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チェリー1
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□投稿者/ 恵麻
一般♪(1回)-(2007/04/19(Thu) 23:04:42)
寒さが一段と厳しくなっている1月半ば。
外は北風が窓を打ち付けるかのように吹く中、一人の少女が問題集とにらめっこしている。 が、北向きの部屋のため、エアコンでもつけなければやってられない。
問い1の途中で公式はとまったまま、彼女、桜 美咲の思考もストップ中である。
手のひらを こすりあわせて 息を吐く やってられない やめてやる
(おっ? あたしって天才)
先程までうんうん唸りながら考えていた数式はどこへやら、くだらない歌を心の中で詠んで一人自画自賛していた美咲だがー
「ぶっ・・・! なんだよ そのセンスねー歌は!」
「げっ・・・! なっちゃん 聞いてたのっ?」
「いや、聞いてたも何も、人の隣でつぶやいてたら聞くデショ」
そういい、なっちゃんー 高田夏季はカラカラと笑う。
(やだ、てっきり心の中でつぶやいてたつもりだったのに〜・・・)
「今は数学の時間なんですけど、美咲さん? うちのガッコ受かりたいならもっと力いれてやんな〜 美咲が落ちたら私の顔がたたんでしょ」
「・・わかってるよ・・あ、今日は部活いいの?」
「早引けしてきましたよ〜 かわいい美咲のために」
「かっ・・・・!」
美咲のほっぺたに手を添えながら答える夏季に、思わず真っ赤になる。
(バカ、女たらし、ヘンタイ・・・)
決して本人を前にしてはいえないので、心の中だけでつぶやく。
もうどのくらいこの人の放つ言葉、一挙一動にドキドキさせられてきただろうか。
それはもう両手では数え切れないくらい。こうして週に2回、家庭教師をひきうけてくれるようになってからというもの、心臓がわしづかみにされるような想いを何度も味わっている。
現生徒会長、スポーツ万能、秀才、眉目秀麗、人望が厚い
高田夏季を一言で語るとこんな感じだ。
まるで映画から抜け出たヒーローみたいだが、一つ違うところがある。
ヒーローではなく、ヒロインなのだ。
そう、高田夏季はれっきとした女。
中世的な容貌で背も高いせいか、制服を着ていないと今でもたまに男に間違われることがある。
小さな頃から夏季の後にくっついていた美咲。 夏季は彼女にとって憧れの存在だったのだ。
しかし、そんな美咲を快く思わない女子連中からの嫉妬ゆえの罵詈雑言が、次第に二人の間に距離を作ることになる。 もちろん、それは美咲からの一方的なものだったのだが。
「あんた、高田夏季のナニ?」
耳が腐るほど尋ねられた質問に答えるのも決まってるー
「・・・従兄弟です」
そう、高田夏季と桜美咲は従兄弟同士。
その言葉を聞いた彼女らの反応もいつも同じだった。
口にこそ出さないが、視線でわかるというもの。釣り合わないのは百も承知なのだ。
悪意の篭った視線に耐え切れず、置いた距離。
しかしそれがかえって夏季への想いを美咲に気づかせるきっかけへとなり、
よりいっそう彼女を苦しめる結果となった。
一緒にいることで感じた夏季への劣等感
離れることで感じた狂おしいほどの恋慕
どちらも苦しいのは同じだった。
だけど、どうせ苦しいのならば・・・そばにいる苦しみを選ぼう。
「あらっ?夏季ちゃん来てたの〜? いらっしゃいっ!」
ノックもせずに美咲の部屋のドアを開けた母は嬉しそうに声を上げた。
「ちょっとお母さん〜 ノックしてから入ってよ〜」そう抗議の声を上げた彼女を無視してずかずかと部屋へ上がりこむ。
「こんばんは、おばさん。おじゃましてます〜」
「いいえぇ〜 夏季ちゃんなら大歓迎っ! 悪いわねえ、この子の勉強見てもらって・・・あ、でも今日は家庭教師の日だったかしら?」
「いえ、違うんですけど、そろそろ受験も近いし心配になって勝手に押しかけてるんです」
「まぁあああ・・・! 何ていい子なのっ!!夏季ちゃんってば!」
(・・・・ココにも夏季信者が一人)
ずずず〜・・・っとお茶を啜りながら母の蕩けそうな顔を横目でちらりと見やる。
夏季ちゃんはすごいわね〜 優等生であんなにかっこいいなんてっ!
