ビアンエッセイ♪

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■22043 / 親記事)  窓際の彼女
  
□投稿者/ KEI 一般♪(1回)-(2016/03/29(Tue) 16:37:24)



    彼女はいつも窓際に座っていた。

    本を開いたかと思うと、ゆっくり顔を上げて窓の外を眺める。

    瞬きをする横顔さえも美しい。

    僕は彼女に見惚れた。



    彼女を初めて見たのは半年前。

    高校の課題で自分が一番好きな本を紹介するというものがあった。

    僕は、ズラズラと文字が統一間隔に並ぶ本が嫌いだった。

    どうしようかと悩んでいたら、ふと、子どもの頃母さんに読んでもらった絵本を思い出した。

    絵本も本には違いないと思い、僕は学校の図書室を隅から隅まで探したが、僕が探している絵本は見つからなかった。

    そこで僕は学校近くの図書館へと足を運んだ。

    図書館なんて来たことなかった。

    縁もなかったし。

    図書館に入り、探してみるとものの5分で見つかった。

    好きだった絵本だが、どんな話だったか忘れた僕は1度読んでみることにした。

    この図書館はとても広く、椅子に座って読むスペースも沢山あった。

    僕は窓から少し離れた席に座って絵本を読んだ。

    『大きなきは きらめき 花はまるで ほうせきのようだった。エミリーは 花をひとつ つみとると たいせつにかかえて ママのもとへと かけよった。ママはエミリーの あたまを なでながら……』

    絵本は僕が子どもの頃に読んだときのままだった。

    絵本を読み終え周りに迷惑をかけないように小さく伸びをした。

    窓の外は薄暗くなり始めていた。

    「……」

    沈み行く夕日によって光輝く一人の女の子がいた。

    窓際の彼女は本を開いたまま、窓の外を眺めていた。

    とても美しかった。

    彼女は外を眺めるばかりで、時折存在に気づいたかのように本に目をやり一時間に一ページという遅さで本を読んでいた。



    〜♪ 本日はご来館頂きありがとうございます。間もなく19時になりますので閉館します〜

    閉館の放送が流れた。

    気づけば僕は二時間半も図書館にいた。

    そしてそのほとんどの時間、窓際の彼女を見ていた。

    放送が流れると彼女は本を閉じ、本棚へと戻しに行った。

    凛とした佇まい、長い髪はサラサラとして歩くたびに揺れ動いた。

    バッグを肩に掛け、本を戻すときに背伸びをした。

    背伸びをした彼女の足は細く、長く、上品だった。

    そして彼女は出口へと向かい振り向いた。

    きれいに整えられた前髪はふわふわと上下に揺れ、大きな瞳はどこか寂しげに見えた。

    リップを塗っているのかもしれないが、ぷっくらとした唇はキラキラと潤い、鼻筋が通った小さな顔をしていた。

    「美しい」

    いつしか僕は心の声を抑えることができずにそう言葉にしていた。

    一目惚れだった。



    続く







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■22044 / ResNo.1)  窓際の彼女2
□投稿者/ KEI 一般♪(2回)-(2016/03/29(Tue) 17:15:20)



