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■20068 / ResNo.10)  ALICE 【71】
  
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(58回)-(2007/09/22(Sat) 03:48:14)
    逃げ込んだと思った場所は、


    安全地帯では無く、むしろ地雷がそこら中に埋め込まれているような、


    居心地、もとい生きた心地もあまりしない部屋だった。




    ユニが居る事を、忘れていた。




    なんて、いい加減な私の脳。




    ユニはベッドに仰向けに寝転んで、

    彼のお気に入りの写真集(世界のポストばかりが被写体の)を両手で掲げ、覗いていた。



    視線はそのままで、「誰か、来たの?」 と彼が言う。



    「あぁ、うん。同僚。ほら、この間も夜中に来た娘。なんかね、訳ありみたいで」


    「・・そう」



    七部丈の綿パンを履いて、

    どうしたものかと、私はこちらを見ないユニを眺める。



    「ユニ、あのさ、さっきの話なんだけど―――」

    「ああ、ごめん」

    「ううん、びっくりしたけど、だっていつものユニらしくなかったから。でも悪いのは私だから」

    「僕らしいって、何?」



    その声があまりに鋭かったので、


    彼は未だ視線を写真集に当てていたが、

    それでも私は彼に背を向けたくなった。


    またユニに、睨まれているような気分になったのだ。


    ああ何て言おう。


    僕らしいって何?


    というか、 僕らしいって何?  って何?

















    別れたい。


















    その言葉が、ストローで吸った空気のように、

    “ぽっ”  と、

    私の頬の内側、柔らかな口内の湾曲の壁にぶつかった。



    信じられない思いで、

    私はその膨らみを呑み込む。




    ああ、嫌、もう、私っていつもこう。

    リビングにはアリスが居るのに、

    私は全然変わらないんだわ。






    「ごめんねユニ。でも、貴方が心配しているような事は、無いから」



    それはつまり、私は他の雄猫との情事を交わしてなんていないのよ、という意味で。

    実際私が交わっていた相手は、雌であるのだし。



    ・・・なんて、そんな事を本気で言い訳に出来るとは考えていないが、

    だがいずれにせよ、得体の知れない怒りを抱いているユニに、

    “浮気”を認めるような事は、とても言えない。



    私のこの言い訳にユニはどう反応するのだろうと、

    様子を伺っていると、



    ようやく彼は広げていた写真集をパタンと閉じて、

    私を向いた。



    「こっちこそ、ごめん。もういいんだ」


    そう言って、ニコッと笑った。



    いつもの笑顔。



    けれど私は、彼のその笑顔を見る度にこれまでいつも感じていた、

    広いプールに仰向けに浮かんでいるような、開放的な安穏を、


    もはや抱く事は出来なかった。




    ただ、


    ―――器用に笑う男の子




    そう、感じただけ。





    私たちの間で、今夜、何かが変わった。




    でも、それが何かを今確かめる気は、私にも、ユニにも無い。





    「じゃあ、ちょっと、家出娘の様子を見てくるね」


    適度におどけた調子でそう言い、

    私はユニの居る寝室を出た。






    今夜はこれで終わりだが、


    いずれユニとはきちんと話をしなければならないのだろう。


    今まで、会話が少なすぎたのだ。

    そう、今までが楽すぎただけ。




    今後の事を考えると気が重いが、

    今考えたって、仕方がない。






    さて、次はアリス。





    気持ちを切り替えて廊下を進み、


    リビングに入って後ろ手でドアを閉めると、



    玄関のオートロックが閉まる音が、


    それに重なった。
引用返信/返信 削除キー/
■20147 / ResNo.11)  続きを楽しみに待っています
□投稿者/ ミコ^_^# 一般♪(1回)-(2007/10/07(Sun) 23:59:25)
    あおいさん、体調はいかがですか?お仕事忙しとは思いますが、更新を楽しみに待っています。
    アリスの訪問が気になりますし、ルイ子とユニの関係がどうなるのか気になります。
引用返信/返信 削除キー/
■20148 / ResNo.12)  続きを楽しみに待っています
□投稿者/ ミコ@^_^@ 一般♪(1回)-(2007/10/08(Mon) 00:00:24)
    あおいさん、体調はいかがですか?お仕事忙しとは思いますが、更新を楽しみに待っています。
    アリスの訪問が気になりますし、ルイ子とユニの関係がどうなるのか気になりますので。
引用返信/返信 削除キー/
■20157 / ResNo.13)  ALICE 【72】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(59回)-(2007/10/10(Wed) 04:52:47)
    2007/10/28(Sun) 07:32:54 編集(投稿者)