これも母の常套句だった。若かりし頃、姉(夏季の母)と足繁く宝塚に通っていたことのある彼女からすれば、夏季はもろヒット・・・らしい。
だからこうやって勉強の合間にひょこっと顔を出しては、夏季を褒め称えるのが母の日課となっている。
(私より、絶対かわいがってるよなあ・・・夏季のこと)
夏季と距離を置いたのも、少なからず関係あることは二人には内緒だ。
「ねえ夏季ちゃん。この子急に貴方と同じ学校目指すって言い始めて嬉しかったのは事実なんだけど、大丈夫なのかしら? ちゃんとできてる? あそこは偏差値も高いし・・心配なのよねえ」
前から気になっていたことなのか、珍しく真面目な顔で夏季に問いかけた。決して悪い成績ではないが、飛びぬけていいわけでもない。中の上くらいの美咲の成績では正直星蘭女子は厳しい。それは担任の教師、そして美咲の母親二人の見解だった。
この辺一体でも進学校として知られる星蘭女子へはかなり狭き門なのだ。
「大分成績もあがってますし、大丈夫ですよ。私が合格させますから。」
そのために家庭教師じゃない日にもこうやって勉強をみてくれている。嬉しい反面、なんだかせつなくもあった。 しょせん、従兄弟だからしてくれてることなのだろうと。
夏季にそう言われて安心したのか、母は満面の笑顔で立ち上がり、よろしくねと微笑んだ。
(やっといってくれるか・・・)
母のしゃべりだすと長いのだ。だけど、それも気が済んだのだろう。
そろそろ問題に集中しないと・・・・そう思い直した美咲を一瞥した母の一言。
「私ねえ嬉しいのよ。またこうやって美咲と夏季ちゃんの仲いい姿みられるの。ほら、一時期貴方たち距離を置いてた時あったでしょ? 私さびしくてさびしくて・・・この子のことだから変な劣等感感じたんでしょうけど・・・」
(な、なぜそれを・・・)
背中に嫌な汗をかき始めた娘に母は気づかない。
「だからね?美咲が星蘭女子受けたいって言った時ほんとーに嬉しかったのよ? だから頑張ってちょうだいよっ?」
言いたい事は言ったとばかりに母は背を向けて部屋を去っていく。
(う・・・なんか気まずい・・・)
母が去った後のこの静けさ。彼女が余計な爆弾を残していくものだからなんと言っていいかわからず美咲は混乱する。必死にこの場を取り繕う言葉を探そうとするがあせればあせるほど頭の中は真っ白だ。
「・・・・美咲」
「・・えっ・・!」
下を向いていた顔を驚いてあげれば、目前に迫る夏季の端正な顔。
身体中の血が一気に駆け巡り顔に集まる。身体に力が入って一ミリも自由意志で動かせない。
「・・・私は嬉しいよ。美咲がそばにいてくれて」
数秒の沈黙の後、じゃあ今日はコレでお開きな。 そう言って頭をぽんぽんと叩き、あっという間に部屋から出て行ってしまった。
「ずるいよ・・・・そんなこと言わないで・・」そんな呟きが思わず漏れた。
だから、私は貴方の事をあきらめられないんだ・・・
いつだって私の前を走ってて。いつだって輝いてて。
夏季の一挙一動に振り回される私は何て滑稽なんだろう。
彼女にとっては何気ない一言でも、美咲にとってはそうではない。
狂おしいほどのこの想いを恋と呼ぶならば
私は同性の夏季に恋をしている。
もう逃げない。正々堂々とこの気持ちに向かい合ってやるんだ。
改めて認めざるを得ない状況に一人決意を新たにする美咲だった。
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■18743
/ ResNo.1)
初めまして
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□投稿者/ 晃
一般♪(1回)-(2007/04/20(Fri) 00:51:26)
こんばんは
続き楽しみに応援してます♪
(携帯)
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■18750
/ ResNo.2)
Re[2]: 初めまして
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□投稿者/ 恵麻
一般♪(2回)-(2007/04/20(Fri) 23:39:29)
初めまして、こんばんは^^
初の小説で感想をいただけるなんて、嬉しいです。
これからも頑張って書くのでよければまた読んでください。
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■18751
/ ResNo.3)
こんばんは
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□投稿者/ 優貴
ちょと常連(50回)-(2007/04/21(Sat) 00:06:27)
初めまして。優貴といいます。
恵麻さん、おもしろいですね!!
