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■5826
/ ResNo.30)
奈落・24
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□投稿者/ 葉
付き人(78回)-(2009/05/10(Sun) 18:01:34)
疲れた。
もう疲れた。
疲れたよ…
「―――あかん」
いつものように画室から出て、縁側から庭を見やったあのひとが息を飲む。
「先生、奥様が」
室内に短く切迫した声を投げ、あのひとは小走りに足袋のままで庭に飛び出す。
父が私達には一顧もくれずに後に続く。
私と環は縁側で、そう言えば随分前から罵り合う声や気配が止んでいたとようやく思いあたって顔を見合わせ、慌てて庭に飛び降りる。
庭の池のすぐ横で、私の母が呆けて座り込んでいた。そして環の母が地面に仰向けに横たわり、頭の下と近くの庭石に、赤い顔料のようなものが飛び散っていた。
父は母の肩を揺すり、あのひとは動かない環の母に覆い被さり、せわしく声をかけていた。
地面に一枚の絵があった。そこにも僅かに赤い飛沫が染みていた。
青を基調にした、丈なす黒髪の王朝美女の立ち姿をぼんやり認めた次の瞬間、父が獣めいた呻きと共に土を蹴り、母屋に駆け出した。
「……見たらあかん」
あのひとが立ち上がり、呆然と立ちすくむ私と環を懐に抱え込む。
「目ェ閉じて、一緒にお家に入りましょう。すぐにお医者さんが来てくれはるから……」
救急車が来て庭が騒然となった時、あの絵は地面から消えていた。
寄越された弟子に連れられて環も帰り、父は後からやって来た別の救急車に母を乗せ、一緒に乗って行ってしまった。庭には私と、あのひとだけが残された。
地面には、点々と飛び散った血だけが残っていた。
「見たらあかん」
あのひとはまた同じ言葉を繰り返し、私を胸に抱き寄せた。
(携帯)
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■5827
/ ResNo.31)
奈落・25
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□投稿者/ 葉
付き人(79回)-(2009/05/11(Mon) 00:44:42)
厭だ。
もう厭だ。
ほとほと厭になった…
母の死因は表沙汰にならず、友里の家で脳卒中を起こした事にされた。
「お前は……」
病院から戻った親父は私に向かい、ほんの一瞬だけ凶暴な顔を見せた。
激昂すれば手が出る性質なのは知っていたし、殴られても仕方ないと覚悟していた。
だが、親父はすぐに言葉を飲み込み、黙って私に背を向けた。
言われるべき言葉が頭に浮かぶ―――お前は気付きもせんかったんか、母親が倒れて頭を打っても、よそ事に気を取られとったんか。
何故そう言わず、張り倒しもしないのか。私はそれを聞きたかったのに、岩のような背中に向かって口をついたのは全く別の言葉だった。
「……あの絵、持って帰って来たんか? お父はん…」
親父は答えなかった。そのまま荒々しく遠ざかる背中が、そのまま今生の別れだった。
母が病院で息を引き取った翌日に、親父は画室で喉を掻き切った。
私はその現場を見ていない。だが、畳も障子もさぞかし真っ赤に染まっていた事だろう。
最後の絵は手前の血で描いたか。
ある意味、本望だったかもしれねえな……
(携帯)
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■5828
/ ResNo.32)
奈落・26
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□投稿者/ 葉
付き人(80回)-(2009/05/11(Mon) 01:09:12)
友里の母はお嬢育ちに衝撃が強すぎたのか、無意識に正気に戻るのを拒んだのか、私が知る限りではそのまま病院から出る事はなかった。
知る限りではと言ったのは、それどころではなかったからだ。親父はたいして財産も残しておらず、画室にあった絵は親父の死を買い時売り時と見た画商や知人に持ち去られた。絵柄が絵柄だけに親戚付き合いも皆無に等しく、弔いを出すだけでも難儀した。
親父の弟子を含む大人達は忙しさに気を取られ、私が何も喋らないのも、促されなければ動かない事にも気付かなかった。人死にの後の乱痴気騒ぎが一段落し、異変に気付いた大人が鳩首会談の末、私を病院に連れて行き、しばらく経つと今度は施設に預けて去った。
私は高校を出るまでそこにいた。施設を出なければならなくなった時、友里の父親から遺産分けの話があると知らされた。
友里の父親は病院で妻を看取って弔いを済ませ、画室ではなく寝室で縊死した。
私は遺産分けを断り、上京した。
(携帯)
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■5829