    僕は彼女のことが忘れられずにそれから毎日図書館に通った。

    彼女も毎日図書館に来ていた。

    相変わらず窓際に座り、本を開いて窓の外を眺めていた。

    そして僕は彼女を眺めていた。

    何を考えているのか、何を見ているのか、気になったが話しかけることはできなかった。

    〜♪本日はご来館頂きありがとうございます。間もなく19時になりますので閉館します〜

    いつもの閉館放送が流れた。

    今日も終わり。

    彼女もいつものように本を戻しに行った。

    こうして彼女は窓の外を見て、僕は彼女を見る毎日が半年続いた。



    僕は全く苦にならなかった。

    嫌いな本がところせましと並んでいて、音楽も何もない静かな空間だったが、彼女を見れるだけで幸せだった。

    部活は軽音部でギターとドラムをやってたが、彼女に出会って部活にも行かなくなった。

    高校は女子高で気の合った仲間が集まって遊んでいた。

    僕はあまりそういうのが好きじゃなかったし、髪が短く、男っぽい性格だった僕は周りの女子からキャーキャー言われたが、気の合う友達はいなかった。

    だから、僕が毎日放課後に図書館に通ったって誰も不信に思わなかった。

    〜♪…

    また今日も一日が終わった。

    よし、帰ろう。

    僕は立ち上がり読んでもいない本を戻した。

    彼女はいつも同じ本棚へと本を戻していた。

    だから今日は僕も彼女と同じ本棚から本を借りてみた。

    きっと彼女も本棚へと近づいている頃だと思い、僕は振り向いた。

    しかし、彼女はまだ窓際の席に座っていた。

    頬杖をつき、窓の外を眺めていた。

    人はどんどん少なくなり、ついに僕と彼女だけになった。

    何かあったのでは、と気になった僕は彼女に近づいた。

    「あの…閉館ですよ」

    「……」

    「あのー…」

    「……」

    彼女は全く反応しなかった。

    僕は恐る恐る彼女の顔を覗き込んだ。

    「スースー…」

    なんと、彼女は眠っていた。

    しかし閉ざした瞳からは一筋の涙が流れ、頬にかけて透明な道を作り出していた。

    「え…」

    僕は驚き、息をのみ、彼女を起こすことができなかった。

    涙の筋がキラッと光、彼女の顔を照らした。

    眠りにつき、涙を流す彼女の顔はとても美しかった。

    「そこ!もう閉館ですよ」

    いつまでも帰らない僕らを見て警備員が声をかけてきた。

    「あ、すみません。すぐに帰ります」

    僕は警備員に頭を下げ、彼女を起こすことにした。

    トントンと肩を叩き、

    「あの、起きてください。もう帰りますよ」

    彼女は意外にもすんなりと目を覚ました。

    「あ、私…」

    見知らぬ女子高生が目の前にいたのだから無理もないが、彼女は混乱している様子だった。

    「話は後で。早く帰らないと怒られちゃうから。ほら、立って」

    僕は彼女の腕を取り、彼女は自分のバッグを取って、足早に図書館を後にした。



    続く
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■22045 / ResNo.2)  窓際の彼女3
□投稿者/ KEI 一般♪(3回)-(2016/03/29(Tue) 21:44:02)



