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「ん……あ、ふっ…」 「耳が感じるの?」 「ちが……ぁ!」 「感じるんだ」
そう淡々とした口調でただ事実だけをすっぱりと言い切ってやると、 目の前の光の顔は赤く染まり、泣きそうに歪んだ。
長谷川光。ハタチ。 黒いストレートの肩までの髪に、切れ長な眼。 派手な顔立ちをしている割には大人びた雰囲気をまとった、すらりとした長身。
会社の部下と上司であるだけであった私たちの関係が崩れたのは、つい二時間ほど前のこと。
「抱いてください」 「は?」 「あたし、真希さんのこと好きです」
飲みに行った帰り、私のマンションに来るなり突然そんなことを言われて、 アルコールの力を借りてとは言え、私は正直に信じられなかった。 年下らしかぬ容姿をした光と、一方、背が低くて色白で、 童顔といわれるところを赤眼鏡をかけてなんとか背伸びをしている私。
どこからどう見ても釣り合いが取れるわけはなかった。 そう。考えてみれば、悪いのは断られても諦めなかった光の方だ。 なんでもします、と少し潤んだ目でこちらを見てくる光の顔が、 私の良からぬ心に火をつけた。
まさか彼女も、私がこんなにも豹変するとは思ってもみなかっただろう。
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