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■5982
/ ResNo.10)
愛琳の家・9
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□投稿者/ 葉
ファミリー(153回)-(2009/06/17(Wed) 02:15:19)
「綺麗な刺繍ですね」
私がそう言うと、夫人は肩をすくめて笑った。
「素人の手すさび、ボケ防止のようなものよ」
引き寄せてテーブルに広げると、そこに蓮池が現れる。淡い藤色の生地を池に見立て、ほのかに紅い睡蓮とたなびく雲、精緻な紋様などを丹念に刺繍したものだった。
「―――これはね、外からは見えない細工なの。どこに使うと思う? 靴の裏よ」
「裏?」
私は首を傾げた。
「そう、靴底にね。それもこんなに小さい靴の裏」
夫人は片方の手の平を広げてみせた。そしてつと立ち上がると、箪笥の引き出しを開けて取り出したものをテーブルの上に置く。
「……まあ」
私は目を見張った。
それは小さな靴だった。踝を包むほどの深さで爪先まで滑らかなカーブを描き、先端が細く尖っている。
ヒールは無いぺったんこ靴だが、靴底もまた爪先から踵にかけて弓形になっており、真紅の布地にあしらわれた唐草模様も、靴自体もハンドメイドだとひと目で分かる。本当に手の平に載るような、可愛らしい靴だった。
夫人が靴底を見えるように傾けると、私は再び目を見張った―――地面を踏むべき靴の裏には、側面に刺されたものより更に細かく、優美な刺繍が施されていた。
「これは婚礼用の靴。実際に履くためのものよ」
夫人は柔らかく言った。
「昔の中国にはね、足が小さい事が女の美の基準だった時代があって、そういう女性達が自分の履く靴を作ったり、贈り物にしたりしてたのよ」
……話には聞いた事がある。でも、初めて見た。
「纏足―――ですか」
「そう。よくご存じね」
夫人は、にこやかに頷いた。
「纏足と言うとどこかグロテスクな印象だけど、あちらでは金蓮とも言ったわ……三寸金蓮、十センチくらいの足が最も美しいってね」
幼児のうちに足の親指だけを残し、他の指を内側に深く折り曲げて布で緊縛し、足がそれ以上成長しないようにする慣習。
そうして完成した小さな足を、蓮の花びらに喩える時代があったのだと夫人は語った。
(携帯)
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■5984
/ ResNo.11)
愛琳の家・10
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□投稿者/ 葉
ファミリー(154回)-(2009/06/18(Thu) 01:04:53)
2009/06/18(Thu) 01:10:14 編集(投稿者)
「……歩きにくいでしょうね」
幼児か人形が履くような靴を見つめ、私はそれくらいの感想しか口に出せなかった。
たとえ小指でも、欠損したらバランスを取りづらくなると聞く。足の親指以外を折り曲げられ、足裏さえも十分に地に着けられなければ、どんなに不自由な事だろう。
「そうでもないのよ」
だが、夫人は穏やかに言葉を続けた。
「もともとは貴族やお金持ちだけの慣習だったけど、時代が下がると庶民の間にも広がって、畑仕事や漁に出る女性もいたわ―――私が物心つく頃には廃れてきてたけど、それでもよく見かけたものよ」
夫人は赤い婚礼用の靴の隣に藤色の布を広げ、刺繍の柄を指差した。
「蓮の花と竹の梯子、そして灯籠。これはお葬式用の靴の柄。花嫁やお年寄りは、自分でこれを用意するの」
「履けば見えない場所なのに……」
隠れてしまう部分に勿体無い、と素直に思った。奥ゆかしさや美意識の違いだろうが、現代の中国のイメージとはずいぶん違うような気がした。
それを口にすると、夫人は涼やかな笑い声をあげた。
「それはあなた、価値観は変わるものですよ……西洋にはコルセットがあり、日本には窮屈極まりない和服があったわ」
ただ…と夫人は呟く。
「ただ、纏足が廃れたきっかけは、英国から来た宣教師や婦人運動家の働きかけによるものよ。だから、西洋の価値観に押し切られたと言えなくもないわね」
私は、少し違和感を覚えた。
槙原夫人も、かつては婦人運動に参加した筈なのだがと。
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■5985
/ ResNo.12)
愛琳の家・11
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□投稿者/ 葉
ファミリー(155回)-(2009/06/18(Thu) 01:55:51)
その日の帰り際、私は初めて来訪者と出くわした。
挨拶を済ませて玄関の扉を閉め、門に向かって歩き出した時だった。私の車の隣にタクシーが滑り込み、そこから一人の年配の女性が降りてきた。
「こんにちは」
反射的に会釈してから、私はその女性に同業の匂いを嗅ぎ取った―――大柄で派手な身なりだが、雰囲気で何となく分かる。
女性は私を一瞥し、ふん、と言う表情で私の横を通り過ぎた。
(……何、あれ?)
