ビアンエッセイ♪

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■20660 / ResNo.30)  犬に願えば 16
  
□投稿者/ つちふまず 一般♪(26回)-(2008/02/29(Fri) 11:13:05)
    もう帰っているみたいだ。




    事実─
    私の鼻はサトの匂いを確実に捉えて。


    家路に着くまでのルートを確認していた。



    慎重に目的地に近付いた頃、




    灰色の空から、
    雨が降り始めていた。




    サトのマンションは、あの頃と変わってない。




    結婚する前に、
    同棲するつもりは無いのだろうか…。






    ─オートロックの方が安全じゃない?





    ─んー…そうかな?





    ─心配だよ





    ─こんなオンボロマンションに泥棒入る人なんていないよね。ふふ




    こんな話、
    したっけなぁ…。





    管理人さんの部屋の窓からは見えない位置をすり抜けて。



    集合ポストからは離れて、



    ぶるぶるぶる─


    体の水滴を払った。




    務めて静かに、
    階段を昇る。



    んしょ、んしょ。



    足が短いもんだから(涙)



    5階に着くと、
    私は舌を出して熱を発散させた。




    はぁ。はぁ。




    502…、と。



    あったあった。




    さて、ここからだ。





    ………むん(気合い)




    私が思い付いた、


    “案”


    と言えば。




    ………せーの!!




    ─タタタタ、ドン。


    いて!




    ─タタタタ、ドン。


    あいたたたた!




    ただただ単純に。
    ドアを、


    “ノック”


    しようと思った。




    ─タタタタ、ドン。


    いち〜。




    だって難しい事は考えつかないし。




    ─タタタタ、





    「…はい、どちらさま?」




    何となく、
    これが一番かなって…。



    「………あれ。」




    いた。
    …………サト。



    訪問者が、
    “かなり”小さかった事が意外だったか。





    足元に座る私を見て。




    「この前の…、」




    サトはドアを支えたまましゃがんで。




    「また会ったね。」




    一つ、笑顔を見せた後に私の頭を撫でた。




    「冷たい…。寒くないの?」




    そう、
    サトは優しいから。




    きっと私を迎え入れるだろうと。


    どこか確信めいた自信があった。






    ─どうして雨の日には良く来るの?





    ─なんだろ……物悲しいからかなぁ




    ─じゃあ、毎日雨ならいいのにね。




    ─……はは。











    私はいつもその優しさに甘えていた。






    (携帯)
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■20661 / ResNo.31)  犬に願えば 17
□投稿者/ つちふまず 一般♪(27回)-(2008/02/29(Fri) 11:18:12)
    「よいしょ。」




    サトは片手で私を持ち上げ静かにドアを締める。



    同時にふわりと広がる、懐かしい匂い。





    「ちょっと待ってね…。」



    洗面所にサトは入ると、タオルを片手に取り。




    リビングへと足を進めた。



    良かった…。
    この鼻も示していたが、サト“一人”らしい。




    フローリングに静かに足が着地した後、
    柔らかくタオルに包まれる。



    「大人しいんだね」



    体に這うタオルと手の感触が少々くすぐったいが。


    「………キャウ」


    (ありがと)



    「あ、鳴いた。ふふ」



    再び体が持ち上がる。



    「で、君はどこから来たの?」



    両脇を抱えられて。



    「…………。」



    顔。




    サトの顔が近い。




    長い睫。
    気にしている広い額。


    真っ直ぐに伸びた鼻筋。



    は、
    恥ずかしいー…。




    「どこから来たんですかー?」




    ふりふり、と左右に揺らされて短い足が空を切る。




    「あ、女の子なんだ。」



    下半身に目を遣るサト。





    は、
    恥ずかしいっちゅーねん!!