    オートロックの閉まる音の意味について、

    追求するのを後に回す決意を一瞬で下した私は、



    アリスの姿を認めようと、

    室内を見渡した。



    が、彼女は見当たらなかった。




    トイレにでも行ったのだろうかと思ったが、

    そうではなく、アリスはソファで眠っていた。





    自分で自分を抱き締めるような、

    いつもの態勢で、


    左頬を下にして、クリーム色の革の上に横たわる彼女は、


    瞼に深い疲労の色を滲ませていた。




    枕元のアーム部分に垂れかけてある、

    彼女が持参した衣服を持ち上げる。



    クリーニングのビニールに包まれていたのは、

    私のスエットと、

    もう一つは、
    アリスが着ているところを見た覚えのある
    薄いピンクのカーディガン。


    残りは新調したもののようだ。


    明日の出勤用の一式だろうか。


    ボートネックの、濃紺のツーピース。

    スカートのフレア具合が少女チックだけど、上品。


    アリスが着たら、

    きっと着せ替え人形みたいになるだろう。


    私が着たら、

    老けた幼稚園児のような異様さがあるのだろうな。



    …着ないけど、というか着られないけど。サイズ的に。




    この服も、

    所長が用意した物なのだろう。



    今夜は、彼女の機嫌でも損ねて、追い出されでもしたのだろうか。


    ものの数分で倒れて眠り込んでしまうほど、
    疲労困憊しているアリスが、

    午前4時に、
    捨て猫のようにあてもなく、
    街を彷徨う姿を思い浮かべるのは、

    耐え難かった。




    洋服をクローゼットに掛ける為、

    リビングを出た。



    灯りの消えていた寝室には、

    誰も居なかった。



    思った通り、ユニは出て行ってしまっていた。


    写真集はベッドの真ん中に裏表紙を上にして横たわっている。


    アリスの服を掛けた後、

    写真集を手にとって、
    フラップ書棚の最上段に置かれている、
    ユニのローライの隣りにそれを並べた。


    ここが、ユニの宝物の定位置。


    そしてこれが私の家にあるユニの全財産だ。



    寄り添う二つを眺めながら、


    ―――好きなのになぁ



    と、思った。



    私、ユニの事、好きなのになぁ。

    どうして上手くいかないんだろう。



    そりゃあ、私が滅茶苦茶な恋愛観を持っている所為なのだろうけど。

    ダイナと寝ても、ユニに罪悪感一つ感じなかった、
    私はそんなどうしようもない女なのだけど。


    でも、ユニの事、好きなんだけどなぁ。



    でもそれも、好き“だった”に変わりつつあるのだろうか。

    私はもう、ユニのあの笑顔に太陽を想う事が無くなるのだろうか。




    こんなに切なくなるなんて、思わなかった。







    別れたいなんて、思って、ごめん。






    丸いレンズカバーに向かって、


    その向こうにあるユニの瞳に向かって、




    私は心の中で呟いた。
引用返信/返信 削除キー/
■20158 / ResNo.14)  ◆ミコ^_^#さんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(60回)-(2007/10/10(Wed) 04:57:36)
    メッセージありがとうざいます。
    サボってしまってごめんなさい。
    これからちょっと面倒な文脈になるので、
    それを見越して二の足を踏んでいました。
    情けないです。

    渇も含んだ応援コメントに感謝致します。
引用返信/返信 削除キー/
■20231 / ResNo.15)  ALICE 【73】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(61回)-(2007/10/24(Wed) 02:54:46)
    2007/10/28(Sun) 07:34:02 編集(投稿者)