良い気分はしなかった。同業ならば、他社の所属でも挨拶のひとつはするものだ。
(よそのヘルパーは入っていない筈だけど……)
何とはなしに立ち止まって見ていると、女性はぞんざいに呼び鈴を鳴らし、勝手に扉を開けて中に消えた。それと入れ違うように瑞雪か雪亮のどちらかが扉をすり抜け、尻尾を振りながら私に駆け寄った。
「……だめよ、雪亮」
見た目は同じだが、首輪のタグで見分けがつく。私はじゃれつく雪亮の前に屈み込み、目をしばたいた。
雪亮が何かをくわえている……細い、棒のようなもの。私はそれを手に取り、眉をひそめた。
(……髪飾り)
雑貨店で見るようなイミテーションのものではない。細かい唐草模様を彫り込んだ象牙の先から、小粒の珊瑚玉を垂らした美しい品だ。
「雪亮―――」
慌てて声をかけるが雪亮は既に私に背を向け、半開きの扉から屋敷の中に駆け込んでしまった。
(―――どうしよう)
いつもなら、このまま引き返して夫人に渡せばよい事だった。だが、来訪者とその様子から、すぐにそうするのはためらわれた。
(郵便受けに入れておけるような物じゃないし……)
私はしばらく逡巡し、後で電話でも入れてから、来週の訪問時に返すしかないと思い直した。
(調子が狂うなあ……)
胸のうちでぼやきながら髪飾りを鞄に納め、私は屋敷を後にした。
(携帯)
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■5986
/ ResNo.13)
愛琳の家・12
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□投稿者/ 葉
ファミリー(156回)-(2009/06/19(Fri) 01:35:54)
2009/06/19(Fri) 01:41:47 編集(投稿者)
その夜も、次の日も、夫人への電話は繋がらなかった。
私は落ち着かなかった。たまに聞くが、ヘルパーが訪問宅の金品を盗んで逮捕されたニュースをテレビで見たりして、自分がいかにも高価そうな髪飾りを無断で預かっているのが憂鬱だった。それもあってか日常業務に気が入らず、空き時間に事業所でぼんやりしていると、背後から声をかけられた。
「元気ないじゃない、もう夏バテ?」
顔見知りの訪問看護師だった。
「そう言えば、山のお屋敷に行ってるんだって?」
その言葉に顔を上げる―――この訪問看護師は複数の事業所の依頼に応じ、あちこちの管轄に出向いていた。
「知ってるの、あのお宅のこと」
「病気持ちじゃないから、私は行った事ないけどね」
看護師は気さくな口調でそう言うと、ちょっと訳ありげに声をひそめた。
「―――知ってる? あのお宅を担当したヘルパーさんって、みんなもういないのよ」
「………え?」
私は彼女を見つめた。
「どういうこと?」
「辞めちゃったのよ」
彼女は肩をすくめてみせた。
「三人くらいだったけど、あのお宅を担当してた人が立て続けに辞めてったわ―――何でかは知らないけど、それであのお宅をこっちに回したのよ。ただでさえ人手不足だからって」
「……知らなかった」
ぼんやりと呟く私の肩を、彼女はぽんと叩いて笑い声をあげた。
「やだ、深刻な顔しないでよ……確かにベテランばかり唐突に辞めたけど、ただの偶然かもしれないじゃない」
それからひとしきり他事業所の内情やクレーマーの利用者の噂話を披露して、彼女は去った。
私には疑問だけが残った。
引用返信
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■5987
/ ResNo.14)
愛琳の家・13
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□投稿者/ 葉
ファミリー(157回)-(2009/06/21(Sun) 00:18:04)
通常業務――数軒の訪問を終えてアパートに戻ると、私は家事や入浴をできる限り早く済ませる。
