ビアンエッセイ♪

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■20981 / ResNo.30)  第二章 あじさいもよう (16)
  
□投稿者/ 琉 一般♪(2回)-(2008/07/06(Sun) 19:50:58)
    結局、鼎はおろか真澄や斎ら生徒会役員が集結した後でも、
    みな和沙が放課後からブレザージャケットを着ないまま
    会合に出席していることについて触れる者はいなかった。
    いや、もしかしたら気づいているのだけれど言わないだけなのかもしれないが。
    とにもかくにももうすぐ衣替えも近いということも手伝って、
    和沙は明日以降も上着は着ないまま登校しようと決めたのだった。

    「それじゃ、今日はここまでね」
    斎の声で、本日の会議は終了したようだった。
    情けないことに、和沙はほとんど全くといって良いほど内容を覚えていない。
    配られたプリントに目を通してみると、
    『図書棟地下室の有効活用法について』と書いてある。
    しかし、いつもなら議論が活性化するたびにメモを書きこむため、
    紙面が赤ペンやら青ペンやらでぎっしり埋まっているというのに、
    今日にいたってはほぼ白紙の状態である。

    無理もない…

    珍しく、和沙は自らの心の中で言い訳をしてみた。
    昼休みのあの一件以来、午後の授業の体育でもバスケットボールの実技試験で、
    落ち着いて冷静に分析する時間など持てなかったのだから、と。

    「ちょっと!」
    ただ、それでは済まされないと警告を訴えてきた人物だけは話が別のようだ。
    「ちゃんと聴いていたの?ほら、来週はいよいよ
    各部へ支給する予算を決定する大議題が待っているんですからね」
    そう言いながら、こちらに近づいてくるのは…やはり真澄だった。
    気のせいか、彼女の顔は少しだけ眉間にしわが寄っている。
    まあ、生徒会長として後輩の動向を懸念するのは当然であるが。
    「あ」
    けれど、和沙は、今日初めて見る真澄の姿に違うことを思い出した。
    「何が、あ、なのよ?」
    訝しげな表情を向けながら、彼女はより眉をつり上げていく。
    「傘っ、ありがとうございました!」
    いきなり席を立ち上がったかと思うと、そのまま入り口にある傘立てから
    一本の黒い傘を持って走ってきたのだから、真澄だけでなく
    その場に居た他の役員の関心まで集めてしまった。

    「ああ、どういたしまして」
    意外にも真澄は、にこりと微笑みながらゆっくりと傘を受け取った。
    その仕草があまりに優雅で、和沙をはじめ二人のやりとりを見ていた
    他の役員も瞬きをしながらその場に立ち尽くしている。

    …こんな顔もするんだ

    それが、その場に居合わせた者たちの率直な感想だろう。
    それ以前に、彼女が和沙に傘を貸していた事実すら知らなかった様子の
    斎にいたっては口をぽかんと開けたままこちらを見ている。
    「この傘、素敵ですね」
    そんな中、和沙の口をついて出たのは意外な本音だった。
    昨日、手にした瞬間からずっと感じていたこの傘の印象。
    「あら」
    微笑みを浮かべる真澄は、どきっとさせるような笑みを浮かべ、
    さも見る目があるわねと評価したいかのごとく返事をした。
    「この傘の魅力がわかるなら、あなたにプレゼントしてあげても良いわよ」
    「い、いえそんなつもりは…」
    こんな高価なものを頂戴した暁には、今後二度と生徒会に(というか彼女自身に)
    頭が上がらなくなるのを恐れて、和沙は慌ててその申し出を断ろうとしたが、
    真澄の方はすでに渡すつもりのプレゼントのことで頭がいっぱいのようだった。
    「もう少し明るい色のタイプがお似合いかしら…」
    何やら傘を見つめながらぶつぶつと独り言を漏らす彼女を
    もはや和沙には、阻止できる術はなさそうである。

    「それじゃあ、お先に失礼します」
    タイミングよく声をかけるのは、
    すでに鞄とドアの取っ手に手をかけようとする杏奈だった。
    いつの間にか真澄と和沙を取り囲んでいた輪は解け、
    集団はそれぞれ談笑したり帰宅の準備をしたりと忙しそうだ。