    「イヤイヤしてる。ごめんね。ふふ」




    ストンとフローリングに下ろされた。



    ふう…。



    「不思議なワンちゃんだ。飼い主さんはいないのかな…。」



    うーん、とサトは指で顎をさすった。



    サトが考え事する時の癖。




    「ミルクでも飲む?」




    思い付いた様にサトは言うとキッチンへと向う。



    部屋を見渡す。



    ある事実に気付く。



    こんなにさっぱり、
    してたっけなぁ…。



    必要最低限の家具、と言った所だろうか。



    雑貨が好きなサトにしては物が少ない。




    ………あ。



    テレビの横にある、小さな棚の上を見ると。


    そこには、
    私が“仕事”をする上で重要なポイントがあった。




    …………。



    近付いて、
    目の前で座る。





    この人、か。




    うーん…。


    まぁ。


    いい男に、見えなくもない。かな。




    …………。



    幸せを形にするとしたらこんな感じだろうか。



    フレームに入った写真。



    胸の痛みは感じないように心がけていた。




    それなりの覚悟を持ってここに来たつもりだから。







    けどやっぱり。










    結構悔しいもんだ。




    (携帯)
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■20666 / ResNo.32)  犬に願えば 18
□投稿者/ つちふまず 一般♪(28回)-(2008/03/01(Sat) 18:20:59)
    ぼーっと2人が寄り添う図を見ていた私に、



    「写真を見てるの?」



    ホントに不思議なワンちゃんだね、と。




    キッチンから戻ったサトは私の隣にしゃがんだ。



    コトリ─




    ミルクを入れた小皿を、フローリングの上に置く。



    わざわざ温めてくれたのかな。



    小皿はゆるく、湯気を立てているのを見て。




    こういう所はサトだなぁとぼんやり思う。




    「いい人、なんだよ」




    見上げるとサトは目を細めて写真を見ていた。




    …………うん。




    それは何となく、




    わかるよ。




    「いい人、……なんだけどね…。」




    「…………。」




    「はぁ。」




    ため息…。





    の後に─





    「ゲプ」


    (↑私)




    ええっ!




    「あら、げっぷした…お腹は一杯なのかな?ふふ」




    ななななんだ!?




    サトの前で、
    いやいや。


    人前ではしないはずのげっぷが…。




    出ちゃった(恥)




    ………あれ。


    なんだこれ。




    口に、
    広がる甘い味…。




    そんなおかしな犬の私の変化に気付く事もなく。



    サトは私の背中を撫でている。





    むずむず─


    鼻、が。


    真冬の雨が堪えたのか、


    「プシュン!」



    おっと…。
    (今度はくしゃみが)



    「くしゃみした。ふふ…。まだ体が冷たいね。」



    「…キャウ」
    (大丈夫だよ)



    「…ふふ。あ、そうだ。」









    「お風呂、入ろっか♪」




    ……………。





    えー…っと。




    「入ろう♪あったまろう♪行くよー」




    ヒョイと私を抱きかかえる。




    ええっ!




    「キャウ!キャウ!」
    (いいよ!いいって!)




    「じたばたしないー」




    サトに抱かれつつ、
    イヤイヤするも。




    抵抗虚しく…。




    そういや、


    サトは優しい上に。





    ─お風呂たまったよ〜




    ─いいよーサトの後で。



    ─冷え性なのはそっちでしょう?ほら、早く入って




    ─面倒くさいー




    ─…んもう。髪、洗ったげるから。ほらほら。




    ─へいへい。分かった分かったって。







    かなりのお節介だったなぁと。









    私は思い出していた。





    (携帯)
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■20667 / ResNo.33)  犬に願えば 19
□投稿者/ つちふまず 一般♪(29回)-(2008/03/01(Sat) 18:24:29)
    シャー…(湯)



    「気持ちいい?ふふ」



    そりゃ、まぁ。




    期待、してた。


    …ワケじゃないけど。




    “一緒に”なんてさ。




    そんな私の下心は、
    ともかく。




    部屋着の裾と袖を捲って髪をアップにしたサト。



    さながら風呂掃除、と同じ格好だろうか。




    産毛の中までお湯が入り込む感覚。




    ふ、


    ふいー…。
    (気持ちええ)



    温まって行く体。




    ふと上を見ると、サトは笑顔を見せた。




    私は思わず、
    視線をそらす。




    実際は毛に覆われているのにそうは思えないから…。



    (裸にされている気がする)