    寝室から運んで来たブランケットをアリスにそっと掛け、

    メインのシーリングライトをOFFにし、

    窓際のブラケットライトをつけた。




    それからキッチンで濃い濃いエスプレッソを入れた。


    一杯分でグラニュー糖が切れたが、

    運が悪いのじゃなく、良いのだと、意識してそう思うようにした。



    ポジティブ・シンキングの褒美か、少し泡も立った。






    カップを持って、

    アリスの眠るソファの足元に腰掛ける。


    一口含むと、

    予想していた以上に、

    でもきっと望んでいた具合に、


    深い、きつい苦味が口中にわっと広がった。


    そうして私は、

    ユニとのキスの味を消し去った。








    ―――さぁ、


    パズルの時間だ。





    ダイナは、“ アリス ” を偽名だと言う。

    パスポートの記載では、アリスの本名は、


    ――― SONOMAI KURENO


    園真井クレノだ。

    くしくも下の漢字は不明だが。
    平仮名であろうと片仮名であろうと、
    そうそう無い名前なのは確かだ。


    そして、
    アリスとアリスの母親・真白と大変よく似た容姿を持つ一人の女優、

    彼女の名もまた、“クレノ” である。


    本名:藤鷲塚紅乃

    芸名:紅野心





    アリスはあの晩、


    “ あの男が魔女の名で私を呼ぶ度に、私は自分が汚されていくのを感じた ”


    と、そう言った。


    “アリス”が本名だと思っていた私にとって、
    その台詞は全く意味が不明だったが、
    それが偽名となると、話は別だ。


    アリスの本名が“クレノ”なら、
    当然父親はアリスをクレノと呼んでいたのだし、
    つまり、つまりは、

    魔女の名 = クレノ

    ということになる。


    クレノという名がいくら稀少だからといって、
    それだけで魔女の正体が紅野心だと断定するのは浅はかだ。


    そこで鍵となるのが、

    紅野心と真白の容姿である。


    “男”つまりアリスの父親が、
    紅野心に似ているという理由を主にして真白をめとったのだとしたら?


    そして本当の想い人である、妻以外の女の名を、
    娘に付与したのだとしたら?



    ―――こう考えると、


    “ 母は、魔女の名が付いた私を傍に置いておくのが怖かったんだと思う ”


    というアリスの台詞の説明にも繋がる。





    となると、


    アリスと紅野心の関係は、

    血縁でもなく、

    ただ単に、

    女優と、
    その女優にブラウン管越しに恋をした男によって、
    同名を授けられてしまった不憫な人間、

    それだけなのか。



    いや、違う。



    紅野心のHPに記載されていた芸能履歴によれば、
    彼女のデビューは、

    今から16年前。


    アリスは現在20歳。


    アリスが誕生した時にはまだ、
    紅野心の存在は世に知られていない。


    という事はつまり、

    アリスの父親はブラウン管越しではなく、
    三次元で紅野心の、いや、藤鷲塚紅乃の存在を認識していたという事だ。


    アリスの薄志的で断片的な台詞の幾つかを寄せ集めて、
    そこから考えを巡らすなら、

    真白はどうやら魔女の存在で心を病んだようである。


    配偶者がTVの中の人物に恋い焦がれ、
    それが家庭崩壊の根本的な要因になるなどという事は、

    可能性としては大きく見積もれない。


    アリスの父親と紅野心は、
    実際に顔を見知った仲であり、

    そこに継続的では無いにせよ、何らかの不道徳な関係があったと考えるのが、

    妥当だ。


    そしてアリス自身も、
    紅野心と面識があったと、
    考えて良いだろう。


    “ 男は私を魔女の所に幾たび連れ出した ”


    アリスはそのように言っていた。



    “魔女”に対してアリスが好意的な感情を抱いていない事は、
    あの夜の彼女の表情、声質、言い回しから判断するに、かなり明確である。


    恐れ、そして強い憎しみが、
    アリスの瞳に込められていた。


    真白とは、2歳までしか暮らしていないのだから、
    母親から“魔女”への憎しみを植え付けられた訳では無さそうだ。


    この辺りで、

    “魔女” を “紅野心” と断定してパズルを進めるとしよう。




    父親が紅野心についての悪口雑言をアリスに浴びせ聞かせたという可能性もあるが、

    (何故なら人間には、
     『可愛さあまって憎さ百倍』
     という、理屈では説明の付かない感情が存在するから)

    それでも、

    “ あの男は死んで当然だった ”

    とまで言うほど父親を憎んでいたアリスが、
    彼の言意を鵜呑みにするとは思えない。


    やはり、

    紅野心本人から直接与えられた印象を基に、
    アリスは彼女への憎しみを、
    瞳と胸の奥に着床させた、

    という見方が有力な気がする。



    紅野心は、


    幼いアリスに、何らかの攻撃性を含む言動を投棄していたのか、



    あるいは今尚、悪意を浴びせ続けているのか。






    もし後者であるのならば、



    魔女の攻撃からアリスを守る為に、


    私に出来る事は、何なのだろう。
引用返信/返信 削除キー/
■20232 / ResNo.16)  ALICE 【74】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(62回)-(2007/10/24(Wed) 03:03:58)
    脈絡もなく、推察を並べ散らかしてみたが、

