ビアンエッセイ♪

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■20627 / ResNo.10)  犬に願えば 6
  
□投稿者/ つちふまず 一般♪(10回)-(2008/02/26(Tue) 01:08:06)
    「キャンキャンキャンキャン!!」



    (訳:何で犬なんですかぁー!!)



    「まぁ落ち着くニャ。ほれ、………お手。」



    ─ぽす(手)



    あれ。


    「いい子ニャ。」



    「クゥー…」
    (体が自然に)。



    「送り手とは喋れるニャよ。ほい。」



    コン、と杖を再び鳴らす。



    「ぐすん。なんで?犬になっちゃったんですかー…?」



    「人間のまま降りたら大混乱ニャよ。でもお前さんは運がいいニャ。」



    「?」



    「子犬に変化できる死者は稀ニャよ。」



    「…………。」





    犬なのに?(涙)



    茶の短い毛に包まれた自分の姿を見る。



    今までに無い異物感を感じて振り返ると、



    短い尻尾があった。



    「とりあえず行くニャ。論より証拠。知識より経験ニャ。」



    「む……。(不満)」



    「ほんニャ、行ってニャっしゃーい!!」



    ラフィは両手を上げた。


    「えええ!!」



    パシュ─








    「………やれやれ。やっと見つけたニャ。頑張るんニャよ。」










    下界─





    パシュ!




    ……っつ。



    ………。






    ここ、は…。



    アスファルトの感触。


    わ。
    わわわわわ。



    目線ひくっ!!



    くんくん。


    くんくんくんくん。




    色んな匂いがするな…。


    あ、私犬っぽいよ今の!やだなー私。




    ……って。



    ホントに犬、
    になっちゃったんだ。



    とほほ…。


    四つ足を使って歩いてみる。


    トボトボ。


    ─リンリンリン!!


    え。


    「あぶなっ!!」


    ぎゃあ!


    目の前を大きな円が通り抜けて行った。
    思わず尻もちをつく。



    「犬かー。あーびっくりした…。」




    ─キーコキーコ





    自転車…。




    ってあんなにビッグだったっけ!?



    こ、怖い…。
    もうやだよー…。




    “あの子を探すニャ”




    空から突然、
    声が振って…。



    ラフィ?



    “匂いは覚えてるニャ?近くにいるニャよ。”



    お、
    覚えてる訳ないでしょ!





    …………。


    あれ。








    くんくん。
    くんくんくんくん。








    懐かしい、




    匂いがする。




    肉球がアスファルトを確かめつつ足を進める。






    “その調子ニャ♪”







    (携帯)
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■20628 / ResNo.11)  犬に願えば 7
□投稿者/ つちふまず 一般♪(11回)-(2008/02/26(Tue) 01:15:01)
    この匂いは、




    ……。






    ─いつも鼻をこすりつけるよね。それ癖なの?”




    ─…んー。いや?






    ─くすぐったいよ…。ふふっ。






    サト。



    引き出した記憶。



    忘れたつもりでも、思い出してしまう。



    この鼻のせいか、
    記憶のせいかは。



    とりあえず置いておいて…。




    探そう。




    狭い路地裏を抜けると、広い大通りへと。




    人通りも、
    車も無かった。




    歩道の脇には整備された芝生。




    ここは…。




    木々の匂いに混じって、独特の。




    ああ、どこか何となく分かった。



    “知っている”
    場所だった。




    それに気付くと、
    再び微かな匂いを辿る。



    季節は冬、
    なんだろうか。




    湿った鼻に当たる風がちょっと冷たい。




    体は毛に覆われているからかなり暖かいけど。




    スタスタスタスタ─




    大分慣れて来た四つ足の速度を速める。




    懐かしい匂いが、



    形を成すように。



    はっきりとして来たから…。



    ………っと。



    ピタリと足を止めた。



    ……………あ。





    ………見つけた。



    割と早く、
    見つかった。




    ラフィはピンポイントで私を送れるのかな…。




    心臓がバクンと、
    高鳴る感覚。




    記憶の中でのみ、
    生きていた人が。





    今目の前にいる─






    あー…。




    相変わらず物持ちがいいなぁ…。




    そう思った理由は、



    あの頃と同じ黒いコートを着ていたから。



    カシミアで、
    肌触りがいいんだって。


    私に自慢していた。




    俯き気味にサトは静かに佇んでいる。




    髪が伸びた…。かな。




    風にさらわれて、
    髪が踊っている。



    ツンとした横顔。



    高くはないヒール。




    正確には2年振り、になるんだろうか。


    私には1年ぶり、
    だとしても…。




    “石”




