ビアンエッセイ♪

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■19687 / ResNo.10)  spring 10
  
□投稿者/ 春風 一般♪(11回)-(2007/08/08(Wed) 00:20:45)
    「っていうかさ」

    「ん?」

    「食べ過ぎじゃない?」

    同じバスケ部の紗帆に突っ込まれたのは、学食で日替わり定食(ライス大盛り)を食べ終わり、菓子パンの袋を開けたときだった。

    「ああ、今日朝食べて来なかったから。」


    それだけ答えると、俺は大好きなチョコチップメロンパンにかじりついた。そんな食生活でよくバスケやってられるね、と紗帆は嘲笑するかのように言った。


    「あ!!鮎沢せんぱーい!!」

    「おう。」

    「今日もカッコイイですね!!」

    「そんなことねーよ!!それよりお前髪切った?」

    「はい!!よくわかりましたね!!さっきの空きコマに美容室行って、ちょっとすいたんですよ〜!!」

    香奈美というこの後輩は、嬉しそうに笑った。白い歯が見えたとき、子犬みたいだな、と思った。

    (携帯)
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■19688 / ResNo.11)  spring 11
□投稿者/ 春風 一般♪(12回)-(2007/08/08(Wed) 00:22:43)
    2007/08/08(Wed) 00:23:30 編集(投稿者)

    俺が香奈美と雑談しているとき、紗帆の視線が痛かったが気付かないフリをした。


    「よく分かったね。」
    香奈美が去った後で紗帆が言う。嫌味な奴。

    「まあね。」

    「さすがモテる男は違いますね。」

    「だってあいつ、肩んとこに何本か毛がついてたから。」

    「…逆にすごいよ。」

    俺は笑った。気分は名探偵。


    「ところで紗帆さん。」

    「何、改まって。」

    「世間じゃ俺はお前と付き合ってるって専ら噂してるみたいだが。」

    「げっ、マジで!?」

    「なんだよ“げっ”て。」

    「泉のファンが絡むとろくなことない。」

    「確かにな。でさ、だからってわけじゃねーけど、お前そろそろ彼氏でも作れば?」

    「彼氏ねぇ…まあ私は、」「バスケットボールが恋人、とかつまんねーこと言うなよ。」

    やっぱり。紗帆の目が泳いだ。俺はため息をつく。紗帆だったら可愛いししっかりしてるし、彼氏の一人や二人できてもおかしくないんだが。

    「次、ウェルネスでしょ。」

    「そだ。行こうか。」

    席を立ち、食器を片付けに下膳口に向かう。紗帆の背中をぼんやりと見ながら、思った。

    やっぱりこいつ、俺のこと好きだよな…。

    (携帯)
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■19689 / ResNo.12)  spring 12
□投稿者/ 春風 一般♪(13回)-(2007/08/08(Wed) 00:26:09)
    この日の部活が終わったときには、もう9時を過ぎていた。熱気がまとわりつくようで、気持ちの悪い夜だった。何かもやもやしたものが渦巻いている気がして、それを振り払うかのように俺はペダルを踏んだ。アパートから最も近いコンビニの前を通り過ぎるが、これから自炊することを考えると気持ちが萎えた。思い直してUターンする。

    俺は多少の引け目を感じながら、コンビニの前に自転車を停めた。自動ドアが開く。

    いらっしゃいませー!!

    元気のいいバイト君の声と同時に、キンキンに冷えた空気が身体を包む。生き返る。
    店内にはキャップを深く被った小柄な男が一人と、子連れの若い母親。そして俺だけだ。

    適当な弁当を手に取り、そうだサラダも、と思った。紗帆の顔が頭に浮かんだのだ。俺は“たっぷり野菜のバランスサラダ”に手を伸ばす。ったく、なんでドレッシングは別売りなんだよ。こいつは家のやつよりうまそうに見えてくるから厄介だ。そうしてしばらく、ドレッシングを買うか買わないか悩んでいた。


    そのときだった。



    (携帯)
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■19690 / ResNo.13)  spring 13
□投稿者/ 春風 一般♪(14回)-(2007/08/08(Wed) 00:27:33)
    「あなた!!何してるの!!」
    耳をつんざくようなパートのおばさんの声。俺は何も、そう言おうとして息を飲んだ。右手から走り出す小柄な男。俺の背中を通り過ぎ、左に曲がる。「待ちなさい!!」おばさんが叫ぶ。正面にはレジから飛び出してきたバイト君。これまでか。そう思ったとき

    小柄な男が、飛んだ。着地と同時に身体をひねる。くるりと回転する。両手を広げたバイト君に触れるか触れないかの距離で、一瞬にして脇の下をすり抜ける。ちょうど新たな客が来て、自動ドアが開く。小柄な男はそのまま店を飛び出す。

    あっという間だった。

    誰もが呆然と立ち尽くした。あまりにも鮮やかな逃走だった。新しく入ってきた客だけは、状況が飲み込めずに不思議そうな顔をしていたが。
    だがその場にいた人間の中で、俺ほど驚いた奴はいるまい。小柄な男が走り抜けたときに残った香りに、確かな覚えがあったからだ。


    『これ、神戸で作ってもらったの。世界にひとつだけの香りなんだよ。』


    『別にどうでもいいけど。割と気に入ってる。』



    春の香水だった。

    (携帯)
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■19691 / ResNo.14)  spring 14
□投稿者/ 春風 一般♪(15回)-(2007/08/08(Wed) 00:28:52)
    春が、万引き?


