| 今までこんなに、弱きな田辺先生を見るのは初めてだった。 今の今まで、嫌悪感と怒りが体を渦巻いていたのが、ぴたりと止んだ。 そして優花はたった一度だけのキスをした。 舌を絡めるわけでもなく、唇と唇が重なるキス。 優花への気遣いだった。
『ありがとう…こんなこと許してもらえる事じゃないわよね……。』
『田辺先生…あたし。』
『仕事の事は、私が何とかして校長に頼むわ。復帰してもらえるように。』
『いいんですよ…あたし、いずれは教師辞めるつもりでしたから。』
『えっ?』
『地元に住んでいる両親が、傍に居て欲しいだなんて甘えてきたんですよ。一人娘だし、やっぱり恋しいんでしょうね。ふふ』
『今すぐご両親の所へ?』 『いいえ。あと二年はこの町でやりたいことがあるから。それからかな?』
『じゃあ…あなた職はどうするの?今井唯は?今井唯はあなたを待っているはずよ?』
『それは痛い程、分かります。でも…あたし、好きな人以外と体を重ねた。理由はどうあれ、唯にどんな顔して会えばいいのか分からないわ。』
『それは……本当にごめんなさい。でも…今井唯はそれさえ許して、あなたを受け入れてくれると思うの!当事者の私が言える事じゃないけど、責任は私にあるわ!お願い、償わせて。』 田辺先生からの必死のお願いに、少し心を揺さ振られた。 しかし、優花はまだ迷っていた。 唯に会う事を、学校に復帰する事を。
(携帯)
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