ビアンエッセイ♪

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■20202 / 親記事)  色恋沙汰A
  
□投稿者/ 琉 ちょと常連(95回)-(2007/10/17(Wed) 20:34:57)
    …夢を見た。
    遠い記憶のトンネルへ迷いこんだかのような夢だった。
    いつ、どこで、誰と話していたのかは分からない。
    けれど、何だかとても温かくなるような
    お喋りを楽しんでいた…気がする。

    「ほら、もう朝よ!早く起きなさい」

    深い眠りの淵で、誰かの声が聞こえてくる。
    ああ、この声の主があの人だったら良いのにな…
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■20203 / ResNo.1)  第二章 あじさいもよう (1)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(96回)-(2007/10/17(Wed) 20:43:46)
    私にとって憧憬とは、超えたくても超えられない境界線だった。

    あんな風になりたい…
    誰でも一度は同性に憧れたことがあるだろう。
    部活の先輩、学校の先生に職場の上司。
    きっかけは何でも良い。
    大切なのは、それがどれだけ強い気持ちなのか。
    『憧れは所詮憧れでしかない』
    誰かがそう言っていた。
    でも、私はそうは思わない。
    だって、あの人を意識するまでそう時間はかからなかったから。
    憧れと恋慕の境界線。
    …曖昧なグレーゾーンがあまりにも広すぎる


    それは、連日傘をさす梅雨の六月のことだった。
    生まれて初めてお嬢様学校に入学して早二ヶ月あまりが過ぎ、
    和沙もようやくこの女子校独特の雰囲気に慣れつつあった。
    現役生徒会長による異例の生徒会候補生の大抜擢により、
    和沙は相変わらず生徒会に通う日々を続けていた。

    「良いわね〜。澤崎さんは」
    なんて、うっとりした様子で心底羨ましそうな表情をする
    クラスメイトの西嶋さん。
    もう手伝いを始めてから結構経つのに、未だに彼女は羨ましいようだ。
    そんな話を振られた和沙はげっそりしながら、
    「何なら変わろうか?」
    と言いたいのをすんでのところで我慢していた。

    一方、同じく羨望の眼差しを向けられたもう一人の片割れはというと…
    もぐもぐもぐ…
    だったらどうした?と言わんばかりの顔をして
    食べかけのメロンパンを思いっきり頬張っていた。
    低血圧だという希実は、朝食を食べてこないで
    こうやって登校してから自分の席で食べるということが珍しくない。

    「だから、朝はちゃんと家で食べなって…」
    そう呆れながら笑うのは、二階堂菜帆さん。
    彼女は百合園高校の副会長である二階堂斎の実妹である。
    学級委員長を務める彼女は、お姉さんとは違って
    おしとやかで慎ましい…姉本人に向かってはとても言えないけれど。
    菜帆は中学からの持ち上がりらしいが、
    最近は和沙や希実らとよく一緒に居ることが多い。

    入学当初には友達ができるか不安でいっぱいの和沙だったが、
    今となっては要らぬ心配だったようだ。
    もともと賑やかなのは嫌いではないため、
    和沙はこの状況をけっこう気に入っていた。
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■20204 / ResNo.2)  第二章 あじさいもよう (2)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(97回)-(2007/10/17(Wed) 20:48:34)
    教室の窓にはどんよりとした空が顔を覗かしていた。
    今は降っていなくても、天気予報では午後から
    また雨になると言っていた。
    今日でもう四日連続の雨だ。
    日本中の湿度が上がるこの時期は、
    紫陽花が一番綺麗に咲く季節でもあった。
    ここのところ、和沙は大庭園の紫陽花通りへ
    遠回りして帰るのが日課になっている。
    六月生まれの和沙は、花の中で紫陽花が一番好きだからだ。
    赤、青、紫と色とりどりの紫陽花。
    淡い色は変わりやすく、同じ花を何回でも観賞して楽しめる。
    和沙は一人しゃがみこんで、花びらに残る水滴に
    触れながら遠い記憶を回想していた。


    「和沙。ほらこっちよ、和沙」
    一人の少女が手招きしている。

    あれは…?

    どこから見たことがあるような…でもすぐには思い出せない。
    「おねえちゃん待ってよぉ」
    もう一人の少女はそれを必死に追いかけている。


    …ああ、そうか。

    これは幼い頃の自分だ。
    そして、たぶん前の彼女は…
    和沙がどれだけ必死に走っても、後姿はどんどん離れていく。
    追いつけなくてついには泣き出してしまった。
    「泣かないで。ほら、可愛い顔が台無しよ」
    いつの間に戻ってきたのか、
    少女は白いハンカチを差し出して和沙の頬にあてた。
    そう。
    優しく拭ってくれたあの感触を忘れるはずがない。
    彼女は和沙のただ一人の姉だった。
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■20205 / ResNo.3)  第二章 あじさいもよう (3)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(98回)-(2007/10/17(Wed) 23:20:33)
    「やっぱりここに居たのね」
    まるで長い間探していたかのような真澄の声だった。
    和沙は、呼ばれるまで小雨が降り始めていたことにすら
    気づいていなかった。
    雨に濡れた制服はしっとりと湿っている。

