[戻]-21432/親
宝物(1)
つぐみ
『私と、付き合って?』
半年前の夏、8月21日。
蝉が五月蠅く鳴いている中、告白された。
・・・・・クラスメイトの、女の子に。
『・・・・・え?』
夏休みが終わってから行われる学校祭の実行委員になり、
実行委員のメンバーだけで、夏休み中に何度か集まった。
彼女は自分と同じ、学校祭の実行委員のメンバーだった。
クラスは一緒、でもいつも一緒にいる友達ではなく。
1日に何度かは話す仲だったけど、いつもそれだけ。
少し言葉を交わすだけで、一緒にお昼ご飯を食べることも、
休みの日に出かけることもなかった仲でもある。
それが自分と彼女なりの友情で、関係だと思っていた。
彼女―――――百合原琴音は、“美人”と言われる類の人だ。
日焼けなんて全く縁がない白い肌に、真っ黒な墨や闇のような髪。
つけまつげいらずの切れ長の、しかしぱっちりとした二重の黒い目。
程よく脂肪がついた、手足が長く、すらっとしたモデルのような体型。
しかも、容姿だけではなく、その中身も美しい人でもある。
明るく人見知りしない性格で、礼儀正しく、思いやりがあり、努力家。
更に成績優秀で、でも運動は少し苦手で、特に球技は苦手のようだ。
おまけにお嬢様育ちという、大きな大きなおまけまでついている。
まるで、マンガやアニメのヒロインか何かのような人だ。
どう生まれ、どう育てられたらこういう風に育つのか、みんなが不思議がった。
外見も中身も素晴らしい人なんて、そうそういないから。
それに比べて、自分―――――塩崎海は、平々凡々な人間だ。
小さい頃からテニスをやっているので、他の人よりも日焼けしている肌。
テニスの邪魔にならないように、と、楽だという理由でしているボブヘアー。
髪の毛は日光に長時間当たりすぎたためか、少し茶色くなっている。
目は母親に似て茶色っぽいぱっちりとした目で、大きい方じゃないかと思う。
手足には筋肉がついてしまったが、体型は部活のお陰で何とか普通体型だ。
性格はというと、明るいとは思うし、天然だの鈍感だの面白いだのと言われる。
成績はそこそことれているが、勉強より運動の方が断然得意だし、好きだ。
とりあえずは、多くの友達に囲まれ、充実した学校生活を送れている。
そんなある意味正反対のタイプである彼女が、自分のことを好き?
同性で、しかも特別仲がいいわけでもない、この自分を?
訳が分からなくなりそうだった、いや、実際なっていたと思う。
同性に告白されたという衝撃と、彼女が自分を好きなことを知った衝撃と。
いろんな衝撃と驚きで、危うく持っていた書類を落としそうになった。
『ごめんなさい・・・・いきなりだから、驚くわよね』
申し訳なさそうに微笑んだ彼女は、やっぱり綺麗だった。
しかし、そんな顔をされても、自分はどうしたらいいのか分からない。
確かに彼女のことは好きだ、しかし、“クラスメイト”として。
恋愛感情は抱いていないし、抱くはずがないとさえ思っている。
自分が誰か同性を好きになるなんて、全然想像が出来なかった。
だから、混乱していた自分は、なおも彼女と向き合ったまま黙っていた。
『だけど、どうしても伝えたいと思ったの』
『いや・・・・うん、ありがとう。どうしていいか分からないけど』
やっとの思いでそう伝えると、彼女はほっとしたような表情を浮かべた。
きっと、軽蔑されるんじゃないかと、気が気じゃなかったのだろう。
彼女は自分が好きで、普通の異性同士のように、恋人になりたがっている。
しかし、自分は彼女のことをそういう風には思っていない。
『嬉しいけど、だけど私、あな『知ってるわ』・・・・え?』
自分の思いを伝えようとしたのに、途中で遮られてしまった。
ぽかんとしているこちらにふわりと微笑むと、彼女は続けた。
『あなたが私をそういう風に見ていないのは、最初から分かってる』
自分は相手のことが好きなのに、相手は自分のことを好きではない―――――
同性で、クラスメイトで、友達で・・・・・それが2人の間の全て。
異性同士でもないし、お互いがお互いを恋愛対象の範囲に入れている訳でもない。
なのに、相手が自分のことを全く相手にしていないことを承知のうえで。
彼女はこちらに自分の抱えていた思いを打ち明けてくれたのだ。
『でもね・・・・私が恋人としてあなたの隣に立てる日を、諦められないの』
『何度も諦めよう、って思ったわ、だけど諦められなかった・・・・』
『いつもあなたを視界に入れてしまって、あなたのことを考えてしまうのよ』
『しかも女の子同士だもの、もうかなりの確率で叶わない恋だわ』
『それでも・・・・・それでも私は、あなたが好きなの』
彼女の真っ直ぐな思いと言葉は、静かな2人きりの教室に小さく反響した。
真っ直ぐだけど、切なくて、甘くて、温かい、彼女の思い―――――
出来ることなら、それを自分は受け止めて受け入れてあげたかった。
が、今の自分が告白を承諾しても、彼女が喜ばないのは明白なことだ。
彼女はちゃんと、彼女に惚れた自分と付き合いたいと思っているのだ。
そんな、上辺だけの同情じみた感情で付き合うのは、逆に彼女を傷つける。
だからこそ、自分はいい返事も悪い返事も出来ずに突っ立っていた。
『・・・・・ああ、すっきりしたわ、聞いてくれてありがとう』
『・・・・百合原さんは、それで私をどうしたいの?』
『んー・・・・特に考えてなかったわ、思いを伝えることしか考えてなかった』
『普通それから先のことも考えて告白するもん
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02/05 01:14
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No21436
Re[2]: 宝物(2)
優心
(02/06 00:57)
No21435
saya様
つぐみ
(02/06 00:32)
No21434
Re[2]: 宝物(2)
saya
(02/05 16:50)
No21433
宝物(2)
つぐみ
(02/05 01:46)
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