続きに、どのような展開になるのか気になります!!
更新、楽しみにしていますね♪
(携帯)
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■18753
/ ResNo.4)
Re[2]: こんばんは
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□投稿者/ 恵麻
一般♪(4回)-(2007/04/21(Sat) 00:52:54)
優貴さん、こんばんは〜
おもしろいといっていただけるなんて、作者冥利につきます
これから更新するのでよかったら見てください^^
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■18755
/ ResNo.5)
チェリー2
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□投稿者/ 恵麻
一般♪(6回)-(2007/04/21(Sat) 00:59:26)
pipipipipi・・・・
すっぽり被った布団の中から、腕だけをもぞもぞと出して眠りを妨げる音をストップした。
いつもならここで2度寝という名の脳内旅行へとトリップするのだが、今日だけはそうもいかない。
上半身を起こし、思いっきり伸びをする。
(今日は入学式か・・・)
そう、夏季のスパルタ&美咲の努力が実を結び、見事星蘭女子への切符を手に入れたのだ。
クローゼットの扉に真新しい制服がかけてある・・・・はずなのだが。
「あ、あれ・・?ない」
代わりにあるのは地元の公立高校の制服だ。滑り止めとして受けてはいたが、制服を購入した覚えはない。
この状況を飲み込めずぽかんとしていると、ドアの向こうの階段の音に気づいた。
「あら、起きてたのね」
「おっ、おかあさん!ちょうどよかった! 私の制服はどこ?」
母が部屋へと入り込むなり、美咲は彼女にしがみつきながらそう問うた。
「・・・どこ?目の前にかかってるじゃないの」
顎でついと示した先には、先程の制服がかかってある。
そうじゃなくて私が聞きたいのはと、くってかかったのだがー
「あんなに夏季ちゃんに迷惑かけた結果がコレだなんて・・・お母さんがっかりだわ」
手のひらを片頬にあてて溜息混じりにそう呟いた母の顔は・・・・どう形容したらいいのだろうか。
まるで般若のようだった。このような顔は娘としてこの世に生を受けてから今までみたことがない。
「え・・・どういうこと・・?」
「どういうことも、こういうことも貴方は星蘭女子に落ちたのよ!」
「残念だよ、美咲。絶対私の期待に応えてくれるって思ってたんだけどな・・・」
その声にびっくりして振り返るとそこにはいつのまにか夏季が立っていた。いつもは周りが振り返るほどの容姿の持ち主がきつく眉を寄せる様は、恐怖を感じるのと同時に魅力的でもあった。
(どうしよう・・・あんなに熱心に面倒見てくれたのに私ったら・・)
やっぱり夏季のそばにいたいなんて私には分不相応だったんだ。
泣きじゃくる美咲を見限ったのか、二人はつれなくその場をあとにしようとした。
「まっ・待って!! 行かないで!!」
もう口も聞いてもらえないかもしれない。そのことに恐怖を感じて必死で夏季の背中に腕を伸ばした。
「・・・さき・・・・・美咲っ!」
「・・・・え・・・? なっちゃ・・・?」
美咲の見開いた瞳には、ベッドに腰掛けて心配そうに見詰める夏季の姿があった。
「何か怖い夢見たか・・? 大丈夫?」そう言い、美咲の後頭部に手のひらをあててそっと胸に引き寄せる。片方の手は美咲の手をぎゅっと握ったまま。
(夢・・?・・・あんなリアルな夢があるの?)
思わず夏季の肩越しに目線を上げれば、元通り麗しき星蘭女子の制服が掲げられていた。
よかった・・・と美咲はほっと息をついた。もしさっきの夢が事実だったらとてもじゃないけど夏季にあわせる顔がなかっただろう。よく考えたらお気楽母があのような態度を取る時点でおかしいのだが、自分でももともと受かるなんて自信がなかったため、気づかなかったのだ。
そう、今だって安心させようと頭を撫で、手を握ってくれている・・・って あ、れ・?
