| その出来事は、6月・・・・梅雨のある日の出来事だった。
その日1日は、まさにバケツをひっくり返したような大雨で、傘をさしても雨で濡れてしまうほどだった。 傘が全くもって意味を持たない。 唯一の救いは、風が大してない事だった。しかし、気温も湿気も高く、じめじめとして気分も暗くなる。
『拾われて』
私は、近所のスーパーに買い物に行ってきた帰りだった。
今日は本当についていないと心底思う。 晩御飯の材料が全くと言ってもいいほどに、冷蔵庫には無かった。 そこまでは仕様が無いのだが、自転車は壊れてしまっているし、車は車検に出してしまっていて無かった。
私は、傘を差して歩いて行く他にはなかったのだ。
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ずしりとしたスーパーの半透明の袋を左手に、黒と白のドット柄の傘を右手に持ち、多少イラつきながら急いで自宅へ帰る。 早くしないと、身体も買い物も濡れてしまう。
一人暮らしをしている薄紫のマンションに着くと、急いで入り口へ向かった。 幸い、マンションの入り口には屋根が付いており、そこで傘をたたむ事ができた。
傘を少し振って、雨の水滴を落としていると、小さなくしゃみが足元から聞こえた。 なんだろう、とちらりと初めて右側に目をやると、1人のびしょ濡れで震えている少女がいた。
彼女は、染めていると思われる明るい茶色に染まったショートカットに、黒い切れ長の目が特徴的だった。 服は白いワイシャツのみで、下は黒いズボンに裸足・・・いかにも寒そうで、家出をしてきた感じだ。 しかも、古いダンボールの中で体育すわりをしていて、傷だらけの身体を休ませている・・・見た目は20代前半。
「あの・・・・・?貴方はどなたでいらっしゃいますかね」
恐る恐る、しかし心配しつつその人に尋ねると、ゆっくりと私の方に視線を向けてくる。 その目は、しっかりとした意思を秘めたような強い目で、それと共に悲しみや淋しさに塗れていた。
「あ・・・・・っ」
彼女はしばらく私を眺めた後に、少し俯くと恥ずかしそうに俯いて声を上げた。 少し低めの、目の感じと一緒の声だった。
「・・・・貴方は・・・・俺の新しい御主人様・・・・・?」
は?とつい固まってしまった・・・・・御主人様・・・・・・? 私にはそんな趣味はないし、第一赤の他人、見知らぬ女性だ。いきなり言われても・・・困るだけだ。
「あの、とりあえず中に入りませんか?濡れちゃってるし・・・・・・」
一応、黙っている彼女の肩を抱いて、マンションの中へと連れて入って行った。
・・・・・これが、彼女との出会いだった。
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