| 穏やかな時間が流れる
私は抱き合ったままで、色んな話をした。
おかんが妊娠した事
独り暮らしをする事
ハワイの美味しいドーナツショップや、綺麗な海の話
インターハイでレギュラーに選ばれた事
奏音が異常な量の卵を食べる事
他にも、色々……
まなみはどれも真剣に聞いてくれて 大袈裟な程のリアクションを見せながら
『じゃあ、私が退院したら颯のお嫁さんになって2人で一緒に暮らしたいなぁ…♪』
なんて冗談めかしながらぼやいている。
『そうしましょう。』
「え?」
『一緒に暮らしましょう、先輩。』
「……それ、プロポーズ?」
『言葉にするのなら、そうかもしれません。
でも 籍なんて、そんな紙一枚の誓約なんて私達には必要ないでしょう?
先輩がいて、私がいて。
それが大事な事でしょう?』
「……ん。そやね。。
ありがとう…。」
『今度、指輪見に行きましょうね。』
「うん…っ!!」
果たして
この日の事が、まなみの生きる力になったのか
逆に傷付けてしまったのか
それはまなみにしか分からない。
だけど 幸せそうに笑うまなみの笑顔は
今日で一番輝いて見えたのは確かだった。
今日のまなみは 良く咳込んでいる
その度に私は 華奢な背中を擦りながら抱き締める力を少しだけ強める。
まなみの心が 小刻みに震えているのが伝わってきたから…
無言の空間に
溢れんばかりの愛情が漂っている
何故か泣きそうになったのは
愛しくて
愛しくて
たまらなかったから。
『先輩、どこにも行かないで下さい。
お願いです…
独りにしないで下さい。』
口をついて出た言葉は 初めて吐いた弱音だった。
私が弱気でいちゃいけない、って
不安にさせちゃいけない、って
抑えてたものが 堪えきれなくなってしまったんだ。
まなみは 私の頭を胸に抱き寄せて
「どっこも行かんよ。
颯のそばで生きる。
約束するけん…。」
そう言って 私の髪を撫でる。
私は無償にまなみをより近くに感じたくなって
頭を上げ まなみの小さな顔を両手で包んでキスをした
深く、熱く 長いキスだった。
(携帯)
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