    僕は彼女の腕を掴んだまま図書館を出てしばらく歩いた。

    「あ、あの…」

    公園にさしかかったところで彼女は僕に問いかけた。

    「あ、ごめん。何も言わずにこんなところまで来ちゃった」

    「ううん。それはいいの。連れ出してくれてありがとう」

    彼女は変なことを言った。

    「ちょっとそこで話さない?」

    僕は公園のベンチを指差して言った。

    「うん」

    彼女は素直に答え、一緒にベンチに座った。

    寒い日だった。

    十月になったばかりだからコートなど着てなかった。

    風が冷たくて、彼女は少し震えていた。

    僕は自動販売機でココアを買って彼女に渡した。

    彼女は両手でココアを包み込み必死で体を温めようとしていた。

    「寒いから、これ着な」

    僕は彼女を見かねて自分のブレザーを彼女の肩に掛けた。

    「そ、そんなの悪いよ」

    彼女は遠慮したが僕が許さなかった。

    「風でも引かれて図書館に来なくなったら僕が困るから」

    「え…」

    僕はつい本音を言ってしまった。

    「どういうこと…?」

    彼女の目は真っ直ぐに僕へと向けられていた。

    涙を目一杯に溜め込んだ彼女の瞳は薄暗がりの光に照らされ、より一層美しく感じた。

    彼女の視線に耐えきれず僕は目を逸らし、立ち上がろうとした。

    たが、今度は彼女がそれを許さなかった。

    彼女は僕の腕を掴み、僕を見上げて言った。

    「私…、私ね…。あなたのことが…、好き…なの」

    「え…」

    僕は目の前に一瞬光が見えたように感じた。

    「今、何て…」

    彼女の手は震えていた。

    「私…、あなたが好きなの!」

    彼女は泣いていた。

    さっきの涙と同じ道筋を辿って、頬へと流れた。

    「変なのは分かってる。あなたが女の子だっていうのも、もちろん分かってる。だけど…私…、あなたのことが好っ…」

    僕は彼女の口を僕の唇でふさいだ。



    続く







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■22046 / ResNo.3)  窓際の彼女4
□投稿者/ KEI 一般♪(4回)-(2016/03/29(Tue) 22:31:05)
    2016/03/29(Tue) 23:45:22 編集(投稿者)



    きっと彼女は驚いて目を丸くしているに違いない。

    僕は彼女がしばらく口を開けぬようにした。

    「んっ、んん…ん……」

    僕に舌を入れられ、彼女は微かに声を出して僕の腕を強く掴んだ。

    唇を離すと、彼女の頬はほんのり赤く染まっていた。

    僕は彼女の頬につたう涙を手で優しく拭った。

    そして彼女のおでこに軽くキスをした。

    ビクッ

    彼女の体は電気が走ったように反応した。

    「どうした。チューしただけで感じた?」

    すると彼女はコクりと小さくうなづいた。

    「かわいい」

    僕は彼女を強く抱き締めた。

    「ねぇ…」

    「ん?」

    「もう一回…、して…」

    「うん」

    僕は彼女を顎を手で包み、優しくキスをした。

    彼女の顔は更に赤くなり、大きな瞳がとろんとしてきた。

    「今日は帰ろうか」

    僕は彼女のことを思って言った。

    しかし彼女は少し下を向いて僕に言った。

    「…やだ。帰りたくない…」

    「そっか。分かった」

    僕は彼女の手を取った。

    「じゃあ、家まで一緒に帰ろうか。僕が送るよ」

    彼女は少し寂しそうな顔をした。

    でもすぐに笑顔になり「うん!」と大きくうなづいた。

    僕は彼女に掛けていたブレザーを着た。

    彼女の温もりが感じられた。

    僕らは並んで歩いた。

    意外にも帰る道は同じだった。

    「そういえば、今更なんだけど、僕は岡本真琴。君の名前は?」

    「私は、三神千秋。Y高校の三年」

    「え、Y高?うちらの後ろの高校じゃん。しかも三年って…僕、二年。千秋は先輩だったんだ」

    「うん。先輩だよ」

    「全然分からなかった。…怒らないよね?」

    僕は彼女が年上だということを知らなかった。

    生意気な口を聞いて、キスまでして。

    「怒らないよ。だって…よ、よかったんだもん…」

    また千秋は顔を赤らめて下を向いた。

    「またチューするぞ!」

    こうして僕らは笑った。

    千秋の笑った顔は可愛くて、窓の外を眺めていた清楚で真面目そうな印象を吹き飛ばした。

    しばらく話をしながら並んで歩いていると、千秋の手が触れた。

    僕は千秋を見た。

    千秋も僕を見ていた。

    僕らは自然と指を絡めていた。

    千秋の手は冷たかった。

    僕は千秋と握りしめた手をブレザーのポケットに入れて温めた。

    「温かい」

    「僕も」

    またしばらく歩いた。

    その間僕らは何も話さなかった。

    話さなくともよかった。

    すると千秋が一軒のアパートの前で立ち止まった。

    「ここ…」

    千秋はアパートを指差して言った。

    「じゃあ、僕はここで」

    僕は千秋の手を離して帰ろうとした。

    「やだ」

    たが、千秋は離そうとしなかった。

    「でも…」

    「今日はうち、誰もいないの。一人じゃ寂しい。真琴と一緒にいたい」

    千秋は初めて僕のことを、真琴、と呼んでくれた。

    「分かった。じゃあ、僕も親に連絡しとく」

    僕はそう言って、千秋に連れられてアパートの階段を上がった。

    千秋の部屋は203。

    ガチャ

    僕らは暗い部屋の中へと入った。



    続く

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■22047 / ResNo.4)  窓際の彼女5
□投稿者/ KEI 一般♪(5回)-(2016/03/30(Wed) 00:35:10)