だからと言って、何か特別な目的がある訳ではない。ぼんやりと過ごすのが殆どだったが、そんな時間がなければやっていけない……たとえ限られた時間でも、他人と密接に関わる仕事は精神を擦り減らす。時には、自分自身が無くなるような気さえする。
だから帰宅後は仕事のことは極力考えないようにしていたが、私はPCを引き寄せ、検索サイトに「纏足」の二文字を送信した。
……無数の検索結果が表示された。歴史的・学術的なものもあったが、アダルトサイト上の記載にヒットしたものも多かった―――身体改造フェチや足フェチ、監禁願望のある人間には魅力的な慣習だからだろう。男の持ち物としての女性が逃げ出さないようにとまでは思っていなかったが、性的な理由―――立ちづらく歩きづらくする事で局部の筋力を高めるとか、改造された足そのものが玩弄の対象となる―――はあるような気がしていた。熱心なフェミニストなら、激怒して然るべきものだろうと。
(携帯)
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■5988
/ ResNo.15)
愛琳の家・14
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□投稿者/ 葉
ファミリー(158回)-(2009/06/21(Sun) 01:39:30)
閲覧したサイトには、纏足の施術法や身体への影響を詳しく載せている所があった。
施術を始めるのは五歳から七歳。包帯のような長い布で足指を足裏に折り曲げて緊縛し、指先から踵にかけて前後からも縛るために足自体が圧縮されたようになる。土踏まずも殆どなくなり、足裏に深い亀裂を刻んだような見かけになる―――骨の位置が変わるために足の甲は厚くなり、上部はアーチ状に膨らみ、足裏は弓のように弧を描く。接地面積の狭さゆえに歩行はすり足のゆっくりしたものになり、臀部や大腿部の筋力は強くなるが、膝から足首までの筋肉はあまり使わないため萎縮する。施術の完成には十年ほどの歳月を要し、完成した足のケアには生涯をかける……
(骨を壊すわけではないのか)
伝統的な施術法を見て少し意外に思った。以前何かで、骨を叩き潰すと読んだ記憶があったのだが。
そのサイトには、1880年撮影と記された、纏足した女性の写真があった。
細身で髪をひっ詰めにした、上流階級らしい身なりの中年女性がソファに座り、片方は素足、片方には靴を履いた足を見せている。ゆったりした衣装から覗く纏足靴の足先はちんまりと小さく、台に載せた素足はぎゅっと圧縮され、有り得ない位置から親指以外の足指が見えている。土踏まずは確かに亀裂になっており、知識がなければ先天的な奇形と間違いそうだ。
たくさんの纏足靴の写真もあった。
纏足は中国全土のものではなく、主に漢民族の慣習だった。しかし行っていた地方によって、靴には福建、台湾、山東、山西、広東など、その土地特有のデザインがあった。
……どの靴も華麗な刺繍が施され、美しい。木製の高いヒールがついたもの、爪先が尖ったもの、くるりと反ったもの、足首まで包むブーツ型のものもある。私が槙原夫人の家で見たものは、最も型がすっきりして装飾の華やかな山東型だった。
素材も絹や木綿、サテンなど、豪奢なものもあれば庶民的なものもある―――骨董品として収集する人もいるそうだが、確かにその価値はあると思った。蓮の靴(Lotus Shoes)という呼び名も響きがよく、雅やかだ。
(携帯)
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■5989
/ ResNo.16)
愛琳の家・15
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□投稿者/ 葉
ファミリー(159回)-(2009/06/21(Sun) 03:18:22)
(……それで、だろうか?)