    「シャンプー、はマズいよね。やっぱり石鹸かな。」



    「キャウ」
    (どっちでもいいっすよ)


    モコモコと体が泡立つ。やっぱりちょっと…。



    「キャウ」
    (くすぐったい)



    「あれ、ダメ?」



    ダメじゃないけど…。
    くすぐったいよ。





    ぼんやりと思う。




    サトは─




    いいお母さんになりそうだなぁ。




    今までそんな事思った事無かったけど…。




    うん、


    きっとなれるわ。




    「はい、キレイキレイ♪」



    再びシャワーから湯を出すサト。




    「ギャウ!」
    (あちっ!)




    「ごめんごめん!古いから温度調節が難しくて。…」




    慌ててサトはノブを調節する。




    オッチョコチョイなのも相変わらず、かぁ。




    「はい、終了ー。」




    水分を含んだ自分の姿は…。




    「細っ!かわいー♪ふふ」




    酷くピタピタで情けない。



    むむ…。



    あ。
    (いい事思い付いた)



    ─ぶるぶるぶる(反撃)



    「わっ!ここでぶるぶるしないのー!」




    へへっ。


    犬の特権だね。




    下らないやり取りの中─


    口一杯に広がる甘い味と徐々に膨れて行くお腹。



    そんな変化に気付かない位…。




    ふりふり(尾)




    「んもーびしょびしょだよー」



    「キャウ」
    (ざまぁみろ♪)




    ふりふり(尾)




    私は、





    嬉しかったんだと思う。






    (携帯)
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■20668 / ResNo.34)  犬に願えば 20
□投稿者/ つちふまず 一般♪(30回)-(2008/03/01(Sat) 18:30:31)
    「ふわふわだね♪」



    私の体をタオルで充分に水気を取った後に。



    サトは満足そうに私の背中を撫でた。



    リビングのソファに伏せの状態で私はジッとしていると。



    「私も入って来ようかな…。」



    サトは結った髪を解いた。



    長い髪は、あまり見慣れていないから。



    とても大人っぽく見えるなぁ、と。



    思わず目を細めた。



    そんな私の心中も察する事も無く、
    サトはバスルームへと再び足を運ぶ。



    ガタガタ、
    とサトがお風呂に入るのを確認すると。



    上げていた顎をソファに付けて、辺りを見回した。



    片付けられた部屋。





    …………あ。
    そうか。



    3つほどのダンボールを見て、一つの結論に達した。



    もしかしたら、
    もうすぐ“引っ越す”のかもしれない。



    私が知るサトの部屋にあった本棚は無く。



    フローリングに直に文庫本やハードカバーが積まれていた。




    …本の好みは。
    変わってないのかな。




    見覚えのあるラベルと表題がそこにはいくつも存在していた。




    …………ん。あれ?




    積まれた本の上の隣に、小さな収納箱。


    その上にはサトがこだわって使っていたスキンケアメーカーの瓶が並ぶ。


    その場所に、



    ある“モノ”を発見して。



    私はソファの下に降りてそれを目指した。




    あ、やっぱりそうだ…。


    頭が届きそうなので、体を伸ばして。




    それをくわえた。


    そっとフローリングに下ろす。




    ─しょっちゅう止まるらしいから、あんまり使えないかもだけど…



    ─ううん、嬉しい




    ─お金があれば、もっといいもん買えるのにね。ごめん




    ─そういう問題じゃないよ。嬉しい






    いつかのクリスマスに。



    あげたね。



    これ。




    アンティークの腕時計。



    予想通り、


    針は時を刻んではいなかった。








    しばらくして─




    「……それね、貰いものなの」




    お座りをしたまま、時計を見ていた私に。




    タオルで髪を拭きながらサトは声をかけた。




    「キャウ」
    (知ってる)




    やっぱり止まってんね。安物だしなぁ…。




    「あなたに会った日…お墓にいたでしょ?その人から貰ったんだ。」




    ストンとサトは、ソファに腰を下ろした。





    (携帯)
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■20670 / ResNo.35)  犬に願えば 21
□投稿者/ つちふまず 一般♪(31回)-(2008/03/02(Sun) 09:02:47)
    私は時計をくわえると。


