぶんあおいしのさんより年上↑↑のような気がしますよ。
    あおいさんは言葉遣いしっかりしてますけどかなり若い予感デス。
    アタシはいちお法律のオシゴトに就いています、どじっ子デスが頑張って社会人してます(-ω-;)
    よければアタシのプロフ見てくだサイ!
    前略プロフィールというホームページの8639683デス。
    小説これからもがんばってくだサイ!
    それからそれからもしよければあおいサンのプロフも教えてもらえたら嬉しいのデス!
    それからそれからもしよければあおいサンのプロフも教えてもらえたら嬉しいのデス!
引用返信/返信 削除キー/
■19763 / ResNo.83)  ALICE 【59】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(29回)-(2007/08/13(Mon) 04:13:16)
    ホテルの前にタクシーが到着した時、

    時刻は約束の15分前だった。



    ロビーのレストルームで簡単にメイクを直し、

    気合いを入れて、


    25階のバーに辿り着いた時、

    時刻は約束の5分前だった。



    バーカウンターには既に、
    以前と同じ位置に腰を下ろすダイナの後ろ姿があった。


    先回も思った事だが、

    脚の長さが尋常じゃない所為で、
    座っている姿では、185センチもあるとはとても信じられない。


    立たれた瞬間に、グンと背が伸びたように感じる。



    この間の夜も、

    雪花と私が到着した時にはダイナはこの席に座っていたのだが、

    あの時は近付いてみるまで彼女だと判別出来なかった。


    2度目の今は、背中が大胆に空いたトップスを着ている彼女が、
    ダイナであると認識できるが、

    何か、

    前より背中が寂しげに感じる。


    気のせいかも知れないが。




    「こんばんは」


    そう言って右のスツールに滑り込んだ私を向いたダイナの表情は、

    前回一瞬で私の緊張をほぐした、
    人なつっこい笑顔とは、

    全く違っていた。


    高いプライドを全面から放出しているようで、

    そうまるで、

    初めてあったあの町中でアリスの前に立ちはだかった、
    高慢なオーラの彼女に似ていると、

    私は感じた。



    「こんばんは」

    そっけない声でそう返したダイナは、

    ロックグラスに三分の一程残っていた、
    濃いブラウンを飲み干して、

    バーテンダーにお代わりの催促をした。


    グラスを退いたのは、

    この間のシャンプーだった。


    私も彼女にスプモーニを頼む。


    今夜は頭を使うのだ。
    強いアルコールはいけない。



    「時間に余裕を持って行動するタイプなのね」

    「え?」 こちらを向かずにダイナが言う。

    「ダイナ、この間も先に待っていて私を迎えてくれたわ。モデルの世界は時間に厳しいの?」

    「まぁ。弁護士ほどではないと思うけど」



    いきなりの先制攻撃がダイナから飛んできたちょうどその時、

    ダイナと私の前にそれぞれのグラスが出された。


    それに気を取られるフリをすることで、
    私は動揺を誤魔化す。


    「そうね。時には数分の遅れが命取りになったりする」


    ダイナはしばらく肘を付き、
    手に持ったグラスを見つめ、

    それから私を向いて、
    ゾッとするほど冷たい瞳で、


    「一体アンタは何を知ってるの?」


    と言った。



    直球に、私の決意が揺らぐ。


    認めるか、それとも白を切るか。



    しかし、

    “何のこと?”

    と返すには長すぎる沈黙を私は空けていた。



    いいのだ。

    最初から、白を切るつもりは無かったのだから。


    焦るな、私。


    全て計画通り。


    大丈夫、上手くやれる。



    言葉を発する前に一度深呼吸をしたかったが、
    ダイナの手前、堪えた。


    「アリスが今、加賀美絢と一緒に住んでいて、
     その前は、ダイナ、貴女と暮らしていたという事を、知っているわ」


    ダイナは、それ見たことかというように、
    顎を上げて見下すように私を睨んだ。


    「目的は何?」


    「目的・・・やっぱり、何か誤解しているのね」


    「誤解!?」

    ダイナがグラスをテーブルに叩き付ける。


    シャンプーが驚いてこちらを向いたが、
    すぐに目を反らし、ボトルを整理し始めた。

    全身が耳になっているに違いない。



    週初めで、しかも22時を回っているからだろう、

    広いフロアには私たちの他に6人の客しかおらず、
    それも3組のカップルで、

    彼等はバーカウンターから離れた、
    上から下までがガラスの壁に添ったテーブルで、

    25階からの夜景を見ながら各々の世界に浸っている。


    ダイナのアクションにこちらを振り向いた者も居たかもしれないが、

    私が見回した頃には、
    こちらに注意を向けている者は誰も居なかった。


    例えこのフロアが満席だったとしても、

    町中でアリスを拉致したダイナのことだ、



    声を控えめになどしなかったろうが。
引用返信/返信 削除キー/
■19764 / ResNo.84)  ◆kananさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(30回)-(2007/08/13(Mon) 04:19:35)
    メッセージありがとうございます、
    綺麗なお名前ですね。

