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明美が番組を見終わり、テレビを消すと、玲奈はもう眠りに就いた後だった。 確か明日は午後から勤務予定だと言っていたから、早めに寝たのだろう。 長い付き合いの明美にでさえ気を遣うところは、玲奈の長所であり短所だ。
大学1年生の時、共通の知人を介して知り合った2人は、友人歴が2桁になる。 明美が卒業して幼稚園教諭として働き始めた後も、玲奈とは頻繁に会っていた。 というより、玲奈は無理しがちなところがあり、明美が世話を焼いていた。 レポートや論文に追われて録に食事も摂らず、目の下にクマをつくって過ごす。 そんな玲奈に軽食を差し入れ、少しは休憩するように促すのが明美の役目だ。
幸い、勤務している幼稚園は土日が休みのため、週末には玲奈の家へと行った。 そして彼女から預かった合鍵で入り、玲奈の安否を確認して世話を焼く。 玲奈も無事卒業して医師として病院に勤務しているが、性格は変わっていない。
(本当は、辛いんでしょ?)
本当は、玲奈は里奈のことを本人が思っている以上に想っていたのだと思う。 パッと見は普段の玲奈だが、玲奈の友達として長い付き合いのある明美は分かる。 里奈を見る時の、切なそうで辛そうで悲しそうで寂しそうな、玲奈の目――――― スピーチの時も上の空でいたような気がして、少しだけ玲奈が心配だ。
(だけど・・・)
だけど、もう玲奈も立派な大人の女性だ、自分で自分のことはできるだろう。 ただでさえ、他人に自分の領域に土足で踏み込まれることを嫌う玲奈のことだ。 明美という人間が聞いても、きっと何も答えてはくれないのは分かりきっている。 玲奈に明美がしてやれることは、ただ玲奈のことを見守ることだけだ。
明美は玲奈のことを大切に思い、最高の友人だと思っているし、愛しいと思う。 しかしそれは人間として、友人としてであり、決して恋人としてではない。 それは明美1人だけのことではなく、玲奈にも当てはまることである。
だから、明美が眠る玲奈の頬に唇で軽く触れたのは、何の意味もないことだ。 明美は昔から眠る玲奈の頬にキスをする、すると玲奈は軽く身じろぐのだ。 しかし次の日には必ず、よく眠れた、そうやって玲奈は満足げに微笑む。 これは玲奈には知られていない、玲奈だけのための明美のおまじないだった。
(玲奈・・・玲奈・・・好き・・・大好きだよ・・・)
今日も玲奈は明美からのキスで左側に寝返りを打ってしまい、明美に背を向ける。 すやすやと眠る玲奈に安堵の溜め息をついた明美は、枕元のランプをつけた。 そしてリモコンで部屋の電気を消し、自分もアラームをセットして目を閉じる。 脳裏には、綺麗に着飾ったフォーマルな玲奈と、綺麗な純白の花嫁姿の里奈。 明美にとっては2人とも大切な人だが、大切の度合いが大きく違う人でもある。
(玲奈・・・好き・・・)
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