| まいったなあ〜… ロッカーの陰に隠れて、途方にくれていた。
昨日、サークルの仲間と飲んで、そのままここで夜を明かした。仲間は当然のごとく、私を置いてさっさと家に帰ったみたいで、いつものごとく、独りで目を覚ました。 ふと、人が入ってきた気配がして、扉のほうを見てみると、後輩がひとり、浮かない顔をして入ってきたところだった。 向こうは私に気がついていない。常日頃、クールぶって生意気な口を利くこいつを驚かしてやろうと、ロッカーの陰に隠れた…のまではよかったが、やつの最愛の彼女まで入ってきてしまった…。
やばい…そういう(エッチなというか)雰囲気になったらどうしよう…
と、さっきから身動きとれないでいた…。
やつはベンチに寝転がって、可愛い彼女はその枕もとに座って頭をなでてやっている。ラブラブな感じだ。本格的に始まっちゃう前に出て行こうかと足を踏み出した瞬間…
「別れようか」
また、固まってしまった…。
「あいつのとこいきなよ」「あいつはいいやつだよ」「私より大事にしてくれるよ」
親友に譲っちゃうんだねぇ…自分だって負けないくらい好きなくせにさ… 本人たちだって気付かれてないと思ってるんだから、知らない振りしてたらいいのに… 誰もそんなの気付いてないよ。あんたたちは傍目には、うまくいってるようにしか見えないんだから… あんたの親友だってほっとけば諦めるかも知んないのに… ばかだねえ…かっこつけて…平気な振りして…
だからあんたはほっとけないのよ
「あんた…何気にいいやつなんだね〜」
彼女を送り出した扉の前の、泣きそうな背中に声をかけた。 このまま、隠れているつもりだったのに、あの生意気なクソガキが独りで泣くところなんか見たくなかった。 からんで、からかって、最後には「付き合おう」とまで言った。
何も考えなければいい。何も考えられないほど、私に振り回されてたらいい…。 振り回されてるうちに、彼女のことも、親友のことも忘れちゃうよ。そうしたら、また誰かと恋をすればいい…。 それまで私がいてあげる。独りで泣かなくて済むように、生意気なクソガキでいられるように、私が側にいてあげる。
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