ビアンエッセイ♪

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■20677 / ResNo.40)  犬に願えば 26
  
□投稿者/ つちふまず 一般♪(38回)-(2008/03/02(Sun) 10:17:43)
    息を整えつつ─




    サトが無事に駅に着いた事を鼻で確認した。




    滑り台に照らされた朝日が反射して、思わず私は目を閉じる。



    「おう、ハルカ」



    バサバサ、
    と羽が擦れる音。




    この匂いはゲンさんだ。



    「おはようございます」


    ゲンさんは滑り台の頂上に止まると。



    「おいっす。どうだ?調子は」



    「まだ良くわかんない事だらけですよ。ゲンさんは?」




    「今日は燃えるゴミの日だからな…。バカな輩がゴミを荒らさないように見張ってる訳よ」




    ゴミの日…。



    「カラスが、って事?」



    「ああ。これが俺の仕事。地味でやんなるぜ」



    カラスが。
    烏を見張る…。



    「大変、ですね…」



    「あ?まぁ楽しくはねーわな。この傷も思い起こせば五年前年末と言えば沢山出るのはゴミってな訳で、」

    「フジさんは?いないのかなー…」



    話が長くなりそうなので途中で遮る。



    「おう、フジか。んー…どうだろうな。あいつも対象がいないしな」



    「え?」



    どういう意味?



    「俺らは幸せを届ける特定の対象者がいないのさ。だからこうやって地道にポイント稼ぎするしか道はない」



    「そう、なんですか…」



    「俺は好き好んでここに止まってるけどな…。フジはもう長いぜ。なんせハトだしよ…」



    出来ることなんて、
    限られちまう、と。



    ゲンさんはため息混じりに呟いた。



    そうなのか…。



    ラフィもフジさんの業は重いって。


    言ってたっけ…。



    「でもおかしいよな。フジの意思で死んだ訳じゃないんだぜ?」



    イデオロギーのせいさ、とゲンさんは続けた。





    「………イデオロギー?」




    「フジはなー沖縄で死んだのよ、いわゆる戦死だ。…もう60年になる」




    せつねーよなぁ、と。
    ゲンさんは空を仰いだ。




    そんな。




    60年も…。






    「………。」





    胸がモヤモヤした。



    フジさん…。



    そんなの早く生まれ変わるべき、なんじゃないの?





    「これが俺らの世界よ。矛盾だらけだぜ。」









    こっちの世界と大して変わらねーよ、と。




    ゲンさんは言った。




    「そうだハルカ。」



    「はい?」



    「お前さんにいいものを見せてやろう」











    (携帯)
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■20678 / ResNo.41)  犬に願えば 27
□投稿者/ つちふまず 一般♪(39回)-(2008/03/02(Sun) 10:22:09)
    するとゲンさんは─



    キョロキョロと辺りを見回した後。



    「あったあった」



    何かを発見し、羽を広げてふわりと飛ぶ。



    あの木を目指しているみたいだ。









    と。
    すぐにゲンさんは戻って来た。



    何かくわえて…。



    「あらよっと」




    大きな羽を広げて─




    ゲンさんは私の前で着地した。




    「こん中入れや」



    ゲンさんのくちばしから私の目の前に落ちた、
    とあるモノ。




    「…………。入る?」



    「おう、そうだ。楽しいぜ♪」




    …………。




    ま、まさか。




    「や、やだやだやだ。絶対無理!無理!」




    「いいから入れって」




    ぽこん(足)
    ↑ゲンさん




    ころん◎
    ↑私




    ガサガサ(in)