    に隠れて。


    その佇む姿を眺める。




    なんて。




    寂しい…、




    ……ううん、懐かしい。




    顔…。




    スラリとした体が屈んだ。




    顔を上げて、
    白く吐き出されたため息と共に。




    そっと手を合わせる姿に。




    思わず犬である事も忘れ。




    私はサトの元へと。
    足を進めた。






    (携帯)
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■20636 / ResNo.12)  犬に願えば 8
□投稿者/ つちふまず 一般♪(12回)-(2008/02/26(Tue) 10:24:02)
    スタスタスタ─




    「…………。ん?」




    “その人”は。


    半径2m以内に座った私を一瞥した。



    「…………。?」



    何でここに犬が?とでも言いたげなリアクション。


    左右に小さく頭を動かしている。



    私は努めて静かに─
    “お座り”のまま。



    「キャウ」
    (久しぶり)



    「どこから、………?」


    「クゥー」
    (雲の上からだよ)



    私は冗談を言ったつもりだけど。




    伝わるはずも無い。


    少し怯えたように、サトの綺麗な眉が歪んだ。




    …そりゃ、そうだ。


    説明なんて出来るはずはない。




    とそこで、




    パタパタパタパタ─




    あれ?




    パタパタパタパタ。




    勝手に、
    尻尾が…。




    自身の短い尻尾が、小刻みに左右に揺れる。




    戸惑っていると─




    サトの表情は、先ほどよりも緩んだ気がした。




    パタパタ、と。
    再び揺れる尾。








    “嬉しい”







    “嬉しい”




    喜んで、いるの?


    犬の私は…。






    「迷ったの?……おいで。」




    優しい声に、
    変わらない声に。


    体に染み付いた声に。




    体が支配されていく。




    綺麗で長い指が、
    差し伸べられる。



    スタスタ。




    …………。




    ふわりとした温もりが、頭上に乗った。


    「…ノラくん、なのかな。」




    よしよし、
    と小さい声と同時に頭を撫でられる感触が伝う。



    懐かしい匂い。


    懐かしい温もり。




    「クゥー…」


    「あ、怒った…?」


    「キャウ(ちがう)」



    ちがうよ。



    「名前はなんていうの?どこから、来たの?」



    「…………ウー」



    私だよ。











    …ハルカだよ。





    「…綺麗な毛だね。」






    ……。








    「この人もね、おんなじ髪の色してたよ。」





    向けられた視線の先─



    ん?



    相原…。






    ………あ!そっか…。




    そういう事、か。




    目線が低いから全然気付かなかった。




    ましてや生前は。
    足を運ぶ事も少なくなっていたから…。







    そこには紛れもなく。





    私の母と─







    そして私自身が。











    眠っている場所に他ならなかった。



    (携帯)
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■20637 / ResNo.13)  わぉ↑
□投稿者/ ルー 一般♪(1回)-(2008/02/26(Tue) 12:14:00)
    久しぶりにのぞいたら、つちさんの小説が…。
    寒いですがお元気ですか?更新楽しみにしてます♪
    体調には気をつけて下さいね(^O^)

    (携帯)
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■20638 / ResNo.14)  犬に願えば 9
□投稿者/ つちふまず 一般♪(13回)-(2008/02/26(Tue) 12:22:56)
    「車の事故でさー。…バカだよねー。」



    ピン、と墓石に向かって長い指を弾くジェスチャー。



    …………。



    「…そんな事あなたに言ったって分からないか。」




    “あれからどう?”




