| 驚いた… 自分のことで成瀬の涙を見ることになるとは思ってなかったから…
「なんで行っちゃうんですか!何で帰ってこないようなこと言うんですか!最後にってなんなんですか!もう二度と会えないみたいじゃないですか!!」
泣きそうになる
「行かないでくださいよ…山本さん…おらんようになったら…寂しいやないですか…」
成瀬に見られないように顔を背けて涙を拭いた。最後に泣き顔なんか見せたくない。
「な〜に!子供みたいなこと言ってんの!可愛い彼女いるくせに!しっかりしなさいよ!」
軽く肩をパンチしてやった。
「せやけど…」
頭をグリグリとなでまわす
「随分懐かれたもんだわ、ね?」 「うっさい」
鼻をすする成瀬を見ていると、愛しくなって、思わず言ってしまった
「じゃあ、一緒に行く?世界の果てまで」 「え?」 「二人で行こうか…」
意地っ張りな私に出来る精一杯の告白
「世界の果てってどこですか?」 「さあ〜?でもそこまで行ったら人生観変わるよ」 「そうでしょうね…凄いんだろうな…色んなこと得られるんでしょうね…」
成瀬の瞳はもうすっかり赤くなった空の、その向こうを見ていた。
「でも、私は行けない。山本さんと行きたい気持ちはあるけど、私はまだまだここでやらなきゃいけないことがあります。だから…行けないです」
きちんと私を見てそう言う成瀬が、不思議と嬉しかった。
「そう、ちゃんとわかってんじゃん。それでいいの。」
また、頭をグリグリ撫で回す
「じゃあ、そろそろ行こうかな。準備あるし。」 「山本さん」
立ち上がった私はいきなり手をつかまれた。成瀬はつかんだ私の手を支えに立ち上がると、握手の形に握りなおして言った。
「必ず帰ってきてください」 「え?」 「何十年後でも良いです。向こうで永住することになっても良いです。必ず一度は日本に帰ってきて、私と会ってください。私は日本でもっと強くなります。あなたに負けないように。変わった私をあなたに見てもらいたい。強くなったあなたにも会いたい。だから、世界の果てまで行って、何か見つけられたら、あなたが満足できたら、必ず帰ってきてください。待ってますから」
強く、手を握られる
「約束してください」
独りになろうと意気込んでいた気持ちが一気に柔らかくなる
「わかった。約束する」
成瀬は嬉しそうに笑った。
「いってらっしゃい」 「行ってきます」
そう言って、手を離し、帰り道を進んでいく。もう振り返らない。 この道の先に、まだ見たことの無い自分がいる。 そしてその先には、私を待っていてくれるあなたがいる。
逃げないように、一歩を踏み出せるように、日本に帰る理由を全て消した。 そうしなければいけないと思っていた。
でも、違っていた 日本に帰る理由を作ってくれた。逃げる場所ではなく、目的地として… 待っている人がいる… それが、一歩を踏み出す力になる。 そう教えてくれた…
次に会う時は、どんなあなたが待っていてくれるのか…どんな自分になっているのか… だけどせめて…自分の気持ちを伝えられるだけの強さが欲しい…
あなたの隣にどんな人がいようと… あなたが誰を愛していようと… 私の気持ちに変わりはないと… そう言えるだけの強さがほしい…
きっと伝えるから、強くなって帰ってくるから
待っていて
誰を愛してても良いから
待っていて
夜が近づく夕暮れの空を、忘れないように心に焼き付けて、目を閉じた。
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