    かくして、真澄のプレゼント攻撃の標的と中身だけは決定した日となった。
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■20982 / ResNo.31)  第二章 あじさいもよう (17)
□投稿者/ 琉 一般♪(3回)-(2008/07/06(Sun) 19:57:29)
    数日後、中間考査の試験日程や各教科の範囲が発表された。
    入学してまだ間もないということもあり、一年生はさほど広くない。
    廊下の掲示板に貼りついている試験範囲の要項が記された紙を前に、
    和沙はメモを取るのに夢中だった。
    「えっと、化学は四二頁まで…っと。
    …英語は?あ、リーダーは二日目か」
    「ねぇ、和沙」
    ぶつぶつ独り言を言いながら、ひたすら壁と手帳とを見比べている和沙に
    希実が声をかけたのは、数学の確認に移ろうとしていた時だった。
    「ん?なに?」
    「何でそんなに必死なの?」
    学年主席なのに…って明らかにそう訊きたそうな希実を、和沙は制止する。
    「だからだよ」
    きっぱりとそう答える和沙に、希実はきょとんとした表情をした。

    …だって、だって

    今年からは、こんなに強力なライバルが現れたのだから。
    隣に居る本人に面と向かっては言いにくいものだが、
    和沙と希実の成績は実はそんなに変わらない。
    入学試験にしても、主席と次席の点差はわずか十点。
    死に物狂いで努力して満点を勝ち取った和沙からすれば、
    未だ真の実力が計り知れない希実の存在は充分脅威になるのだ。
    ただでさえ、自分は候補生としても引け目を感じているというのに…
    これ以上、自らを貶めるようなことだけはしたくない。
    それが、和沙の秘めたる熱意の源だった。

    まだ何か言っている希実を無視して、和沙は引き続きメモを取った。
    「そんなことしなくたって…聞いてる、和沙?」
    反応がほとんどない和沙の異変に気づいたのか、希実がこちら側を見る。
    「私、決めたの」
    メモを終えた手帳をパタンと閉め、和沙は希実に向き合った。
    一方、彼女の方はというと…またも意味不明といった様子で
    怪訝な表情を浮かべる。
    「中間テストが終わるまで、絶交ね」
    それだけ言うと、和沙はさっさと教室に戻っていった。
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■20984 / ResNo.32)  お久しぶりの更新で
□投稿者/ みゅう 一般♪(1回)-(2008/07/07(Mon) 17:53:37)
    うれしいです。
    ちょうど今はあじさいが美しい季節。
    今後の展開も楽しみにしています。
引用返信/返信 削除キー/
■21000 / ResNo.33)  みゅう様
□投稿者/ 琉 一般♪(4回)-(2008/07/15(Tue) 01:05:36)
    初めまして。感想をお寄せいただき、ありがとうございます。
    ひっそりと書き続けてきたこのお話ですが、現実では
    いつの間にか初夏から本格的な夏の到来になってしまいました。
    のんびりな更新で申し訳ないです。
    次章で思い切り真夏のお話が書けるまで、
    もう少しこの章にお付き合いいただけると幸いです。

引用返信/返信 削除キー/
■21001 / ResNo.34)  第二章 あじさいもよう (18)
□投稿者/ 琉 一般♪(5回)-(2008/07/15(Tue) 01:10:44)
    「問二は?」
    「√3です」
    「そう、正解…」
    和沙の試験勉強は昼休みから始まり、放課後の生徒会室でも続いていた。

    「…どうしたの、アレ?」
    生徒会室に真澄や斎が入ってきても一向に止める気配がないので、
    思いきって二人は同じクラスの希実に尋ねてみることにしたのだ。
    「…」
    しかし、絶交を言い渡されたショックを未だ引きずっている希実が
    返事できる元気もあるわけなく…真澄たちは離れた席に座っている
    和沙に、再び向き直った。
    杏奈は今日、欠席している。
    つまり、和沙に教えているのは必然的に鼎ということになる。