    「やだ!やだやだやだやだー!!」



    ゲンさんの持って来た、とあるモノとは。




    『7』のマーク。




    コンビニ袋。




    「っしゃ!行くぜ!」


    「いやーっ!!」




    ふわっと体が浮いた感覚。




    足を踏ん張りたくても、



    ビニールの中では…。





    「こわいー!ゲンさん!!」




    袋の中で上になったり下になったりする私に。




    「顔だけ出してみろやー」




    ゲンさんは言う。




    袋の隙間から上を見ると、




    ゲンさんは器用にくちばしの間に袋を挟んでいて。




    私は極めてそうっと、袋から顔を出した。




    小さく見える、
    朝日を浴びた街。




    流れて行く冷たい風。




    こわい…(ぶるぶる)




    でも、
    綺麗だなぁ…。




    凄い…。




    「空飛ぶ犬だぜ!ハッハー!」




    「揺れる揺れる!やめてゲンさん!」




    全く袋は安定しない。




    すると─




    「ゲンちゃーん♪最近来ないじゃなーい♪」




    ん?


    甲高い声に、
    また恐る恐る顔を出す。


    三羽の雀が、
    チュンチュンと声を合わせながら。



    列を成して飛んでいた。




    「おう!今夜行くよ♪待ってろよギャルちゃん達♪」




    「そのチビちゃんも一緒にね〜♪」




    バハハーイ、と。
    雀達は離れて行った。




    「ゲンさんモテるんだね!?」



    「女泣かせのカラスと呼んでくれや!ほっほーい!」



    「あああ危ない!!」





    ひーん(涙)




    (携帯)
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■20679 / ResNo.42)  犬に願えば 28
□投稿者/ つちふまず 一般♪(40回)-(2008/03/02(Sun) 10:26:06)
    「ほい、終了〜♪」



    ゲンさんはそっと─
    私の入ったコンビニ袋を地上へと下ろした。



    ガサガサ。



    「…………はー」



    「楽しかったろ?」



    「おえ゛ー(吐)」



    「おおっと!酔ったか?すまねぇ…」




    子犬は、
    良く吐く…。




    「だ、だいじょぶです…」


    シパシパ、と。
    まばたきを繰り返し。


    川沿いの、
    空き地に着いた事に初めて気付く。



    「いつでも飛んでやるからよ。言ってくれ」



    「もういいです、はい…」



    「じゃ、そろそろ…あ。今夜あの裏山で会合があるからよ。お前も来い!」



    羽ばたきながらゲンさんが示した先は。



    住宅地の向こうに見える小さな山だった。




    「会合?」




    「来りゃわかるよ!ほんじゃ夜にな!」




    あっという間にゲンさんは見えなくなった。




    会合…。




    って何だろ…。




    うっぷ。




    「おえ゛ー…(吐)」




    ヨタヨタと川面に向かい冷たい水に。



    頭を突っ込んだ。



    あー…、気持ちいー。



    ぷはっ。



    ぶるぶるぶるぶる。




    「体調が悪いのかしら…。」




    ん?




    上品な声、に。




    耳がピンと立つ。




    「ごめんあそばせ。入浴中でした?」




    声の主は。




    スラリとした細い足。




    真っ白の羽に覆われた、スタイリッシュな体。





    「あ……ども」




    「いいえ。こちらこそ。おはようございます。」




    白鷺………。




    細長いくちばしは、とても鋭いけれど。




    怖い雰囲気はしない。




    「ハルカです。」




    「シラトリ、と申します。」




    …………。


    会話が止まってもうた。




    「す、素敵な名前ですね…。名字ですか?」




    「ええ。そうですの。……よろしければこちら、いかが?」




    シュン、と。
    くちばしが川面を刺したと思った瞬間。



    再び上げたくちばし。




    ピチピチ─



    その端から小魚の尾が揺れていた。



    そしてゆっくりとした動作で…。



    私の目の前にシラトリさんは魚を置いた。




    「け、結構なお手前ですね……」




    「オホホホ、大した事ありませんのよ」





    はははは…。




    い。
    色んな人が、





    いるなぁ…。




    (携帯)
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■20680 / ResNo.43)  犬に願えば 29
□投稿者/ つちふまず 一般♪(41回)-(2008/03/02(Sun) 10:28:45)
    話を聞くと─



