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「そんなにお皿を見つめたって何にも出てこないわよ?」 空になった皿を手に取り、ハルカはいたずらっぽく肩を竦めた。 見下ろすイツコの目は力なく潤んで見える。 ゆるやかに微笑んだイツコの頼りなげな唇を目にして、 ハルカは自分の背筋がゾワリとしなるのを感じていた。 手から滑り落ちそうになった皿をギリギリで掴み、 何事もなかったかのように流しへ運び、自分の使用した食器と共に洗浄する。 洗剤のライムの香りが鼻腔を通り抜けると、 ハルカは気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸した。
食器をすすぎ、水切り籠におさめていると、ふと足元に温かさを感じる。 「…なにしてんの?」 見下ろせばイツコがふくらはぎの辺りに軽く噛み付いていた。 返事はなく、ブラウンのパンツがイツコの口元から段々と色を濃くする。 「…なにしてんの?」 もう一度問いかけるとイツコはゆっくりと口を離し、返事のかわりに 自らの唾液で濡れた唇をほんの少し開き、濡れた目線をハルカに投げかけた。 それを受け取りハルカはそっと鼻先で笑い、 フローリングに座り込み、まるでお座りをしているように手をつくイツコの左肩に自分の右足をかけ、 力を込めた。 イツコの細い体はしなり、一瞬あばらを浮かせた後、背中からフローリングにぶつかる。 ハルカはゆっくりとかがんで、上半身をそのまま横たえたイツコに優しく囁いた。 「ね…イツコ。先にベッドに行きなさい」 ほんの数秒の間をあけてから、寝返りを打つようにうつぶせになってから緩慢な動作で、 四つん這いでベッドルームに向かうイツコを、ハルカは満足そうに眺めていた。
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