    プロフィール、拝見致しました。
    凄いですね、気の向くままにウィーンにまで行ってしまわれるとは。
    行動力のある人は素敵だと思います。

    私のプロフィールということですが、
    それは身長・体重のような事で良いのでしょうか。
    172センチ、上から90・60・85
    とか言ってみたいものですね。
引用返信/返信 削除キー/
■19765 / ResNo.85)  ゎいゎい
□投稿者/ kanan 一般♪(1回)-(2007/08/13(Mon) 10:08:19)
    おはよーございマス!
    コメント返しテンション上がります↑☆
    あおいさんはなんかいつでもクールですね、いいカンジデス。
    アタシは今日は風邪をひいてオシゴトお休みしてしましまシタ、、、
    でもそのおかげで更新読めたからラッキーですね!
    あおいさんのプロフィールも、アタシと同じ前略プロフィールに書いてもらえたら、、、
    無料で登録デキるのでめんどくさくなかったらでいいので(人´Δ`)
    そしてできれば顔写真なんかも見せてほしいデス。
    アップとかじゃなくても隠してたりとかでもヨイですので、あおいさんのイメージを持ちたいというか、スイマセン!
    意味不明デスかね。
引用返信/返信 削除キー/
■19770 / ResNo.86)  ALICE 【60】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(31回)-(2007/08/16(Thu) 00:14:23)
    2007/08/19(Sun) 01:53:38 編集(投稿者)

    皮肉めいた顔でダイナが笑う。


    「アリスと、あの女と、毎日顔を合わせている人間が、
     立場を隠して私に近付いてきて、そこに目的が無い訳が、無いでしょう」


    「誤解その1、私は自分の立場を隠したつもりはない、
     誤解その2、この間の夜は、私がセッティングしたものではない」


    「それなら何故・・」 ダイナの声が怒りで震える。

    「何故、加賀美絢を知っていると言わなかったのよ」



    大丈夫、計画通りの展開だ。

    私は自分に言い聞かせる。



    「それはダイナ、貴女が私と彼女達の関係を知らなかったように、
     私も、貴女と彼女達の関係を知らなかったからよ」



    ダイナが逆上する前に、

    「この間はね」

    と、すぐに付け足した。



    「この間、ダイナに初めて会った時、」

    まず、嘘その1、

    雪花を交えて三人で飲んだ晩、私がダイナに会うのは二回目だった。



    「貴女が私の上司と同僚と繋がりがあるなんて、私は全く知らないでここに来た」

    嘘その2、

    過去に所長と一触即発のブッキングを済ませているとは知らなかったが、
    アリスとは何かしらの関係があると踏んでいたし、

    だいいちそれだから雪花の誘いを受けたのだ。



    「貴女が過去の恋人の話をしている時、それがアリスの事を言っているだなんて、私に分かるハズも無かった」

    その3、私から巧みに質問を投げかけて、アリスだという確信を得た。



    「恋人を奪った女が弁護士だったと聞いて、それが私の事務所の所長だなんて、思いつきもしなかった」

    すぐに所長だと考えついた。―――その4。



    「でもね、ダイナ、自分では気付いてなかったようだけど、
     話の最後に貴女、これまで“アイツ”としか呼んでなかった昔の恋人を、一度だけ“アリス”って、
     私の前でそう呼んだのよ」



    眉間に皺を寄せて私の話を聞いていたダイナが、
    ハッとしたように背筋を伸ばした。


    そう、それでいい。




    「“アリス”なんて、そうある名前じゃないでしょう。
     聞いた当座は酔っていて、一瞬考えただけで止めてしまったんだけど。
     ダイナと別れた後、昨晩を振り返って、そしたら色んなピースが繋がってきたのよ。
     “有名な弁護士”だとか、そういうのがね。
     アリスと加賀美所長が恋人同士であることは、仕事をしていて既に知っていたしね」






