ビアンエッセイ♪

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■20778 / ResNo.10)  
  
□投稿者/ きゅん 一般♪(1回)-(2008/04/07(Mon) 14:35:47)
    本物の愛を知って変わる那智さんと
    二人の関係がこれからどのような物語を綴っていくのか
    楽しみにしています。
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■20788 / ResNo.11)  二つの願い 9
□投稿者/ 槇 一般♪(11回)-(2008/04/14(Mon) 00:19:14)

    車の中で彼女は先ほどとは比べ物にならないほど饒舌だった。
    今日行ったカフェやショップでの話を嬉しそうに話してくれた。しかし、昼間のことを話し終えると、その後でのことはやはり話し辛くなったのか、発する言葉は帰り道のナビだけになっていった。

    「さっきのこと…本当にすみませんでした。私はどうも相手の都合を考えないで自分の思ってることを押し付けてしまうんですよ。ほんとにごめんなさい」
    「正直なところ…落ち込みました。」

    静かな物言いに、内心ギクッとした。
    影でいろいろ言われるのは慣れてるけど、面と向かって言われるのはほとんどなかったから…

    「確かに好奇心だったんです。私は『普通』に生きてきたんです。あっ、また、いやな気分にさせてしまったかもしれませんね。ごめんなさい。でも、他にどう言ったらいいのか分からないんです」

    大体わかる…。
    世間一般の大多数の人たちのように生きてきたということだ。私たちのような『少数派』ではなく…
    私は笑みを浮かべて頷き、先を促した。

    「私は今まで平凡に普通に生きてきたから、そういう世界の人たちと接したことがなかった。だから、確かに好奇心があったんです。私にはそんなつもりではなくても、物珍しいものを見るような目で見ていたのかもしれない。『普通』の中にいるという安心感から一段高いところから見下ろしていたのかもしれない。檻の中の動物でも見るように…。そんな目をして私は、人を知らず知らずのうちに傷つけていたのかもしれない」

    私はショックを受けていた。
    私の無責任な言葉で、この人はここまで考えてくれたのか…
    どう答えればいいか分からなくて、結局茶化して逃げることにした。

    「気にしなくていいですよ。私たちみたいな人間は意外にタフです。そうでなかったら、同性愛者なんてやってらんないですよ」
    「私はその強さが羨ましいです。私にはないから…」

    加奈子さんは悲しそうに笑った。
    こういう笑顔をする人を、私は一人だけ知っている。なぜ加奈子さんがこんな悲しい顔をしなければならないのか。このときの私には想像もできなかった。



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■20789 / ResNo.12)  二つの願い 10
□投稿者/ 槇 一般♪(12回)-(2008/04/14(Mon) 00:23:14)

    「久美子さんが言ってたことって本当ですか?」
    「え?何がですか?」

    いきなり話題が変わって少し驚いた。

    「気に障ったらごめんなさい。色んな人とお付き合いされてるとか…」
    「ああ、『女なら見境なし』ってやつですか?まあ、確かにそうですね。求められて拒むことはほぼないですから。友達にいつか刺されるよって言われてるんですよ」
    「本気で人を好きになったりはしないんですか?」
    「私が本気で好きになる人は、私のことを好きになってはくれないんです」

    親友の千尋にも言ったことのない素直な言葉がすらっと出てきた。
    そう、別に恋愛してないわけじゃない。私が好きになる人はみんな男が好きで、だから気持ちを伝えたことなんか一度もない。その人を失うくらいならいい友人でいたほうがましだから。

    「告白したことはないんですか?」
    「ないですよ。」
    「どうしてですか?」
    「どうしてって…。ストレートのあなたには分からないかも知れませんね。私たちは想いを告げたその瞬間に嫌悪されることだってあるんです。友人にさえもどれない…。好きな人にそんな目で見られるくらいなら言わない方がマシでしょ?」

    彼女は何も言わなかった。何も言わず、俯いていた。

    「どうかしましたか?」

    沈黙があまりにも長く続いたので、車酔いでもしたのかと思ってそう聞いた。

    「私は…、今日初めてあなたに会って、あなたのことはほとんど何も知らないけど…」
    「はい…」
    「あなたはすごく真っ直ぐな人なんですね…。私は那智さんはすごく素敵な人だと思います」

