| 嵐の夜は再びやってきた。 強い風が吹き荒れ、ひたすら雨が降っていた。
ララを女医に託してからすでに3日が経っていた。 自分の家には以前のような笑い声はなく、暇を持て余す自分がいるだけだ。 暗い部屋に電気もつけずに、家にいる間はただ眠るだけ。 食事も外で済ませ、家はただ寝るだけの場所になっている。 キキがどこにもいない。 ララの病院から帰るといなくなっていた。 雨のひどい日だったのに、どこに消えてしまったのだろうか。 私は不思議とキキに対して怒ってはいなかった。 憎しみなんて全く感じていない。 ただ、キキとララを平等に愛せなかった自分が憎い。 愛しているつもりだった。 でもキキはそう感じてくれなかった。 きっと私が愛せてなかったから、キキは愛されていないと感じたのだろう。 「ごめんね・・・キキ」 呟いた声は壁にぶつかって消える。 私はキキを愛していた。 多分ララよりもキキの方がずっと好きだった。 ララは傷ついた子猫で、ただ子猫としてララに接していただけなのだ。 あの女医に会ってよくわかった。 彼女はララを自分よりも知っていて、愛していた。 何故かはわからないけれど、それを彼女から感じたのだ。 私は違う。 私はただ、ララを子猫として・・・自分の優しさを表現するための道具として見ていた。 ララも私ではなく女医のことが好きだった。 捨てられた猫は生きていかなければならない。 前の主人に捨てられ、愛する女医からも引き離されたララは、私に頼るしかなかった。 私に頼るしか生きる方法はなかったから、私を愛している振りをしていただけなのだ。 きっと私が今までに拾ってきた子犬や子猫もみんな同じだった。 私は気付かずに一方的な愛を注いでいただけなのだ。 そんな簡単なことなのに、全てを失うまで気付けなかった。 自分が愚か過ぎて涙が出てくる。 少なくともキキのことは人間として愛することができていたはずなのに。 拾った時、そして自分の愛し方が間違っていると気付いた時、キキのいない部屋に帰ってきた時。 何度もキキの存在を愛しく思い、キキを大切にしようと思った。 だけど・・・キキはいない。 人間として愛したくても、キキはどこかに消えてしまった。 嵐の夜は気が狂いそうになるほど孤独になる。
嵐の中、私は小さな傘を差して外に出る。 もう夜遅いから、住宅街のどの家も電気を消している。 弱々しい蛍光灯だけが、嵐の道をぼんやりと照らしている。 薄暗い道をあてもなく歩いた。 どこかでキキが泣いているような気がした。 強い風が吹き荒れる中を注意深く耳を澄ましてみると、どこからが聞こえるのだ。 茶色の髪の毛を濡らして寒そうに震えているキキの声が。 自分が濡れてもかまわなかった。 キキが凍えていることだけが気がかりだった。 誰も歩いていない町の中を一人でキキを探しさまよう。 この雨ならどれだけ泣いてもわからない。 キキを見つけた時に泣き顔を見られることはない。 自分の準備は万端だ。 家には食事も用意してあるし、キキに似合いそうな可愛い服も買ってある。 子犬ではなく、人間として愛してあげることができる、そんな心も持っている。 ただ、ないのはキキだけ。 誰よりも愛しているキキをこの腕に抱きしめないと、何もないのと同じだ。 だから、キキを探す。
だけど、嵐の夜なのに、キキはどこにも見つからなかった・・・。
|