ビアンエッセイ♪

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■10810 / ResNo.90)  うれしいです☆
  
□投稿者/ 幸 一般♪(1回)-(2005/07/11(Mon) 16:26:14)
    お久しぶりですp(^^)q
    最近また秋さんの作品が読めて本当に嬉しいです☆
    これからも応援しているので、頑張って下さい!!

    (携帯)
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■11286 / ResNo.91)  お元気ですか?
□投稿者/ 幸 一般♪(3回)-(2005/07/25(Mon) 03:54:52)
    私は夏休みに入りました☆
    私の片思いも8ヵ月。いい加減あきらめなきゃいけないなと思ってます。けどなかなか、引きずりますね。
    恋は恋でないと忘れられないんですかね。。

    秋さんの世界で元気もらって、新しい恋に前向きになろうかななんて考えてる、最近の私ですp(^^)q



    (携帯)
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■11421 / ResNo.92)  尊敬します!!
□投稿者/ ココ 一般♪(1回)-(2005/07/28(Thu) 12:10:02)
    秋さん、はじめまして(^-^)

    最近この作品を読みはじめて、読み終わったら秋さんの他の小説も読破してしまいました。

    日常的な風景をリアルに描く文才、独特の世界観。

    切ないけれど爽やかさが残る読後感。

    次も読まずにはいられないと、すっかりあなたの言葉に心を掴まれています(^-^;)

    洗練された文章を何本も書くのは大変だと思いますが、秋さんの描き出す世界を楽しみにしています。

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■11619 / ResNo.93)  幸さんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(28回)-(2005/08/02(Tue) 15:09:37)
    恋は恋で。
    そうとも限らないと思います。ありがちですが、何か打ち込めるものがあれば。もちろん恋でも。ただ、諦める事を辛いと感じるならば、それは適した方法ではないのではないでしょうか。想い続ける事と諦める事。きっとどちらも苦しいのでしょうけど。
    私が書く物が幸さんの元気に少しでも加わればと、そう思います。
    最近は夏らしくなってきたので、暑さが苦手な私は少しバテ気味ですが、幸さんからの感想で元気を頂いていますよ。
    ありがとうございます。


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■11620 / ResNo.94)  ココさんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(29回)-(2005/08/02(Tue) 15:10:29)
    嬉しい言葉の数々、ありがとうございます。昔の物まで読んでくださったようで、有り難い気持ちが溢れてきました。
    私の書き方にはムラがあるので更新ペースもまちまちですが、新たに投稿した際にはまた目を通して頂けたら幸いです。
    感想、ありがとうございました。


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■12278 / ResNo.95)  NO TITLE
□投稿者/ カルピス 一般♪(3回)-(2005/08/23(Tue) 00:22:58)
    こんにちは、いつも楽しく読ませてもらってます(^^♪
    個人的に川瀬が大好きです。
    早く笹木とラブラブになってほしいです(#^.^#)
    お忙しいとは思いますが、続きが早くみたいです(●^o^●)
    これからもがんばってくださいね。

    (携帯)
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■12808 / ResNo.96)  カルピスさんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(1回)-(2005/09/12(Mon) 15:50:09)
    返事をするのが遅くなってしまい、すみませんm(__)m
    気付けば、一話目を書いた時から一年が過ぎていました。小説の中の時間ももうすぐ一年が経とうとしています。そろそろラストスパート、といったところでしょうか。
    川瀬を好きだと言ってくださって、ありがとうございました。
    スローペースではありますが、もうしばらく彼女達のこの先にお付き合い頂けたら幸いです。


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■12809 / ResNo.97)  ─新たな年に想いを馳せて
□投稿者/ 秋 一般♪(2回)-(2005/09/12(Mon) 15:52:15)
    「今年こそあいつに勝てますようにっ」

    賽銭箱の前でパンパンと柏手を打ち鳴らし、思いっきり両の手の平を合わせる。
    周りの人垣なんて気にするものか、神様に聞こえるように大きく声を張り上げた。
    拝むこと5分余り。
    よしっ、声には出さず気を引き締めて、参拝客の長蛇の列を抜けた。

