| あの事件からしばらくたち、季節は夏により近づいていた。 弓香から連絡が来た。 「姫神様を招いてあの女性をどうするか相談するけど幸姉が見たビジョンを話してほしい。辛い記憶を呼び起こすようで申し訳ないけど」 私は了承し、日程を調整し、そして今、弓香の住まいに程近い神社の境内にいる。
人の良さそうな神主らしい老人が声をかけて来た。 「弓香ちゃんのお姉さんかい。弓香ちゃんは装束に着替えているからちょっと待って」そういいながらペットボトル入りのお茶を差し出す。 私は礼をいい、緑茶を飲む。汗をかいた体に冷えた緑茶が心地よく沁みる。気温は高いが良く手入れされた境内は木々の緑が涼やかで心地良い。
弓香には自分が見たビジョンをメールで説明しておいた。 それでもこの神社に来たのはこの事件の結末を見届けたい気持ちがあったからだ。 私は決して能動的に他人の思考や記憶を除き込めるわけではない。 ただ強すぎる感情に触れると記憶や思考が入り込んでしまうことがある。
白の衣に緋色の袴、足には白い足袋に雪駄、正式の装束に身を包んだ弓香が社務所から出てきた。気温が高いにも関わらず弓香の佇まいは涼やかだ。 「幸姉、来たんだ。じゃあ本殿に入る?」 「うん、この事件の結末を見届けたいからね」 弓香は老神主に本殿に人を近づけないように頼む。 弓香と私は本殿に入る。
すでにあの銀髪の美女は本殿の中にいた。 ひざまずき静かに待っていた。 「さあ始めます。」 弓香は呼吸を調え、祈りの言葉を詠む。 「浄魔師たる早瀬弓香、ククリノヒメノミコトにかしこみかしこみ申し上げまする、この不死の霊を導くために我が招きに応えてくだされ」 祭壇の鏡が光る その光の中に美しい女性が現れた。 これが女神?
「あら弓香ちゃん、お久しぶり〜」 えらく軽い女神様だ。 「姫神様、この人は世の中への恨みが激しくて不死者になったようなの。強く結び付いたひとの御霊を呼び出せれば不死の呪いを終わらせることができるんだけど」 弓香の口調もくだけたものになっている。
女神は銀髪の美女の傍らに座ると銀髪の美女の胸に手を当てる。 女神は銀髪の美女にいう。 「縁の糸を引いてあなたが求める人を呼びます。その人の姿を思い浮かべるの。」 銀髪の美女は喜びの表情を浮かべた
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