    いつもなら鼻で笑うような陳腐な台詞だけど、素直にうれしくて恥ずかしくて、どう返事をしたらいいのか分らなくて…。
    きっと顔は笑顔になるのをこらえるような、中途半端なニヤケ面をしていたんだろう。

    街灯だけの光しかない暗い道路がずっと続けばいいと思っていた。



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■20790 / ResNo.13)  二つの願い 11
□投稿者/ 槇 一般♪(13回)-(2008/04/14(Mon) 00:28:19)

    数十分後、車は彼女のナビに従って、閑静な住宅街に入っていった。

    「あ、その先の自販機の所に停めてください。あそこから家すぐ近くなので。」
    「家まで送ります」という言葉を飲み込んだ。家は知られたくないのだろう。

    当たり前だ

    ほんの少し、ほんの少しだけ感じた寂しさを自分でからかいながら自販機のそばに車を停めた。

    「送ってくれてありがとう。助かりました」
    「いえいえ、気をつけて」
    そう言いながらも、加奈子さんは降りる様子がない。

    「遅くなりましたね。ご主人、心配されてるんじゃないですか?」

    そう言うと、私の方に振り向いて何かを言おうと口を開きかけて、何かを諦めるように口を閉じた。
    「そうですね…、帰らなきゃいけませんね。」

    ドアのレバーに手をかけて、思いついたように振り返って、笑って言った。

    「早く那智さんのことを本気で愛してくれる人が現れればいいのに」
    「あなたは愛してはくれないんですか?」

    ほとんど無意識に言ってしまった。自分の口から出た言葉を自分の耳で聞いて、そこで初めて何を言ったのか理解した。

    「え…」
    「いやいやいや!!!冗談ですよ!!あなたに対してそんな変な感情持ってないですよ!!今日会ったばっかりだし、立派な旦那さんいるし!!!」

    自分の口から出たとんでもない言葉と、それを聞いたときの加奈子さんの表情のおかげでありえないくらい動揺して、必死で弁解した。

    「そうですよね…。でも私は…」

    加奈子さんは目の前に続く暗い道に目を向けて言葉を続けた。

    「私は、もう少し那智さんと一緒にいたいと思ってます」
    「え…」

    私が言葉を発する間もなく、彼女はドアをあけて車を降りた。

    「じゃあ、今日はありがとう。おやすみなさい」
    「おやすみなさい…」

    オウム返しのようにそう答えて、暗い住宅地に消えていく加奈子さんの背中を、ただ見送ることしか出来なかった


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■20791 / ResNo.14)  二つの願い 12
□投稿者/ 槇 一般♪(14回)-(2008/04/14(Mon) 00:32:30)

    次の日の夜、またナオの店に行った。

    「昨日ごめんね。忘れないうちに払っとくよ」
    「ああ、はいはい。今日はどうする?なんかつくる?」
    「いや、今日はいいわ。忙しくてね、これからまた会社戻らなくちゃ駄目なんだよね」
    「え?じゃ、わざわざお金払うために来たの?今度来る時にまとめて払ってくれてよかったのに…」
    「う〜ん、ホント忙しくなるから、次来るの何ヵ月後になるかわかんないんだわ。だから早いうちに払っておいたほうがいいと思ってさ」
    「そっか…。あ!そうそう!」

    何か思いついたようにカウンターの向こうから手招きして私に耳打ちしようとしている。
    なんだろうと思って近づくと、
    「昨日、久美子さん怒ってたよ〜。私の友達に手を出すなんてって!」
    と、ささやいた。

    別に久美子さんが怒ろうとどうしようとどうでもいいけど、ひどい誤解をされていることに驚いて、必死に訂正した。

    「手なんか出してないよ!ただ送っていっただけ!」
    「ふ〜ん…」
    分かっているのかいないのか、ナオはただニヤニヤしながら私を見ていた。

    「ほんとだよ!!」
    「はいはい。ま、久美子さんも『私の友達に〜』とか言ってるけど、自分があんだけアピってんのにあんたにぜんぜん相手にされないで、二人が黙って消えたことにただむかついてるだけなんだろうね〜。惨めっちゃあ、惨めだもんね」
    「そんなの知らないよ」