    今年こそは絶対─

    先程の願いを、もう一度胸中で反芻する。
    そう、あたしには勝たなきゃならないやつがいる。

    …まぁ結局は自分の実力次第なんだけどさ。
    けれど毎年の願掛けは身も心も引き締めてくれるから。
    一年の初めのこの必勝祈願を、あたしは欠かす事なく続けていた。

    用事も済んだし、帰ろうかな。
    どうせ昼ご飯も朝と同じでおせちだろうけど。
    容易に想像できる食卓の風景に少しだけ苦笑して、あたしは境内を後にした。
    社から離れ、鳥居をくぐって石段を下ろうとすると─

    「あ、ニナ」

    あたしより一足早く、石段を登って鳥居をくぐり抜けてきたのは。
    そう、ヤツ─イチコだった。


    「もう初詣終わったの?」
    てくてくと近付いてくるイチコにあたしは露骨に嫌な顔。
    「初詣なんてちゃらけたもんじゃありません」
    つーんと顔を背けて言い放つ。
    それを聞いたイチコは、
    「あぁ、必勝祈願だっけ」
    面白がるように笑った。
    「今年は叶うといいねー」
    そんな思ってもない事まで付け加えて。
    …相変わらず嫌なやつ。
    あたしはぽつりと毒づいた。

    イチコとは家が近所で、幼稚園も一緒で、だから必然的に小学校も中学校も一緒で。…選んだ高校までも何故か一緒で。
    所謂幼馴染み。というより腐れ縁。
    小さい頃から勉強も運動も人並み以上に出来たあたしが、何をやってもこいつにだけは敵わなくて。
    いつしかイチコはあたしの最大のライバルになった。
    全くもって相手にされていないけれど、それがまたあたしの闘争心に火を着ける。
    そんな風にすかしていられるのも今の内だ。
    当初の目的とは大きくずれて、イチコの目に映る事に躍起になっているあたし。
    それに気付いてしまって、悔しさが込み上げてきたあたしはいつものように減らず口を叩いてみた。
    「寮で四六時中あんたの顔見てんのに、実家に帰ってきてまでその顔見なきゃなんないなんてね」
    あーぁとわざとらしく溜め息を吐く。
    けれどイチコは相変わらず飄々としていて、
    「地元同じなんだからしょうがないじゃん」
    へらへら笑ってさらりと交わした。
    「じゃあ帰ってくんな!寮に籠もってろ!」
    更に食ってかかるあたしを、
    「だって長期休暇中の寮生は帰省するのが原則でしょー?」
    あっさり避ける。

    む…。
    これではまるっきり三流脇役の突っかかり方だ。
    所詮あたしはこいつの引き立て役に過ぎないのか…?

    眉根を寄せて自問自答するあたし。
    目の前のヤツには、さぞ滑稽に映っている事だろう。
    やがてイチコは口を開いた。
    「ねー。元旦から怖い顔してないでさ、新年の挨拶がまだなんじゃないの?」
    にっこり笑う。

    …こっちは正月早々あんたなんかと遭遇したんだ。
    そんな晴れやかな心持ちでいられるかっ!

    そのままくるりと背を向けて、無言でヤツから遠ざかってやろうとして。
    それを思いとどまる。

    良い事を考えた。

    漏れそうになる笑みを必死で堪えながら、イチコの目を見つめる。
    いつもの様子と異なるからか、イチコは怪訝そうに首を傾げた。

    その一瞬の隙を、あたしは見逃さなかった。

    イチコのコートの襟をぐいっと掴み、自身の方へと引っ張る。
    体勢を崩したイチコの顔が目前に迫った時。
    ほんの一瞬、あたしの唇がヤツの唇を捕らえた。

    ゆっくりと顔を離して、
    「今年もよろしく」
    ニヤリと笑う。

    目の前のイチコは、思わぬ奇襲に言葉を失い、頬を軽く赤らめている。
    ──はずだった。
    なのに。

    あたしが言い終わらぬ内に、ヤツによってマフラーが手繰られて。
    「へ?」
    間抜けな声を発するあたしは、イチコに唇を塞がれた。
    ほんの一時の静寂の後、先程よりもゆっくりと顔が離れる。
    「──しっ…舌っ!今あんた、舌っ…──」
    慌てるあたしに、イチコは余裕の表情で。

