ビアンエッセイ♪

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■20408 / ResNo.20)  第二章 あじさいもよう (10)
  
□投稿者/ 琉 常連♪(110回)-(2007/12/15(Sat) 23:36:51)
    …っ!?

    何が起こったのか、和沙には理解できなかった。
    ただ、気がつけば背後からとてつもない衝撃を受けて、
    倒れるようにして地べたに這いつくばっていた。
    転んだのではない。
    転ばされたのだ。

    「ご苦労さま」
    とそこに、目の前の少女とは別に声をかける人物がいた。
    見ると、まず最初に細長い脚が飛びこんでくる。
    どうにか顔を見ようと上半身をくねらせて起きあがると、
    そこには…あの御舘篤子が居た。

    どういうこと…?

    どうして彼女がここにいるのだ、という疑問が和沙の頭を駆け巡る。
    「痛っ」
    だが、次の瞬間…背中を激痛が襲う。
    蹴られたのだ、と分かるまでさほど時間はかからなかった。
    しかし、そんな怪我人をよそに、篤子は静かに
    さっきの忘れ物をした生徒に近づいていく。
    二人が並んでツーショットになったところを見て初めて、
    和沙は思い出すことができた。

    ああ、そっか…

    あの生徒は篤子の取り巻きの一人だ。
    篤子はいつも大勢の女生徒を従えて歩いているから、
    彼女一人だけだと気づかなかったのだ。
    篤子は彼女に何やら耳打ちしている。

    そういうこと…

    だんだん読めてきた。
    この状況から、まさか二人がたまたまここに居合わせたのではないことは
    鈍い和沙にもさすがに分かる。
    この二人は『グル』だった。
    そう考えるのが自然だろう。
    連中が何を企んでいるのかは知らないが、
    昼休みにわざわざこんな誰も居ない場所に呼び出してまで
    成しえたかったコトとは、そう良いことのはずがない。

    逃げなきゃ…

    和沙はとっさに立ち上がった。
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■20411 / ResNo.21)  第二章 あじさいもよう (11)
□投稿者/ 琉 常連♪(111回)-(2007/12/15(Sat) 23:49:22)
    「おっと」
    出口に突進しようとする和沙を阻むように、
    篤子は扉の前に立ちふさがる。
    退路を断たれた和沙は絶望的な気持ちを隠しつつも、必死に懇願した。
    「お願いです、どいてください」
    すると篤子は、うっすらと笑いながら和沙の顎を持ち上げた。
    「君さぁ、前から思っていたけど邪魔なんだよね」

    じゃま…

    入学したばかりの頃から、この人に好かれていないことを
    すれ違う時の突き刺さる視線からも何となく自覚はしていた。
    けど、それだけ。
    彼女はいつも睨むようにすれ違うだけで、特に何もしない。
    こんなにあからさまな敵意をぶつけてこられたのは
    今回が初めてだったので、和沙はショックというよりも
    どうして良いのか分からずに固まってしまった。
    「僕はね」
    篤子は急に和沙の顎を持つ手に力を入れてこう告げた。

    ぼ、ぼく…?

    狐に摘まれたような感覚がするのは、そういう風に自分のことを呼ぶ人を
    久しぶりに見たからだろう。
    たぶん、百合園に入学してからは初めてかもしれない。
    「僕は、ずっと生徒会長に憧れていたんだ。
    それでなくとも、この学校の生徒会役員はこれまでも素晴らしい先輩を
    輩出してきた我が校の誇るべき組織なのに、今年の候補生ときたら…」
    まるで我慢ならないとでも言うように、
    篤子は和沙を真っ直ぐに見据えて歯ぎしりをした。
    「いい加減に…放してくださいっ」
    顎を持たれ、ずっと見下ろされて気分が良い人というのは、そう多くない。
    和沙だって、やたらめったら眺められて良い気持ちがするほど
    マゾ気質は強くないのだ。
    精一杯の抵抗力で、何とか腕を振り切ろうと和沙は試みたが、
    依然篤子を追い払うほどの腕力には及ばなかった。

    …こ、この人

    本当に男の人みたい…
    平均的な女子高生の握力など比較にならないほど、
    目の前の彼女が和沙の腕を掴む力は強かった。
    長いだけでなく筋肉質なごつごつした手足、
    女性にしては人目をひくほどの短髪に頭一つ出た身長。
    そして何よりその鋭い眼球に睨まれると、
    さすがに怖いもの知らずの和沙でも一瞬怯む。

    あ…れ?