    千秋が電気をつけた。

    「狭いところだけど入って」

    「おじゃましまーす」

    僕は靴を脱いで千秋に案内されるまま部屋に入った。

    まずは玄関を入るとすぐにキッチンがあった。

    小さいがダイニングテーブルがある。

    その奥にはテレビやソファ、テーブルが八畳ほどの小さな空間にあった。

    ここがきっとリビングなのだろう。

    リビングを入ると左側にもう一つドアがあったが、きっとそこが寝室。

    さすがに泊まるつもりはないから、寝室など見る必要もなかったのだが、

    「真琴、こっちに来て」

    と呼ばれて僕は寝室に向かった。

    寝室はとてもきれいで整理されていた。

    僕の家とは大違い。

    寝室を見回していると、千秋が急に制服を脱ぎ始めた。

    「え、ちょっ」

    僕は慌てて寝室を飛び出した。

    「真琴、どうしたの?」

    「いや、だって!千秋がいきなり脱ぐから」

    「着替えるだけだよ。真琴も着替えな」

    そう言って千秋はジャージを僕に手渡した。

    「でも、僕、今日は帰るし…」

    「何でよ。今日は一緒にいてくれるって言ったじゃん」

    「いや、そんなつもりで言ったんじゃ」

    「やだ。寂しいの…」

    千秋はまた僕の腕を掴んだ。

    「…分かった、分かった」

    僕は千秋の頭をポンポンと撫でた。

    「やった!」

    千秋ははしゃいだ子どものようにジャンプをして僕に飛びついた。

    こんなにかわいい千秋を見られるなんて、夢にも思っていなかった。



    「いただきまーす」

    夜ご飯は千秋が作ってくれた。

    肉じゃが。

    僕の大好物だった。

    さっぱりとした甘さで煮込んであって、ジャガイモが箸で掴んだ瞬間にホロホロと崩れ落ちるのが、僕は好きだった。

    「千秋、これおいしい」

    「そう、よかった。ねえ、真琴、ここにご飯粒ついてるよ」

    僕はよくご飯粒を顔につけていた。

    それは子どもの頃から変わらない。

    行儀は悪いが、ご飯茶碗を持ってガツガツと掻き込むようにして食べていた。

    それがおいしいものであればあるほど豪快に。

    手を顔中に当ててみたが、ご飯粒らしきものを取ることができなかった。

    「もう」

    と言って、千秋は僕の右の頬についていたご飯粒を取ってくれた。

    「ありがとう」

    「どういたしまして」

    そう言うと千秋は僕の頬についていたご飯粒を自分の口に運んで食べた。

    「おいしい」

    千秋は幸せそうにニコニコしていた。



    「真琴、先にお風呂に入っちゃって」

    「うん。分かった」

    僕は千秋からタオルを借りて、お風呂に入っちゃって入った。

    いつもは面倒でシャワーしか浴びないのだが、今日は千秋がお風呂を入れてくれたのだから入らない訳にはいかなかった。

    白い入浴剤が入れられた湯船に肩まで浸かり、角に頭を置いて天井を見上げた。

    こんなに幸せなことがあっていいのだろうか?