    「こちらこそよろしく」

    不敵に笑った。



    一年の計は元旦にあり、と云うけれど。
    どうやらあたしは、今年もヤツに勝てそうにありません。

    そうでしょ?神様─



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■12810 / ResNo.98)  ─私達、付き合ってます。
□投稿者/ 秋 一般♪(3回)-(2005/09/12(Mon) 15:54:10)
    何となく始まったこの関係。
    ルームメイトから、それは特別な存在となって。
    ただ、この場合"恋人"と呼んでいいのだろうか、とか。
    いまいち不透明な、あたし達のこの関係。
    それはふたりが、同性だからに他ならない。



    相原は。
    元々人にくっつくのが好きな性質だけど、この頃特に激しい気がする。
    例えばそれは。
    下校中の道端だったり、あるいは買い物しに来た街の中、寮のちょうど死角になっている階段脇。
    手を繋いだり、腕を組んだり、ふざけが過ぎると頬に軽く口付けたりもする。
    あたしは人前での気恥ずかしさからか、あるいは「女同士」であるという後ろめたさか、その手を払い、腕を振り解き、距離を取る。
    そうした後の相原は少しだけ頬を膨らませるけれど、すぐにいつも通りふわふわと笑うから、あたしも大して気に留めず日々を過ごしていた。

    だけど、この日は違った。

    冬休みも終わりを告げて数日。
    学校がある日常がすっかり戻りつつある寮への帰り道、まだ陽は高く帰宅途中の生徒達の姿もちらほら見られたから。
    不意に繋がれそうになった手を、あたしは拒んだ。
    そのままペースを落とさず歩いていると、さっきまで隣を歩いていたはずの相原がいない。
    あれ、と思って。
    振り返ると、あたしの数歩後ろ、相原は俯き加減で立ち止まっていた。
    すぐさま彼女に駆け寄る。
    「相原?」
    反応はない。
    「どした?」
    言いながら、あたしより少しばかり背の低い相原の顔を覗き込もうとしたら、
    「……帰る」
    彼女はぼそっと呟いてそのまま足早に行ってしまった。
    残されたあたしはただぽかんとしていて。
    立ち尽くすあたしを不審そうに見やる人の視線に気付き、慌てて相原の背を追った。



    寮に帰って来ても相原の機嫌は直らず、あたしと彼女のこの部屋は何だか重苦しい空気。
    ベッドの縁に背をもたれて床に座る相原の、その隣に腰を下ろして。
    ちらりちらりと表情を覗き見る。
    相原は唇を尖らせて、明らかに拗ねた顔。
    何をそんなに怒ってるわけ?
    あたしはわけがわからない。
    と、そこで。
    ちょっと芽生えた遊び心。
    部屋の中は二人っきりだし。
    人目も気にならないし。
    いつも相原がしてくる事を、今度はあたしがしてやれっ。
    そっぽを向いている彼女の顎に手を当ててあたしの方を向かせると、「何?」あからさまに不機嫌そうな顔をした。
    それに構わず、あたしはゆっくり顔を近付ける。
    あたしの唇は柔らかな相原の頬を捕らえ───っ?!
    バシっという小気味の良い音。
    どうやら捕らわれたのはあたしの方。
    相原の手の平が見事にあたしの頬に炸裂していた。
    じんじんと響く頬を手で押さえながら、「いきなり何っ?!」涙目で喚くあたしに。
    「それは夏目でしょっ」
    立ち上がった相原はあたしを見下ろす格好で声を浴びせた。
    むー…と彼女を見上げて、「いつもはそっちからしてくるくせに…」と、恨めしげな目を相原に向ける。
    相原は不機嫌そうな顔を更に険しくさせた。
    そして一言、ぼそぼそと呟く。
    「だって夏目…さっき手、振り払った…」
    へ?と、間抜けな声を上げるあたし。
    「それは人が見てたし…恥ずかしいじゃん」
    それにいつもの事じゃないかと続けようとするあたしの言葉は相原に遮られた。
    「そんなに人目が気になるの?夏目は恥ずかしいんだ?」
    そりゃあ人前でべたべたするのは。
    でもそれはあくまで人の視線が恥ずかしいというわけであって、相原にべたつかれるのはそれ程あたしは嫌じゃない。
    むしろ───…
    「夏目は私が好きでしょう?」
    ぼんやりと考え中の押し黙ったあたしに、苛立った様子で投げ掛けられた相原の言葉。
    「うん」
    それにあたしは、ひどく間抜けに答えを発する。
    「だったら何でっ…」
    目の前には今すぐにでも泣きそうな、ルームメイトの相原。
    あたしはひどく戸惑ってしまって、気の利いた言葉が思い浮かばない。
    じわじわと目の端に涙が溜まって、そろそろ落ちるぞって時。