    サトは私を抱いて再びソファに座った。



    「気に入ったの?…ふふ。やっぱり不思議なワンちゃんだね」



    私の頭を撫でる。



    すると私の口から時計をそっと手に取り。




    「…私の時計も。………止まったままなのかもね」





    ……………。




    サト。




    ダメだよ。




    それじゃ…。





    思わず立ち上がって、サトの太ももに乗る。




    「キュー。ウー。」
    (ダメだよサト)




    「どう、したの?」




    「ウー、キャン!」
    (ダメなんだってば)






    こんなもの─



    早く捨てて。




    「何…。あっ」



    私は時計をくわえて、勢い良く投げ捨てた。



    ボトン、と。
    重たい音がする。



    「…………。」



    サトを見上げると、
    悲しい顔を。


    …していた。



    「わかってる。もういないんだもん、ね…」




    サトの柔らかい胸の中にいるのに。





    ちゃんといるよ。







    ぽた、ぽた、と。




    私の顔に当たる何かに、上を見ると。




    サトは泣いていた。




    長い睫では、
    せき止められてない。




    …………。







    ─泣き虫だなぁ




    ─だって…好きなら泣きたくなる時だってあるでしょ?




    ─良くわかんないよー




    思えば私は、
    サトが悲しくて泣く姿なんて。



    見た事が無かった。



    別れの時でさえ、サトは必死に涙をこらえて。



    ─ばいばい。



    って笑ってた。





    …違う。


    私はサトの泣く姿なんて見たく無かったんだ。


    最後にサトが笑う姿を見て、
    どこかホッとした自分がいたから。




    …………ごめん。




    体を伸ばして、
    私はサトの頬に。




    舌を伸ばした。




    ホントにごめん。




    「ん?………ふふ。くすぐったいよー」




    幸せにならなきゃね。



    「ふふ。んもー…大丈夫だよ?あー鼻水まで出て来ちゃった」




    サトなら出来るから。




    「ありがと。いい子だね、優しい子だ。」




    サトの涙は、
    これまでに無く。




    不思議と甘い味だった。




    ねぇ、サト。




    私もさ。





    本当はね?







    ホントは私も…。










    幸せになりたかったんだ。




    (携帯)
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■20671 / ResNo.36)  犬に願えば 22
□投稿者/ つちふまず 一般♪(32回)-(2008/03/02(Sun) 09:06:44)
    サトの頬に舌を伸ばして涙を拾っていたその時─



    ブーブーブー




    リビングテーブルの上の携帯が鳴った。



    「…ん」



    私を胸に抱き直して、サトは携帯に手を伸ばす。


    カチ、と携帯を開いて、メールだろうか。



    文章を確認する。



    私からは内容は見えない。



    というよりも。
    私の残る人間的部分がそうさせたのか、


    画面を見る気にはなれなかった。




    …彼氏さん、かなぁ。




    やがてサトは何かを考えるように顎を指で触ると。



    口元が少し、緩んだ。



    どうやら、
    悪い内容では無かったみたいだ。



    するとサトは指を動かしてキーを打ち始める。



    私はその一連の動作中。



    サトの顔を眺めていた。



    サトが画面を通して誰かと会話する時の表情。


    初めて見る顔に少し戸惑いを感じつつも、



    サトが生きている事。



    サトが笑ってる事。



    凄い事なんだなーって。



    感動すら感じていた。




    短い内容にとどめたのかサトは携帯をパタンと閉じて。



    もうこんな時間、
    と呟いた。





    そっか。
    じゃあ私は…。




    「いこうか♪」




    え。




    サトは私を抱っこしたままソファから立ち上がり。



    リビングを抜け、
    電気を付けつつベッドルームへと。




    ジタバタジタバタ
    (いいよ!いいって!)