    生きていれば─


    きっと当たり前のように交わされる再会の会話。



    「なーんで死んじゃったのかなぁ…。」




    切ない声で、
    サトは言う。





    ………。


    ホントだよ。




    私もまさか、
    こんな事になるなんて。



    しゃがんだままのサトの小さな肩を。





    ……抱いてあげたい。




    そんな小さな欲求にかられて─


    私は思わず手を伸ばす。






    ─ぽす(手)




    「…………。」




    あれ。


    サトは自分の太ももに乗った私の短い手を見る。




    くそう…。
    こ、この手じゃ。
    キマらない。


    ただの反省のポーズになってしまった私を見て、





    サトは微笑んだ。




    「…大丈夫。私もうすぐ結婚するんだよー」





    いい子いい子、
    と私を再び撫でた。




    ………。




    うん。




    そうらしい、ね。






    するとサトはもう一度墓石を見て。




    「うん。結婚…するんだよね…。」




    呟いた。




    迷いとも、
    納得とも。


    取れる表情。


    これは…?



    「…あ、いけない。」



    腕時計を確認した後、再び私の頭に手を置いた。


    「ノラくんじゃなければ家に帰るんだよ。」



    小さく微笑んで、






    手桶を持ち直し、




    足早に去って行く。







    私はサトの背中が見えなくなるまで、


    動けずにいた。










    ……サト。






    …結婚、か。




    軌跡を辿るように徐々に遠ざかっていく、サトの匂い。





    “迷い”
    の原因は。





    私に、
    あるのだろうか。





    …………。



    なんなんだよ、もう。




    そもそも何がおかしいって…。




    「………キャウ。キャン!」



    (お前が死んだのが悪い)




    私はかつての肉体が眠る場所に向かって鳴いた。






    何で…。





    なんなのさ、もう…。












    「…キャウーン!!!」




    踏ん張った肉球の隙間に砂利が入ったけど。










    私は叫ばずには、
    いられなかった。




    (携帯)
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■20640 / ResNo.15)  犬に願えば 10
□投稿者/ つちふまず 一般♪(15回)-(2008/02/26(Tue) 12:45:38)
    「キャウーン!!!」



    三回ほど鳴いた所で─



    「…嬢ちゃんよ」



    低い声が冷たい空気を割いた。



    …え?



    「珍しいな。女の子か。」



    しゃがれた声…。


    キョロキョロと見回す。人影は全く無い。


    「アウ (誰?)」


    「ここだよ。ここ。」


    えっ。



    声の主は、
    私の墓石の隣。



    「まだ子供だな。可愛い顔してら」



    濡れた翼。
    カーブした口。
    犬目線で見ると、





    かなり大きい。






    烏…。


    カラス?


    「気を付けな。そんな大声出したら通報されちまうぜ。」


    か!!!


    「カラスが喋っ…、ええっ!!」


    「お前さんだって犬なのに喋ってるぞ」


    「あれ?」


    「俺も同じ。なんだ?お前さん来たばっかりか。」


    「あの、えー…」



    「俺はゲン。烏のナリしちまってるがな。」


    「ゲン、さん…。」


    「おう。そうだ。」


    良く見ると、
    片目を失っているのか。


    額から首にかけて×と大きな傷が見えた。




    「…私、ハルカです、はい。」


    「かしこまるな。俺はつついたりしねーよ。」



    この人も、
    …死者?



    「事故か?病気か?まさか殺られちまったとか?」



    たたみかけるような質問。



    「あの、事故で…」


    「だろうな。犬は優等生にしかなれない」


    「優等生?」


    「お前ホントに来たばっかりなんだな。…いいか?」



    太い声に体が縮こまる。



    「はい」



    「簡単に言えば、どういう生き物に変身するかは生前の行いによって決まるんだ。」



    「はい」



    「…それだけだ」



    「え。あ、はい」





    「……なんで俺が烏になっちまったのか聞かねーのかい?」



    「え?あ、すみません。聞きたいですはい。」



    「ピリッとしねーなぁ…。」


    「すみません…」








    「まぁいいや。生前の俺と言えば札付のワルでな、街を歩けば誰しも視線を合わせず思えば人様に迷惑かけっぱなしで、それでもオギャアと男と産まれて来たからには、」






    …。










    「…一旗上げるのが筋ってもんよ。ってな事でまだ毛も生えてねぇ頃の話からになるが、義務教育もそこそこに盗んだバイクで旅をする事2年、そこで出会ったサブローって兄貴がまたいい男でよ?」









    ……。




    つづく。




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■20641 / ResNo.16)  ルーさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(16回)-(2008/02/26(Tue) 20:18:03)
    おす(^0^)☆
    オラつちふまず!
    (懐かしい)

    久しぶりですね、
    ルーさん。
    お元気でしたか?

