| 唐突に。 川本真琴を聴きたくなった。 だから日曜の昼下がり、昼ご飯を食べ終わってのんびりしているところをがばっと起き上がって、 「どこか行くの?」 と尋ねるルームメイトに、 「ツタヤ」 そう簡単に答えて。 部屋を出て、寮の裏手の駐輪場から自分の愛車を探し出すとふわりとそれに飛び乗った。 全速力で漕ぐ。 風を感じる余裕もない程に。 目的地には案外すんなり到着して、探しものも案外あっさり見つかった。 少し昔のアルバムを一枚手に取り。 それをそのままカウンターへと持って行くと、行きと同様、全速力で帰路を辿った。 駐輪場に自転車を乱暴に置いて、急ぎ足で部屋へと戻る。 あたしの帰宅に、読んでいた雑誌から目を上げた彼女に声も掛けず。 ケースからCDを取り出してデッキにセットすると、ルームメイトにただの一言も許可を得ずに無遠慮に音を打ち鳴らした。 歌詞カードをばっと広げて。 あぁ、この曲。 この言葉。 流れる声に耳を傾ける。
唇と唇。 瞳と瞳と、手と手。 神様は何も禁止なんかしてない。
目を閉じて、じっと聴き入る。 背後から、彼女が立ち上がる音。 ゆっくりこちらに近付いて、あたしの後ろで立ち止まった。 彼女の足に背を預け、顔を上げると瞼を開けた。 あたしを見下ろすルームメイトが一人。 膝を床につく恰好で屈む。 「神様は何も禁止なんかしてない、ね」 ふっと息を吐いて。 「そうかな」 あたしの頬に手を掛けると、優しく唇を塞いだ。 わずかの時間、触れ合うあたし達。 そっと、それを惜しむかのように唇を離す。 「どうせ個と個なら。その半分この欠片を二つ重ねて、離れずに済むように繋ぎ合わせてしまいたいよね」 笑って。 もう一度、甘い、甘い、キスを落とした。 あたしは。 どうせならこのまま溶け合って一緒になってしまいたいと。 そう思った。
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