    要点を簡潔にまとめる事にしよう。



    アリスの父親と、紅野心(魔女)の間には、
    何かしらの関係性が在していた。

    父親は紅野心を恋い慕い続け、
    妻・真白には彼女の影を重ね、
    真白との間に産まれた子供・アリスには、
    想い人の名を付与する。


    その因果を真白がどの段階で気付いていたかは定かではないが、
    とにかく彼女は夫の内面的、もしくは肉体的裏切りに耐えきれず、
    心身を病み、
    真白・アリスの母娘は共に暮らす事が不可能となる。


    “ 男と魔女と仲間達に捕まった ”


    この台詞がどういう状況を指すのかは、
    今の段階では謎だが。



    真白と離ればなれになった後、
    アリスは身体さえろくに顧みられずに育つ。

    意図は不明だが、父親はアリスを定期的に紅野心に引き合わせる。

    紅野心はアリスに友好的では無かった。
    それがどのような類、また程度だったかは不明だが、

    アリスは父親に対するのと同様の憎しみを、
    彼女に対しても抱き、
    “魔女”と認識する。


    賢いアリスの事だ、
    誰に教わらなくとも、
    自分の家庭を崩壊に導いた原因が、
    写真で見る母親に瓜二つの女とその周囲にある事を、
    独りでに理解していったのかも知れない。



    そして、


    時の経過の具合は分からないが、
    真白は父親と紅野心を要因とする死を遂げ、

    アリスが10歳の時にはその父親もこの世を去った。





    この間、事務所で三葉達と繰り広げた会話によれば、

    紅野心が正当防衛で兄を殺害したのも、


    10年前だ。


    同じ時期に、
    紅野心の周囲で二人の人間が死んでいる。

    そして真白の死にも、彼女は何らかの関わりを持っている。


    なんて、陰暗なオーラに包まれた女だろう。













    こうやって、

    ほんの少し、
    しかもほとんどが正確な裏付けもないまま、
    ただの推測の域を出ないまま、
    アリスの過去を垣間見ただけだが、それが、

    『幸せな子供時代』

    とは、遠くかけ離れている事だけは、
    ハッキリと、クッキリと分かる。

    分からされる。



    もっともっと、
    確実で詳細な情報が欲しいところだが、
    それを何処で手に入れれば良いのか、分からない。

    それに、
    私がいくら、こそこそ嗅ぎ回って、
    地道にアリスの園の茨を掻き分けて進み、
    残酷な事実に身を切られる思いを味わおうとも、

    その痛みをアリスと分かち合えなければ、


    きっと意味が無い。



    私は、アリスに笑顔でいて欲しいのだ。
    これまでは、違ったのだとしても、
    この先の人生を、
    笑い声の響く、そんな日々に変えてあげたいのだ。


    だから、
    今、私のすぐ横で儚げに眠る彼女の口から、
    弱音や泣き言を、
    直接聞く事が出来なければ。

    多分、無意味なのだと思う。


    さりとて私の方から、
    立ち入った質問を浴びせるのは、
    それは度胸があるのではなく無謀な行動だ。



    私がしている事は、間違っているのだろうか。


    アリスの笑顔を見たいが為に、
    アリスの過去の女と肉体関係を持つ事は、
    正しいのか。
    そこに、矛盾は無いのか。



    いや、違う。


    この場合問題にすべきなのは、
    何が正しくて何が間違っているかという事じゃなく、

    アリスがどう思うか、だ。



    私のしている事を知った時、

    多分、アリスは私に笑顔を見せなくなる。




    …でも、

    もしかすれば、
    アリスにとっては全くどうでも良い事なのかも知れない。


    『へぇ、ダイナと寝たんだ。彼女の指、なかなかでしょ』

    なんて、そんな冗談を平気で返してくる程、
    痛くも痒くも無い事なのかも知れない。

    私のやっている事なんて、アリスにとっては。



    …バカだ、私は。大馬鹿だ!!!



