| 『サイ、14時にKホテル。橋本様ね』 「了解しましたー」 サイは電話を切り、担任に早退届けを出して学校を出た。
正門を出ると、すぐに電話が鳴った。 さやかからだった。 『サイ、また帰っちゃうの?』 「うん。ちょっと気分悪くてね」 『大丈夫?後でお見舞い行こうかな・・・』 「あー・・・今日はゆっくりしたいからさ、また今度。ね」 『もぉいいっ!』
お見舞いと言う口実を断られ、さやかは不機嫌だった。 「お客より激しいんだから・・・無理だよ。」 サイは一方的に切れた携帯に言い訳した。
家とは逆方向の電車へ乗り込んだとき、ポケットの携帯が震えた。 またさやかかと思い、ギクッとしたが、メールだった。 美佐子からだ。
[今日、サイに食べてもらいたくてアップルパイを焼いてみました。サイ、甘いもの大丈夫だったかな?]
甘いものが大丈夫かどうかも確認せず、よく作れるな、と呆れながら、ニヤニヤと携帯を眺めている。
[アップルパイ、楽しみだね。でも今から仕事だから、明日の午前中、食べに行きます]
美佐子と心を通わせた後も、サイは【仕事】をやめようとは思わなかった。 美佐子も、【仕事】については何も言わなかった。
美佐子の隣同様、【仕事】もサイの居場所だった。
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