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■1136
/ ResNo.10)
─CarnivorE─9
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□投稿者/ 塁
一般人(10回)-(2004/12/05(Sun) 00:41:25)
相変わらずの雨音がBGMとなって、小さな部屋の小さな居間の小さなテーブルで向かい合ってスパゲティを食べた。
茜は、箸やスプーン、お茶を飲む仕草に至るまで全てがさり気なく、清潔感を漂わせていた。
なんとなく、全てが茜の周りではスマートに完結している様に見えた。容姿は特別大人びているわけでもなく、しかもなんと言ってもまだギリギリ未成年の身。それはそこはかとなく内側から漂うその人しか持ち合わせない徳なのかもしれない…
「そんなにジと見ないでよ…」
あ
「ご・めん…つい」
困った様な、少しはにかんだ顔。大学では決して見せない素直な一面である。
たまらなく可愛くて可愛くて…愛しさに似た、感情を覚える。それは生まれた子供が自分にだけは縋り抱きついてくる、その瞬間に湧き上がるというなんとも言えない喜びに近いかもしれない。
午後を共に過ごす時間は増えていった。決して外には出ない。出ようと思えば出られる、緩い檻の中で私達は同じ空気を吸いながら言葉を交わす事を選んだ。
茜は意外な事に、博識な上物事をよく考えていた。花の事、空の事、政治の事、香りの事、昔の事、先の事、今の事、静かな声で沢山の事を話してくれた。
こんな質問もしてみた。
「絵を描けなくなる時はある?」
睫が動く。
「…あるよ」
「そんな時どうするの?」
「…」
「答えたく…ない?」
「描かないよ。描かないで、ジッとしてる。そしたら…いつか描きたくて描きたくてどうしようもなくなってくる。」
「それ…」
「ぁ、バレた?魔女の宅急便に出てくる森のお姉さんの言葉。あのお姉さん、絶対シャガールの影響受けてるよね」
「…そうね。私はどちらかと言えばシャガールよりクリムトの方が好みだわ」
「華らしいね。クリムトは自分の生き方に常に意味を見いだそうとしてる気がする。華も…そう見えるよ、華の絵も」
誠実な瞳で、冷静に諭されてしまった。
「そうかなあ?」
首を傾げた私の中で誰かが小さく頷いていた。
そう、私は分析し過ぎてしまう。全てを。世の中に分析仕切れない何かがあるとしたらそれを知りたい。
結局の所私はそれが目的で絵を描き続けていた。この感情が人を動かす世界を知る事で、自分を動かせたい。
茜は、それはメロンパン。と言う事と同じくらいに私について悪びれもなく語った。
不思議と気持ち良かったのだ。
「私自身」という殻を破られるコトが。
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■1138
/ ResNo.11)
NO TITLE
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□投稿者/ かぼ
一般人(1回)-(2004/12/06(Mon) 01:34:40)
すっごいおもしろいです(^O^)
今まで読んだどの作品とも全然、雰囲気が違うお話でなんかツボにはまってしまいました!続き楽しみにしてます!
(携帯)
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■1172
/ ResNo.12)
─CarnivorE─10
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□投稿者/ 塁
一般人(11回)-(2004/12/11(Sat) 10:24:35)
「この前はごめんなさい。」
私は出来るだけ困った笑顔を浮かべながら、小さく頭を下げた。
「あぁ、大丈夫。それよりもう体調はいいの?」
穏やかな声音で彼は答えた。筆を置き私の方へと向き直ると、眼鏡のズレをさり気なく直し、立ち上がった。
そこには何の疑いもなく、誠実な彼がいて、そんな彼を前に、私は少しばかりたじろいでしまった。
このたじろぎが、後々どんな展開を見せるかは、私は全く、予想もつかなかったのだけれど。
「あの…もし良かったら一緒にご飯食べない?学食だけど…奢るわ」
背の高い彼を見上げると、いいね、という顔で表情が綻んでいたため、私の顔もついつい緩んでしまった。柄谷君は…そう。「日溜まり」という言葉がよく似合う人だった。
父親の像を思わせる柔和で、大らかで、頼りがいのある、ようは一言で言えばとても「イイ男」。どうして私を選んでくれようとしたのか、否、しているのか理解不能だった。付き合うなら、こんな人と付き合いたい…と誰もが思うはずの人が、何故私を?