    「そんなに恥ずかしい?女同士って事が」

    ──その問いに。
    答える暇を与えてはくれず、
    「夏目のばぁかっ」
    そんな罵声をあたしに浴びせて、ずかずかと部屋を出て行ってしまった。

    ──…そんなわけ、ないじゃないか。

    その日。
    一晩中電気を点けて待っていたけれど、誰かの所に泊まったのだろう、相原は結局部屋へは戻って来なかった。



    翌日も、朝から食堂で相原を見掛けたけれどものの見事に無視された。
    当然登校は別々に。
    クラスが違うあたし達は校内で滅多に顔を合わせる事はないから。
    …何々ですか、相原さん。
    こんな調子で朝からずっと塞ぎ込んでいるあたし。
    大体相原の怒りの理由がわからない。
    そうこうしている内に日は暮れて。
    もう放課後じゃないか。
    部活でもして発散しよっと!
    と、立ち直ってみるものの、今日は休みだって事をすっかり忘れていた。
    あーぁ。何か調子悪いな、あたし。
    そう思いつつ、校門をくぐる。
    一つ二つと歩を進めたところで、前方に見知った後ろ姿。

    ─相原。

    声を掛けようか迷ったものの、彼女の隣にもう一人の姿を見つけてしまったので出掛かった声を飲み込んだ。

    男、ね。

    校門を出たすぐ側で、相原と他校の制服を着た男が何やら話をしている。
    また相原が告られてでもいるんだろう。
    何食わぬ顔をしてその脇を通り抜けようとした。

    「なぁ話を聞いてくれよ。お前、今付き合ってるやついないんだろ?俺とやり直そう?」

    不意にあたしの耳を掠めた声は、十分すぎるほどの情報をあたしに与えて。
    一瞬、歩く速度が緩む。

    …相原の、元カレ?

    告白も何も、よりを戻すって話じゃないか。
    ふうん…。
    まぁあたしが懸念してもどうしようもない、か。
    構わずに、再び足を動かす。

    「痛っ」

    その声に少しばかり反応して。
    わずかにあたしの視界が捕らえたのは相原の手首を掴む元カレの姿。

    「黙ってないで何か言えって」
    でもあたしには関係ないし。
    むしろ部外者?