    法廷で嘘偽りを語らないと宣言する私が、

    私生活ですらすらと虚偽を並べ立てている。




    逆よりは、いいか。


    いや、こっちの方がインモラルか。




    ダイナは推し量るように私を見て、

    「あの女の指示で私に近付いたんじゃ、ないのね?」


    と、静かに訊いた。



    「まさか」


    これは、本当にまさかあるハズもない事だ。


    「所長は私とダイナが顔見知りだなんて、全然知らないわ。
     彼女の口から貴女の名を聞いた事も、一度もない」


    「そう」


    と言ったきり、

    ダイナの表情は未だ晴れないままだ。


    少し彼女を一人にした方が良いかも知れない。

    その方がばつの悪い思いをせずに、素直な彼女に戻りやすいだろう。



    なんて、

    本来ばつの悪い思いをすべきなのは私であるのに、

    何を偉そうに。


    私は心で、自分をなじった。



    「ごめん、ちょっとお化粧直し」



    親しすぎず、
    それでいて感じのよい笑顔を作って見せ、


    私は席を立った。







    レストルームに入って、

    鏡の前に立ち、

    流し台の冷たい大理石に手をついて、



    「はぁーーーーーーーーー」



    と、声に出して緊張を解いた。



    疲れた。


    裁判よりも、気を張っていた気がする。


    アリスの夢の話に耳を傾けていた時程ではないが。




    でも、上手くやった。

    ミスは、無いはずだ。




    多少重苦しい気持ちもあるが、

    別にダイナを陥れようとしているのではないと、

    自分を慰める。


    『嘘も方便』という言葉をずっと嫌ってきたが、

    今夜ばかりはこの諺にすがるしかない。




    もう一度ゆっくり息を吐いて、

    フロアに出て行こうとしたが、


    その前に私は洗面台で手を洗った。

    石鹸は使わず、

    ただ流れる水で音を立てずに厳かに。






    そうする事で、

    今しがたこの口が吐いた偽りを荒い流せる訳が無い事は知っていたが、




    センサーが反応しなくなって流水が自動的に止まるまで、

    無心に私はそうしていた。
引用返信/返信 削除キー/
■19771 / ResNo.87)  ◆kananさんへ
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(32回)-(2007/08/16(Thu) 00:24:56)
    こんばんは。熱帯夜が続きますね。

    プロフィール、作りました。
    なんだか味気ない感じになったけど。
    画像、全面は出せませんが、
    ホントに小さくて宜しければ。
    5541148です。
    恥ずかしくなってきたら消しちゃいます。
引用返信/返信 削除キー/
■19798 / ResNo.88)  ALICE 【61】
□投稿者/ あおい志乃 一般♪(33回)-(2007/08/19(Sun) 02:26:12)
    レストルームからフロアに出、


    席に戻ろうと目線をダイナに向けた私は、

    おやと思った。



    彼女の左横のスツールに座る、人影が見えたからだ。

    空席だらけなのにも関わらず、
    わざわざ詰めて座るという事は、

    知り合いか、

    もしくはナンパでもされているか。



    が、5歩ばかり進んで、


    後ろ姿でも特徴のあるカラーと形から、

    私はそれがバーテンダーの制服であるのに気付いた。



    そしてそれがシャンプーである事にもほぼ同時に気が付いた。



    二人は頬がくっつくほど顔を近付けている。


    『あの大嘘つきめ』と、

    小声で私の噂話でもしているのだろうか。




    まさかとは思いつつも、少し不安になる。




    それにつけても、

    一流ホテルのバーテンダーが、
    客の話し相手になるのにカウンターを抜けるとはどういう事か。

    こんな時リリーだったら一言そう物申しそうだな、

    などと考えながら進んだ私は、


    彼女達の4メートル程手前まで来て、


    我が目を疑った。





    二人がくっつけていたのは頬ではなく、

    唇だったからだ。



    彼女達のキスは、

    糸を引く音が今にも聞こえてきそうな程激しく、

    その生々しいシルエットに見ているこちらが赤面してしまいそうだ。




    幸い他のカップル達は誰も気が付いていないようだが、

    それも時間の問題だろう。



    これは、どうしたものか・・・。



    それ以上進むに進めずに立ちつくしていると、


    唇を合わせたままダイナの開いた背中に腕を回し、

    顔の向きを反転させたシャンプーと、私の、



    目が合った。



    彼女は慌てて腕を外し、

    唇を外し、


    それからダイナに何か耳打ちすると、

    自分の持ち場に早足で戻って行った。



    カウンターコーナーを曲がる際にもう一度私と目が合ったが、

    ばつが悪そうにするどころか、
    彼女の顔は嬉々としていた。


    日本もオープンな国になったものだ。



    やれやれという気持ちで自分のスツールに腰を下ろした私を、

    ダイナが明るい笑顔で迎えた。



    気掛かりも解消し、

    今宵の獲物も確保でき、

    ご満悦といったところか。



    とにかく今夜の私の役目は終わったのだ。


    私もダイナに笑顔を向けた。


    「そろそろ部屋に戻るわ。ルイ子、送ってくれる?」


    「勿論」


    笑顔のまま私は答えた。



    立ち上がった私達に反応し、

    シャンプーが動かしていた手を休めて見送りの姿勢を取ったが、


    歓送とは程遠い、嫉妬に燃えた眼で私を睨んだ。




    そんな顔しなくても、

    ダイナは今夜は貴方のものよ。



    そのメッセージが伝わるように、

    私は遠慮がちな微笑みをシャンプーに向けたが、



    余裕の表れと見えたのか、

    それがかえって嫉妬心を刺激したらしい。



    彼女の憤りに燃える瞳に涙が盛り上がったのに気付いて、


    私は慌てて目を反らした。





    女心のなんと難しいことか。
引用返信/返信 削除キー/
■19841 / ResNo.89)  NO TITLE
□投稿者/ 摩耶 一般♪(1回)-(2007/08/21(Tue) 22:59:22)
    なんか普通に美人さんなんですけど…
引用返信/返信 削除キー/

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