    私は自分の頬を、両手でピシャッと挟み打った。


    これじゃあ、
    アリスをオモチャにしてきた女達と一緒ではないか。

    アリスのことを、
    何の感情も持たない人形だと決めつけて、
    自分だけ傷付いたつもりで打ちひしがれる、
    手前勝手な女達と、
    何ら変わりないではないか。



    私は、そんな風にはアリスを見ていない。

    アリスの澄んだ瞳を知っている。
    曇りの無い笑顔を知っている。
    夢に怯えて眠る夜や、
    隠した涙や、
    内に秘めた悲しみや憎しみや切なさを、

    この目で見て、この心で、感じたのだ。


    そして、

    もっと、ずっと、アリスの事を知っていきたい。

    そう思ったのだ。



    近付きたいと思っているその相手に、

    私が隠し事をしてどうする。




    やはり、もうこれ以上ダイナと会う事はやめよう。





    私は、そう心に決めた。
引用返信/返信 削除キー/
■20236 / ResNo.17)  おつかれさまです
□投稿者/ 読者 一般♪(2回)-(2007/10/25(Thu) 07:27:48)
    断片的にさらりと読み進むエッセイもいいですが、
    最後は一冊の推理小説として読み返したいですね。

    つづきを楽しみにしています。
引用返信/返信 削除キー/
■20243 / ResNo.18)  ALICE 【75】
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(63回)-(2007/10/28(Sun) 07:40:20)
    「それ、痛くないの?」






    不意打ちの質問に、息を呑んだ。


    首だけ回して振り返ると、

    パッチリと目を開いたアリスが、
    ソファに横たわったまま、私をじっと見ていた。


    「起きてたの?」

    「起きたの。ルーイが自分で自分に暴力を振るっている音で」

    「…ごめん」

    「ルーイって、変な事する」


    そう言ったアリスが、片眉をひそめて笑顔を作る。




    嫌なところを見られてしまった。



    「キャベツなんかが食べられない人に、変人呼ばわりされたくないな」

    「だって、草々する」




    横たわったまま、アリスが小さく欠伸をする。

    野生動物の赤子の様子を、
    望遠鏡で遠くから覗いている時に、
    思いがけずキャッチ出来たお宝映像のようだった。


    憎らしいほど愛らしい。



    「クサクサ?何それ。キャベツがクサクサって…。
     そういえば、この間お弁当食べたあの場所、あんな所、どうやって見つけたの?」

    「ああ、園(その)ね」




    ―――なるほど。

    “園” なのか、あの公園は。



    “ガーデン” は、アリスの夢の中に存在しているのだし、
    あの場所をどう呼べばいいのか、少し迷っていたのだ。



    「そう、園。あんな場所、よく見つけたわね」

    「偶然ね。一年ほど前に。一目で、好きになった」


    そう言うとアリスは上半身を起こし、
    ブランケットを体に巻き付けて、ソファの上であぐらをかいた。

    私も床から腰を浮かして、
    アリスの隣りに腰掛ける。


    「うん、分かるよ。何て言うか、独特の雰囲気があるよね、あの場所。園」


    眠たそうに目をしばたかせながら、
    アリスがニッコリ笑う。

    私も思わず口元が緩む。


    「きっとさ、昔は相当綺麗だったんだろうね。きちんと手入れされてた頃はさ」

    「うん。40年前は、少なくとも井戸の水はまだ涸れていなかったみたい」

    「へえ、40年前か。…どうして分かったの?調べたの?」



    アリスにも何か飲み物を持って来ようと、
    私は腰を浮かしかけた。



    「40年前。私の母が産まれた」



    思わず動作を止めた。








    相槌を打つべきか、アリスの横顔を見ながら考えていると、

    アリスが続けて口を開いた。






    「私の母は、園に捨てられていた」
引用返信/返信 削除キー/
■20244 / ResNo.19)  ◆読者さんへ
□投稿者/ あおい志乃 ちょと常連(64回)-(2007/10/28(Sun) 07:50:35)
    コメントありがとうございます。


    ・・・・ごめんなさい。

    本当、恋愛エッセイに投稿する内容では無いですよね。
    堅すぎ、複雑すぎ、に加えて、
    更新滞りすぎ。
    前回までのストーリーを忘れて下さいと言っているようなものですね。

    完結させる事が出来ました時には、
    一度、全ての投稿をまとめてツリーにしたいと思います。


    楽しみにしていますと言って頂けて、
    とっても嬉しいです。
    少しずつの更新にも、辛抱強くお付き合い下さいましたら幸いです。
    もしくは、完結するまで黙殺して頂ければ。


    ああ、カーテンを開けば夜が明けていました。
    日曜日ですね。
    良い休日を!
引用返信/返信 削除キー/

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