そしてそれを穏やかに拒んでいた自分の、曖昧の様で、どこかで答えを知っている精神の構造が何よりも謎で仕方がなかった。
あの日から、切れるだろうと思われた柄谷君との関係は、さり気なくメールという媒体で繋がれていた。
実際に顔を合わせるのは本当に久々だったけれど。
なんでも母親が病気がちらしく、特に梅雨の時期は容態が悪くなり易いようで、実家に帰っていたのだ。
霧雨の降る昼下がり、ロータリーをゆっくりとした歩調で歩く。前を歩く彼の後ろ姿は大きくて、暖かさを含んでいる。その背中に両腕を広げ体を寄せれば、きっと包み込んでくれる。
でも……
ロータリーを通り過ぎ、ガラス張りの食堂へと入った。霧雨に、包み込まれている空間だった。
不思議と心が落ち着く。
暖かさではなく、冷たさを心地よいと感じる感覚は、何かに似ている事に気付かない振りをして、彼のあとを着いて行った。
きっと、この湿った空気と午後の気だるさがそうさせているのだと、言い聞かせながら。
(携帯)
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■1173
/ ResNo.13)
─CarnivorE─11
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□投稿者/ 塁
一般人(12回)-(2004/12/11(Sat) 10:27:44)
彼は醤油ラーメンを、私はチャーハンを持って窓際の席に隣り合わせに座った。
「あの雨の日…宮本の事考えてたよ」
「え…」
不意打ち。
「大丈夫かな、って」
緩やかに目を細め、横目でコチラを見ている。
「う…ん…。そか」
微妙な返事。
ふー…と彼は天井に向かって一つ、細く長い息を吐き出した。
その間私は、ジっと靴の先を見つめている事しか出来なかった。
「食べようか」
気を取り直して、という様な笑顔を私に向け、彼は箸を割った。
その日、私は彼女の事を一日中考えていたのだ。
柄谷君の横顔は整っていてとても綺麗。
でも、私は不安定で熱い眼差しを追い求め、彼の事などあの日、彼女が部屋に入った瞬間からこれっぽっちも思い出す事がなかった。
「…あのね…」
「ん…?」
「柄谷君にとって絵を描くってどんな事?」
「んー……抽象的な物に輪郭を与える作業…かな。喜びとか悲しみ、そういう感情を絵を媒体にして浮き彫りにしていく。そんな感じかなあ…。どうして?」
ズルっとラーメンを啜り、私の居る側でない方の腕で頬杖をつく。
「んーん。…なんでもないんだけどね。ちょっと聞いてみたくなったの」
微笑を浮かべながら、緩く顔を揺らし、パクリとチャーハンを口に含んだ。はた、ともう一度彼の横顔を見つめてみた。
「ねぇ、それって楽しい?」
「うん。楽しいね」
「あは、そうなんだ。」
小さく笑うと、チャーハンをもう一口、パクリと咥内に放る。
「どうした?急に。」
「んーん。本当、何でもないんだぁ。ただちょっと、聞いてみたくなっただけ」
私は、降り注ぐ霧雨の様に微笑んだかもしれない。
やっぱり
柄谷君は日溜まりの様な人だと思った。
柄谷君が日溜まりなら私は…?私、は…鉄鋼場で作られる沢山の同型の金具の一つ。ガチガチに固まった理性と、鋳型にはまった的確な技術しか持ち合わせない。感情の宿らない悲しいロボットの様な絵しか描けない。
じゃぁ…茜は…?
ガタンッ
「──…っ」
ふいに、後ろの席に座った人が立つ音で、現実へと引き戻された。
冷め始めたチャーハンに視線を落とし、ぼんやりと窓に視界を移動させる。
……
あれは
あの後ろ姿は…
茜?
