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■18242
/ 親記事)
望みの彼方 1
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□投稿者/ 凛
一般♪(1回)-(2007/03/05(Mon) 22:47:16)
あの人の手は、温かだった。
記憶は日々曖昧になっていく。
あの人の顔だとか笑い声だとか仕草だとか、確かに覚えている筈、覚えていた筈なのに、意識して思い出そうとすると輪郭はぼんやりとして、これという決定打がない。
あの人の手は、温かだったのに。
(携帯)
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■18243
/ ResNo.1)
望みの彼方 2
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□投稿者/ 凛
一般♪(2回)-(2007/03/05(Mon) 22:59:16)
どうしたの?
ううん。何でもない。
会話の途中俯いてしまったあたしを、圭が心配げに覗き込む。
ドウシタノ、トウコ?ボクトイルトキニソンナカオシナイデ。
圭の瞳は、どんな言葉より雄弁に物事を語るのだ。
いつもあたしだけを見てくれる。あたしだけに向けられる。
だから時々、その瞳がうるさくて堪らない。
側にある煙草を一本取り出して、あたしはそれに火をつけた。
「でね、その映画なんだけど…」
圭が話を続ける。最近やっと探し出したという、あたしがすすめたイギリス映画について。
「神様にすがっても、結局どうにもならないと思ったよ。人間の創り出した虚像に救ってくれなんて。主人公が救われたのだって、あの女の子のおかげなんだし…聖職者が『救う』だなんて、おごりでしかないよ」
ああほんとうに。
彼女はあたしの望んだ通りの答をくれる。
なんて素直。なんて純粋。「圭、あなたはいい子ね」あたしがそう言うと、彼女の白い肌が少しだけ紅く染まった。
(携帯)
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■18244
/ ResNo.2)
望みの彼方 3
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□投稿者/ 凛
一般♪(3回)-(2007/03/05(Mon) 23:08:01)
何言ってんの桐子、まるで僕が子どもみたいな言い方。
子どもじゃない。
違うよ。
小さなテーブルを挟んで身を乗り出してきた圭は、あたしのくわえていた煙草を奪い取って、触れるだけのキスをする。
こういうところは、大人びている。
「ね、子どもじゃないだろ?」
間近で見詰め合って、頬にキス。…こういうところはまだ子どもだ。
あなたに神様はいないの?
昔あの人があたしにきいた同じことを、圭にも聞いた。
「いないよ。けど…」
「けど?」
「好きな人が神様になるって、何かで読んだことがある。だから、いなくてもいいんだ」
あたしを試すように、あたしの内を探るように、彼女は言葉を繋いでいく。
「桐子が、いるから」
伸ばされる手。
触れる指先。
頬を包む手のひら。
(携帯)
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■18245
/ ResNo.3)
望みの彼方 4
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□投稿者/ 凛
一般♪(4回)-(2007/03/05(Mon) 23:15:34)
映画のワンシーンが甦る。
男が蹲って、十字架のキリストに、無心に祈っている。
神よ私を救い給え
神よ私を救い給え
神よ私を救い給え
あの人の手のひらの熱を思い出した。
祈るような切なさ、身を切るような優しさ、血を吐く程の愛しさ。
そして。
あたしには何も望まなかった、あの温もり。
『桐子がいるから私は神様はいらないよ』
神様。
あの人を救って下さい。
(携帯)
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■18246
/ ResNo.4)
望みの彼方 5
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□投稿者/ 凛
一般♪(5回)-(2007/03/05(Mon) 23:21:12)
「…帰るよ」
おもむろに圭は立ち上がった。
一瞬の回想は消え去り、ただ圭の薄い背中だけが視界を埋める。
「桐子、明日も仕事だろ?僕も朝イチのレポートがまだ残ってるから。そのかわり、土曜の約束は忘れないでほしいな」
これが圭の優しさだ。
何も聞かないであたしの内に触れないで黙認してくれる。
だからあたしはいつも、この優しさを利用している。
そんな自分に吐き気がする。
(携帯)
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■18247
/ ResNo.5)
望みの彼方 6
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□投稿者/ 凛
一般♪(6回)-(2007/03/05(Mon) 23:28:56)
玄関まで圭を見送った。
「圭」
「なに?」
「ごめんね」
あなたはあたしの神様にはなれないの。
言葉にしなければ、圭には伝わらない。知らなくていい、こんなこと。
「わかってるよ」
また、優しい。
笑顔とさよならの手を振る仕草は、曖昧な過去の記憶には決して重ならない。
扉が閉まる。
あたしは、ずるい。
一人残されたあたしは、今夜もまたあの人の手のひらを思って泣くんだろう。
あの人が今度こそあたしに何かを望んでくれたら。
そうしたらあたしは、一瞬も迷わずに躊躇わずに、祈りを言葉に出来る。
神様。
あたしを救って下さい。
(携帯)
完結!
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■No18242に返信(凛さんの記事) > あの人の手は、温かだった。 > > > 記憶は日々曖昧になっていく。 > あの人の顔だとか笑い声だとか仕草だとか、確かに覚えている筈、覚えていた筈なのに、意識して思い出そうとすると輪郭はぼんやりとして、これという決定打がない。 > > > あの人の手は、温かだったのに。 > > (携帯)
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