なぜ、こんな時間に夏季が・・・
「・・ちょっ・・・何でココにいるの〜?! どっ・・・どうやってっ!!」
美咲の母親はああ見えて雑誌の編集長を務めるいわゆる“バリキャリ”だ。
故に帰宅は大抵遅く、朝のこの時間は当然夢の中。少々のことでは滅多に眼を覚ましなどしない。
当然うちの鍵など持ってるはずもなく、だからなぜ彼女がここにいるのかわからない。
「あ?どっからって・・・あそこから」
そう指し示す先には開け放たれた窓。カーテンがパタパタとはためいている。
小さい頃はよくここから出入りしたじゃん? そう暢気に言うが今何歳だと思っているのだ。
「あのねえ・・・こんな所から出入りするなんて、危ないでしょ? そっ・・それにっ・・・」
そう言い二の句を告げないで赤くなる美咲を見て、夏季が訝しがる。
美咲が赤くなるのも無理はない。 なにせ、今の格好は当然パジャマ。
そして今の体勢といったら、まるで飼い主に甘える子猫のよう。
女同士なら何も赤くなることはないと思うのだが、美咲にとって夏季は恋焦がれる相手。
異性にされているのとなんら変わりはないのだ。
顔を赤らめながら夏季の胸に抱かれる美咲。
こんな面白い状況をほっといていられようか、否、である。
「・・・まるでロミオとジュリエットみたいじゃない・・?」美咲の耳元でわざと吐息混じりに囁く。
(まるで茹蛸みたいだな・・・)くっくっと忍び笑いを漏らす。
ほんと、この子はからかい甲斐がある。だから何かに付けてかまってしまうのだ。
美咲にはいつも笑っていて欲しい。そのためにはなんでもするつもりでいる。
もう二度とあんな辛い思いはさせない。あの時にそう誓ったのだ。
こんな事をしたら君は笑うだろうか。 それとも真っ赤になって怒る?
反応が見たくてそっと握り締めていた手を引き寄せて、その甲にキスを落とす。
ジュリエット? どんな悪夢を見てたの?と。
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■18756
/ ResNo.6)
チェリー3
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□投稿者/ 恵麻
一般♪(7回)-(2007/04/21(Sat) 01:00:35)
「ジュリエットかぁ・・・相変わらず飛ばすねえ 夏季サンも☆」
「あのねえ・・笑い事じゃないわよっ なんであの人はあんななのっ? ふつーあーいうこと言う? 恥ずかしいったらありゃしないっ」
初登校中の道すがら、ぷりぷりしながら口を尖らす親友の横で各務舞はにかっと笑う。
二人して晴れて星蘭へ通える喜びを分かち合ったのもつかの間、先程の出来事を真っ赤になりながら語る美咲。ぶつぶつ「ヘンタイなんだから」と呟いている。
「あたしも久しぶりだし会いたいな〜 夏季さんに。で、どんな夢見てたわけ?」
「・・・・・・星蘭に落ちる夢・・・」
「はぁ?」
クールビューティが台無しだ、と美咲は思った。 何しろ鳩が豆鉄砲をくらったかのように口をぽかんと開けて自分を見つめているのだから。
「・・なんでそんな夢みるかなあ」
「だっ だってしょうがないじゃない! そりゃ舞は帰国子女だから英語もペラペラだしっ?頭もいいから星蘭の試験なんて簡単だったんでしょーけどっ 私はやっとの思いで入ったのよ?」
やれやれ、すぐむきになるのも悪い癖だ。これも長い間あの夏季さんと比べられてきた結果なのだろうか。彼女には少々僻みっぽく、自分を過小評価しすぎるところがある。
親友の自分が言うのもなんだが、美咲は普通に可愛い。
ただ相手があの夏季さんだから。彼女と比べることなんてない。美咲には美咲の良さがあるのだから。
芸能人相手に私なんて・・・と言ってるのと同じようなものだと舞は考えていた。
「あのねえ・・私はそんなこと言いたいんじゃなくて。まだ発表前だったら分かるけどお分かり?
