ビアンエッセイ♪

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■21661 / 親記事)  永遠の願い 1
  
□投稿者/ あんず 一般♪(1回)-(2012/10/10(Wed) 18:46:44)





    背中まで伸ばされた髪が持ち主の俯く動作に合わせ、背中や肩を滑り落ちた。
    ストレートパーマでもかけたかのように、定規で引いた線のように真っ直ぐな髪。
    お手入れに気を配っているらしく、傷んだ毛なんて1本もないように見える。
    傷むどころか寧ろつやつやでサラサラの髪は、少しでもいいから触ってみたい。
    アジア人らしく真っ黒な髪は、多分今まで1回も染めたことがないと思う。
    前髪を眉毛が隠れる程度の長さのぱっつんにしているから、余計アジア人らしい。
    シャンプーやトリートメントのCMに出演していても、絶対何の違和感もない。




    “彼女”の髪の毛ばかり見ている訳じゃない、けど、髪の毛に目がいってしまう。
    昔は女性が美人かどうかの判断基準として、髪の毛が重要視されていたという。
    現に平安時代の女性は、長くて美しい髪の女性が美人だと言われていたと習った。
    勿論髪の毛の美しさは今でも憧れ追及されるものだし、好かれるものだと思う。




    前から3番目の机の1番右端の席、それが“彼女”―――――瀬尾麻椰の特等席。
    “麻椰”って最初は何て読むか分からなかったけど、どうやら“まや”らしい。
    彼女、いや、瀬尾さんはいつも1人でいるか、少人数のグループに混ざっている。
    大人数で騒ぐのがあんまり好きじゃない感じの、大人しい真面目なタイプの人。
    でも髪の毛だけじゃなく、顔もそこそこ可愛い瀬尾さんは、結構注目の的。
    話しかけたいらしい人はたくさんいるけど、なかなか勇気が出せないみたいだ。
    ・・・・まあ、私もその“勇気が出せない”たくさんの人の中の1人だけど。




    今日も瀬尾さんは教授の講義を特等席で真面目に聞きつつノートを取っている。
    スカートやワンピースなどの女の子らしい恰好をしている日が多い瀬尾さん。
    今日も膝上丈の花柄ワンピースに真っ白なカーディガンを羽織って登校して来た。
    最近冷えるようになったから寒さ対策か、黒のニーハイに茶色いブーツ姿。
    いかにも男性が好みそうな格好だと思っていたら、その予想は当たっていた。
    周りの男性は講義そっちのけで瀬尾さんを見つめて、頬を緩ませていた。




    男性に人気がある瀬尾さんだけど、女性にも人気があるらしいから珍しいと思う。
    瀬尾さんと仲良くなりたいと願っている女性は少なくないし、実際私もそうだ。
    だけどやっぱり勇気が振り絞れなくて、いつも遠目に見つめているだけ・・・・。
    瀬尾さんと仲良さげに話せる人は、みんなからとったらかなり羨ましい存在だ。
    別にクールな訳でも何でもないのに、なぜかみんな、なかなか話しかけられない。
    クールとは真逆で、よく笑う、ほんわかして可愛らしい感じの女性なのに。




    あれこれ考えている内に時間がきて、今まで受けていた講義は終わってしまった。
    ノートやら筆記用具やらをまとめて片付けながら、やっぱり瀬尾さんを盗み見。
    瀬尾さんはトートバックに勉強道具をしまい、さっさと教室を出て行ってしまう。




    (今日も瀬尾さんに話しかけられなかったぁ〜・・・・)




    今日も瀬尾さんに話しかけられなかった、と思うのは、今日で何回目だろうか。
    春に瀬尾さんを見かけてから毎日思ってるんだから、何百回と思っているだろう。
    友達に講義が始まる前に今日こそは、と意気込む人がいるけど、その人も同じ。
    講義が終わってから、やっぱり今日も話しかけられなかった、と落ち込む始末だ。
    本当、なぜ大半の人がなかなか話しかけられないのか、誰もが理由を知らない。
    高嶺の花、というほどの美人でもなく、近寄りがたい雰囲気をまとってもいない。
    なのに大勢の人がただ願うだけで、彼女とは話せない・・・・とても不思議だ。




    「あ〜あ、今日も瀬尾さん行っちゃったぁ〜・・・・ほんと、移動早いなぁ〜」




    隣で机に突っ伏してそう呟いているのは、入学式当日に友達になった、志藤真冬。
    さっき言った“毎回意気込むけど話しかけられない友達”とは、真冬のことだ。
    明るい茶色に染めた髪を緩く巻いた真冬は、目がぱっちりとして大きい二重。
    中学生ぐらいの時までの私がなりたいと思っていた理想の目を持っている友達だ。