    僕が毎日見てきたあの窓際の彼女とキスをして、手を繋いで、ご飯を食べて、同じ部屋で寝ることになるなんて、想像もしていなかった。

    僕は気持ちが高鳴り、数分も入っていないのに、なんだかのぼせてしまった。

    軽くシャワーを浴び、髪と体を洗い、すぐにお風呂から上がった。

    「お風呂気持ちよかった。ありがとう」

    「いいえ。それじゃあ私も入るから、先に寝ててもいいよ」

    「うん。分かった」

    千秋がお風呂のドアを閉めるのを確認して、僕は寝室に入った。

    寝室には布団が二つ敷かれていた。

    一つは千秋の、もう一つは僕のだろうか。

    部屋の端にもう一つ丸められた布団があった。

    千秋の家族が何人なのかは分からないが、あれはきっとお父さんかお母さんのものだろう。

    僕は布団の上に大の字になって寝転がった。

    体の火照りがなかなか冷めなかった。

    だがいつしか僕のまぶたは重くなり、眠りについた。



    「真琴、起きてー」

    千秋の声がした。

    「ふあ〜」

    僕は大きなあくびと大きな伸びをして布団から起き上がった。

    チュッ

    「おはようのチューだよ」

    千秋はニコニコしながら言った。

    「ほら、早く朝ご飯食べて学校行かないと。遅刻しちゃう」

    僕は時計を見た。

    時刻は八時の五分前。

    「やっべ!」

    僕は急いで制服に着替えた。

    「いただきます」

    玉子焼きにウィンナー、鮭の塩焼きと大根おろし、きゅうりの漬け物に梅干し、ご飯と味噌汁。

    いつも食パン片手に家を飛び出す僕にとっては、旅館のような豪華なメニューだった。

    どれもおいしい。

    おいしいのだが、一つひとつを味わう時間はなかった。

    いつもの倍の速さでご飯をかきこんだ。

    「ごちそうさま!いってきます!」

    僕は千秋のアパートを飛び出した。

    階段を下りて、ハッと気がついた。

    千秋も高校生。

    しかも後ろの高校。

    だったら一緒に出ないとまずい。

    僕は急いで部屋に戻った。

    「千秋、行くぞ!」

    「もう、おいていかないでよ」

    千秋は頬を膨らませて怒って見せた。

    そして、僕に自転車の鍵を渡すと、

    「先に行っていいよ。私は今日、一時間目自習だから」

    「そうなの?」

    「うん。早くしないと真琴が遅刻しちゃう」

    「分かった。それじゃあ、また図書館で」

    「うん」

    僕は千秋に手を降りアパートを出た。



    続く





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■22048 / ResNo.5)  窓際の彼女6
□投稿者/ KEI 一般♪(6回)-(2016/03/30(Wed) 14:48:40)
    2016/03/31(Thu) 16:25:25 編集(投稿者)



