| どうしよ…
早く入りたいけど 私が鍵を使って開けた時に、どさくさに紛れて一緒に入って来られても困るし。
その人の後ろで立ち止まって悩んでいると 私の気配に気付いたその人が
『あ…っ、すみません!』
と、サッとインターフォンから避けたから
入らないわけにはいかない状況が出来上がってしまった
ついてきません様に…
そう祈りながらカードキーで自動扉を開けようとすると
その人は私の顔を見るなり
『あ…!颯ちゃん…だよね?!
あの…覚えてないかな?』
と言われた。
その人を上から下まで良く見てみたけど、私には全く見覚えはない。
『失礼ですが、どちら様ですか?』
そう聞き返すと
『あの店暗かったからな〜…;;
あの、この間焼肉をご一緒させてもらった森田です。
社長、ご在宅ですか?』
「……………あぁ、どうも。 いますけど、具合が悪いと言って寝てますが。」
こんな顔やったんや
名前、森田ってゆーんや
つか… おかんを【社長】って呼ぶって事は、おかんの会社の人やねや
『はい、社を出る際にその様に聞いたもので… お見舞いの品をお持ちしたのですが。。』
確かにその人の手には、ケーキらしき箱がある。
私が追い返すのも変な話やし
身元が確かで誠実な人だと分かったので
『うち、今日水炊きなんですけど。
それで良ければ、どうぞ。』
「……え!?
あ…は、はいっ……! ありがとうございます!!」
変な人。
確かに【社長の娘】ではあるけど
いくつも年下だと分かっている私にさえも、これだけ腰を低くして。
まぁ
悪い人ではなさそうだ。
家に入り、その人をソファーに誘導して
うどんと卵を冷蔵庫にしまって アイスコーヒーを出した。
『ガムシロップないんですが、大丈夫ですか?』
と聞くと
『は…はい! ブラック派なので!』
と、元気良く返事が返ってきた。
『一緒ですね。 私はたまにミルクだけ入れますけど。』
と言って、久しぶりに目を細めるだけの作り笑いを浮かべると
少しだけ緊張がほぐれたのか
『僕もです! 朝はミルクをいれます!』
と、さっきまでの堅い笑顔とは違って、爽やかで大きな笑顔を見せた。
(携帯)
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