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■19697
/ ResNo.20)
spring 20
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□投稿者/ 春風
一般♪(21回)-(2007/08/08(Wed) 00:39:00)
ミニバスの全国大会で、俺は一人の選手を見ている。
その子は華奢で色白で、整った顔立ちをしている。栗色の髪は男の子みたいに短く、そのアンバランスさが何とも言えない。
彼女は小学生とは思えないボールさばきで、ディフェンスを次々にかわす。
ゴール下で彼女は跳んだ。他の選手より頭一つ分小さい彼女が、いつの間にか誰よりも高い位置にいた。
ふわり、とスローモーションのようにボールがリングに乗る。
彼女は後ろも見ずに走り抜け、右の拳を高く挙げる。
ナイスシュート。
俺は息を飲んだ。
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■19698
/ ResNo.21)
spring 21
▲
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□投稿者/ 春風
一般♪(22回)-(2007/08/08(Wed) 00:40:32)
小学6年の冬、俺は初めて自分より上手い小学生に出会ったのだ。これは事実だった。
名前も知らない。学校名すら覚えていない。だけど俺がその姿を忘れることはなかった。そいつより上手くなる。俺はいつも考えていた。所詮小学生の頃の記憶だが、あまりに衝撃的だったのだろう。想像の中でさえ、俺は一度もそいつに勝ったことがない。
『おい!』
『え?』
『決勝まで残れよ。俺と勝負だ。』
『うん。』
俺の無礼な態度に、そいつはなんだか嬉しそうだった。
『君は、きっと強くなるよ。』
最後にそいつが言ったのは、そんな屈辱的な言葉だった。忘れるわけがない。同じ小学生にそんなことを言われるなんて、馬鹿にされたようで腹が立った。このこともそいつを忘れられない原因の一つなのだろう。
夢には続きがあった。決勝でそいつのチームと戦っていた。実際は俺もそいつも決勝には出られなかったのだけれど。
決勝戦は俺たちの負けだった。
やっぱり。なぜかそう思ったところで、目が覚めた。
(携帯)
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■19699
/ ResNo.22)
spring 22
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□投稿者/ 春風
一般♪(23回)-(2007/08/08(Wed) 00:42:33)
目覚めると、そこに春の姿はなかった。布団の、春が眠っていたであろう位置に手を置く。枕に顔をうずめると、春の香りがした。
「行かなきゃ…。」
まだ眠たい目をこすり、俺はゆっくりと起き上がる。それにしても懐かしい夢を見たな。ぼんやりと思う。中学、高校、大学とバスケをやってきて、上手い奴は数え切れない程見てきた。けれども、あの日の小学生ほど俺を興奮させた奴はいなかった。彼女は、今どうしているのだろうか。俺は、あの日の彼女に追いつくことができたのだろうか。
食パンを牛乳で流し込んで、自転車に飛び乗る。なんだかんだでいつもギリギリになるのは、俺の悪い癖かもしれない。
お願いしまーす、と体育館に駆け込む。早速紗帆に怒られる。
「遅いよ、泉!」
「丁度じゃん。計算通り。」
速攻で靴ひもを結び、準備体操に入る。
フリーシュートの後で、俺は紗帆と1対1をした。紗帆の方が申し出てきたのだ。
10分後、膝に手をつく紗帆を前に俺は笑っていた。100年早ぇよ。なんて言いながら。
「やっぱ強いなぁー…。結構頑張ったんだけどなあ。」
素直に悔しがる紗帆はかわいい。
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■19700
/ ResNo.23)
spring 23
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□投稿者/ 春風
一般♪(24回)-(2007/08/08(Wed) 00:44:01)
「泉に勝てる女子なんていないんじゃない?」
女子、ねぇ。やっぱり俺は、普通の女子とは身体の作りからして違うんだろうか。自嘲気味に俺は笑う。そして、思い出す。
「いるよ。」
「え?」
「俺なんかよりよっぽど上手い小学生。」
「小学生!?」
「あ、今は大学生かな。」
そろそろ行こうか。と、俺はボールをつきながら紗帆に背を向ける。あいつは今どこにいるのかな。バスケを続けていれば、いつか必ず会えると信じていたのに。全中に出ても、インハイに出ても、彼女は現れなかった。
「小学生といえば。」
紗帆が言う。
「風なら、泉に勝てたかもね。」
「かぜ?」
「私が小学生の頃のチームメイトだよ。」
俺は思わず叫びそうになった。バスケの上手い小学生なんて、いくらでもいるというのに。
「天才だった。」
そう言った紗帆の顔を見て、確信した。俺が探していたのは、“風”だ。
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■19701
/ ResNo.24)
spring 24
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□投稿者/ 春風
一般♪(25回)-(2007/08/08(Wed) 00:45:27)
風、かぜ。どこかで聞いた名前のような気がした。
一日中、頭の中は風のことばかりだった。俺の探して求めていたあいつは、紗帆のチームメイトだった。
紗帆から聞いたのは、風という名の天才プレイヤーがいたことと、彼女には双子の姉がいたこと、そして風は中学生になる前に交通事故で亡くなったということだった。
俺には信じられなかった。小6の頃にたった一度会っただけの風に、妙な執着を持ちすぎていたのかもしれない。俺が8年間憧れ続けた選手は、8年前に既にこの世を去っていた。そんなことがあってたまるか。信じたくなかった。
(携帯)
