| 「それでね……」 「…………」 「ちょっと、さっきから聞いてるの?」 「聞いてるよ。会社の話してたでしょ?」 「会社の何の話してた?」 「嫌いな上司の話でしょ。斉藤さんでしょ?」 「はぁー……」 「斉藤さんの話じゃなかった?」 「違うわよ!!!」 「ああ、ごめんね。聞いてたんだけど」 「聞いてないから、斉藤の話してたとか言うんでしょ」 「じゃあ、言わせてもらうけど」 「なに?」 「今日、あった瞬間から会社の話してるよ。夕ちゃん」 「いいじゃない別に」 「まぁ、別にいいけど……」 「会社の話、嫌だったら、嫌って言いなさいよ」 「別にいいって」 「いいんなら、ちゃんと話きいて」 「はいはい」 「それでね……」 「うん」 私は夕ちゃんを見つめて、話を聞いてるふりをする。 夕ちゃんの会社の話は退屈だった。話はいつも、斉藤さんの悪口で始まって、悪口で終わる。斉藤さんがどんな人か想像してみる。 一日の大半を夕ちゃんと過ごす斉藤さんをうらやましく思った。 「これ、食べないの?」 「うん」 いつの間にか、話題は目の前のサラダに移っていた。 「セロリ嫌い?」 「うん。なんか、クスリみたいな味するから」 「健康にいいのよ」 「ふーん」 「長生きできるわよ?」 「セロリ食べて、長生きなんかしたくない」 「タバコもやめるくらいなら、死んだ方がまし?」 「えっ?」 「タバコ、吸ってるでしょ?」 「す、ってないよ」 「ふーん」 「…………」 夕ちゃんは、目の前のセロリをカリカリ食べていた。 その後、一度も私を見なかった。私も、うしろめたさから話しかけられなかった。
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