    「一緒に寝ようねー」



    私をベッドの上にストンと下ろす。



    ……………。



    な、なんか。




    「固まってる。寒いのかな?」




    いや、そうではなくて…。




    「大丈夫、私寝相はいい方なんだからさ」




    嘘こけ。


    しょっちゅう起きたら逆さまになってたのは。


    どこの誰だい?




    軽い掛け布団の中にサトは入ると、


    私はその上に伏せの状態のまま、サトの隣に位置を取った。



    「ホント不思議な子だね。新しい家で…、」







    「飼ってあげる、から…。ね。」



    …………。



    すぐに小さく息を吐いてサトは眠りについた。



    相変わらず寝つきのいい事…。









    って。







    …………飼う?




    私を?









    そりゃ、
    マズいっしょ!








    ……………。









    マズい、のかな。
    やっぱり。






    ラフィに聞いてみよう。

    (携帯)
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■20674 / ResNo.37)  犬に願えば 23
□投稿者/ つちふまず 一般♪(35回)-(2008/03/02(Sun) 09:19:14)
    「おかえりニャ♪」




    ─ぽん。
    (変身)



    「ふいー…戻りました」



    サトの眠る夜、私は再び天上へと戻った。



    「今日は凄いニャ♪沢山ゲットニャよ!」



    ひょひょーと。
    ラフィは杖を回した。



    「…あぶなっ。え、ゲット?って何が?」



    「ポイントニャよ。お前さん初めてにしてはいい腕ニャ!」



    前にも手にしていた分厚いノートを捲っている。


    白紙だったページに、何やら文字が書かれている。



    「なんですそれ?」



    ラフィからそのノートを受け取ると、







    ○ 笑顔 152
    ○ 喜び 86
    ○ ぐち 43
    ○ なみだ 424







    と、書かれていた。




    ………。




    「なんすかコレ」




    「ポイントの内訳ニャ。」




    「……………。」




    「この涙ポイントは大きいニャよ…。ウニャ!」




    「ふざけてません?」




    ラフィの腕を掴み肉球を強く、うにうにした。



    「ニャハハハハ!ニャにをする!くしゅぐったいニャー!」



    「ったくもう…」



    何なのさ。ったく。



    …………。





    あれ、
    でももしや。



    あのげっぷと。



    口に広がるあの、
    不思議な甘さは…。



    思わず口を抑えると、





    「気付いたニャ?そう、味わえばわかるニャよ」



    ………なんと、


    まぁ。





    「あの…“ぐち”ってありますけど、これは?」




    「幸せは与えるだけが幸せではないニャ。対象の苦しみや悲しみを受け止める事も、それもまた幸せの一部ニャよ。」




    「…………。」




    「意外といい事言うニャーと思ったニャロ?」




    「ははは…」




    苦笑いで答えた。




    「この調子で頑張るニャよ♪」





    「あ、そうだ…。あの、“対象”が実際に私を飼う事って出来るんですか?」







    「ニャに?」




    ラフィは髭をピンと伸ばした。






    「サトにそう言われたんです。新しい家で、飼ってあげるからねって…」







    「出来ない事はニャい」






    ラフィは笑わずに、
    杖を持ち直した。




    「ただし…」






    「え?」







    「人間であった記憶は全て抹消されるニャよ。」




    「そう、ですか…」










    そうなんだ。




    (携帯)
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■20675 / ResNo.38)  犬に願えば 24
□投稿者/ つちふまず 一般♪(36回)-(2008/03/02(Sun) 10:05:50)
    「ウニャ。子犬に変化したお前さんは運がいい、そう言った理由が分かったニャ?」