    そう、そんなことはどうでもいい。とにかく今は早く仕事に戻らないと
    「じゃ、戻るわ」と店を出て行こうとすると、
    「ほんとに手出してないの?!」
    という声に引き止められた。

    「出してないよ!!!」
    思いのほか大声になってしまって、店の客の視線が一斉に私に集中した。

    「わかった、わかった、ごめんごめん」
    ナオは苦笑しながら右手を上げた。私は憮然とした表情でナオに背を向けた。

    「珍しいね。わざわざ追いかけて、送っていって手を出さないなんて」
    そんなナオの言葉も聞こえない振りをして店を後にした。

    そんなことない。私だって、いつでも誰でもって訳じゃない。
    別にタイプじゃなかったし、追いかけたのだって、ただ酷い事言ったのを謝りたかっただけだ。

    じゃあ、なぜ、彼女には謝りたくなったのか…。
    そんな疑問には気がつかない振りをした。

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■20792 / ResNo.15)  きゅんさんへ
□投稿者/ 槇 一般♪(15回)-(2008/04/14(Mon) 00:35:43)
    コメントありがとうございます
    あまり頻繁に更新できないかもしれませんが、
    最終話まで気長にお付き合いお願いします。
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■20801 / ResNo.16)  二つの願い 13
□投稿者/ 槇 一般♪(16回)-(2008/04/21(Mon) 02:02:32)

    『別れる事が分かってる恋愛なんて恋愛じゃない』

    那智にはそう言われた。私も綾子に出会うまではそう思っていた。
    既婚者との恋愛はいつか終わりがくるに決まってる。結婚している人はいつか必ず家庭を選ぶだろうから…。
    だから私は絶対に既婚者とは恋愛はしない

    綾子と出会ったのは、4年前。
    那智の古い友人がバーを開いたということで、初めてその店に連れて行かれた時だった。
    那智は顔が広いから色んな顔見知りがいて、その中の一人が綾子だった。

    私は初めて会った人に気さくに話し掛けるという芸当はできない人間だったから、綾子と一緒に飲んでいた人たちと合流しようという話になった時、正直、「参ったなあ」なんて思っていた。

    5,6人でわいわいと騒いでいても、私はその輪にいまいち入りきれずに、楽しそうに笑っている那智を眺めながら飲んでいた。
    気がつくと、人の輪から完全に外れてしまったはずの私の隣には綾子が座っていた。
    仕事以外の場で、初対面の人と話すのが苦手な私が、彼女には古くからの友人のように話していた。

    話の内容は覚えていない。多分、テレビ番組とか最近見た映画とか子供の頃流行ったモノだとか、つまらない内容だったと思う。そんなくだらない話で私たちは盛り上がり、いつしかグループから離れ、二人で飲んでいた。

    出会った夜はそれだけだった。
    ものすごく気の合う人に出会った。
    ただそれだけ。いい友人ができた。
    それで十分だった。

    綾子との再会はものすごく早かった。

    綾子は出会った夜の次の日、お客として私の前に現れた。驚く私を鏡越しに見て、してやったりと満足そうに笑っていた。

    それからは月に一回、店にやってきて私を指名した。私たちはどんどん仲良くなっていき、プライベートでも頻繁に会うようになっていた。

    ある日、ひょんなことから、綾子とよく遊んでいることを那智に話した。
    那智は、渋い顔をして言った。

    「綾子は結婚してるから止めときなよ。嫌でしょ?そういうの。」

    私は「そんなんじゃない」とすぐに否定した。
    でも那智は勘がいいから、すぐに分かったんだろう。


    私自身よりも早く…


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■20802 / ResNo.17)  二つの願い 14
□投稿者/ 槇 一般♪(17回)-(2008/04/21(Mon) 02:07:26)

    那智に「やめろ」と言われて初めて気が付いた。
    私はその時すでに自分では止められないほど彼女に惹かれていた。会えば会うほどその想いは強くなっていた。

    自分で気が付かなかっただけ…。

    既婚者だと知って、歯止めの利かなくなっている自分の想いを知って、後にも先にも進めない自分の状況を知った。
    そんな私に出来ることは、後にも先にも進まないことだった。

    プライベートで会うのは一切止めた。店には定期的に来てくれるからその時は美容師として接した。そうして、ひそかにどんどん大きくなってくる彼女への想いを抱え続けた。
    先に進めば泥沼にはまっていきそうで、それが恐ろしかった。