    「まこちゃん、おはよー。今日もギリギリだったね」

    僕はホームルームが始まる1分前に教室に入った。

    千秋に自転車を借りてよかった。

    自転車がなかったらきっと遅刻をしていた。

    学校はつまらなかった。

    それはいつものこと。

    学校なんてつまらないものだ。

    〜キーンコーンカーンコーン〜

    授業終了のチャイムが鳴った。

    「まこちゃん、今日も帰るの?」

    「うん。お先にー」

    僕はチャイムが鳴り終わるとものの数秒で教室を出た。

    自転車にまたがり、トップスピードを保ったまま図書館を目指した。

    図書館は静かだった。

    僕のハァハァという息切れの声だけが聞こえていた。

    いつもの窓際の席に僕は静かに進んだ。

    そこには千秋がいた。

    今日も本を開いたまま頬杖をついて、外を見ていた。

    僕は千秋の隣に座った。

    「真琴、おかえり」

    「千秋、ただいま」

    千秋は笑顔で僕を迎えてくれた。

    千秋は開いていた本を閉じて僕を見た。

    「どうした」

    「真琴…、明日休みだよね」

    「うん」

    千秋は少し顔を赤らめてこう言った。

    「…どこか遠くに、お泊まり…行かない…?」

    僕は千秋の手を取った。

    嬉しかった。

    「うん、行こう」

    千秋は下を向いて恥ずかしそうにした。



    僕と千秋はいつもより三十分早く図書館を出た。

    千秋は図書館を出ると僕の腕を掴んだ。

    僕は千秋の頭を撫でた。

    自転車にまたがり、千秋を後ろに乗せた。

    「明日楽しみ」

    千秋は僕の腰に手を回し、頬を背中につけて言った。

    「明日、どこに行こうか」

    「真琴の行きたいところ、どこにでも着いて行く」

    「分かった!じゃあ、考えておく」

    千秋はギュット僕に掴まり、身を寄せた。

    千秋のアパートに着いた。

    僕は自転車を元の場所に戻して家路に着いた。



    「母さん、僕明日友達と旅行に行ってくる」

    「あらそう、久しぶりに仕事だからお母さんも買い物に行こうと思ってたのよ」

    「そっかー。一緒に行けなくてごめんね」

    「いいのよ。いつも真琴には付き合ってもらってるから。楽しんでらっしゃい」

    僕の家族は母さんだけ。

    母子家庭だった。

    僕が生まれたときから父さんと呼べる人はいなかった。

    母さんはお金になるからと工事現場で交通誘導員をやっていた。

    男らしい仕事をしていたが、実際母さんは気弱で頼りなくておっちょこちょいたった。

    だからだろうか。

    僕が母さんを守らなくてはと思って、強くなろうとした。

    そして、男らしくなった。

    女の子が好きになった。

    千秋を好きになった。



    続く
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■22049 / ResNo.6)  窓際の彼女7
□投稿者/ KEI 一般♪(7回)-(2016/03/30(Wed) 15:30:56)
    2016/03/30(Wed) 15:35:56 編集(投稿者)
    2016/03/30(Wed) 15:34:52 編集(投稿者)