    「……なんとなく。」




    「2つの選択肢が出来た訳ニャ。ポイントを貯めて天国に行き、生まれ変わるかはたまた…」



    「“対象者”に飼われるか…」



    「そういう事ニャ。」



    ほれ、
    とラフィは小さな袋を差し出す。




    『やちまたピーナッツ』



    と書かれていた。




    「どうも…」



    手を伸ばして2、3粒取り。



    口に放り込んだ。



    ぽりぽりと、
    砕く音。



    「考えときます。」



    「ニャ♪では私はちょっと出るニャよ。」




    やちまたピーナッツの袋を私に渡して。




    コン、と杖をついた。




    「…はい、用事?」




    「送り手も忙しいニャよ。」




    提出する書類が多くてニャーと。


    長い髭をまん丸の指で撫でながら言った。




    「会社みたいですね…そうですか、分かりました。」



    「ではまたニャ。下界に降りる時はあそこから飛び降りるニャよ。」




    ラフィが杖で示した先は雲の切れ目。



    水たまりのように─
    ぽっかりと小さい穴が開いている。




    「はい、分かりました」



    「あ、そうニャ。」



    「?」





    「…歯に詰まりやすいから気を付けてニャ。」





    ラフィは背を向けたままそう言った。



    「へいへい、分かりました。」



    するとラフィは光を放って、



    すぐに消えた。








    うーん…。




    雲に座り。




    ピーナッツを口に放る。




    飼い犬、かぁ…。




    わしわし、
    と髪を撫でる。




    石鹸の匂いが舞う。




    お風呂に入れてくれたサトを思い出した。






    サトは優しい─




    これから新居に移って。




    幸せな家庭を築いて…。






    だからきっと、
    私は飼われても。




    幸せに、
    生きれるのかもしれない。




    “ただし犬として”







    ぽりぽり。





    2つの選択肢、かぁ。





    「もうよくわかんないなー…」





    ゴロンと大の字になって空を見上げた。




    青いなぁ…。




    何もない…。







    幸せか…。








    ぽりぽり。




    「んっ。」










    (詰まった)




    (携帯)
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■20676 / ResNo.39)  犬に願えば 25
□投稿者/ つちふまず 一般♪(37回)-(2008/03/02(Sun) 10:12:02)
    下界─




    ピピピピピピピピ




    「キャウ」
    (起きろー)




    「う、うーん…」




    相変わらず、
    寝相も悪い上に。




    ピピピピピピピピ!




    「キャン!キャン!」




    起きないんだよなー。
    コイツは。


    ったく。



    ピピピピピピピピ!!



    ……んしょ(足)


    ぽん(止)




    …やれやれ。




    「う、………うん?あー…おはよ…ふふ」




    がばちょ(抱)



    ………げ



    「ニュー!(苦しい!)ギャウ!(起きろ!)」



    「あれ、…ごめんごめん。ってこんな時間!!」



    がばちょ(布団)


    ゴロン◎


    ゴン!(頭)



    「ウー…(いだい)」



    「きゃあごめん!」



    朝起きて私がいない事は不自然に感じるだろうと思って…。



    下界に降りてみたけど。


    来ない方が良かったかな…。



    バタバタと支度をするサトを見ながら、



    犬なりにため息をついた。




    30分程で支度が終盤に差し掛かったサトを見る。




    髪をセットした後、



    大人びた仕草で、ワンピースを整えている。



    揺れる髪に、
    朝日が当たって。




    「…キャウ」




    (綺麗だね)





    「ん?んー…。あっ。」



    私のお座り姿を見て。


    さながら、



    “この子をどうしよう”


    と言った所か。
    戸惑っている。




    ……それは心配ないよ。



    私は玄関に向かって。




    体を伸ばしてドアに両足をかけた。




    「キャウ、キャウ」
    (私も出るから)




    「え。出たいの?」




    サトは慌ててコートとバッグを手に、ブーツを履いた。




    「キューン」
    (心配ないから)




    「…………。」




    サトは戸惑った顔をしたまま、
    玄関の扉を開けた。




    私が飛び出すと。



    「えっ!」



    サトも玄関の外に出る。



    お座りをしてサトを見上げる。




    (行ってらっしゃい)




    ふりふり、
    と尻尾を振ると。



    サトはしゃがんで。



    「また来るよね?」



    私の頭を撫でた。




    (うん)




    私はサトを置いて、
    廊下を駆けた。




    そうでもしないとサトは遅刻するから。




    5階から一気に降りて。(ずっこけながら)




    足早に通りを過ぎて。





    いつもの丘公園に着いた。



    (携帯)
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