    「どうしたの?傘を忘れるなんてあなたらしくない」
    どうやら教室に傘まで置き忘れてしまったことに、
    和沙は真澄に指摘されて初めて気がついた。
    「先月のまだ花が咲かないうちから通っていたようだけど…
    あなた、そんなに紫陽花が好きなの?」
    真澄が言ったことは本当だった。
    和沙は、五月から開花するのをまだかと楽しみにしていた。
    けど、そのことを真澄が知っていたとは驚きだった。
    「まあ…それなりに好きなんですけど」
    こういう時、返答に困るものだ。
    好きなことは好きだが、それが何故かって訊かれても
    何となく言いたくないものは言いたくない。
    「ほら…いいから私の傘に入りなさい。
    これ以上濡れると、風邪をひいてしまうわ」
    絶対に何か追及されると思ったのに、
    真澄はこちらが気抜けしてしまうほど
    あっさりと引き下がった。

    何も訊かないの…?

    「そう…和沙は紫陽花が好きなのね」
    真澄はつぶやくように言うと、温室の方へと導いた。
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■20206 / ResNo.4)  第二章 あじさいもよう (4)
□投稿者/ 琉 ちょと常連(99回)-(2007/10/17(Wed) 23:26:37)
    温室の中は、冷たい雨露をしのぐのに充分だった。
    真澄はいつものベンチに和沙を座らせると、
    簡易キッチンの方へお茶を淹れに向かう。

    ザアァァァ…
    外の雨音はだんだん強くなってきた。
    二人しか居ない空間には、ちょっとした物音でもよく響く。
    けど、噴水の音や小鳥のさえずりですらも、
    今の和沙には癒し効果をもたらしてはくれなかった。

    何で、あんなこと思い出したんだろう…

    とっくの昔に封印したはずの記憶だったのに、
    先ほどは驚くほど鮮明に蘇ってきた。

    ハアッ…ハアッ…
    まだ、胸の動悸がおさまらない。
    いやそれどころか、考える時間ができた分、
    それは余計と激しさを増していった。

    「大丈夫?」
    ふと横から真澄が声をかけた。
    ちょうどお湯が沸いたようで、ティーカップを二人分
    用意しているところだった。
    「平気…です」
    和沙は無意識に自らの胸に手をやった。
    「本当に…?」
    真澄が近づいてきて、和沙の手に自分の手を重ねる。
    「鼓動が早いのね…私の手にまで伝わってくるわ」
    添えられた手は温かくて、しばらくすると
    和沙は自然と落ち着いていくのを感じた。
    「落ち着いた?」
    再び真澄が和沙に尋ねる。
    気がつくと…ずいぶんと近くに彼女の顔があった。
    「あ…もう落ち着きましたから、大丈夫です!」
    動揺していることを知られないように、
    和沙は大げさなリアクションをとった。
    「そう?なら、良かったわ。
    待っていなさい。今、紅茶を淹れてくるから」
    そう言うと、真澄は屈んでいた腰を起こし、
    和沙に背を向けてキッチンへと戻っていった。

    ビックリした…

    和沙は再度、胸に手をあてる。
    もう制服のワイシャツは皺ができていた。
    忘れるところだった。
    彼女は絶世の美女で…ドアップの顔には迫力があることを。
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■20209 / ResNo.5)  NO TITLE
□投稿者/ のん 一般♪(2回)-(2007/10/18(Thu) 02:20:32)
    第2章突入おめでとうございます。 続きを、楽しみにしています。 頑張ってください(^0^)/

    (携帯)
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■20210 / ResNo.6)  のん様
□投稿者/ 琉 常連♪(100回)-(2007/10/18(Thu) 07:05:41)
    こんにちは。励ましのお返事をありがとうございます。
    読んでいるとお気づきになるかもしれませんが、
    第一章の後半にかけての話は、文章量がやたら多くなります。
    スレッドの関係で、せかせかしてしまいました…
    初めて投稿するので、未だよく分からないことばかりですが、
    完結を目指して頑張ります。
    第二章は、初夏のひとときが舞台です。
    これから更に登場人物が増え、いろんなことが巻き起こっていきます…ので、
    和沙たちの成長を見守っていただければありがたいです。
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■20211 / ResNo.7)  第二章 あじさいもよう (5)
□投稿者/ 琉 常連♪(101回)-(2007/10/18(Thu) 11:27:18)
    真澄が淹れてくれた紅茶は、ふんわりと甘い香りがした。
    フレーバーティーというらしい。
    「おいしい…」
    思わず和沙はそう呟いた。
    いつのことだったか、初めて真澄とここで会った日にも感じたが、
    彼女が淹れてくれるお茶はまろやかな中にもアクセントがあって、
    おそらく表現するなら通好み、とでもいうべきか。
    とにかく、とても美味しいのだ。
    「そう言ってもらえるのが何よりよ」
    真澄も自分のカップに口をつける。
    優雅に紅茶をすする姿は、まさにお嬢様のようだ。
    いや、彼女は正真正銘のご令嬢なのだけど。
    けれど…こういう何気ない仕草の一つひとつにまで、
    目がいってしまうのはどうしてだろう。