    ある日、仕事を終えて店から出てくると綾子がいた。彼女を避け始めてから数ヶ月が経っていた。

    「どうしたの?こんな時間に?」
    「どうしても話したいことがあって…」
    「それにしたってもう夜中だよ?旦那さんは大丈夫なの?」

    そう言った時、綾子の顔が微かに強張ったのを見て、しまったと思った。

    「今日は遅くなるって言ってあるから大丈夫。」
    「それにしたって…。家まで送っていくよ。話は車の中で聞くから」

    俯く彼女の背中に手を当てて、駐車場に促した。
    彼女の背中は冷たかった。
    いったいどのくらい待っていたんだろう。
    そう思ったら胸が熱くなった。


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■20803 / ResNo.18)  二つの願い 15
□投稿者/ 槇 一般♪(18回)-(2008/04/21(Mon) 02:11:44)

    車を走らせてしばらくは二人とも無言だった

    先に口を開いたのは、綾子だった。
    「那智に聞いたの?結婚してること…」
    前を見たまま軽く頷いた。何か言わなければと思ってはいるけど言葉が出てこない。
    「そう…」
    また、重い沈黙が続いた。
    「隠してたわけじゃないんだよ。言うタイミングが見つからなかったと言うか…。わざわざ言う必要もないと思ってたし…」
    「うん…」

    もうすぐ綾子の家に着いてしまう。このまま送り届ければ、友人にも戻れないような気がしたから、道路脇に車を停めた。夜中の上、街から離れているから車はほとんど通らなかった。

    「千尋…私のこと避けてたよね?それは結婚してるって知ったから?」
    「そうだよ」

    自分の想いは知られてはいけないと思った。だから強張った表情の綾子に満面の笑みを貼り付けて続けた。

    「だぁって、綾子はひどいよ。そりゃ、言う必要はないけどさ、基本的なとこじゃん?そこ。私は綾子は何でも話せる親友だと思ってたのにさ。結構悲しいもんよ?他からそんな基本的なこと聞かされるって。そりゃ、私だって拗ねたくもなるよ」

    「慰謝料として今度なんか美味しいもん奢ってよ」
    そう続けようとしたけどやめた。
    凄く悲しそうな顔をしたから…

    「ほんとは知られたくなかったの…隠しておきたかった…千尋にだけは…」
    「なんで…?」

    それには答えず、綾子は前を向いたまま話し出した。

    「私はバイなんだけど、同じバイの人の中に彼氏もいるけど彼女もいるっていう人たまにいるでしょ?私はそういう人昔から理解できなかったんだよね。男と女の違いはあっても二股かけてるって事と変わりないじゃない?結局二人とも本気で愛してないんだって、そう思うの。だから私はそういう人嫌いなの…。軽蔑してた…」
    「うん」
    「でも…でもね…」

    自分を落ち着かせるように、綾子は口を手で覆って、大きく息を吐いた。その手は微かに震えていた。

    「私は今からひどい事を言うけど、聞いてほしいの。それが私の本心だから」
    「うん」
    「私は夫を愛してる。彼は優しいし誠実だし不満なんてない。その気持ちは結婚を決めた時から変わってない。私たちは一生連れ添っていくんだと思う…」

    鼻の奥が熱くなってきた。涙が出そうになるのを必死でこらえた

    「でも止められない。どうしたらいいか分からない…私はずっと軽蔑してきた人たちと同じなの。自分が許せない…」
    「綾子…」
    「私はあなたを愛してる…少し距離を置かれただけで気が狂うほど寂しかった…自分ではどうしようもないほど千尋の事を愛してしまったの…」

    こらえきれずに溢れてくる…

    「私は最低…こんな事言うべきじゃない…選べないのなら…。私はあなたに愛される資格がない…っ!」
    「資格なんて…っ」

    あとは言葉にならなかった…
    何も言わずに抱きしめた

    「でも…千尋に愛されたいよ…」
    私の腕の中で綾子が呟いた

    私だってどうしようもなくあなたを愛してる
    ずっと前から…
    資格なんていらない
    あなたがあなたでいてくれればいい

    お願いします…

    どうか…
    一秒でも長く綾子といさせて下さい

    一生なんて言わないから…



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