ガラスに映った華奢な面影。振り向くと、食堂を出て行く茜と、一瞬目が合った様な気がした。
(携帯)
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■1174
/ ResNo.14)
φかぼさんへφ
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□投稿者/ 塁
一般人(13回)-(2004/12/11(Sat) 10:32:14)
ツボだなんてそんなー(´∀`)ノ゙嬉しい限りです(笑)
スローライターでしかもタランタランな駄文ですが、頑張って更新するので、良かったら続きも読んでやって下さいませませ(礼)
塁
(携帯)
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■1861
/ ResNo.15)
─CarnivorE─12
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□投稿者/ 塁
一般人(1回)-(2005/03/26(Sat) 00:04:18)
なぜだか。
訳の分からない罪悪感にさいなまれる事になってしまった。
急に、追い詰められた鼠の様に体を縮こめて黙ってしまった私に、柄谷君はさも心配そうに声をかけてくれたけれど、当然私の耳にそんな言葉は入る余裕もなく。
暫くの間ただ茫然としてしまった。
「大丈夫‥?あの人、神崎茜‥‥さんだよね」
神崎‥
神崎‥?
「神崎っていうの‥?」
「ぇ、知らないの?」
「そこまで親しいわけじゃなくて‥」
言葉にしてみて分かった事だけれど、茜と、私、私達は表面上を交わす事の前に、突然に深く関わり合っていたのだ。突然に声を掛けられ、突然に部屋へ行き、突然に画家とモデルという様な立場になった。
何処に住んでいるのか、家族は何人か、付き合った人の人数は?好きな人はいますか?趣味は何ですか?あなたの名字は何ですか?
私達は何も、何も、知らなかった。
以前読んだ本で「人生とは肥え太っていくものではない。削ぎ、落としていくものだ」そんな一文があった。
私達は肥え太る事を無意識のうちに拒否していたのかもしれない。醜い贅肉に包まれる前の最も尊ぶべき骨格を大切に大切に抱きしめていたかったのかもしれない。
大切な事はただ一つ。彼女は私を描きたかった。そして、私は彼女に、描かれたかった。
「違うよ」
ハッとしてれんげを取り落とし、柄谷君の方を見ると、彼は困った様な表情で笑っていた。
一瞬、何を否定されたのか分からなかった。
「彼女、最近じゃ有名だよ。‥‥‥見た事ない?あの子の絵」
「ないわ‥だって、派別になってからは教授が違うもの‥」
ちょうど具象と抽象と派を分けて制作を始めたこの時期。学内では殆ど茜と顔を合わせる事はなくなっていた。合わせたとしても、すれ違い様に軽くはにかんだ笑みを交換する程で、私達は「秘密の関係」を暗黙の了解としていた。
私は抽象、茜は具象、お互い苦手とする分野を選んでいたが、お互いその選択については特に触れていなかった。
「一度見るといいよ。‥‥その、なんていうか‥うん。」
彼は困った笑顔を更に崩して、本当に困った表情をしながら唇の前で指を組んだ。
「兎に角、凄いんだ」
困り顔は徐々に真剣さを帯び、それは私に充分な程の好奇と興味を与えた。
見たい。
彼女の描く絵を。
チャーハンはすっかり冷え切り、ぷりぷりとして丸まっていたエビが、なんだか少し、淋しそうだった
(携帯)
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■1921
/ ResNo.16)
NO TITLE
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□投稿者/ りー
一般人(1回)-(2005/04/23(Sat) 23:17:54)
文の節々全てに凝ってらっしゃって素晴らしいです。
ひとつひとつ丁寧に創り積み上げられる言葉に感動しました。
続き、楽しみにしています。
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■1923
/ ResNo.17)
φりーさんへφ
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□投稿者/ 塁
一般人(1回)-(2005/04/26(Tue) 23:38:09)
