| 利香ママの死は極秘にされた。 死んだのではなく、長期の海外公演で、音楽教室は休み、再開したら連絡するという連絡が来た。 これまでもこういうことは良くあったので、生徒達は誰も動揺しなかった。 私以外は。 事件から三か月が経ったある日、私は利香に呼び出された。 四人姉妹の前で、私は自然に土下座をした。 「土下座をして済むってもんじゃないわよ」 「そうよ、ママを返して!」 「お尻を犯されて出血多量で死ぬなんて、むごすぎるわ。貴女もおなじ目に合わせてやりたい!」 「そうよ! 同じ目に合わせてやったらいいのよ!」 口々に罵られながら、私はひたすら泣いた。 「あのDVD観たよね」と利香が言った。 「はい」 「もしアンタが申し訳ないと思うなら、これからはアンタがあのビデオに出るのよ」 意味がわからない。 「ママの音楽教室は表の顔、実際には……」 その話は私には驚天動地の内容だった。 利香ママは若い頃からアダルトビデオに出続けており、メジャーを引退してからも、固定ファンのみに限定した私家版DVDを定期的に販売して、そのお金で四人姉妹を育て上げたのだ。 毎月、一本五千円のDVDを五百本販売する。 撮影の経費とかを差し引いても、相当の実入りになる。 この豪華なマンションやホールと言っても良いようなレッスン室も、それで維持されていたのだ。 私は全てが腑に落ちた。 「ママはね、アンタを後継者にしようと思ってたのよ」 そういうことか! あれは愛情ではなかったのだ。 「どうしてくれるのよ。もし裁判とかなったら、損害賠償で、貴女の一生はメチャクチャよ。いったいどうするつもり?」 「私に出来ることなら……」 「本当ね?」 私は頭を下げた。 「じゃ、ママの計画通り、ビデオに出て貰うわ。常連さんには事情を説明して、貴女で満足出来るかどうか、パイロット版を見てもらう。それを今から撮るわ」 智恵美さんはあっさりと言った。 四人はそれぞれカメラを用意した。 「さ、服を脱いで。もちろん全部よ。それで、貴女の得意なピアノを弾くの。そうね、『悲愴』なんかどう?」 「そんなの、出来ません」 「弾けないの?」 「弾けますけど、裸で、なんて」 「やるのよ! でなきゃ、本当にママと同じ死に方をさせてあげる」 私はどうしていいかわからず、泣き始めた。 大小四つのカメラが回り始めた。 やるしかないのだ。 それが人を殺した人間の運命なのだ。 そういう陶酔もあり、私は一枚ずつ服を脱いでいった。 パンティを脱いで服の下に滑り込ませたとき、もう涙は乾いていた。 演奏は、もしかしたらこれまでで最高かも知れない出来になった。(続くよ)
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