| 気温が安定せず、雨だった次の日が快晴だったり、晴れてたくせに雨が降ったり
学校の帰り道、予想しなかったどしゃぶりの雨が咲子を襲った。
バシャバシャと水しぶきをあげ、あと少しでアパートだからとなりふり構わず咲子は走った。
「はぁ‥はぁ…。着いた。鍵……鍵……?かぎ…」
がさがさと大きな鞄を手探りであさる。 余りの手応えの無さに鞄をコンクリートに下ろして広げてみる。
「ん…え…?は?」
独り言を呟きながらイライラしつつ携帯の明かりを頼りに鞄を覗く。
「っ…ぷぁ」
タバコをふかしながら投げ遣りに鞄を引き寄せる。 完全に鍵が無いことに気が付いたのか、咲子はアパートの通路に座り込んでしまった。
小綺麗なアパートだが変な住人もいる。 前から咲子を狙っていた男がチラチラと小さな窓から咲子を見ていた。
「うっざ…。あいつが下着盗んだんじゃないの?」
一ヵ月ほど前にあった下着ドロの記憶が蘇り、更に咲子のイライラが加速していった。
ぐりぐりとタバコの火を揉み消し、通路にあるトタンで出来た壁越しから空の様子を眺める。
「どこだろ…鍵…」
どんよりと曇った空を眺めながら、咲子の気分もどんよりと落ちていった。
ため息を付き、再びタバコを加えようとすると、目の前に先程の男が息を荒くして立っていた。
――ヤバイ?――
頭の中でその3文字の言葉が浮かんできたと同時に、男が咲子の腕を掴んだ。
「きゃあ――!むぐっ…」
口を押さえられながら男の息が咲子の耳元にかかる。
『し…静かに‥して、ね?可愛い可愛い…さきちゃん…好きだよ』
ゾクっと背筋が凍り付いた。まともな感じが全くしなかったから。
このままじゃ殺されるか犯されるかの2択しか無いような気がして、咲子は必死で抵抗した。
『痛い痛い…さきちゃんダメだなぁ、さきちゃんあんなに優しかったのに』
勝手な妄想で咲子を見つめる男に恐怖がこみあげ、咲子は目に涙を浮かべながら声にならない叫び声を上げた。
『そ…そんな騒がなくても大丈夫だよ、ちゃあんといいことするからね…』
にこにこしながら男は咲子を玄関に入れようとした瞬間、男の腕から力が抜けた
『てめぇが触われる子じゃねーんだよ!!!!』
恐怖と目の前の光景に咲子の思考が止まる。
男の股間を何度も蹴り上げる女性。 情けない泣き顔でその女性に謝る男。
咲子が戸惑ったのはその女性が隣人で、綺麗な外見からは想像出来ないような言葉を言っていたからだった
襲われかけた咲子と、それを正当防衛の域から外れた防衛の仕方で助けた留依の初めての接点。
これがきっかけで留依と知り合うなど、この時咲子は思ってもいなかった
(携帯)
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