今日は入学式だってこと。何でこんな日にそんな夢見るんだって言ってんの」
「言わないで。なっちゃんにもそれは言われたから」
それ以上はつっこむな、ということらしい。そっぽを向いた美咲に舞は溜息をつく。
「それからさあ・・あんま自分を卑下する物の言い方って止めたほうがいいよ。気持悪いし。そんなだと夏季さんにも愛想つかされちゃうよ?」
容赦ない言葉が美咲の胸に突き刺さる。好きでこんな風になったわけじゃないのだ。
夏季のそばにいれば誰だって・・・・
涙ぐんだ美咲を横目に舞は(いいすぎたか・・・)と罪悪感を感じていた。
「ごめん。言い過ぎたかもだけど、でもね」
「舞って前からだったけどオーストラリア行ってから毒舌に磨きがかかったよね」
言い終わらないうちに美咲が切り出した。その顔に涙はもうない。
彼女もこのままじゃいけないと思っているのだろう。その瞳にはっきりとした意思を感じる。
「そりゃあたしも色々あったし? うじうじしてたら向こうではやってけないしね〜」
そう言ってにかっと笑う。
元々二人は幼馴染だったのだが、小学校へ上がる寸前に父親の都合でオーストラリアへと引っ越してしまった。以来メール等で連絡は欠かさず取り合ってきた仲だが、よくお互いに悩みを打ち明けていたりもした。特に異国で暮らす舞にとっては美咲との些細な繋がりはとても大事なものだった。
おおらかな国だが、虐めがないこともない。 アジア人だと蔑まれたこともある。
時に子供は大人よりも残酷な一面を持っている。
幼少期に差別を受けた舞には、美咲の受けた傷が痛いほどわかる。
だけど、そこで負けてはいけない。何も悪いことはしていないのだから。 もっと強くなってほしい。その思いがあるからこそ、きつく諭しもするのだ。
(でも、もう必要ないみたいね)
美咲の瞳は今までとは違う。これなら前みたいなことにはもうならないだろう。
自分ももう日本にいるんだし、あの時とは違う。そばで守ってやれるんだから。何より夏季さんがそばにいる。
手をかざしながら空を仰げば、春らしい陽気を感じることができる。
(これからの学校生活が私たちにとっていいものでありますように・・・)
隣にいる親友と微笑みあいながら、校門への道を急いだのだった。
その頃、美咲の母 沙羅は姉である響子の元を訪れていた。といっても、隣なのだが。
「いつも昼頃まで寝てるあんたがこんな時間に起きてるなんてめずらしーじゃない。なんかあったの?」
「ん、これ夏季ちゃんにね〜」
そう言って響子の目の前にマダムご用達のケーキ屋の箱が掲げられた。ココのは朝から並ばないとすぐに売切れてしまうほど大人気だ。どれだけ沙羅が朝早くに起きたかが想像できる。
「ほんとに夏季ちゃんにはお世話になって・・・今日、星蘭の入学式なのよ。 在校生は確か休みよね?夏季ちゃん起きてる?」
「ああ、あの子アレでも一応生徒会長らしいから、もうとっくに出てるわよ。 出る前に私の可愛い美咲ちゃんに窓から夜這い・・じゃないわね、朝這い?かけてたわよ? ったくあのバカ娘は。ちょっとは美咲ちゃんみたいに可愛らしくできないのかしらねえ」
沙羅が夏季をベタ可愛がりしてるように、響子の美咲に対するソレも負けず劣らずのところがある。
こうやってお互い実の娘より、姪を可愛がる光景は何とも滑稽だ。
「でも美咲が星蘭に合格してくれてほっとしてるわ〜 姉さん覚えてる? 各務舞ちゃんって子」
「確か、美咲ちゃんの幼馴染よね? オーストラリア行っちゃったんだったっけ?」
「そう。高校からまたこっちで暮らすらしくてー それが同じ星蘭なのよ!」
リビングのイスに腰掛けて紅茶を啜りながら、懐かしい話に花を咲かせた二人はふと昔のことを思い出していた。
「これで夏季ちゃんも同じ学校だし・・・少しは安心だわ」
「そうね・・・私も美咲ちゃんに二度とあんな辛い思いはさせたくないもの。 だから、最初は私は反対だったのよ?美咲ちゃんがあの子と同じ学校に入るのは」
「姉さん・・・」
美咲が夏季を避けるようになってからというもの、彼女を可愛がる叔母としては寂しかったがそのほうがいいのだとも思っていた。
夏季のそばにいれば美咲は傷付くだけだ。彼女が悲しむ姿を見るよりはマシだった。
「確かに私も心配だけれど、いつまでも逃げていては何にもならないわ。あの子達は従兄弟同士だもの。一生避けているわけにはいかないでしょう? それに・・・これは美咲が望んだことだわ。」
そう、いつも逃げていた美咲が「星蘭に行きたい」と沙羅に頼み込んできたのだ。
その瞳を見たとき、もう大丈夫だと確信した。あの子の決意が見えたからだ。
本人がその気なら、私は親として応援するわ、そういった沙羅に響子もまた(私にできることなら何でもしよう)と決意を新たにするのであった。