私はひっそりと自問する―――槙原夫人が纏足靴を持ち、その装飾に使うべき刺繍をしているのは、靴の美しさに惹かれているから……なのだろうか。
私は複数のサイトを巡り、纏足がいつ、どのようにして消滅したかを調べた。
夫人が言ったように、19世紀初頭に最初に反対運動を起こしたのは英国人だった―――中国は清朝末期、西太后の晩年に当たる頃。西欧やロシア、日本などに国土のあちこちを占有され、過剰な干渉を受けていた時代だ。1860年代に英国の宣教師らが纏足を野蛮な慣習として廃絶を訴え、1895年には女性の権利回復を願う中国在住の婦人運動家がそれに続いた。
清朝の皇帝はたびたび纏足廃止令を出していたが、非漢民族で纏足をしていなかった西太后も禁止令を出した。
国土の広さと慣習の浸透の深さゆえに歳月がかかったが、根気よく続けられた廃止運動が実を結んだ。19世紀のうちに纏足する女性はいなくなり、纏足をしていた女性の多くは緊縛を解いた。
(西欧の価値観に押し切られたとも言えるわね)
槙原夫人の言葉を思い出す……夫人の立ち位置は、どちらなんだろう?
私は仕事用の鞄に手を伸ばし、ハンカチに包んだ髪飾りを取り出した。
繊細な唐草模様が彫り込まれた象牙は年代を経てかすかに黄ばみ、電灯に透かすとまどろむような飴色に見える。細い銀鎖に繋がれた珊瑚玉だけが鮮やかに紅い。
品物は美しい。華麗なしつらえの纏足靴も、見惚れてしまうほどに美しい。
―――品物だけなら。
(携帯)
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■5990
/ ResNo.17)
愛琳の家・16
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□投稿者/ 葉
ファミリー(160回)-(2009/06/22(Mon) 00:22:53)
翌週の訪問日、いつものように私を出迎えた夫人は、まず電話に出られなかった事をしきりに詫びた。
「少し取り込んでいたの、片付けなきゃならない用事が重なって……」
どこがという訳ではないが、夫人は少し疲れているように見えた。頭痛予防のために屋敷では呼吸を浅くしているが、私は花の香りに混じった湿布の匂いに気付いていた。
私が髪飾りを差し出しそれを持っていた経緯を話すと、夫人は少し驚いた顔をした。
「……雪亮が? これを?」
「ちょうどお客がいらした所で……それで、何度かお電話したんですが」
探るような視線を受けて私は頷いた―――猜疑心の強い利用者ならば、構築しかけた信頼関係が壊れるきっかけになる場面だ。しかし夫人はすぐにいつもの寛容さを取り戻し、
「いいのよ、取っておきなさい」
と笑顔で言った。
「雪亮があなたにあげたものだから、それはあなたの物だわ」
私は慌てて固辞した―――職場の規定にも、職業倫理にも反する事だった。
「……私には、頂く理由がありません」
そう言う私を見る夫人の眼差しが、ほんの一瞬だけ揺らいだように感じた。
何かを思い出したような表情だった。
「あなたは……」
その後のお茶の時間に、夫人はぼんやりと呟いた。
「このお仕事を始めて、何年になるの?」
「8年目になります」
「……お仕事は楽しい?」
私は夫人の顔を見直した。夫人は紅茶のカップに視線を落とし、スプーンを動かしている。
「……うまく言えませんが」
何故かは分からないが、本音で答えなければならないと私は思った。
「楽しいと思ったら、終わりだと思っています」
「―――どうして?」
夫人は即座に問い返した。
「とても有意義なお仕事じゃなくて?―――手助けが必要な人にとっては、有り難いお仕事よ」
私は少し考え、口を開いた。
「もちろん、感謝して下さる方はおられるし、嬉しいと思います……けど、考えてしまうんです。自分は本当に、その方の望むことをしたんだろうかと」
夫人がカップを掻き回す手を休め、私を見ていた。
今度は私がカップを覗き、うなだれた。