    「…離してよ」
    夫婦喧嘩は犬も食わない、ってね。

    「俺の質問に答えろ!より戻す気あるのかよ?」
    …けれど。

    「大声出さないで」
    この二人は既に別れているわけで。
    ただの元彼氏と元彼女なわけで。

    「答えになってねえよ!」
    つまりはもはや無関係。

    「痛いってば!」
    その場を通り過ぎたあたしはくるりと踵を返した。

    「あのさ」
    二人の横で立ち止まったあたし。
    あたしを見止めた相原が驚いたように目を見開いていたけれど、それを無視して元カレに声を掛けた。
    「あ?」
    誰だお前、そんな訝しげな目であたしを睨む。
    それに怯まず。
    「とりあえずその手離してもらえる?仮にも女子校の前だし、痴漢と間違われるよ」
    その言葉に、周りを見渡す元カレ。
    校門前を行き交う下校中の生徒達の注目を集めている事に気が付いたのか、相原の手首から渋々と自身の手を離した。
    相原はぱっと彼から距離を取ってあたしの背に隠れると、赤くなった手首をさすっていた。
    これでいいだろ?もうあっち行ってくれよ、そう言いたげにあたしを見る元カレ。
    あたしはがしがしと頭を掻いた。
    「あー…あとさ。こいつもう付き合ってるやついるから諦めてもらえない?」
    元カレは顔を不愉快そのものに歪めた。
    「は?誰だよそいつ」
    怪訝そうにあたしを見る元カレに、
    「あたし」
    人差し指で自分の顔を指差し、にっこり笑顔。
    しーんと静まるその場の空気。
    「……は?」
    彼は間の抜けた声を上げるので、
    「だからあたしだってば」
    再び、にっこり。
    呆れ顔の元カレ。
    くだらねー…と呟きながら彼は脱力したように去って行った。
    その後ろ姿を見送っていると。
    「付き合ってるんだ?私達」
    相原が呆れたようにあたしを見ていた。

    「だってあんた、あたしの事好きでしょ?」

    相原は。
    俯いてしまったので表情は見えなかったけれど。
    静かに右手を差し出した。
    空はまだ明るくて、人通りもまだまだ多かったけれど。
    あたしはその手にしっかりと指を絡めた。




    自分が好意を寄せる相手もあたしの事が好きだなんて、それはとても稀な事だ。
    そして側に居てくれるという事も。
    なんて嬉しい事だろう。
    女同士?
    それが何だ。
    恥ずべき事じゃない。


    あたし達、付き合ってます。
    文句ある?




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■12811 / ResNo.99)  ─終着駅
□投稿者/ 秋 一般♪(4回)-(2005/09/12(Mon) 15:55:21)
    何となく、目が覚めた。
    カーテンの隙間から蒼白い月の光がわずかに漏れていて、中途半端な時間に目を覚ましてしまったと、小さく息を吐く。
    完全に意識は覚醒してしまって、強引に瞼を閉じても冴えわたるだけだから。
    寝癖のついた髪を撫でつけながら、ゆっくり体を起こした。
    と、隣で毛布にくるまっている小さな影がわずかに身動きする。
    「ごめん、起こした?」
    小声で問うと、彼女は毛布から顔を出して目をこすった。
    私を探すように腕を伸ばす。
    室内とはいえ、今は一月。
    暖房を入れていないとすぐに空気は冷えてしまう。
    私は起こした体をまた伏せて、彼女の毛布に潜り込んだ。
    「……冷たい」
    彼女は咎めるように唇を尖らせ、けれど伸ばした腕をそのまま私の首へと絡ませる。
    身に纏う一切を脱ぎ捨てている私達は直接肌を触れ合わせ、眠りに落ちる前の先刻のように、再び体を重ねた。
    薄暗い小さな部屋の中には、月明かりに照らされて、ゆらゆらと心許なくふたつの影が揺れていた。



    「先輩も、もうすぐ卒業ですね」
    まだ、夜は明けていなくて。
    行為の熱が冷め始めた頃、絡めた指を解きながら彼女がぽつりと呟いた。
    「あと二ヶ月で、いなくなっちゃうんですね」
    彼女の方へ目を向けると、ぼうっと天井を見つめている。
    私はゆっくり起き上がり、上から彼女の顔を覗き込んだ。
    ぼんやりと私を見つめる、彼女。
    伸ばされた手に応えて、私は身を屈めた。
    背中に回された腕は外気に晒されてひんやりとしていて。
    わずかに顔をしかめると、彼女は小さく微笑んだ。
    顔を寄せ、唇を寄せる。
    はぁ、と。
    互いの息が重なると。
    二人顔を見合わせて、笑ってしまった。
    そして。

    「終わらせましょう?わたし達」

    彼女は私の首筋に手の平を寄せ、囁くようにして言った。

    「この関係を、終わらせましょう?」

    今度は頬に触れながら。

    私は彼女の髪を指で梳き、こくりと小さく頷いてみせた。

    箱庭にいる間だけの、わずかな一時を共有する間だけに持った関係だ。
    私達は互いにそれをよくわかっていた。
    「──そろそろ…潮時だね」
    あまり長引かせてもいけない。
    清算するなら今だ。
    私はあと二月しか、ここにはいないのだから。