    「問三は?」
    「途中まではできたんですけど…」
    「それで良いから、見せてみて」
    「はい」


    「…ああ、ここね。ほら、この公式を使うまでは悪くないんだけど、
    代入した数字の計算が間違っているでしょう?」
    鼎が指差す先には、確かにごちゃごちゃした計算式の中に、
    明らかに数字が変わっている段があった。
    きっと暗算しているうちに、何らかの思い違いでもしたのだろう。
    原因は簡単な計算ミスだった。
    和沙がもう一度間違ったところから計算してみると、
    今度はサラサラ解答できる。
    「答えは…七分の三です」
    「正解よ」
    にっこりと微笑む顔が、和沙をさらに嬉しくさせた。

    「はい、そこまで」
    「ちょっと休憩しましょ、お二人さん」
    珍しく会長と副会長がお茶を淹れてくれたのか、
    真澄と斎はそこでやっと口を挟んだ。

    「…それにしても」
    煎餅をバリバリかじりながら、斎は話し始めた。
    今日は和菓子とほうじ茶が振舞われている。
    本当は、華道部員である杏奈が直々に抹茶をたててくれる予定だったのだが、
    風邪で休んでいるため、急遽ほうじ茶に変更したようだ。
    「何で数Bなんて、解いているの?」
    思ったよりも口にしたほうじ茶が熱かったのか、
    それとも一回に口に含む量が多すぎたのか、
    お茶で咽ている斎に代わって真澄が質問した。
    「え?」
    いつも行列が絶えない銘菓の袋を選ぶのに迷っていた和沙は、
    一瞬何の話か忘れてしまった。
    「ベクトルなんて、数学Aではまだ扱わないでしょ」
    「ああ…」
    そこまで言われて、和沙はやっと質問の意図を理解した。

    百合園高校は、この近隣では指折りの名門校であるが、
    それは要点を絞った授業と受験まで徹底した支援体制の
    カリキュラムが評価されての人気だ。
    そのため、他の進学校もまたそうであるように、
    授業の進度は通常に比べて幾分速い。
    二年生終了時までには、一通りの全必修科目を終えるのが原則だが、
    それでも入学間もない一年生はまず基礎基本の確認からきっちり
    教わるため、学年の壁を越えた内容にまで触れることはさすがにない。
    つまりは、一年生の和沙がこの時期に数学Bに手を出していることは、
    学習計画の上では有りえないことなのだ。
    和沙だって、最初は試験範囲の問題から勉強を始めた。
    古典、化学、英語に数学、そして日本史…
    計算問題ではケアレスミスが命取りになるから、復習は念入りに。
    けれど、それも数時間続けているとさすがに飽きてくる。
    もともと中学で習ったことの延長線上みたいなものだ。
    これまで何百回と繰り返してきた問題なら、
    眼を閉じた状態でも脳裏に焼きついている。
    だから、そろそろ休憩に入ろうかと思い始めた…まさにその時、
    タイミング良く目の前に居る鼎の参考書の表紙が飛び込んできた。
    『数学V』
    医学部を受験するには、必修の科目だ。
    途端に頭の中で自分だけのサイレンが鳴るのは、
    優等生にはもはや職業病だろうか。
    そんなこんなで、和沙は鼎の教科書を借りながら、
    自ら門下生に名乗りを挙げたのだ。

    しかし。
    「最近では、すでに今のうちから受験を視野に入れた
    意識の高い新入生も増えています」
    二年生の教科書を開く和沙の隣で、三年生の教科書を開く鼎が
    すかさず援護してくれた。
    一年前の彼女もまたそうだったのだろう。
    特待生ではなくとも二学年の主席を維持している鼎に、
    和沙は尊敬の念を抱いていた。

    「受験ね…」
    対して関心が薄い真澄も、同じく特待生ではない三学年主席なのだが、
    彼女の場合…希実と似た天才肌なので、あまり参考にはならない。
    真澄の進路については聞いたことがないが、
    おそらく彼女の成績ならどこの大学でも何学部でも申し分ないはずだ。
    「まあ、将来に向けての努力は生徒会も応援するわ」
    それだけ述べて、真澄はこの話を終わらせた。
    会話の流れからして、和沙はどこの大学を目指しているの?
    なんて訊かれる可能性だって充分にあったはずだが、
    思いのほか、そこまで突っこまれることはなかった。