    「はぁ〜・・・・なんでいっつも話しかけられないんだろ・・・・?」



    「さっさと瀬尾さんのところに行かないからじゃない?」



    「だってぇ〜・・・・ってかアンタも話しかけられない人の1人じゃん!」



    「そりゃそうだけど・・・・私は今のままで十分だから」



    「えぇ〜?この間『1回でいいから話してみたい』って言ってたじゃ〜ん」




    あはははは、と笑う真冬は、名前通り真冬の1月生まれなのに、太陽みたいだ。
    笑顔と同じように性格も明るくて、入学式の時は真冬から話しかけてきてくれた。
    住んでいる家もそれなりに近いから、よくお互いの家を行き来したりする仲だ。




    「ところでさ、もうご飯の時間だよ?今日はどこで食べる?」




    私たちが通っているこの大学の敷地内には、食事が出来る場所が4カ所もある。
    生徒数が多いため、自然と食事をする広い場所がたくさん必要になるからだ。
    和食、洋食、イタリアン、カフェのスペースがあり、利用する生徒も教員も多い。
    私も真冬も安くて美味しいのをいいことに、毎日それらの場所で食事をする。




    「昨日は和食だったし・・・・今日はイタリアンが食べたいなー」



    「おおっ、いいねぇ♪じゃあイタリアン食べよー!」




    ショルダーバックを肩にかけ、真冬と2人で並んでイタリアンの場所へと向かう。
    今年の春に入学したばっかりだけど、もう10月だ、大体の場所はもう覚えた。
    ましてや春から何度も通っている場所だから、真冬も私も間違える訳がない。
    今日はトマトとナスのパスタを食べようなどと思いながら、騒がしい廊下を進む。




    「・・・・・あれ?」




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■21662 / ResNo.1)  永遠の願い 2
□投稿者/ あんず 一般♪(2回)-(2012/10/10(Wed) 22:20:41)





    「ひよ〜、どうかした?」




    ひよ、というのはみんなの私に対する呼び名だ、私の名前が宇治原日和だから。
    他には日和、と呼び捨てにする人も、ひぃちゃん、と呼んでくれる人もいる。




    「・・・・・」



    「ひよってば、ねえ、どうしたの?」




    数歩先をご機嫌な様子で歩いていた真冬が、立ち止まる私の近くまで戻ってきた。
    私は大きな窓の外に視線を合わせたまま、そこから一歩も動けなくなっていた。
    不審に思ったらしい真冬は私の隣に来ると、私の視線の先に自分の視線を向けた。




    「あれ・・・・ねえ、あれって瀬尾さん?・・・・と、誰だろ」




    そう、私と真冬の視線の先にいたのは、瀬尾さんと、もう1人の知らない女性。
    大学の敷地内にいるんだから、きっと同じ大学に通っている学生の1人だと思う。
    でも名前も知らないし見たこともないから、違う学部の人か、先輩か・・・・。
    とりあえず、160センチぐらいの瀬尾さんと大差ない背丈の女性が一緒にいた。
    何かを話しているようだけど、何しろ外での会話だ、全然聞くことが出来ない。
    窓を開けて気付かれるのは嫌なので、頑張って口の動きを読み取ろうとしてみる。
    ・・・・って、私も(真冬も)、2人でこそこそと何をやっているのだろうか。




    「・・・・真冬、行こ」



    「待って!・・・・気になるね、あの2人・・・・先輩かな?」



    「誰かは分からないけど・・・・見たことない」



    「多分この大学の関係者だよね・・・・誰だろ?」




    見知らぬ女性は瀬尾さんと同じ黒髪を、茶色いバレッタで後ろにまとめていた。
    彼女の髪の毛も綺麗だと思うけど、やっぱり瀬尾さんの髪の毛には負けると思う。
    白いブラウスに紺のフレアスカート、黒いレギンスに茶色いパンプスという姿。
    顔は横顔しか分からないけど、可愛いというよりは美人という系統に入る。




    「あの人と恰好が似てるんだけど・・・・」




    そう言う真冬を見れば、彼女は白い七分袖のトップスに茶色いフレアスカートだ。
    まあジージャンを羽織っているから、あの人よりも数段カジュアル風だけど。
    なぜか少しショックを受けたような顔をしている真冬は、つくづく不思議な人だ。
    今までも突拍子もないことを言ったりやったりしては笑わせてくれている。




    「あー・・・・そうだね?」



    「まあいいけど・・・・多分読んでる雑誌一緒だよ、あの人」




    真冬に向けていた視線を窓の外に戻すと、瀬尾さんと女性はまだ一緒にいる。
    でも、楽しそうに話しているようには見えない、喧嘩をしているように見える。
    それは真冬から見ても同じなようで、少し心配そうに2人を眺め続けている。
    大声で怒鳴りあってはいないだろうだけど、明らかにいい感じではない様子だ。
    相手の女性は眉間に微かにしわを寄せ、何だか悲しげな感じの顔をしている。
    それに対し瀬尾さんは全く動じていないみたいで、淡々としている様子に見える。