    何か違和感を感じると思いきや、そういえば彼女は制服を着てはいるけれど
    スカートを穿いていない。
    代わりに、膝まであるスカートと同じ柄の半ズボンを着用していた。
    ボーイッシュな域を超えて、あまりにも中世的な雰囲気を醸し出す彼女は、
    そのまま和沙の前髪を鷲掴みにするように持ち上げ、さらに顔を接近させた。
    間近で見ると、案外…端正な顔立ちをしている。
    これなら何人もの取り巻きにちやほやされるのも分かる気がするが、
    肝心の篤子の方は目尻をつりあげて強い眼差しにさらに力を込める。

    ドンッ…
    鈍い音がしたかと思うと、途端に和沙の腹部を再び痛みが襲った。
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■20455 / ResNo.22)  第二章 あじさいもよう (12)
□投稿者/ 琉 常連♪(112回)-(2008/01/14(Mon) 22:01:37)
    「ゲホッゲホッ」

    苦しい。お腹が痛い。
    でも、何より暴力でしか訴えてこない目の前の彼女の行動が哀しかった。
    和沙は膝蹴りされた腹部を抱え込むようにして、その場にしゃがみこむ。
    「口ほどにもないね」
    ため息をつきながら憐れにこちらを見据える姿に、
    何故だか怒りの他にも沸々と湧き上がってくる感情が和沙にはあった。

    どうして、彼女はこっちを見ていないのだろう?

    それは、疑問にも近い。
    篤子は確かに和沙を視界にとらえている。
    しかし、言い換えればそれはただ眼に映しているだけの状態と
    ほとんど変わらないのだった。
    そして、さらに踏み込んでいうのなら、彼女は和沙を通して
    その後ろに生徒会…如いては真澄の姿を投影しているらしかった。
    その証拠に、篤子の取り巻きの女生徒は、先ほどからちっともこちらを見ようとはしない。
    こちらをチラリとも見ようとしない理由…それは紛れもなく
    篤子を想い慕っているが故の嫉妬だから。

    「何がおかしい?」
    急に素の表情を取り戻した和沙の態度が気に喰わないようで、
    篤子はさらに眉間のしわを深くした。
    「いえ、ただそろそろ次の授業が始まるので、
    教室に戻っても良いですか?」
    それは、和沙の本音だった。
    彼女がどういうつもりかは知らないが、これ以上ここで騒ぎ立ててことを荒立てたくない。
    特に殴られた痕跡を真澄に目撃されるなんて…それこそ勘弁してほしい。
    多目的教室は、和沙の放った一言からしばらく
    凍りついたかのように時間が止まった。
    何度かの時計の秒針を聞いている間、和沙はずっと瞬きもせずに篤子だけを見ていた。
    このまま眼を逸らせば負ける…そんな駆け引きでもしているように。

    「良いだろう」
    意外なほどあっけなく出た快諾に、和沙は拍子抜けした。
    もう少しくらいは面倒臭い展開になって、話がもつれて、
    第二ラウンドを期待していたわけではなかったけれど、
    こんなにもすぐに提案が通ると、それはそれで猜疑心を高めるのだ。
    「会長に、よろしく伝えてくれ」
    それだけ言うと、篤子ともう一人の女生徒は無言で部屋から退室しようとする。
    篤子の方は、最後までキザで、クールに。

    やっぱり…

    そのわずかな時間に、和沙は確信するものがあった。
    泣きはらしたように真っ赤な眼に、少しだけ自信を無くしたような背中。
    さりげなさを装いながらも、彼女たちの間はきもちギクシャクしているように
    取れてしまうのは、和沙だけではないはずだ。
    この昼休みの時間、もし格闘技の勝負事をしていたとしたら…
    どちらが負けたのかは明らかだった。
引用返信/返信 削除キー/
■20568 / ResNo.23)  第二章 あじさいもよう (13)
□投稿者/ 琉 常連♪(113回)-(2008/02/13(Wed) 23:58:28)
    ジャー

