ビアンエッセイ♪

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■20481 / ResNo.20)  18
  
□投稿者/ 壱也 一般♪(20回)-(2008/01/21(Mon) 17:27:50)


    『もう、ダメだ。』


    お昼頃に、奈々を呼び出し、ランチを食しながら、弱音を吐いた。


    「あら?まだ二日目じゃない?」


    奈々はパスタをフォークに巻き付けながら、返答する。その目は楽しそうで、私をからかっている目でもあった。


    『確かに似ている。つか似ているレベルじゃなくて本人だと思いそうになる。』

    「あら、尚更良かったじゃん?会いたがってたんだから」


    『傷口に塩を刷り込む奴だなぁ』


    「荒治療かもしれないわね。でも、チカは朱美の死に捕われすぎだわ。何年も前に逝ってしまった朱美は、チカが悲しんでいる姿を見たくないと思うわ」


    『わかっている…けど、朱美は私の青春であり、最愛の人だった。愛里はいい子だけれど…朱美じゃない。愛里と付き合えたとしても、私は愛里の中に朱美を見るだろう』


    それは、とても失礼であるし、そんな私と付き合う事すら嫌がるだろう。


    「今までの子猫は無条件で抱いて、朱美似の愛里は無理。じゃあ今までの子猫には失礼ではなかったの?」

    確かに、自暴自棄になっていた私はたくさんの女を抱いた。


    それ相応に愛していたつもりだった。


    でも、心はいつも朱美を求めた。


    『失礼だったな』


    「だったら、償いとして愛里を幸せにしなさい?愛里を守ってあげて?」


    奈々は愛里について、教えてくれなかった。


    知人の娘、大学生、ハタチ。


    たったこれだけの情報しか得られないのに、どう幸せにすればいいと言うのか。

    だったら、本人に直接聞くしかない。


    そんな勇気、私は持ち合わせていない。


    それが出来たら、朱美に告白だってすぐに出来ただろう。

    (携帯)
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■20482 / ResNo.21)   18
□投稿者/ きゅん 一般♪(1回)-(2008/01/22(Tue) 04:13:36)
    言葉選びと文章がすぅーと読みやすくて、
    戸惑う主人公のやり取りがなんか良くて、好きです。
    今のところ天真爛漫な愛里さんと心に深い痛みを抱え持つチカさんが
    これからどうなっていくのか、楽しみにしています。
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■20483 / ResNo.22)  きゅん様へ
□投稿者/ 壱也 一般♪(21回)-(2008/01/22(Tue) 12:04:03)

    お褒めの言葉ありがとうございます。

    長々と、序章を書いてきましたが、もうしばらくしたら、変化をつけたいと思うので、最後までお付き合い出来たら嬉しいです!

    書き込みが意欲を駆り立てるので、近々UPしますね(^-^)

    (携帯)
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■20484 / ResNo.23)  19
□投稿者/ 壱也 一般♪(22回)-(2008/01/22(Tue) 15:56:06)

    薄ぐらい帰り道、私は愛里に、聞かなければならない情報を、どうやって聞き出すかに悩んでいた。


    歩くスピードは次第に遅くなり、どうにもならない苛立ちを覚えた。


    考えたって閃かない。


    率直に聞くしかないんだ!

    私は小走りになり、マンションまで向かった。

    (携帯)
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■20485 / ResNo.24)  20
□投稿者/ 壱也 一般♪(23回)-(2008/01/22(Tue) 15:58:38)

    自宅に着くと鍵を開けて中に入った。


    中からは、シチューのいい匂いが漂って来て、今晩の夕飯はシチューだと確信出来た。


    「おかえりなさい!」


    明るい笑顔で出迎えられ、まるで新婚の旦那様を待っていたようで、何故か胸が踊った。


    『ただいま、今夜はシチュー?』


    「はい!あ、嫌いでしたか?」


    『…いや、大好きだよ?』

    「良かった…じゃあ今並べますから、椅子に座ってて下さい!」


    『ああ、分かった。』


    ベッドルームに一旦入り、部屋着に着替え、リビングにあるテーブルにつく。


    些細な事だが、私はこのご飯を待っている瞬間が好きで、幸せを感じた。


    それは、学生時代に朱美が作って来てくれた弁当の蓋をあける瞬間に似ていて、きっと愛里も私の好きな物を作り、そして申し訳なさそうに嫌いな物も入れてくる。


    『愛里…シチューにブロッコリーなんていらないだろ?』


    「我が家では普通に入っていますよ?おいしいんで食べて下さいね?」


    首を傾げて可愛い振りをわざとする。


    はいはい、食べればいいんだよな。食べれば。


    もう、何もかも見透かされていそうなくらい、愛里は的確に私のツボをつく。


    それは、愛しくもあり、また痛々しくもあった。

    (携帯)
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■20486 / ResNo.25)  21
□投稿者/ 壱也 一般♪(24回)-(2008/01/22(Tue) 16:50:12)


    夕飯を食べてる間中、愛里はひたすら今日の出来事を話していた。


    ベランダにカラスが止まって、怖くて洗濯物は部屋干しにしたことや、買い出しの最中に、ジャガイモの詰め放題を見つけて、冷蔵庫はジャガイモだらけなこと。


    愛里は少しだけ、おっちょこちょいで、行き当たりばったりな性格のようで、まだ冷蔵庫には昨日買った食材がたくさんあるにも関わらず、今日も食材を買い過ぎて冷蔵庫に入り切らなくなったりだとか、何とも笑える性格だ。