    「やっぱりここからだと何を言ってるか全然分からないね」



    「うん・・・・・大丈夫かな、瀬尾さん」



    「大丈夫だと思うよ?だからさ、ほら、お昼ご飯行こ」




    未だに心配そうに眺める真冬の腕を引っ張り、騒がしい廊下を再び歩き始める。
    ずっと眺めていたってキリがないし、何しろ私は結構お腹が減っているのだ。
    他人の様子を覗き見して心配をするよりも、まずはこの空腹をどうにしかしたい。




    「も〜、お腹が減ったからって・・・・・」




    最初は引きずられるように歩いていた真冬だったけど、最終的には元通り。
    逆に私の手首を掴んでぐいぐい進むようになってしまって、立場が逆転した。
    2人とも瀬尾さんともう1人の女性のことは、食事をするなり忘れてしまった。
    私はトマトとナスのパスタとティラミスを、真冬はランチセットを注文した。
    大学側が提供してくれる食事は、4カ所全てが安くて、美味しくて、最高。
    2人とも空腹だったというのもあるけど、あっという間に食べ終わってしまった。




    「ふう〜・・・・お腹いっぱい♪あ、ひよは次もあるんじゃない?」



    「うん、次で最後ー・・・・真冬はもう終わりだっけ?」



    「今日はさっきので終わりだよー、夕方からバイト!」



    「そっか、頑張ってね!」



    「ありがと〜」




    しばらく空になったお皿を前に話し込んで、講義が始まる15分前に別れた。
    真冬は自宅の近くの居酒屋で週に数回、夕方から夜までバイトをしている。
    そこには何度か行ったけど、アットホームな雰囲気で、店員の人柄もよかった。
    料理も手頃な値段で美味しく、お酒のバリエーションも豊富で楽しかった。




    真冬と別れた後、1人で次の講義が行われる教室へと向かった、最後の講義だ。
    これが終わったら私も家に帰って、真冬同様、夕方からバイトが待っている。
    私のバイト先はレストランで、そこのホールスタッフとして働いている。
    厨房スタッフの人も同じホールスタッフの人も仲が良くて、時々飲みに行く仲だ。




    (そういえば最近飲みに行ってないから、久しぶりに行きたいなあ・・・・)




    確か一昨日のバイトの時、新しいアルバイトが入るっていう話を聞かされた。
    でも店長は何も言ってなかったし、今までにも思わせぶりなことはあった。
    今回も前例通り、先輩がアルバイトの面接に鉢合わせたのがきっかけだった。
    前もそういう話になってどきどきしていたけど、結局入ってこなかった。
    店長の真澄さんはどこからそんな話が?、って言ってすごい笑ってたけど。




    帰ってからのことを考えながら教室に入ると、既に定位置に座っている瀬尾さん。
    もう大体の人が席に着いていて、私も半分より後ろの方の席に座って準備する。
    途中で同じ学部の子が来たから隣の席に誘って、授業内容について話をしていた。
    その子は田辺玲、ベリーショートのダークブラウンの髪で、スポーティな子だ。
    サークルも女子サッカーのサークルに所属していて、この間大会に出場した。
    1年生にしてレギュラーでフル出場し、チームメイトや監督から信頼されている。




    「お、日和久しぶりじゃん!元気だった?」



    「久しぶり〜、元気にしてたよ!玲は?」



    「あたし?あたしは・・・・見てわかるでしょ?」



    綺麗に並んだ真っ白い歯に少し黒めの肌でスレンダーな玲は、とても健康的だ。
    次の講義で最後だという玲は、今日も夕方からサークルの練習に参加するという。
    サッカーが大好きで小学生の頃から続けてきたという玲は、かなり楽しそうだ。
    元々話し上手の玲の話に引き込まれていると、この講義の担当教授がやって来た。
    この教授の講義が1番好きだ、女性の教授なんだけど、講義が分かりやすい。
    講義が分かりやすく親しみやすいという理由で、多くの生徒に慕われる教授だ。
    見た目は白髪交じりの可愛らしいおばあさん、っていう感じで、実際お茶目。
    たまに講義をせずにパーティーなんかをしたりするから、余計に構内の人気者だ。




    瀬尾さんを見ると、いつもの場所で、バインダーのルーズリーフを眺めていた。
    彼女は勉強熱心らしく、よく何かの本や今までの講義のノートを見たりする。
    瀬尾さんと割とよく話しているのを見かける人が、彼女は頭がいいと言っていた。
    分からないところがあって尋ねても、答えが返ってこなかったことはない、と。
    それにいろんなことを知っているらしく、話していても飽きないとも言っていた。




    「では、今日の講義を始めますねぇ〜」




    いつもののんびりした口調で、おばあちゃん教授による90分の講義が始まった。




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