    「いってきまーす」

    僕は走って家を出た。

    母さんの「いってらっしゃい」の言葉も聞かずにどんどん進んだ。

    待ち合わせは図書館。

    僕は上がりきった息をふぅーと整えて図書館に入った。

    いつもの席に千秋がいた。

    今日こそは僕の方が早く来ようと思っていたのに、やはり千秋の方が早かった。

    今日も千秋は本を開いて窓の外を眺めていた。

    「お待たせ」

    僕は千秋の肩をトントンと叩いた。

    千秋は白いスカートに青いカーディガンを羽織っていた。

    制服姿した見たことがない僕はドキドキした。

    ジーンズにパーカー、リュックというおしゃれの欠片もない僕とは正反対だ。

    千秋は振り返り、僕の顔を見てニコッと笑った。

    半年間、ずーっと僕は千秋の横顔ばかりを見てきた。

    だが、この二日間は笑顔しか見ていない。

    僕はそれだけで幸せだった。

    僕は千秋の手を引いて、千秋の細い腕では折れてしまいそうなほど大きなバッグを持ち、図書館を後にした。

    図書館を出るとすぐに千秋は僕の腕を掴んだ。

    「バッグ重たくない?」

    「大丈夫。僕は千秋と違って力持ちだから」

    「もう」

    千秋は頬を膨らませた。

    この表情が僕は大好きだった。

    僕たちは近くの駅から電車に乗った。

    今日は土曜日だけど電車はガラガラだった。

    「どこに行くの?」

    千秋が僕に聞いた。

    「秘密。着いてからのお楽しみ」

    電車に揺られて三十分。

    千秋は眠ってしまった。

    僕の肩に頭を乗せて、スースーと静かな鼻息が聞こえた。

    初めて声をかけたあの時と同じように。

    でも一つだけ違うことがある。

    それは千秋の手が自分の頬ではなく、僕の手に添えられていること。

    僕らは手を繋いでいた。

    時折、ピクピクと千秋の指が動く。

    グッスリ眠っていた。

    僕らは二時間電車に揺られた。

    途中僕も眠ってしまったが、すぐに起きた。

    千秋は眠ったままだった。

    〜次は終点、終点です〜

    電車のアナウンスが聞こえた。

    「千秋、起きて。そろそろ降りるよ」

    千秋は、うーんと言って目を覚ました。

    「おはよう。降りるよ」

    「ずっと寝てた?ごめんね」

    「いいよ。僕も寝てたから」

    僕らは手を繋いで電気を降りた。

    ここなら知っている人はいない。

    堂々と手を繋いで歩ける。

    「あと、十五分ぐらいバスに乗ったら着くよ」

    「うん、分かった」

    バスに乗ると千秋はまた僕の肩に頭を乗せた。

    「バスに乗ってるだけなのに、すごく楽しい」

    千秋は言った。

    「僕もだよ」

    僕はそう言って千秋にキスをした。

    誰に見られたっていい、誰に変な顔をされたっていい。

    今は僕らだけの空間にいる。

    「真琴、もう一回」

    千秋の呟くような声が耳元で聞こえた。

    僕は千秋にキスをした。

    「もうここまで。これ以上したら止められない」

    僕は言った。

    「私も…」

    千秋は言った。

    〜次は海洋浜、海洋浜〜

    僕らはここでバスを降りた。



    続く


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■22050 / ResNo.7)  窓際の彼女8
□投稿者/ KEI 一般♪(8回)-(2016/03/30(Wed) 16:04:48)



    潮のにおいがした。

    そしてほんの数メートル歩くと目の前には海が広がっていた。

    「真琴!すごい!海だよ」

    千秋は跳び跳ねて喜んだ。

    「海なんて久しぶり!真琴、早く早く」

    僕は千秋に手を引かれて転びそうになりながら海に向かった。

    ブルーシートを敷いて荷物を置き、僕らは靴を脱いで海に向かって走った。

    「ひゃー、冷たい」

    「冷てぇー」

    十月の海は案外冷たかった。

    水をかけあったり、どこまで進めるかと歩いてみたり、砂で山のトンネルを作ってみたり、子どものように遊んだ。

    日が暮れかけると、足を洗って次の目的場所へと移動した。

    「楽しかった!また行きたいなー」

    千秋は海が見えなくなるまでずーっと言っていた。

    歩いて五分ほどで旅館に着いた。

    「え、もしかしてここに泊まるの?」

    千秋はそう言って旅館を見上げた。

    「そうだよ。さっ。行こう」

    今度は僕が千秋の手を引いた。

    全部で三十階もあるこの辺では有名な旅館。

    僕のお金では最上階なんて取れないけれど、今回は運よく十階の客室がキャンセルになって空いていた。

    僕は値段なんて気にせずそこを予約していた。

    客室はとてもきれいだった。

    入るとすぐにこたつがあって、一段下がったところにベッドがあった。

    障子から透けて見える夕日は障子を赤く染めていた。

    「真琴…」

    「ん?」

    千秋は窓の外を見て、

    「嬉しい」

    と静かに言った。

    千秋の好きな窓際には椅子と小さなテーブルが置かれていた。

    千秋は迷わず窓際に座った。

    足を組んで背もたれに寄りかかり、窓の外を眺めた。

    夕日に照らされた千秋の横顔は世界で一番美しかった。



    続く

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■22051 / ResNo.8)  窓際の彼女9
□投稿者/ KEI 一般♪(9回)-(2016/03/30(Wed) 16:35:30)