    その日俺は眠ることができなかった。手術で腹をかっ開いて中に石を投げられたみたいな衝撃と、居心地の悪さだった。
    万引きも勿論衝撃的だったが、それ以上にあの軽やかなステップが脳裏に焼き付いて離れない。春は、運動は苦手なの、とよく言っていたではないか。なんで、どうして。そればかりが頭の中でぐるぐる回っていた。
    人違いではないかという考えは、何故か浮かばなかった。







    明け方に一眠りしたのが間違いだった。時刻は9時半。朝練遅刻どころか1限すら始まっている。慌てて跳ね起きるが、思い直す。あの授業は出席を取らないし、2限は空きコマだから、もう一眠りして午後から行こう。扇風機をつけて、自分の方に向ける。窓の外でこうこうと太陽が照っている。









    どれくらい寝ただろう。チャイムの音で目が覚めた。



    居留守を使おうと思ったが、あまりにしつこいから根負けした。ぼさぼさの頭でドアを開ける。睡眠を中断されたことへの精一杯の反抗心を込めて、乱暴に。


    そこには、紗帆が立っていた。

    (携帯)
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■19692 / ResNo.15)  spring 15
□投稿者/ 春風 一般♪(16回)-(2007/08/08(Wed) 00:30:10)
    「1限出なかったんでしょ?泉が今日サボらないように迎えにきてあげた!!」

    にっ、と紗帆は笑う。うん、いい笑顔だ。

    「俺は午後から出勤の予定だったんだよ。」

    「そうですかー。上がるよ。」

    「おう。汚いけど。」

    「知ってる。」


    こいつは、たまに春と似てるな。そんなことを思いながら2つのグラスに麦茶を注ぐ。氷がカラカラと涼しげな音をたてる。

    麦茶を持って部屋に行く。
    「おい、そんなとこにつっ立ってねーで…」

    「あ。」

    紗帆が、明らかに俺のではない可愛らしいキャミソールを見つめていた。

    見てはいけないものを見た、そんな顔だった。



    春の、片付けとくんだった。

    (携帯)
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■19693 / ResNo.16)  spring 16
□投稿者/ 春風 一般♪(17回)-(2007/08/08(Wed) 00:31:47)
    「うん、だから…さ。そういうことだって。」

    薄ら笑いで説明にならない説明をするが、紗帆には通用しないようだ。

    「つまり…彼女がいるってこと?」

    「そういうことになりますか。」

    馬鹿だ。友達のだとかお母さんのだとか、言い訳はいくらでもできたはずなのに。俺はため息をついた。
    と、同時に紗帆も大きく息を吐いた。

    「やっぱりねー。」

    「え?」

    「だって泉が男と付き合ってるのって、想像つかないし。」

    「ああ、そうかもね。」

    でも残念ながら、俺は男とも付き合うんだよ。とは言えなかった。


    それからしばらく俺のことを話していたが、ふと気になって聞いた。


    「紗帆ってさ、俺のこと好き?」



    「泉は。」



    「最高のチームメイトだよ。」


    その言葉に嘘は無い気がした。最高のチームメイト、か。思わず笑みがこぼれる。


    「何笑ってんの?キモーッ!!」

    「うるせえよ!!」



    風が通り抜けた気がした。こいつとは、仲良くやっていけそうだ。

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■19694 / ResNo.17)  spring 17
□投稿者/ 春風 一般♪(18回)-(2007/08/08(Wed) 00:33:17)
    あのコンビニでの一件以来、春とは会っていなかった。元々春の方から誘ってくることはほとんどなかったし、俺の方も実習が重なって、いっぱいいっぱいだったというのもある。ただそれが言い訳に過ぎないことは、自分が一番よく分かっていた。単に、どんな顔をして春に会えば良いのかわからなかったのだ。


    久しぶりに早く部活が終わった木曜日、俺は一人でレンタルDVD屋でも行こうと校門をくぐりぬけた。まだ日が落ちていないことが嬉しい。と、そこで見慣れた姿が目に飛び込んできて慌ててブレーキをかける。春だった。

    「ちょうど通りかかったの。今日早いんだね?」

    「おう。乗れば?」

    少し声が上擦ったのに、春は気付いただろうか。

    ともかく、春を乗せてDVDショップに向かった。途中、ぽつりぽつりと他愛もない会話をしながら。

    春は、驚くほど自然だった。俺がうだうだ考えていたことが全部無駄だったように思われて、なんともみじめな気分になった。同時に、あの日のことは触れないでおくのが最善だとも思った。このまま、なかったことにするのが礼儀であるような気がしたのだ。



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■19695 / ResNo.18)  spring 18
□投稿者/ 春風 一般♪(19回)-(2007/08/08(Wed) 00:34:37)
    DVDショップで古い洋画を2本レンタルする。俺は春の好みで、抽象的で訳のわからない映画をよく借りさせられる。はっきり言って退屈だし、途中で寝てしまうこともしばしばだが、春はいつも最後まで真剣に観る。

    この日、珍しく春は泊まってもいいか聞いてきた。断る理由はなかった。

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■19696 / ResNo.19)  spring 19
□投稿者/ 春風 一般♪(20回)-(2007/08/08(Wed) 00:37:33)
    その夜俺は春を抱いた。

    俺が貸したスウェットを脱がすとき、春の膝に痣があるのを見つけて、どうしたのかと尋ねる。すると春は「転んだの。本当鈍いんだよね。」と笑った。そうか。と言って俺は笑おうとしたが、うまく笑うことが出来なかった。胸のあたりに微かな痛みを感じる。


    ──春は何かを隠している

    そう思うとどうにももどかしくて、それなのに問いただせない自分自身に苛立って、ひたすら指を動かすしかなかった。余計なことを考えてしまわないように。クーラーのきいた部屋の中であるにも関わらず、俺は汗びっしょりだった。


    春と抱き合って眠ったその夜、俺は奇妙な夢を見た。

    小学生の頃の夢だ。

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