| コンコン、と少し控えめな音を立て、大きな茶色い木製のドアをノックする。
ここは都会に佇む(たたずむ)とある大金持ちの自宅の屋敷。 その外見はヨーロッパの城を思い出させるほどに大きくて荘厳だ。 広い庭には噴水やプールを設置、色々な花や木などの植物が植えられている。 屋敷は白い壁に茶色い屋根、窓越しに見えるカーテンは白や赤である。 その屋敷を囲むように黒い格子のようなものがあり、門がある。 インターホンにはカメラが配置され、声と顔が屋敷内で見れるようになっている。
そんな屋敷を持つ社長の大切な一人娘のご令嬢、藤原望(ふじわらのぞみ)の部屋に一人のメイドが訪れていた。 彼女お付のメイド、高橋由季(たかはしゆき)である。 メイド専用の黒いロングカートに白いエプロンを身に着けている若い女性だ。 栗色の髪のポニーテールは肩まで伸びている。
「いいわよ、お入りなさい」
凛とした少し低めの声が微かにドア越しに聞こえた。
「失礼致します」
そういってドアを開けると、音を立てることなく入り、ゆっくりとドアを閉めた。 中には赤いソファーと白いシーツのベッド、金で縁取られた鏡、クローゼット。 大型テレビに浴室が装備された快適な部屋となっている。
そのソファーに座って分厚い本を読んでいるのがご令嬢だ。 白いフリルがついた可愛いシャツに赤い大きなリボン、黒いロングスカート。 一見ツーピースだがワンピースになっている。 漆黒の髪は胸元までただ真っ直ぐに伸びており、背後の窓からの光を反射する。 とても美しく可愛いその少女に、由季は話しかける。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「呼ばないと来ないんじゃないの?お呼びでしょうか、じゃないわよ」
即座にそう返ってきた強気な返事は、外見とは裏腹にキツイものだ。 その可憐な外見からはとても想像できない。
「すみません、お嬢様。失礼致しました」
「それで用事だけどね。由季、ちょっと隣町まで一緒に着いて来てくれる? 私も一般民の生活を見てみたくなるのよ」
望はよく、こっそりと屋敷の皆に内緒で町へ行っては楽しんでいた。 服装を変えれば、いくらお金持ちとはいえバレない。そこを利用した望の遊びだった。
「かしこまりました。では早速準備を致しましょう」
そう言うと由季は素早くクローゼットから、以前買っておいた普通の服を取り出した。 黒とグレーのボーダーのセーター、白いベルトに赤のチェック柄のミニスカート。 そして望は無言で頷き、由季の差し出した洋服に着替えた。
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