    私は花粉症ノックアウツ…。
    鼻トールメントールという飴が手放せません。

    三寒四温とは正にこの事…ルーさんも体調にはお気を付けて☆




    (携帯)
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■20642 / ResNo.17)  犬に願えば 11
□投稿者/ つちふまず 一般♪(17回)-(2008/02/27(Wed) 08:18:04)
    ゲンさんの武勇伝は、まだまだ続く…。




    ヒューるり〜(北風)




    「という訳でサブローの兄貴が俺に裏で生きるための処世術を…処世術ってわかるか?教えてくれた訳だ。そりゃもう、」


    とそこに─






    「ただのヤクザよ。流れ弾に当たって死んだの。つまんない喧嘩でね」







    ……あれ、
    いつの間に。



    我が家の墓石に─





    はと。







    今度は鳩…。
    (段々慣れて来た)




    「おうフジ。なんだよいい所で。」




    「いい加減におし。…変なオジサンの話聞かされて鼻が乾いてしまうわよ。」




    ねぇ、とフジと呼ばれた鳩は首を傾げた。



    「いえ、はは…」



    「いやーついついな。若えもん見ると舌が滑っちまって…」


    「始末に負えない烏だよ。…ところで、来たばかりなのかい?」




    羽を揺らせてお座りをした私の目の前で、


    フジさんは止まった。




    「ええ。そうなんです…。」



    何が何だか。



    「私はフジ。よろしくね。」



    「私…、は」
    「ハルカだよな♪」
    「お前さんは黙ってて」





    …………。


    何か、
    こういう会話。




    「はははは…。」




    「あらやだ。笑うと可愛い。若いっていいわ…」


    「お前はただの鳩婆だろ」


    「うるさい!」





    はははは…。





    暫くの会話ののち─




    「と、いう訳なんです。」




    私が死んだ理由。
    与えられた“仕事”。
    などを説明した。




    私とサトの関係性は、敢えて伏せたけど…。




    「なるほど。お前さんの送り手はラフィか…そりゃ運がいいぜ。」





    ゲンさんは頷いた。




    「そうなんですか?」




    「そうよ。いい送り手だもの。」




    「部長クラスだな。」




    部長クラス?



    「ただ…“対象”が結婚するとなると難しいわね。」


    「んだなぁ…。」



    「どういう意味です?」


    「考えてみろよ。これから幸せになるって事だろ?…俺らの仕事は、人間様に幸せを届けること」


    「既に幸せな状態にある対象者には難しいわ。」



    「そう、ですか…」




    ただ─




    サトのあの表情…。


    “迷い”


    があったような…。






    とそこで─




    “おーい!一旦戻るニャよー!”









    ラフィの声が、
    天から響いた。



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■20643 / ResNo.18)  Re[2]: 犬に願えば 11
□投稿者/ もも 一般♪(1回)-(2008/02/27(Wed) 13:16:13)
    はじめまして^^つちふまずさん。
    もう、何年も前からよく読ませてもらってましたよ〜「スマイル」とか?

    なんか、作風がかわいくていいですね〜。小さな子犬が頭の中に浮かびます。
    ほんと読みやすくて感心します。今回はパターンが違うのでほんと楽しみ♪
    ホントはもっとお話したいとこですが、邪魔になると困るので!!
    頑張ってくださいね〜
引用返信/返信 削除キー/
■20644 / ResNo.19)  お久しぶりですね
□投稿者/ 春坊 一般♪(1回)-(2008/02/27(Wed) 16:11:21)
    名を見てつい書いてしまいました。
    今更ながら再認識し好きだなこのテンポ(^O^)つちふまず節(笑)では、又。

    (携帯)
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