    シラトリさんは麻布に住んでいたとってもお金持ちのお嬢様で。



    (お父さんは白鳥物産の社長らしい)



    大学生の時に、
    心臓の病に侵され。



    二年の闘病生活の後─



    そのまま亡くなったらしい。




    「儚いですわ。人生なんて…そう思いません?」



    シラトリさんは静かな声でそう呟いた。




    「全くですね…。」




    私は伏せ、
    の状態で。




    シラトリさんに耳を傾けていた。




    「心残りは、無かったんですか?ご両親は悲しんだでしょうね…。」




    「もう10年も前の話ですのよ。妹もいますし…すっかり元気になっていますわ。」


    忘れる事は無いにしても、と。



    シラトリさんは優しい声で呟く。




    「そうですか」




    「ただ…。」




    シラトリさんは俯いた。



    「?」




    「好きな人が、いましたの。」




    照れ臭そうに、
    そう呟く姿を見て。




    シラトリさんに初めて親近感が湧いた。




    「そうなんですか。思いは伝えなかったんですか?」




    「手の届かない人ですもの。そんな事しません。」




    バサっ!




    照れ隠しか─



    大きな方翼が私の体にヒットして。



    ごろんごろん◎



    「あいちちち…」



    「あらごめんあそばせ。」



    「いえ…はは。」



    「実は毎朝、ここを通るんですのよ。ワンちゃんと一緒に…」




    まだかしら、




    と言わんばかりにシラトリさんは遠くを見た。




    「へぇ…」


    「やっとこの場所を見つけましたの。本当に長い年月をかけて…。」




    「すごいですね…」




    「10年の歳月は、あの方を更に素敵にしていましたのよ。見ているだけで本当に幸せ…」



    再び照れ隠しか─




    シラトリさんは巨大な羽を振り回したので。




    「おっと」




    私はそれをかわした。





    「あ、いらっしゃいましたわ!」




    途端にそわそわし始めたシラトリさんの視線を追うと。





    誰かがこちらに、










    向かって来ていた。







    (携帯)
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■20681 / ResNo.44)  犬に願えば 30
□投稿者/ つちふまず 一般♪(1回)-(2008/03/02(Sun) 10:32:10)
    足の長い、人と。


    おっきな、犬…。




    見ると躾がキチンとしているのか。




    犬にリードはされていなかった。




    シラトリさんを見ると。




    「今日も素敵…」




    うっとりとその人に、見入っていた。




    「ウォウ!オン!オン!」




    え?


    見ると大きな犬は。




    ダダダダダ─




    砂煙を立てて、




    私に向かって、
    まっしぐら…。




    「ええっ!」




    こっち来るし!!




    と思ったらもう手遅れ。




    ドン─




    ごろんゴロゴロ◎


    「ギャン!(どわっ!)」



    襲われる!
    殺される!




    ジタバタしていると─









    「こらこら…。エリー。」








    落ち着いた声に、
    目を開けると。




    大型犬のでっかい頭と。


    小さな整った顔が。
    覗き込んでいた。




    「…………おや」




    私に気付いたその人は。




    私を両脇から抱えて、
    高く持ち上げた。





    「…………雑種?」



    ふりふり、
    と左右に揺らされる。




    こ、
    この人…。




    ゾクリと背筋に、
    鳥肌、否。




    毛が逆立つ。






    女?男?




    めちゃくちゃ、
    美形…。



    日本人離れしてる。




    形のいい眉と鋭い目の間が極端に狭い。





    短い金髪の髪が、
    似合っていた。




    思わず見とれる。




    鼻が拾った匂いは。
    何とも言えない、




    甘い匂い…。





    「可愛い。エリーも気に入ったのかな」




    目を細める顔に、
    心臓がドキドキした。




    下を見ると、
    エリーと呼ばれた犬は。


    尻尾をパタパタと左右に振っていた。









    「ナツさぁーん!待ってぇー!」





    ん?