    水道水の水が冷たくて気持ち良い。
    バシャバシャ…
    「くそっ」
    いくら洗練されたお手洗いの洗面台とはいっても、
    備え付けの石鹸だけではブレザーの上着についた汚れは落ちそうにない。
    まだワイシャツ一枚で過ごすには肌寒いという季節だというのに、
    午後からは上着を諦めるしか選択肢はないようだった。
    鏡に映る自分は妙に疲れているようだったが、
    今の和沙はそんなことがどうでも良いと思えるくらい
    先ほどの回想にふけていた。

    この学校に入学して、早くも三ヶ月が経とうとしているが、
    あんなにも真剣な眼差しを向けられたことがあっただろうか。
    それは、希実を含めたクラスメイトや生徒会役員を合わせても、だ。
    おそらく彼女は、彼女が好きだ。
    …と思う。
    普段、そういった誰それが誰それに恋をしているなどという恋愛事情に疎い和沙は、
    これまでに経験したことがないほどの速さで、篤子の行動を分析していた。
    予想外に、彼女は策略家だ。
    後輩を使ってまでわざわざ小細工を仕込むなんて、
    口では言っていても普通の高校生にはきっと出来ない。
    篤子の成績がどれくらいかなんて知りようがないが、
    そういうものとは関係ない次元の話で、彼女は頭が良いのだ。
    予想外に、彼女は情熱家だ。
    一見クールを気取ってはいるが、瞳の中に秘められた熱意は、
    紛れもなく本物だった。
    未だかつて自分は、これほどまでに自分以外の誰かを想って
    他人に感情をぶつけたことがあっただろうか。
    そして、それはどういう気持ちなのだろうか。

    それが和沙にとっては、初めての葛藤となった。
引用返信/返信 削除キー/
■20700 / ResNo.24)  NO TITLE
□投稿者/ あき 一般♪(1回)-(2008/03/04(Tue) 13:29:39)
    色恋沙汰最初から全部読みました。すごいドラマチックなのでハマりました(^-^)これからも頑張って下さい!応援します

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20714 / ResNo.25)  あき様
□投稿者/ 琉 一般♪(1回)-(2008/03/07(Fri) 00:02:04)
    初めまして。そして、お読みくださいまして
    ありがとうございます!
    久しぶりの書き込みに、感想をいただけたので
    嬉しさで舞い上がっています(笑)
    本当に、ゆっくりの更新でごめんなさい。
    ご期待に添えるよう、今後も少しずつですが
    話を書いていきますので、見守っていただけると
    ありがたいです。

引用返信/返信 削除キー/
■20715 / ResNo.26)  第二章 あじさいもよう (14)
□投稿者/ 琉 一般♪(2回)-(2008/03/07(Fri) 00:23:27)
    「どこ行ってたの?」
    サンドウィッチを頬張りながら、希実は先ほどから
    その一点張りだ。
    重箱のような弁当箱は相変わらずだが、
    彼女の胃袋を持ってしても食べ終えそうなところから
    昼休みも終盤に差し掛かっているとみて間違いない。

    グゥゥ…

    ふと、和沙のお腹が鳴った。
    そういえば、今日は呼び出しに遭ったりなんかして
    昼食をまだ食べていない。

    「次の時間、体育だよ?」
    それも…そうだった。
    忘れていたわけではないが、昼休みの出来事があまりに印象深くて
    今になってからしか気づけなかったのだ。
    「何なら食べてあげようか?」
    調子に乗ってまさに開いたばかりのランチボックスに
    手を伸ばそうとした希実を、和沙は冷ややかに制した。
    「自分で食べるよ」
    そう言って、和沙はそっぽを向いておにぎりを一つ取り上げ食べ始めた。
    まったく…油断も隙もありゃしない