    「今日で、最後にしよう」

    彼女は。
    寂しそうに穏やかに、月の光を浴びながら微笑んだ。





    太陽が昇る前の、まだ眠ったままの街の中を、ふたり手を繋いで駆ける。
    薄暗い群青の空からこぼれる月は、ぼんやりとしていて。
    夜と朝との境界を示し始めていた。
    不安な気持ちで駆けていた私達は、息を切らせながら始発列車に飛び乗る。
    がたがたと走り出す電車に揺られて、大きく深呼吸をした。
    私達の他に乗客が見当たらない車内で、肩を寄せ合い寄り添う二人は、さぞかし奇妙だったに違いない。


    『先輩の今日を、わたしにください』
    最後のわがままを聞いてもらえますか、と。
    私の目を真っ直ぐに見つめながら、彼女は言った。
    私は無言で頷いた。
    彼女のわがままなんて、最初で最後だったから。

    布団から出て服を纏った私達は、互いの手を取り合って、寝静まる寮から抜け出した。
    早く、早く。
    遠く、遠く。
    目的地などなかったのに、向かう先などわからなかったのに、何故だか焦る気持ちで二人の足は急いていた。


    隣に腰掛ける彼女は、私の肩に頭を傾け規則正しい寝息を立てている。
    私も瞼が重くなり、そして甘い眠りに誘われた。



    目を開くと、隣の彼女が私の顔を見て微笑んでいた。
    すでに起きていたのかと、妙に恥ずかしい気持ちを覚えつつ、私は欠伸を噛み殺した。
    見慣れた街はとうに過ぎたらしい、窓の外は知らない顔をしていた。
    普段はあまり利用しない路線だったから、ここがどこだかさっぱり見当がつかない。
    どれだけ進んだのか、どこまで進むのか。
    けれど腕にはめた時計の針だけは容赦なく進んでいたから、相当な距離を経たのだという事は想像できた。
    そんな事を考えていると、
    「遠くまで…来ましたね」
    彼女が先に口を開いた。
    窓から射し込む陽の光で、空がすでに明るくなっていた事を知る。
    「どうしようか」
    適当なところで降りてみる?、訊ねると。
    彼女は小さい頭を左右に振った。
    「最後まで行ってみませんか」
    そう言って微笑む。
    「──そうしたいなら」
    私は小さく答え、彼女にもたれて目を瞑った。
    華奢な彼女の肩からは、確かな温かさが伝わった。



    小さな旅の終わりを告げる終着駅は、何ひとつないところで。
    明けきった空が、ただただ大きく広がっているだけだった。
    電車から降りた私達は、ゆっくりと地面を踏みしめて大きく伸びをする。
    私の後ろを歩いていた彼女のくしゃみを背中で聞いて。
    私はそちらを振り返る。
    向かい合う、ふたり。
    互いに白い息を吐き出した。
    「わがままを聞いてくれて、ありがとうございました」
    彼女が小さく笑む。
    「まだ今日は残ってるよ」
    吐き出すようにして言葉をこぼした私に、
    「線路の最後まで着いたら、わたし達も終わりにしようって思ってたんです」
    そうしなくちゃ気持ちの整理の仕方を間違えそうだから、風にさらわれる髪を手で押さえながら言った。

    「これで──…終わりです」

    はっきりとした声。

    「もう先輩の部屋には行きません。校内で会っても、わたし達はただの先輩と後輩ですよ?」

    答える代わりに私は彼女を抱き寄せた。
    私の腕の中でわずかに身じろいだ彼女は、
    「───……本当にこれが、最後になるんですね…」
    小さく小さく呟いて、ゆっくりゆっくり私を見上げた。



    そして私達は。
    終わりを告げるキスを交わした。







    線路はここで終わっているけど、終着駅の向こうには、まだまだ続く道があるのに。
    私達は互いにそれに気付いていて、けれどどちらも口にはしなかった。
    終着駅のその先を、見えない振りで誤魔化したんだ。
    進む事に、踏み込む事に、臆病だったのだと思う。
    この関係は、限られた時間の中でだけだと、思い込んでしまっていたから。









    ふたりの間には、繋がれた何かは存在しなかったけれど。


    それでも、この先─

    キスをする度、
    キズが疼くんだ。




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