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■18783
/ ResNo.7)
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□投稿者/ 希
一般♪(1回)-(2007/04/23(Mon) 09:06:34)
おもしろいです。続き楽しみにしています
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■19336
/ ResNo.8)
チェリー4
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□投稿者/ 恵麻
一般♪(1回)-(2007/06/25(Mon) 23:36:54)
私立星蘭女子学院ー
近所でも評判の美しい桜並木を上がった小高い丘の上にそれはある。
星蘭の教育方針ー即ち『古き良きものを大切にし、尚且つ新しいものを取り入れていく柔軟な女性を育成する』を裏付けるかのように、明治時代からの古めかしき校舎と、最新設備を取り入れた近代的でモダンな校舎が違和感なく立ち並んでいる。
生徒の自主性を重んじる学校は多々あれど、星蘭を代表する生徒会の持つ特異性は他にはないと言えるだろう。
全学年から選ばれた生徒会のメンバーは星蘭の『顔』として常に良識ある態度と行動が求められる反面、ある権利が彼女らに与えられている。
「へ〜 詳しいねえ。舞」
「って、それはコレに書いてあるから」
そういって舞は、学院案内のパンフレットを丸めてぽんぽん叩いた。
「いや、でもその生徒会のこととか、校則を自分たちで云々は載ってないけど」
そう、確かに教育方針はあれど、先程舞が言ったことなんてどこにも書かれていない。
「当たり前よー コレは裏情報だもん。パンフにはそんなこと載せないでしょ」
「・・・って情報源は?」
「ん、うちの姉。」
舞の姉、各務幸は今年度3年生で、生徒会長である夏季と同級生だ。
夏季とはタイプが違うが、凛とした眼差しと腰まで伸ばした艶のある黒髪が妖しい魅力を醸しだして、今では夏季を人気を二分するほどまでになっている。
彼女には美咲もまるで自分の妹のように可愛がってもらった。
「そっか、幸さんだけ日本に残ったんだっけ・・・ ねえ、ところでそのある権利ってなんなの?」
「それは・・・たぶんもうすぐわかるんじゃない?」
舞の言うとおりその答えはすぐに解明されることとなるのだが、美咲はまだ知る由もない。
適度な緊張感を伴う体育館の中。 入学式はまだ始まっていない。
順序良く並ぶイスに座らされた新入生の顔立ちは皆初々しく、はつらつとしている。
そんな中、壇上の影から美咲と舞を見つめる夏季と幸の姿があった。
「美咲ちゃんいるわよ。久しぶりだわね〜 何年ぶりかしら」
「こら あんま覗くなっつーのに」
幸の首根っこを掴んでひっぱると、口を膨らませて抗議した。
「ちょっとぐらいいでしょ。夏季だって気になるくせに。 ・・・でもよかったわよね」
幸は眼を細めて美咲を見つめていた。
「これで夏季が星蘭に入った意味があるっていうものよね」
そう言ってにやりと妖しげな笑みを浮かべる幸にはきっと勝てない そう思った夏季だった。
『これより第○回入学式をとりおこないます』
マイクアナウンスの後、何事もなく式は進んでいるのだが。
夢見が悪いせいで、次第に睡魔が美咲を襲おうとしていた。こういう堅苦しい雰囲気は苦手だ。
眠っちゃいけないと思えば思うほど、眠気が倍増するのはどうしてなのだろう。
軽く頭が船を漕ぎそうになって舞に注意された時・・・
「新入生の皆さん。御入学おめでとうございます」
澄んだ声がマイクを通して響き渡ると同時に美咲は、今までの眠気が嘘のようにぱちっと目を開けた。
あっという間にこの場の空気が変わり、他の生徒たちも、明らかに先程と目の輝きが違う。
同時に聞こえるのは「あの人かっこいい〜」という、お決まりのセリフ。
「うわ〜 夏季さん相変わらずすごいね・・」
「う、うん・・・」
隣でそう呟く舞にも上の空の返事しかできない。 美咲の胸中は複雑だった。
もう夏季は生徒たちの心を掴んでしまった。
それも仕方のないことなのだろう。 だって何年も夏季のそばにいた自分でさえ、未だにドキドキさせられるのだから。 そんな夏季を誇らしいと思う。
でもそれ以上にそんな夏季のそばにいることに引け目を感じてしまう。
そして誰も夏季を見ないで欲しい 私だけの夏季でいてくれたらいいのにー
そう思うのを止められなかった。
ドキドキしながら壇上を眺める美咲と、夏季の視線が一瞬絡まり、そして・・・
(・・え・・・・?)