    「あんまり笑わないで下さいね?」


    『くくっ…悪い。久しぶりに笑った気がする。』


    「私も初めて笑った顔をみました。綺麗な笑い方なんですね?」


    『はい?普通だけど…』


    「笑った顔、好きですよ?」


    『そっか。あ、ありがと』

    愛里は満足げに、シチューを啜り始めた。


    それは、まだ幼さの残る子猫の様に見える。


    ああ、聞かなくては。
    素性を知らない女性と、あまり長く居ては駄目だ。


    ちゃんと理由を聞いて、説得しよう。


    実家に帰るようにって。


    『愛里、聞きたい事がある。』

    (携帯)
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■20487 / ResNo.26)  22
□投稿者/ 壱也 一般♪(25回)-(2008/01/22(Tue) 16:50:59)


    「何ですか?」


    『愛里は、何でこの家に泊まり込みに来た?冬休みなら、友達とも遊びたいだろうし、親御さんも、成人したとはいえ、心配しているでしょ?』


    「…心配なんてしてません。友達は、あまり居ないし…」


    『一晩、部屋を貸したんだ。理由が知りたい。場合によっては帰ってもらう。』

    冷たい言い方かもしれない。


    でも、元々奈々が勝手に決めた話しで、私は朱美に似ている愛里に、振り回されている。


    朱美と何の関わりもない、この子を、私は近い内に傷つけてしまいかねない。


    私の勝手な想いを、愛里にぶつけてしまいそうだった。


    「…解りました。お話します。しかし、私は出ていく気はありません。」


    初めての愛里の真剣な眼差しが、強い意志を滲み出していた。

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■20488 / ResNo.27)  23
□投稿者/ 壱也 一般♪(26回)-(2008/01/22(Tue) 16:52:13)


    「私の父は、大手電気メーカーの社長をしています。
    部下からの信頼も厚く、温厚でとても優しい人でした。

    そんな父を、母親は裏切ったんです。

    父と結婚する前に、母は一人の子供を授かりました。
    その時には、まだ結婚はしておらず、付き合っていた男も結婚する気がなかったみたいです。

    母は、そんな男に愛想をつかせ、浮気をしてしまいます。

    その相手が私の父親です。
    父親は、母に子供が居るのを承知の上、結婚をしました。

    ですが、母は付き合っていた男と中々縁を切らず、二重生活を送っていたんです。」


    『複雑…だな。一緒に住めばいいのに。』


    「はい。そんな生活が五年続いた時に、父と母の間に私が生まれたんです。

    さすがに、母も男と縁を切って、一緒に暮らすかと思ったんですが、残念ながら母は二重生活を続けていました。

    私が中学二年も終わり頃、付き合っていた男は覚せい剤所持で捕まり、ようやく一緒に暮らせると思った矢先、私の姉に当たる、人が自殺してしまったんです。
    現在は、母と父の三人暮しなんですが、父は母の今までの態度が気に入らず、戸籍からは外しています。

    私が悲しまないようにと、一緒には暮らしていますが。家庭内別居と言った感じで…毎日息が詰まりそうで、せめて冬休みの間は抜け出したかったんです。」


    昼ドラのような愛里の家庭内を聞いて、私はひどく落ち込んだ。

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■20489 / ResNo.28)  24
□投稿者/ 壱也 一般♪(27回)-(2008/01/22(Tue) 16:53:55)


    誰でも、そんな家から抜け出したいに違いない。


    私とは違う傷を愛里は背負って生きているんだ。


    それなのに…私はなんて酷い言い方をしたんだろうか。


    『ごめん、ここに居ていいよ。話してくれてありがとう』


    「いえ、こちらこそありがとうございます。」


    『…でも私の話を聞いて気が代わるかもしれない。それでも居たいと思うなら、居てくれて構わない。』


    「解りました。」


    私は、愛里に朱美の話をした。


    私が朱美を好きで、いつもつるんでいた事や、朱美に恋愛感情を抱いた事による不安や、辛さ、楽しさ、そして朱美を死に追いやった全ての原因を。

    包み隠さず話した。


    「私はこの先、朱美を引きずらない日はないと思う。もし、愛里とこのまま生活をするというなら、私は愛里に対して朱美を重ねるだろう。そうして、仲良くなればなるほど、愛里を欲しくなるだろう。同性愛者と共に生活するなんて気味が悪くないか?もしかしたら、愛里を求めてしまうかもしれない。私は怖いんだ。愛里を傷つけてしまいそうで…』


    愛里は目をまっすぐ私に向け黙って見つめていた。

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■20491 / ResNo.29)  25
□投稿者/ 壱也 一般♪(28回)-(2008/01/24(Thu) 14:37:21)

    「同性愛については、あまり知らない世界なので、何とも言えませんが、無理矢理襲うようなマネはしないでしょう? そんな人には見えません。私は、この二日間でチカさんにとても興味があります。

    私はチカさんを救いたいんです。心に深い闇を抱き、不器用にしか生きられない貴方を、私が何とかしたい。」


    『…簡単に言わないで。私の何を救う?いくら願ったって朱美に会えないんだから。』


    「朱美さんは、チカさんのご友人であり最愛の人。
    朱美さんは、貴方の傷になんてなりたくないと思いますよ?綺麗な思い出の中で生きていたいと思います」

    愛里の言葉に涙を落とす。

    救われたいとか、忘れたいとか思った事はない。


    ただ、朱美に会いたかった。

    そして謝りたかった。
    守ってやれなくてごめんね、と。


    私は、朱美が人生で1番忘れたい過去を今も引きずり続けていたんだ。


    ごめんな、朱美。


    「チカ…さん?」


    『…ごめん。しばらく独りにして欲しい』


    私は、ベッドルームに入り鍵をかけた。

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