/ ResNo.33)
奈落・27
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□投稿者/ 葉
付き人(81回)-(2009/05/11(Mon) 02:11:24)
「あんたの親父さんから、預かってる金がある」
事務所の玄関でひとしきり笑い続ける私を見つめ、笑い止んだ時に友里が呟いた。
「金?」
私は目尻に滲んだ涙を拭い、眉をひそめた。
「嘘だろ。自分の娘にも残さなかったのに」
「うちの親父に、あたしにと言って預けてた……あんたに会う機会がなくて、返せなかった」
友里は抑揚のない声で言い、目を反らした。
そういう所は変わっていない。いや、物言いも眼差しも、子供の時のままだった。
「で、何だよ。金に困ってAVに出てると思って、施しに来たのか?」
よく見れば違うが、知らない奴は間違える。私の出た作品を見たか聞いたかして仰天して会いに来たというのが、友里には一番相応しい。基本的に他人はどうでもいい性質なのだから。
「そうじゃない」
少し苛立ったように顔をしかめ、友里は意を決したように正面から私を見据えた。
「あのひとに、子供がいた」
何の事だか、最初は分からなかった。
「………いた?」
にわかに声に力を込める私に友里は頷き、あのひとが昨年に病死したと告げた。
「……子供が?」
「いま十歳。女の子だ」
私はなぜか放心した。
「祇園の置屋にいる。あのひとのいた店―――今はそこにいる」
友里は続けた。
「女将は代が替わってて、居心地良さそうには見えない。養子として引き取るのなら、落籍と同じにしろと言われた」
「十の子供を?」
思わず声が出る。そして友里が会いに来た理由に、何となく察しがついた。
「身請けしようってのか」
友里が頷く。
「……ちょうどあんたの消息が分かったから、会いに来た。あんたも気になるだろうと思って」
「親父の金で、足りるのか」
はっきり言って雀の涙じゃねえのかと思って尋ねると、友里は即座に言い返した。
「うちの親父が、あんたに遺した分もある」
「取っといたのか、律儀だな」
私は呆れて天を仰ぎ、それからふと理解する。―――金には困っていないだろうに、わざわざ筋を立てに来るとは何と律儀な……
「分かったよ」
勿体ぶる理由はない。私は頷き、いつ上洛すればいいのか打ち合わせた。
「あんたの籍に入れるのはあれだけど、あたしには世間体がない。そこは呑むさ」
別れ際に尋ねた。
「なんて名前よ、その子」
立ち去りかけた友里は振り返り、短く呟く。
「六道」
(携帯)
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■5833
/ ResNo.34)
奈落・28
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■
□投稿者/ 葉
付き人(82回)-(2009/05/11(Mon) 23:04:29)
―――来なければよかった……
思い出すのも忌々しい、人生で一番寒い冬の晩だった。
直視もはばかるビデオの中より、顔を合わせた環は恐ろしい程変わっておらず、吐き気を催す程に私に似ていた。
昔からああだった。
いつでも相手の揚げ足を取り、嘲笑したがる性質だった。
わざわざ上京して雑踏にまみれ、それを確かめる自分を愚かと感じた。
(でも………)
心のどこかには、安堵があった。あのひとの遺児への態度、私になど会わぬと拒絶しなかった事……そうではない。
「……物書き?」
私の仕事を聞くと、環は一瞬ひどく心外そうな顔をした。
「あんた、美大に入ったんじゃなかったか」
「中退した」
「人生、棒に振ったな」
―――あんたもな、とは口には出せなかった。少なくとも環は映像を、目に見えるものを選んでいたから。
(それでも……)
それでも、絵ではない。
それに安堵している自分が情けなかった。
「おねえさん」
雑踏の中でするりと腕に腕を回され、肩に頭を押しつけられた。
「やっと見つけた―――探したよ、事務所行ってもいつもいないし、携帯も繋がらないんだもん」
香水の匂いがきつい、堅気には見えない身なりの娘だった。
「―――人違いだよ」
「やだぁ」
娘は私の腕にまとわりつき、人目も憚らずに笑い声をあげる。
「水臭い事言わないでよ、何度も共演したじゃない」
―――ねえ、と娘は続けた。
「来月から別のメーカーで助監やるんでしょ? スタッフ連れて……あたしも入れてくれないかなあ、今の所じゃ先が見えないし、おねえさんのシナリオ好きだし」
言葉もなく、私は娘を凝視した。
(携帯)
引用返信
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■5834
/ ResNo.35)
奈落・29
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□投稿者/ 葉
付き人(83回)-(2009/05/12(Tue) 00:16:39)