    見ると遠くから、
    小さな女の子が駆けて来る。




    私と同い年位、だろうか。




    なかなか可愛い。





    「ハァ、ハァ。起こしてくれればいいのに…」





    追いついた女の子は、少々不機嫌な顔をして。




    超美形なこの人の事を見ている。




    「カズは起こすと不機嫌になるから。」




    はは、と笑いながら。私を胸に抱き直した。




    わ、


    わお。











    ぽっ(赤)




    (携帯)
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■20687 / ResNo.45)  面白いです
□投稿者/ 明 一般♪(1回)-(2008/03/02(Sun) 17:38:20)
    楽しみにしてます♪更新頑張って下さい☆

    (携帯)
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■20688 / ResNo.46)  つちふまず様
□投稿者/ みん♪ 一般♪(1回)-(2008/03/02(Sun) 18:23:01)

    ナツさんに、
    かずに、
    エリーだなんて…




    なつかしくて思わずレスしてしまいました(笑)
    本当は終わってからするつもりでしたが…


    すみません m(__)m




    お久しぶりです (*^^*)



    つちふまずさんの文章はやっぱりいいですね〜




    応接しています♪

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20690 / ResNo.47)  明さん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(42回)-(2008/03/03(Mon) 06:32:21)
    おはようございます♪

    初めまして(^0^)
    頑張りますですよ☆

    最後まで宜しくです!




    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■20691 / ResNo.48)  みん♪さん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(43回)-(2008/03/03(Mon) 06:41:28)
    おはよさんです(^0^)
    久しぶりですね!
    元気ですか?

    懐かしい人から言葉を頂けるのは嬉しいもので…。

    ってな訳で懐かしい三人を書いてみました(笑)

    あらま!と。
    ちょっとびっくりして頂けたなら、
    私も嬉しい訳です。

    またお待ちしてますね☆




    (携帯)
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■20693 / ResNo.49)  犬に願えば 31
□投稿者/ つちふまず 一般♪(44回)-(2008/03/03(Mon) 09:00:07)
    「あれ、この子どうしたの?可愛いー!」




    カズ、と呼ばれた女の子は私を見て。




    キラキラと目を輝かせた。




    「エリーが見つけた」




    「ウォウ!」




    この人達は…。




    家族?


    ………いや、


    違う。




    美形の人から女の子に私が移ったかと思うと。




    女の子も私を持ち上げ、左右に揺らした。




    「可愛いーむちむちしてる〜」




    頭だけ振り返って美形の人の顔を見ると、




    「……………。」




    考え事をしているように腕を組んで私を見ている。





    すると─






    「カズ。この子はここに置いて行くよ。」






    声に見上げると、



    美形の人の腕が伸びて、カズと呼ばれる子の頭に触れている。



    それからゆっくり私の体を受け取り、静かに土の上に下ろされた。




    「ええっ!なんでー?捨てられちゃってるかもよ?」






    「違う。」







    「何で分かるの?」








    「そう言ってる。ここでいいんだって」








    …………。






    この人…。








    「さ、帰って朝ご飯にしよう。」





    「ウォウ!」






    「えー…。」







    満足出来ない女の子の背中を柔らかく抱いて。




    その場を離れようと、足を動かし始めた。









    ふと、
    超美形の人がこちらを見る。










    笑顔で、




    バイバイ、と。
    小さく手を振りながら。




    “またね”






    口の動きだけが、
    確認出来た。




    「…………。」








    不思議、な人だ…。




    なんで。




    捨て犬ではないと、
    分かったんだろう。





    人間離れした、
    そんな人に初めて出会った驚きに。









    川面を見ると─






    「素敵…。素敵過ぎます」




    うっとりを通り越して、






    くねくねと体を揺らすシラトリさんを見て。






    「はは、は…。」










    私は苦笑いだった。




    (携帯)
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