感想ありがとうございます。こんな古い話を掘り起こして頂いちゃって恐縮です(汗
放置していたのですが、ちょっと書く気が起きてきたのでちょこちょこ書いてみよーかと。
良かったらお付き合い下さいませ♪
塁
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■1924
/ ResNo.18)
─CarnivorE─13
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□投稿者/ 塁
一般人(2回)-(2005/04/26(Tue) 23:39:38)
午後の授業。
"ヒト"は大脳が異常なまでに発達した動物だと、禿げた教授が力説している。成長し過ぎた大脳は、やがて産道を通る事が困難な程に膨れ上がり……そして"ヒト"は早産になった。
私達は全て、未熟なままに生まれ落ちる。
そして、未熟なゆえに訪れる死を遠ざけるために、知性を酷使し、技術を身につけた。
殆どの生徒が眠りこける中、額に滲む汗をねっとりと拭き取りながら妙なイントネーションで話す、禿げ親父。
いつもならとても滑稽で、失礼な話無様で…そんな授業な筈なのに、何故だか今日は聞き入ってしまう。
窓の外は相変わらずけぶる様な雨が降り続いていた。まるで、この空間だけが世界と分離している様な感覚だった。
私の中の誰かが言う。
どうしてこんなにも、"ヒト"は切ないほどに愛しい存在なのか。
それは、未熟だから。
未熟だからこそ、今にも壊れてしまいそうだからこそ、こんなにも、こんなにも、愛しい…
私が茜を受け入れ、茜が私を受け入れた事の真意も、そこにあるのかもしれない。
未熟、だから。
足りない部分を埋め合わす様に、時間が飽和に近づいてゆく。
私はあの時間が愛しかった。
あなたの飢えた視線が。
紙を撫でる仕草が懐かしく感じられる。たった数回しか時間を共にしていないのに、ちょっとの擦れ違い…いや、私がそう思い込んでいるだけかもしれないのに、こんなにも息苦しいのは何故だろう。
茜
何してる?
柄谷君は彼氏じゃないわ
ねえ、聞いてるの?
鉛筆止めてよ
私を見て
違う
もっと奥
逢いたい
逢いたい
逢いたい
逢いたい
逢いたい
逢いたい
逢いたい
茜…
(携帯)
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■1925
/ ResNo.19)
─CarnivorE─14
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□投稿者/ 塁
一般人(3回)-(2005/04/26(Tue) 23:41:12)
チャイムが鳴ると共に眠りに落ちた教室内は朝を迎え、私は立ち上がった。
気が狂いそう、だった。
自分でも理解のできない感情の波に突き動かされ、走り出している。おかしい。なんだか理性のたかが外れた様だった。
霧雨は本格的に水の雫石へと移り替わり、激しく地面を打ちつけている。
「はぁ………は………」
広場で息をついていると沢山の講義を終えた生徒達が訝しげな表情で私を見やりながら通り過ぎていく。もはやそんなものは全くもって気にならなかった。
ジーンズの裾はぐっしょりと濡れそぼり、足首をヒンヤリと撫で上げる。
ドコ
雨が降ってるじゃない
きてよ
ねえ
来て
描いて
どこまでも
茜
描いて………!!!!
お願……
「華……?」
「何やって…」
白い洗い晒しのシャツを着て、フレームのないシンプルなデザインの華奢な眼鏡。髪に水滴が…
少し困った様な、瞳
「茜………」
ずぶ濡れだよ?と傘を傾け、ポケットの中から几帳面に折り畳まれたハンカチを取り出し、私の頬へとそっと押し当てる。
茜の、におい。
少し苦みのある、7月の果実の様な、薫り。
ああ
私はゆっくりと目を閉じ、何かを呟いたかもしれない。
ありがとう、かな
良かった、かな
どれでもいいよ。無性に逢いたかったの。
どうしてだろ?
可笑しいね
ふふ
茜は何も言わず私の肩や、指先までハンカチを滑らせ、やがて手をとり歩きだした。
細い肩が私の隣りで揺れている。
知的な眼差しはどこまでも透き通った真実の世界を映し出しているようで。
私は何故だか理由も分からないままに、コノヒトトイタイ、と思ってしまった。
茜は一つのアトリエの前で立ち止まった。
茜の使う、アトリエ。
絵の具と油の染み込んだ鉄の扉がゆっくりと押し開かれた。
(携帯)
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