気のせいだろうか、いや、でも今確かに・・・
夏季の形のよい唇が弧を描いた。微笑ったのだ。
(何か、やな予感がするんですけど)
夏季があのような表情をする時は、彼女が何かを企んでいる時。
夏季と離れてからしばらく目にすることはなかった。
(・・・・やっぱ入学やめとけばよかったかも・・?)
夏季の微笑に軽く寒気を感じ、これからの学校生活に波乱があることを早くも察知する者が一人。
何をカン違いしたのか、自分に笑いかけてると頬を染める者、大多数。
そして・・
(ふふっ 面白くなりそ〜)
日本に戻ってきてよかったと、大いに学校生活を楽しみにしている者がこれまた一人。
それぞれの思いが交錯する中、
「改めて星蘭学院へようこそ。皆さんの学院生活が悩みのない楽しいものとなることを私達生徒会がお約束いたします。」
生徒会長、高田夏季の声が体育館に響き渡った。
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■No18756に返信(恵麻さんの記事) > 「ジュリエットかぁ・・・相変わらず飛ばすねえ 夏季サンも☆」 > 「あのねえ・・笑い事じゃないわよっ なんであの人はあんななのっ? ふつーあーいうこと言う? 恥ずかしいったらありゃしないっ」 > > 初登校中の道すがら、ぷりぷりしながら口を尖らす親友の横で各務舞はにかっと笑う。 > 二人して晴れて星蘭へ通える喜びを分かち合ったのもつかの間、先程の出来事を真っ赤になりながら語る美咲。ぶつぶつ「ヘンタイなんだから」と呟いている。 > 「あたしも久しぶりだし会いたいな〜 夏季さんに。で、どんな夢見てたわけ?」 > 「・・・・・・星蘭に落ちる夢・・・」 > 「はぁ?」 > クールビューティが台無しだ、と美咲は思った。 何しろ鳩が豆鉄砲をくらったかのように口をぽかんと開けて自分を見つめているのだから。 > > 「・・なんでそんな夢みるかなあ」 > 「だっ だってしょうがないじゃない! そりゃ舞は帰国子女だから英語もペラペラだしっ?頭もいいから星蘭の試験なんて簡単だったんでしょーけどっ 私はやっとの思いで入ったのよ?」 > > やれやれ、すぐむきになるのも悪い癖だ。これも長い間あの夏季さんと比べられてきた結果なのだろうか。彼女には少々僻みっぽく、自分を過小評価しすぎるところがある。 > > 親友の自分が言うのもなんだが、美咲は普通に可愛い。 > ただ相手があの夏季さんだから。彼女と比べることなんてない。美咲には美咲の良さがあるのだから。 > 芸能人相手に私なんて・・・と言ってるのと同じようなものだと舞は考えていた。 > > > 「あのねえ・・私はそんなこと言いたいんじゃなくて。まだ発表前だったら分かるけどお分かり? > 今日は入学式だってこと。何でこんな日にそんな夢見るんだって言ってんの」 > 「言わないで。なっちゃんにもそれは言われたから」 > それ以上はつっこむな、ということらしい。そっぽを向いた美咲に舞は溜息をつく。 > > 「それからさあ・・あんま自分を卑下する物の言い方って止めたほうがいいよ。気持悪いし。そんなだと夏季さんにも愛想つかされちゃうよ?」 > > 容赦ない言葉が美咲の胸に突き刺さる。好きでこんな風になったわけじゃないのだ。 > 夏季のそばにいれば誰だって・・・・ > > > 涙ぐんだ美咲を横目に舞は(いいすぎたか・・・)と罪悪感を感じていた。 > 「ごめん。言い過ぎたかもだけど、でもね」 > 「舞って前からだったけどオーストラリア行ってから毒舌に磨きがかかったよね」 > > 言い終わらないうちに美咲が切り出した。その顔に涙はもうない。 > 彼女もこのままじゃいけないと思っているのだろう。その瞳にはっきりとした意思を感じる。 > 「そりゃあたしも色々あったし? うじうじしてたら向こうではやってけないしね〜」 > そう言ってにかっと笑う。 > 元々二人は幼馴染だったのだが、小学校へ上がる寸前に父親の都合でオーストラリアへと引っ越してしまった。