| 乾いた空気が湿気を孕んで、白い息と共に私の頬を撫でる。 春はもう間近に迫っているというのに、相変わらずの外気の冷たさに私はまたひとつ吐息を漏らした。 そのまま開け放した窓を閉め、室内へと顔を引っ込める。 見慣れたいつもの保健室には珍しく生徒がいない。 だからだろうか。 しん、と。 やけに静けさが耳鳴りのように響くのは。
──私を選びなよ、先生。
静寂の中に混じる微かな音に、ざわめく何かを感じる。 今日は妙に感傷的ね、独り言のようにぽつりと呟いて、空いているベッドのひとつに腰を下ろした。
夢を見るのは、あの日を思い出すのは、いつもこんな時だ。
上空に広がる空はきっとどこまでも続いていて、繋がっている事は確かなはずなのに。
私の瞳に映るのは、少しばかり年季を帯びた保健室のこの天井。 見上げても見上げても無機質な灰色だった。
──私を選びなよ、先生。
私はその手を……───
──取らなかった。
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