    「ねぇ、和沙」
    先ほどまでのおどけたような口調とはうって変わって、
    希実の声はとても静かだった。
    どうしたことかと、和沙が振り向くと、
    彼女はまっすぐにこちらを見つめながら話し始めた。
    「何があったか知らないけど、辛いことがあったら
    いつでも相談してね?」
    「え…あ、うん」
    破壊的なキャラクターが定着しつつある彼女だが、
    こんな顔もできるんだ、などと妙に驚きながら、
    和沙は促されて呟いたような返事をした。
    でも、希実に言われたからではないけれど、
    確かに今日はいろいろなことがあったとはいえ、
    何故にこんなにくだらないことに悩まなくてはいけないのか。
    自分は決してこの程度のことで食欲がなくなるタイプではない。
    現に、身体は空腹を訴えているのだから。

    もっと、動じない人になりたい…

    そんなことを考えながら、和沙は口の中の米粒を強く噛み締めた。
引用返信/返信 削除キー/
■20729 / ResNo.27)  第二章 あじさいもよう (15)
□投稿者/ 琉 一般♪(3回)-(2008/03/10(Mon) 23:58:19)
    午前中の快晴もつかの間、午後から少しずつ曇り始め、
    放課後になる頃にはぽつぽつと降りだしてきた。
    梅雨時の天気とはこういうものだ。

    コンコン…

    ノックをして間もなく、生徒会室に先客がいるだろうことが
    和沙にも分かったのは、その人がとても温かな笑顔で出迎えてくれたからだ。

    「雨、降ってきちゃったの?」

    読みかけの参考書もそのままに、うっすらと濡れてしまった和沙の
    髪の毛や頬にタオルをあてる女性は、和沙より一つ年上の先輩。
    生徒会の会計職を務める彼女は、二年A組の梅林寺鼎。
    巷では、旧財閥会長の孫娘だとか我が校始まって以来の秀才だとか、
    はたまた外資系最大手の御曹司と婚約しているだとか…とにかく、
    華々しい経歴が噂される彼女だが、実際に話すと全然印象が違う。
    常に冷静沈着で有言実行、少し寡黙な性格だが、協調性がないわけではなく、
    たまに手作りお菓子を作ってきては差し入れしてくれたり、
    自己主張が激しいこの生徒会メンバーの中では、とても貴重な存在である。
    おまけに、後輩の面倒見もよく、優しくて穏やかな人当たり…と
    まさにパーフェクトな理想の女性だ。
    もちろん、和沙の憧れの先輩でもある。

    「あ、ごめんなさい。勉強の邪魔をしてしまいましたか…?」

    こちらからでもチラリと見えるその参考書には、
    日本語でも英語でもない文字列がぎっしりと並んでいた。
    「あ、ううん。そんなんじゃないの。
    私が一番乗りだったみたいだったから、
    時間になるまで読書でもしていようかな、なんて」
    はにかみながらも遠慮を忘れない心配りに、和沙はつい見とれてしまった。
    かなり良いところのお嬢さんなのだ。
    小さい頃から英才教育やら何やらで、
    相当な教養を積んでいると聞いたことがある。
    その細い身体に受けるプレッシャーは如何ばかりなものなのか計り知れないが、
    すでに海外の大学への進学も考えていてもおかしくない。

    優等生だからこそ、憧れる存在。
    そんなことを言ったら、彼女は気分を悪くするかもしれないが、
    堅実で努力家な姿勢は、和沙を含め確かに後輩たちには魅力的に映っていた。
引用返信/返信 削除キー/
■20978 / ResNo.28)  続き気になります
□投稿者/ あき 一般♪(1回)-(2008/07/05(Sat) 02:19:17)
    こんばんは☆続きが気になって気になってっていう状態です(+_+)お願いします

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20980 / ResNo.29)  あきさま
□投稿者/ 琉 一般♪(1回)-(2008/07/06(Sun) 19:41:38)
    こんばんは。コメントの方、どうもありがとうございます。
    最近全く更新していなかったにも関わらず、
    お読みいただきましてありがとうございます。
    今後は、書き溜めていた分を少しずつ更新していく予定です。
    暑い日が続きますので、あき様もお体にはご自愛ください。

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