以来メール等で連絡は欠かさず取り合ってきた仲だが、よくお互いに悩みを打ち明けていたりもした。特に異国で暮らす舞にとっては美咲との些細な繋がりはとても大事なものだった。 > > おおらかな国だが、虐めがないこともない。 アジア人だと蔑まれたこともある。 > 時に子供は大人よりも残酷な一面を持っている。 > 幼少期に差別を受けた舞には、美咲の受けた傷が痛いほどわかる。 > だけど、そこで負けてはいけない。何も悪いことはしていないのだから。 もっと強くなってほしい。その思いがあるからこそ、きつく諭しもするのだ。 > > (でも、もう必要ないみたいね) > 美咲の瞳は今までとは違う。これなら前みたいなことにはもうならないだろう。 > 自分ももう日本にいるんだし、あの時とは違う。そばで守ってやれるんだから。何より夏季さんがそばにいる。 > > 手をかざしながら空を仰げば、春らしい陽気を感じることができる。 > (これからの学校生活が私たちにとっていいものでありますように・・・) > 隣にいる親友と微笑みあいながら、校門への道を急いだのだった。 > > > > > > > > その頃、美咲の母 沙羅は姉である響子の元を訪れていた。といっても、隣なのだが。 > 「いつも昼頃まで寝てるあんたがこんな時間に起きてるなんてめずらしーじゃない。なんかあったの?」 > 「ん、これ夏季ちゃんにね〜」 > そう言って響子の目の前にマダムご用達のケーキ屋の箱が掲げられた。ココのは朝から並ばないとすぐに売切れてしまうほど大人気だ。どれだけ沙羅が朝早くに起きたかが想像できる。 > > 「ほんとに夏季ちゃんにはお世話になって・・・今日、星蘭の入学式なのよ。 在校生は確か休みよね?夏季ちゃん起きてる?」 > 「ああ、あの子アレでも一応生徒会長らしいから、もうとっくに出てるわよ。 出る前に私の可愛い美咲ちゃんに窓から夜這い・・じゃないわね、朝這い?かけてたわよ? ったくあのバカ娘は。ちょっとは美咲ちゃんみたいに可愛らしくできないのかしらねえ」 > > 沙羅が夏季をベタ可愛がりしてるように、響子の美咲に対するソレも負けず劣らずのところがある。 > こうやってお互い実の娘より、姪を可愛がる光景は何とも滑稽だ。 > > 「でも美咲が星蘭に合格してくれてほっとしてるわ〜 姉さん覚えてる? 各務舞ちゃんって子」 > 「確か、美咲ちゃんの幼馴染よね? オーストラリア行っちゃったんだったっけ?」 > 「そう。高校からまたこっちで暮らすらしくてー それが同じ星蘭なのよ!」 > > リビングのイスに腰掛けて紅茶を啜りながら、懐かしい話に花を咲かせた二人はふと昔のことを思い出していた。 > > 「これで夏季ちゃんも同じ学校だし・・・少しは安心だわ」 > 「そうね・・・私も美咲ちゃんに二度とあんな辛い思いはさせたくないもの。 だから、最初は私は反対だったのよ?美咲ちゃんがあの子と同じ学校に入るのは」 > 「姉さん・・・」 > > 美咲が夏季を避けるようになってからというもの、彼女を可愛がる叔母としては寂しかったがそのほうがいいのだとも思っていた。 > 夏季のそばにいれば美咲は傷付くだけだ。彼女が悲しむ姿を見るよりはマシだった。 > > 「確かに私も心配だけれど、いつまでも逃げていては何にもならないわ。あの子達は従兄弟同士だもの。一生避けているわけにはいかないでしょう? それに・・・これは美咲が望んだことだわ。」 > > そう、いつも逃げていた美咲が「星蘭に行きたい」と沙羅に頼み込んできたのだ。 > その瞳を見たとき、もう大丈夫だと確信した。あの子の決意が見えたからだ。 > > 本人がその気なら、私は親として応援するわ、そういった沙羅に響子もまた(私にできることなら何でもしよう)と決意を新たにするのであった。 > > > > > > > > > > > > > > > > > > > > > > > > >
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