「趣味や気晴らしなら別ですが―――他人を手助けする仕事で自分が楽しいと感じるのは、自己満足……自己陶酔ではないかと思います。偽善ならばまだ、自覚があるでしょうが」
言いながら、私は気が滅入った。
多少なりとも内省を知る同業者なら、それは抱えていてもおかしくない葛藤であり、欺瞞だった。
(携帯)
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■5991
/ ResNo.18)
愛琳の家・17
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□投稿者/ 葉
ファミリー(161回)-(2009/06/22(Mon) 01:31:33)
「……迷いは、無いに越した事はありません」
私は呟く。
「それに、強い信念があるから良い仕事ができるのだとも思います……でも、楽しいと感じるのは違う。そこには自分しかいない」
しばしの沈黙の後、私は夫人の声を聞いた。
「興味深いわ、とても」
低く穏やかな口調だった。
「私があなたくらいの年齢の時にはね」
冷めてしまった紅茶を淹れ直しながら、夫人は言った。
「私にはそんな思慮はなかったわ―――裕福な外国人の、暇潰しの慈善事業……そう言われる事も気にならなかった。むしろ人から後ろ指を差され、嘲笑われるのを誇りに思っていた」
淡々と夫人は続けた。
「……言い訳をさせて貰えば、確かに当時の大陸には悲惨な境遇の女性が多かったのよ。纏足もまだ完全には消えておらず、農村では嫁不足のために幼い女の子が売買され、多くの阿片中毒者が身体を蝕まれ、緩やかに廃人になっていた。それに見て見ぬふりをして、哀れむだけではいけないと思った……」
私はゆっくりと口を挟んだ。
「それで、婦人運動を―――?」
夫人はポットを置いて椅子に戻り、静かに答えた。
「一年にも満たない、ほんの短い間の思い出よ……終戦後、結婚して帰国するまでのね」
……私は、ふと目を凝らした。
何気なくカップに添えられた細い指先に、バンドエイドが巻かれていた。
そこにはまだ、淡い血の色が滲んでいた。
(携帯)
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■5992
/ ResNo.19)
Re[1]: 愛琳の家
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□投稿者/ チノ
一般人(1回)-(2009/06/22(Mon) 12:49:36)
つづき、楽しみにしています^^
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■No5987に返信(葉さんの記事) > 通常業務――数軒の訪問を終えてアパートに戻ると、私は家事や入浴をできる限り早く済ませる。 > だからと言って、何か特別な目的がある訳ではない。ぼんやりと過ごすのが殆どだったが、そんな時間がなければやっていけない……たとえ限られた時間でも、他人と密接に関わる仕事は精神を擦り減らす。時には、自分自身が無くなるような気さえする。 > > > だから帰宅後は仕事のことは極力考えないようにしていたが、私はPCを引き寄せ、検索サイトに「纏足」の二文字を送信した。 > ……無数の検索結果が表示された。歴史的・学術的なものもあったが、アダルトサイト上の記載にヒットしたものも多かった―――身体改造フェチや足フェチ、監禁願望のある人間には魅力的な慣習だからだろう。男の持ち物としての女性が逃げ出さないようにとまでは思っていなかったが、性的な理由―――立ちづらく歩きづらくする事で局部の筋力を高めるとか、改造された足そのものが玩弄の対象となる―――はあるような気がしていた。熱心なフェミニストなら、激怒して然るべきものだろうと。 > > > (携帯)
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