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■19703
/ ResNo.25)
spring 25
▲
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□投稿者/ 春風
一般♪(26回)-(2007/08/08(Wed) 00:47:04)
翌日から、俺は学校も部活もサボって仙台に行った。そこは紗帆の地元であり、風の地元だった。紗帆に教えてもらった学校名を頼りに、小学校を探した。本当のことが知りたかった。
数日を過ごして、俺は東京に戻る。自分の中の仮説が、揺るぎないものに変わっていくのを感じていた。
「話がしたい。今夜そっちに行く。」
留守電にメッセージを残し、俺はため息をついた。
(携帯)
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■19704
/ ResNo.26)
spring 26
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□投稿者/ 春風
一般♪(27回)-(2007/08/08(Wed) 00:48:48)
「久しぶり。」
玄関の扉が開くやいなや、俺は努めて明るく言った。
「入って。」
春は言ったが、俺はそれを断る。ちょっと出ない?と車の鍵を見せる。春は無言で頷くと、サンダルに脚を入れた。
車の中は沈黙だった。だが苦痛ではなかった。ちらりと春の方を見る。これから起こることを分かっているように思えた。
俺が車を停めたのは、近所の児童公園だ。バスケットのゴールが設置されていて、昼間はよく子どもたちが遊んでいるが、この時間ともなれば人の気配は無い。俺は車を降りると、後部座席のドアを開けてボールを取り出した。
「バスケ。しようか。」
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■19705
/ ResNo.27)
spring 27
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□投稿者/ 春風
一般♪(28回)-(2007/08/08(Wed) 00:50:13)
暗闇の中で、春は微笑んだ気がした。俺がドリブルをひとつついた瞬間、黒い影が足下を走る。あっという間のスティール。
ぞくぞくするのを感じた。やっぱり、やっぱりそうか。本当は、半ばハッタリだった。でもそんなことはどうでもいい。こうして春とバスケをしている今が、永遠に続けばいいと思った。
春は素早かった。8年間のブランクがあるとは到底思えない。おまけにサンダル履きで。こいつが今までバスケを続けていたらどんな化け物になっていたか、想像して身震いした。
そうして俺たちは、春が「限界」と苦しそうに呟いてベンチに腰掛けるまで、1時間近く無言で1on1を続けた。
俺はすぐ近くの自販機でスポーツドリンクを2本買ってきて、春の隣に座る。2人ほぼ同時にカシュッ、とプルタブを開ける音が響く。
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■19706
/ ResNo.28)
spring 28
▲
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□投稿者/ 春風
一般♪(29回)-(2007/08/08(Wed) 00:51:26)
春は、言葉を探しているようだった。
一口飲んで、俺は言う。
「風、なんだろ。」
春はさほど驚いた様子もみせなかった。ゆっくり、穏やかな声で「そう。私は風。」と言った。
思わずドキッとした。そのときの春の横顔を見ていたら、彼女は本当に風、つまりwindなんじゃないかと思ってしまったのだ。
「春は、君のお姉さんなんだろ?」
「双子の、ね。顔はそっくりだった。」
「どうして」
絞り出すような声で訊いた。それが一番知りたいことだった。なぜ彼女は天才バスケットボールプレイヤーである風をやめ、春として生きることを選んだのか。
「春は、すごく優秀だった。」
双子は常に比べられる。歳の異なる姉妹以上に直接的に、詳細に。
風は、苦しそうに言った。
「父も母も、真面目で勉強のできる春の方を愛してた。」
「そんなこと…」
「事故が起きたとき、春は私を助けて死んだの。
本当に死ぬはずだったのは、風の方だった。」
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■19707
/ ResNo.29)
spring 29
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□投稿者/ 春風
一般♪(30回)-(2007/08/08(Wed) 00:53:03)
あぁ。俺は唸った。そんなことがありえるなんて。
確かに俺は、春は風なんじゃないかと疑っていた。けれども、こんな過去があったなんて。混乱する。そこで、ひとつの疑問が湧く。いくら双子といえども、両親に見分けがつかない訳がない。俺はそのことを風に尋ねる。
すると風の顔が曇った。
「両親はね、私が春ならいいのにって思っていたの。」
「事故の後で、両親は私を“春”と呼んだ。」
心臓がドクン、と鳴ったのを感じた。
「その瞬間、私は春になろうって決めたの。風は、死んだの。」
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■No19707に返信(春風さんの記事) > あぁ。俺は唸った。そんなことがありえるなんて。 > 確かに俺は、春は風なんじゃないかと疑っていた。けれども、こんな過去があったなんて。混乱する。そこで、ひとつの疑問が湧く。いくら双子といえども、両親に見分けがつかない訳がない。俺はそのことを風に尋ねる。 > すると風の顔が曇った。 > > > 「両親はね、私が春ならいいのにって思っていたの。」 > > > 「事故の後で、両親は私を“春”と呼んだ。」 > > 心臓がドクン、と鳴ったのを感じた。 > > 「その瞬間、私は春になろうって決めたの。風は、死んだの。」 > > > > (携帯)
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