    「それじゃ、続きを始めようか?」
    今日はもう、仕事にならない。
    そう判断した他の役員は、早々と帰路についたり部活に向かったりして、
    二人だけ残った和沙と鼎はひたすら問題を解き続けていた。
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■21171 / ResNo.35)  がんばって
□投稿者/ あき 一般♪(1回)-(2008/11/05(Wed) 23:19:27)
    続き読みたいです☆がんばって下さい。応援してます

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■21179 / ResNo.36)  あき様
□投稿者/ 琉 一般♪(1回)-(2008/11/17(Mon) 22:51:24)
    こんばんは。励ましのお返事をどうもありがとうございます。
    なかなか更新できなくて、申し訳ありません。
    世間ではもうすぐクリスマスだというのに、未だ初夏のお話で恐縮です。
    今後もゆっくりな更新が予想されますが、お付き合いいただけたら幸いです。

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■21180 / ResNo.37)  第二章 あじさいもよう (19)
□投稿者/ 琉 一般♪(2回)-(2008/11/17(Mon) 22:58:49)
    中間テストの試験範囲が発表されてから早くも数日が経過し、
    和沙はその週末にも黙々と試験勉強を続けていた。
    そして、紫陽花通りの花々は、まさに見ごろの盛りを迎えた中の
    翌月曜の朝のことだった。
    連日、雨が降り続けていたが、その日に限ってはたまたま
    朝からすっきりとした青空がひろがっていた。
    いつもどおりの時間に起き、いつもより少し早いくらいの時間に
    学校に着いてしまった几帳面な和沙がぼんやりと空を見上げながら
    三角通りに差し掛かったちょうどその時、
    何故か足元に何かが触れるようなぬるりとした感覚が走る。

    「えっ?」

    驚いた和沙がふと自らの脚を見つめると、
    そこには一匹の猫が足早に駆けていく最中のようだ。
    もうずっと前を走って姿を確認できるのがやっとという距離になって、
    その猫は首だけでこちらを見るように振り返る。

    …何で、猫?

    まだ若干おぼつかない足どりの子猫のようだった。
    けれど、和沙の興味をひくには十分で、その姿が遠く見えなくなるまで
    和沙はずっとその猫を凝視し続けていた。
    「…あっ」
    ようやくその場から一歩だけ動けたのは、それからさらに数分後のことで、
    黙々とどうして校内に猫が侵入してきたのか、だの
    首輪をしていたようだが近所に誰か飼い主がいる迷子だったのか、だのと
    考えが尽きずにいたため、とりあえず先ほどの猫を捕獲しておくという
    生徒会の役目を失念していたのだった。

    まあ、良いか…

    だって猫だし、さほど大騒ぎする必要もない。
    それに、緑豊かなこの百合園女子の大庭園は、私有地ながら近隣ではわりと有名な
    自然保護地区でもあった。
    夏休みなどの生徒が比較的少ない時期には、よく大学の研究調査をさせてほしい
    との依頼を受けるそうだ。
    そのため、こうやって朝早い時間ともなると、珍しい野鳥に遭遇することも
    珍しくないのだが、さすがに首輪つきのいかにも飼い猫を見るのは初めてだった。

    たぶん、すぐに外に出るよね…

    そう考えながら、その後の追及をやめるように
    和沙は子猫の後を追うようにして校舎に向かった。
引用返信/返信 削除キー/
■21250 / ResNo.38)  NO TITLE
□投稿者/ 攀ナ 一般♪(1回)-(2009/01/31(Sat) 16:03:05)
    続きの連載待ってます♪

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■21263 / ResNo.39)  NO TITLE
□投稿者/ みー 一般♪(1回)-(2009/02/24(Tue) 02:29:01)
    続き気になります。連載ファイトです

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/

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