| 「本当、あんたってバカだよ。」
運転席であなたが呟くのを聞くと、 私の顔がにんまりとしてしまう。
それは日曜日の午後
「それがバカなんだよ。」
にやける私を見てあなたはいった、 呆れられてもいい。
「だって、いいじゃん逢いたいんだから。」
あなたはぶつぶつとなんか言ってるのが嬉しくて、 心からそれが嬉しくて。
「たった、一、二時間逢うためにここまで来た意味はあるの?」
羽田から三時間でこれたもん……
「だって…」 「だって?」
あなたの左薬指が間一髪にSTOPをかけてくれた
「かまぼこ食べたくて。」
相も変わらずバカな私でいたいから
鼻歌を慣らしながら見慣れない景色を窓一枚から眺めた
「次は連絡してからきなさいよ?」
少し心配そうにあなたは信号待ちで私を見つめた
「………ご迷惑おかけしました。」
ラジオを勝手に止めて不貞腐れたふりをしてみた
空は茜雲に近づいていた
「なんかあった?」
バカだから
あなたの笑顔を忘れてしまいそうになりそうだから
そんなこと言えなくて
「ありがとう。」
元気をまたもらったから
頑張れそうです
見えない何かに唱えて
車は空港に舞い戻った
「時間がなくてどこもいけなくてごめんね?」
あと少しさ一時間でもいいからさ
「いえ、本当にありがとう楽しかった。」
ありきたりな言葉を発して、シートベルトを外した。
もう少しだけ一緒にいたいけど
飛行機の時間は待ってはくれない
「また会いましょう。」
まだ離れたくない
必死にこらえて現実にカムバックをして
それでもはしたない私は
「そうだ、このまま一緒に行かない?」
手を伸ばすとあなたは少し笑って
「あんたってほんとに、 バカだな。」
手を振ってさよならをした
本当にバカだよ
涙をこらえて手を振った
“ねえ、好きだよ”
伝えないから伝わらない言葉を隠して
本当に
……バカだよ―。
(携帯)
|