―――秀生はんの娘御に。
―――芳雪の娘に。
場所などもう覚えていないホテルで、私は娘を抱いた。
「約束してね?……」
娘は自ら服を脱ぎ捨て、私の首に絡みつく。
物言わぬ幼児になった母。絵筆を捨て身に纏った権威を捨て、医師から賄い婦にまで頭を下げて、母の下の世話まで厭わなくなった父。
「……あ…」
娘は私の腰に脚を巻きつけてベッドに倒れ、軟体動物のように身体をくねらせる。私はベッドに散乱するバッグや服をなぎ払い、指先に触れた長いマフラーを掴んで娘の両手首を頭の上に手荒にまとめ、力を込めて縛りつけた。
ビデオの中で、相手構わず痴態を演じる環。肢体を惜しまずカメラに曝し、犯されながら女の乳房に顔を埋め、秘所に埋め、獰猛な獣のようにうごめく環。
「おねえさん―――怖い……」
言葉とは裏腹に上気する肌に、私は容赦なく指を這わせる。張りのある乳房をきつく掴んで爪を立て、赤く鬱血したそこに舌を当てる。
時々襲う恐慌についに舌を噛み切り、血の塊に喉を塞がれ、息が出来ずに死んだ母。自室の天井から、力を失いだらりと垂れる父の脚。
「……ああ―――あっ、あ……っ」
喘ぎ声から演技が消える。両手を戒められた娘は長い乳首弄りに声を上ずらせ、私に覆い被さられた下半身を激しく揺さぶった。
「だめ―――あたし……ああ…」
―――秀生はんの娘御に。
―――芳雪の娘に。
それほど情をかけるなら、なぜ生きてるうちにかけなかった。
実の娘にはなぜかけず、示し合わせたように他人の娘になぜかけた。
「あ―――あっ、あっ、あ………」
娘は身体を引きつらせ、私が突き出す拳を隠しどころに深く呑み込む。仰け反る乳房に爪を食い込ませ、うすい血が乳房に滲む。なぜ……
(知っていたからだ)
父達は、女房子供など眼中になかった。ただ鬱陶しいだけの諍いが、取り返しのつかない結果に繋がるものとは考えもしなかったのだ。環の母が死ぬその時まで。
「ああ………っ―――」
娘が高く叫び、痙攣する。私は息を弾ませていたが、頭の芯は冷えていた。
父達は知っていて、そして悔いたのだ。
自分達が、その血を受け継がせてしまった事を。
(携帯)
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■5849
/ ResNo.36)
奈落・30
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□投稿者/ 葉
付き人(84回)-(2009/05/14(Thu) 23:12:51)
あの人が泣いている。
あたしは馬鹿だから、しばらく気付かなかった。
優しい、長いキスにうっとりしてしまい、このままもっと気持ち良くなれるような気がしてずっと目を閉じていた。だから触れ合った頬が濡れるまで、あの人が声も出さずに泣いているのに気付けなかった。
「どうしたの」
焦って、あたしはあの人の目を覗き込む。
「あたし、何かした? 悪い事や、嫌な事……」
あの人は首を振る。
「ごめんなさい、あたし、頭悪いから……ごめんなさい」
あの人は首を振る。
あたしを助けてくれた時は凄く強かったのに、どうしてなんだろう。そう思うとあたしも悲しくなった。大声をあげて泣くよりも、黙って泣く方が辛いかもしれない……
「泣かないで」
うなだれるあの人の首に抱きついて、あたしは何度も繰り返した。
「あたし、どうすればいい?……教えて、何でもするから」
―――何も、とあの人は呟いた。
「何もしなくていい」
何もいらない。ただ、こうしていてくれれば。
あの人はあたしの胸元に頭を預け、子供が縫いぐるみを抱き締めるように背中に腕を回した。
(携帯)
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■5850
/ ResNo.37)
奈落・31
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□投稿者/ 葉
付き人(85回)-(2009/05/15(Fri) 00:07:33)
台所は、無惨な事になっていた。
「……やばい、六に怒られる」
「お前が引き止めるからだ」
いい年をした女が二人揃って炭化した筍を捨て、真っ黒になった鍋と噴きこぼれで水浸しの台所を掃除する。
「あ、馬鹿。鍋はしばらく外に干して乾かせよ」
「ガス臭え。あんたと心中するとこだったわ、気色悪い」
見る人間が見ればお互い様だろう。私も環も家事には向かない。それ以前に興味がない。
「……さて、第二ラウンドだ」
環は座敷にどっかり座り、疲れ果てた私を睨む。
「まだやるのか」
「やらいでか。女返せ」
「だから………」
私は溜め息をついて肩を落とす。
「だから、あたしはあんたが泊まった西屋には行ってないんだって」
「同系列ですぐそこじゃねぇか、東屋は」
環は平然と言い放つ。
「暗くて見えなかったが、あの狭い座敷にいたんだろ。このむっつり助平」
「どこの座敷だよ」