    「来週は…あなたの誕生日ね」
    真澄がふと漏らす。
    和沙には、自分の誕生日を彼女が覚えていたことが驚きだった。
    「何で知って…?」
    「そりゃ覚えているわよ。だって私は会長ですもの。
    あなただけじゃなくて、生徒会役員はみな把握しているわ。
    四月が斎、六月があなた、七月が杏奈で、九月が鼎と希実ちゃんね。
    私は…三月の終わり頃だから、誕生日が来ることには
    卒業していてみんなからは忘れられているかもしれないけど…」
    ちょっとだけ残念そうに話す真澄を見て、
    和沙は気持ちが和らぐのを感じた。
    「そんなこと…ないと思いますよ」
    フォローのつもりだったのだが、真澄の反応は意外なものだった。
    「やっと笑ってくれたわね」
    「え…」
    「最近、何だか浮かない顔ばかりしていたから…心配していたのよ?」
    「…あっ、えっと」
    こういう時、どんな顔をすれば良いのか分からなくなる。
    「別に…何があったか追求したいわけではないわ。
    ただ、あなたが紫陽花を眺める横顔は、私が桜を見ていた姿に
    どことなく似ていたように感じただけよ」
    そう言うと、真澄は遠くを見つめているような目をした。
    二人の空間は、心地良い沈黙とカップからたちこめる湯気に満ちていた。
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■20219 / ResNo.8)  第二章 あじさいもよう (6)
□投稿者/ 琉 常連♪(102回)-(2007/10/20(Sat) 09:54:09)
    「今日はもう、お帰りなさい」
    真澄がそう言って、自らの傘を持たせた。
    本当は、何か生徒会関連の用事があったのではないか。
    それに、これでは彼女の方に傘がなくなってしまうのではないか。
    けど。
    「良いから、ね?」
    「…はい」
    この頃、真澄は駆け引きが上手くなってきた。
    …いや、正確にはそれに乗せられる和沙が単純になってきたのか。
    いずれにせよ、ただ闇雲に帰れの一点張りだということは同じなのに、
    口調とか声の質感とかその他のシチュエーションとかで、
    真澄の場合、醸し出す雰囲気が大きく変わってくるのだ。
    そして、そういう場の空気に流されやすい和沙には、
    絶大な効果を発揮する…という塩梅のようだ。

    言いつけどおり、今度は並木道へは寄り道せず、
    校門から駅までもまっすぐ歩いて帰った。
    帰りの車内の中、電車に揺れながら和沙はそっと真澄から借りた傘を見た。
    正直、最初はどれだけゴージャスな高級傘を渡されるのだろう、と
    心なしか不安ですらあった。
    しかし、意外なことに真澄が普段愛用しているというお気に入りの傘は、
    モノトーンでシックな黒の落ち着いたデザインだった。
    もちろん、レースやフリルといった女性らしい細やかな装飾や、
    いかにも材料にこだわっていますという厳選品らしき断片は、
    そこかしこに発見できるけど…
    でも、おそらくこれが一般人には到底購入することができないような
    高級品だというのはこれまでの経験からいくらでも推測できる。
    よく分からないけれど、最近はそういう複雑な補償制度も
    細部にわたって見直される傾向にあるようだし。
    万が一のことを考えると…
    とてもじゃないが、高校生活のお小遣いを全部はたいてまで
    こんな傘一本を弁償するなんて採算が合わなすぎるのだ。

    ガタン…ゴトン…
    座席にはまだ余裕があったけど、
    たまにこうして乗車口の前に立っていたい時もある。
    和沙は今がそんな気分だった。
    きっと、高柳家に嫁いでからは電車に乗ったことはもちろん、
    お嬢様以外の者が使ったことすらないであろう、この傘。
    そんな違和感がある風景も、三十分も経てば
    自然と悪くないものに感じてくるから不思議だ。

    「まもなく、到着します」
    …ようやく和沙の家の最寄り駅に着いた。
    車内にお忘れ物をなさいませんよう…と親切なアナウンスを聴くまでもなく、
    和沙は鞄と傘を忘れずに持って下車した。
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■20221 / ResNo.9)  NO TITLE
□投稿者/ スマイル 一般♪(4回)-(2007/10/22(Mon) 01:21:08)
    琉さん

    第二章の突破をおめでとうございます(*≧m≦*)
    そして、和沙が生徒会役員になったことを祝いですね(^-^)/~~
    これからもぉ〜楽しみ待っていますんでぇ応援しますんで(`∀´σ)σ

    (携帯)
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