| 何で泣くんだと、少し相手に苛立ちを覚えた。
相手は、近所に住むフェム系の6歳年上の女。 ついさっき、こんな時間に家に来て何かと思えば、告白された。 でもはっきり言って、しつこくてお節介なこの女は嫌いだったから、
「アンタに興味ないの。むしろ嫌いだからもう近付かないでくんない?」
とインターホン越しに言い放った。 家の中に設置してあるモニターには、毛先を15cmほど巻いた茶色い頭は項垂れ、 ピンクと白のワンピースの生地を握り締めた女の姿。 そして、数滴の涙を残し、走り去った。
ふう、と軽く溜息をつく。 お風呂上りで火照っている身体を配慮し、暖かいリビングへと足を運んだ。
一人暮らしをしているため、家中が静寂に包まれている。 テレビは何も面白そうなことはやっていない。
ふと、ガラス製のテーブルの上にある封筒に目がとまった。 今日の夕方にポストに入っていた、黒と紫のクールな感じの封筒。 糊で貼り付けてあり、送り主は名前を書いていない。
多分前の彼女・・・いや、ご主人様からだろう。
つい3ヶ月前まで、夏樹には秋という彼女がいた。 恋人、というかご主人様とペットという関係だったが・・・。 夏樹は家の中では赤の首輪に、裸に白いエプロンという格好をしていた。 今思えば、馬鹿らしくて、悔しくて仕様が無い。
そんな彼女から、最近メールが来ていたのだ。 何を思ったのかは知らないが・・・。 そしてこの間『手紙を送る』とメールで言っていたのだ。
面倒くさそうに封筒を取ると、ビリビリと手で口を破る。 中からは万年筆っぽいもので書いた、手書きの便箋が入っていた。
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