「西屋の二階の角っこの、ダニでも巣喰ってるような座敷。いかにもアングラ枕芸に向いた部屋」
すらすらと並べ立てる言葉が耳に入らない。
「うちの若いのが聞きつけてきて、冷やかしに行ったんだよ―――気が滅入るような、お粗末な見世物だったがな」
「あんたとこの女優の話じゃなかったのか」
投げやりに答えるとまた物が飛んできそうなので、私は興味のあるふりをした。
美人ではない。成熟した女でもない。が―――
「使えると思った」
環は呟き、僅かに身を乗り出した。
「だから先に興業主に掛け合ったんだよ、筋もんだと厄介だからな―――何のバックもなく、女も適当に寄せ集めただけだと聞いて、会おうとしたら、いなかった」
「そこで、なんであたしが出てくるんだ」
私は首を振り、環に背を向ける。
襟を掴まれ、振り向かされた。
「うちの若いのが、風呂場からあたしとその女が出てくるのを見たんだよ。でも、あたしはその時、興業主と話してた」
私は環の手を払いのける。
「あんたに似てりゃ、皆あたしか?」
再び、今度は胸倉を掴まれる。
「そんな事じゃない」
一言一言を噛み締めるように、環は吐き捨てた。
「他の奴が目をつけるような女じゃなかった。あんた以外には」
(携帯)
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■5854
/ ResNo.38)
感想です^^
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□投稿者/ ち〜
一般人(1回)-(2009/05/15(Fri) 19:36:03)
ドキドキ、続きがたのしみです^^
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■5855
/ ResNo.39)
ありがとうございます
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□投稿者/ 葉
付き人(86回)-(2009/05/16(Sat) 00:22:46)
恥ずかしいので感想を下さる方にあまりお礼も言えないのですが、ありがとうございます。
一昨日まで何故か投稿できず、規定違反でアクセス禁止になったかと思っていました。
よかった…
(携帯)
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■No5834に返信(葉さんの記事) > ―――秀生はんの娘御に。 > ―――芳雪の娘に。 > > > 場所などもう覚えていないホテルで、私は娘を抱いた。 > 「約束してね?……」 > 娘は自ら服を脱ぎ捨て、私の首に絡みつく。 > > > 物言わぬ幼児になった母。絵筆を捨て身に纏った権威を捨て、医師から賄い婦にまで頭を下げて、母の下の世話まで厭わなくなった父。 > > > 「……あ…」 > 娘は私の腰に脚を巻きつけてベッドに倒れ、軟体動物のように身体をくねらせる。私はベッドに散乱するバッグや服をなぎ払い、指先に触れた長いマフラーを掴んで娘の両手首を頭の上に手荒にまとめ、力を込めて縛りつけた。 > > > ビデオの中で、相手構わず痴態を演じる環。肢体を惜しまずカメラに曝し、犯されながら女の乳房に顔を埋め、秘所に埋め、獰猛な獣のようにうごめく環。 > > > 「おねえさん―――怖い……」 > 言葉とは裏腹に上気する肌に、私は容赦なく指を這わせる。張りのある乳房をきつく掴んで爪を立て、赤く鬱血したそこに舌を当てる。 > > > 時々襲う恐慌についに舌を噛み切り、血の塊に喉を塞がれ、息が出来ずに死んだ母。自室の天井から、力を失いだらりと垂れる父の脚。 > > > 「……ああ―――あっ、あ……っ」 > 喘ぎ声から演技が消える。両手を戒められた娘は長い乳首弄りに声を上ずらせ、私に覆い被さられた下半身を激しく揺さぶった。 > 「だめ―――あたし……ああ…」 > > > ―――秀生はんの娘御に。 > ―――芳雪の娘に。 > > > それほど情をかけるなら、なぜ生きてるうちにかけなかった。 > 実の娘にはなぜかけず、示し合わせたように他人の娘になぜかけた。 > > > 「あ―――あっ、あっ、あ………」 > 娘は身体を引きつらせ、私が突き出す拳を隠しどころに深く呑み込む。仰け反る乳房に爪を食い込ませ、うすい血が乳房に滲む。なぜ…… > > > (知っていたからだ) > 父達は、女房子供など眼中になかった。ただ鬱陶しいだけの諍いが、取り返しのつかない結果に繋がるものとは考えもしなかったのだ。環の母が死ぬその時まで。 > > > 「ああ………っ―――」 > 娘が高く叫び、痙攣する。私は息を弾ませていたが、頭の芯は冷えていた。 > > > 父達は知っていて、そして悔いたのだ。 > 自分達が、その血を受け継がせてしまった事を。 > > (携帯)
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