    僕らは浴衣に着替えて広間で食事をした。

    どらも美味しかったけど、千秋が作った肉じゃがの方が美味しいと思った。

    部屋に戻って僕はうとうとして眠ってしまった。

    三十分ほどだろうか。

    起きると髪の濡れた千秋が窓際に座っていた。

    「あれ、千秋温泉入ったの?」

    「うん。先に入っちゃった。真琴も入ってきな」

    僕は千秋と一緒に入りたかったが、もう一度千秋を連れていくわけには行かない。

    僕は渋々一人で温泉に入った。

    丁度いい温度で気持ちよかった。

    いくらでも浸かっていたかったが、千秋が待っていると思うと長居はできなかった。

    僕はさっと髪を乾かして部屋に戻った。

    部屋にはいると千秋が窓の外を眺めて座っていた。

    髪はもうすっかり乾いたようで、おだんご結びをしていた。

    千秋のうなじはとても美しかった。

    「千秋」

    僕の声に千秋は振り向いた。

    「寝よう」

    僕の言葉に千秋はうなづいた。

    僕らはそれぞれベッドに入った。

    千秋は眠れたのか分からないが、僕は全く眠れなかった。

    隣に大好きな千秋がいるのに、眠れるわけがなかった。

    「真琴…」

    目をぱちぱちさせていると千秋の声が聞こえた。

    「ん?」

    僕は返事をした。

    「真琴と一緒に…寝たい」

    毛布で顔を隠しながら千秋は言った。

    僕は嬉しくて仕方がなかった。

    照れ顔を千秋と同じく隠したい。

    そんな気持ちだった。

    「おいで…」

    僕は右側の毛布をたくしあげて千秋が入るスペースを取った。

    千秋はスッと僕のベッドに潜り込んだ。

    頭を僕の胸につけて、小さく丸まった。

    僕は千秋の頭におでこを乗せて撫でた。

    「千秋…」

    僕が呼ぶと、千秋は頬を赤くして顔を出した。

    僕はすかさず千秋の上にまたがってキスをした。

    何度も何度も唇を重ねた。

    頭を何か糸で引っ張られている感覚がした。

    唇を離すと、千秋は泣いていた。

    「ごめん、嫌だった?」

    「ううん。違うの」

    僕は千秋の涙を拭いた。

    「嬉しいの…」

    僕は千秋を抱きしめた。

    そして、聞いた。



    続く


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■22052 / ResNo.9)  窓際の彼女10
□投稿者/ KEI 一般♪(10回)-(2016/03/30(Wed) 16:58:46)



    「…してもいい?」

    僕たちは見つめ合った。

    そして千秋は、僕にキスをした。

    きっとこれが、いいよということだろう。

    僕の頭を引っ張っていた糸が切れた。

    キスをして強引に舌を入れる。

    千秋は抵抗せず受け入れた。

    キスをしたまま浴衣の帯をスッと外す。

    千秋は僕の手を取り抵抗した。

    「だーめ。お手てはこっち」

    「やっ…」

    僕は千秋の両手を頭の上に持っていき左手一本で掴んだ。

    抵抗できなくなった千秋は僕のされるがままだ。

    浴衣を少しずつずらしていく。

    「ダメダメダメ…」

    僕は聞かなかった。

    「んっ…んん……はっ」

    僕はキスをして、千秋の胸を揉んだ。

    細い見た目とは裏腹に豊満な胸は右手で掴みきれないほど大きかった。

    「おっきなおっぱい」

    「やっ、恥ずかしい」

    僕の言葉一つひとつに千秋は反応した。

    「やだやだっ」

    僕は千秋の言葉など耳に入らなかった。

    ブラを簡単に外すとピンクで小さな乳首がピンと立っていた。

    立った乳首を、スッと触る。

    その瞬間に千秋の体はビクッと反応する。

    「恥ずかしいよ…」

    千秋は顔を真っ赤にした。

    「かわいいよ」

    僕はキスをして乳首を愛撫した。

    「んんっ…」

    重なった唇の空き間から千秋の声が漏れる。

    「あっ……いやっ、だめ…はっ」

    ピンクの乳首を吸うと千秋はより一層声をあげた。

    「おいしいよ」

    僕は顔を上げて千秋を見た。

    手を掴まれて顔を隠せない千秋は目をつむって布団に顔をうずめた。



    続く


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