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自らが握っている刃の先に、僅かに血液がついている。
瞬きを忘れてた、晴海を見上げると、淡いピンクのTシャツに血が滲んでいた。
ゆっくりと膝を落として、息を整える姿が、食べられるのを待っている小動物のようだった。
私は驚くほど冷静だった。
晴海の傷口にタオルをあて、すぐに救急車を呼んでいた。
すべて手配したあと。
体中から力が抜けて、やっと悲しむことが出来た。
「包丁を…不安定な場所に置いてしまったんです」
晴海の優しい嘘は、私を責めるように響いた。
幸い、傷は浅くて、縫合を済ませてすぐに帰宅することが出来た。
晴海を寝かせて、焦げ付いた鍋を片付ける。 汚れてしまった包丁を、震える指で洗う。
私の大切なひと。
こんなにも愛しているから、私は心がズレているのか。
思いと裏腹のことばかり起こして 貴方を傷つけてる。
そんな無意味な我が儘からも、貴方は愛を引き出して笑ってくれる。
身体を丸めて横になる、貴方を抱きしめたいと思う。
こんなことをして。
私から晴海を奪われたら……何もないのに。
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