| 近くの神社の境内に、月に一度骨董市が立つ。 老舗の骨董店の三代目の友人に言わせれば「骨董じゃなくて古道具市」だが、その道の素人には小鉢や櫛、小さな珊瑚の簪や懐中時計といった細々な品を眺めるのはそれなりに楽しい。
「うわ白藤堂はん堪忍しとくなはれ、目利きに見張られたら商売あがったりですわ」 店番の古物商に手を合わされまくるのも嫌なのだと沙耶は言う。 「大抵はわざと汚したり錆びさせて、古く見せかけてるだけよ。それならまだいいけど」 それ以上はあえて言わないが、わざわざ補足してくれる同業者がいる。 「うちは胸張って出しとります。全部御祓い済みですわ」 ――ああまた地雷を踏んだ。同業者からそれを言われる事が、沙耶は一番嫌なのだ。時には同業者からも鑑定を頼まれる、『いわくつき骨董』の目利きである事が。
「また持って帰れないような物を衝動買いするんじゃないよ、佳乃」 うんざりした声を聞き流し、露店から露店を渡り歩く。骨董商が友達ならそこで買えと言われそうだけど、しがないOLの給料で買えるような品は沙耶の店にないから仕方がない。 「あ、これ可愛くない?」 私は露店のひとつの前にしゃがみこみ、目についたものに手を伸ばした。 両手の平に乗るくらいの、朱塗りの姫鏡台のミニチュアだ。鏡も引き出しも精巧に作りつけてある。 「ピアスとか入れとくのにいいよね‥これくらいなら持って帰れるから、文句ないでしょ?」 「やめとき」 声と動作が同時だった。沙耶は無造作に私の手から姫鏡台を取り上げ、元に戻した。 「帰るよ」 そのまま、反論を受けつける素振りもなく背を向けてすたすたと歩き出す。 こういう時は何を言っても無駄なのは、長い付き合いで知っている。 元々は共通の友人の誕生祝いの買い物だった。それをデパートで済ませた後、喫茶店で蒸し返してみた。
「沙耶、さっきのあれ、何か憑いてたの?」 「何の話」 このご時勢にヘビースモーカーの沙耶は、そっぽを向いて煙草をふかしている。 「だからさっきの姫鏡台‥売り物にしちゃいけないようなもんだったの?」 「別に」 沙耶は抑揚のない声で吐き捨て、テーブルの下で脚を組み換えた。 「お金出して買うほどのもんじゃないでしょ。小物入れなら百均で十分よ」 「ちょっとそれ、『用の美』で商売してる人のセリフ?」 私は諦めたふりをして携帯で時刻をチェックした。沙耶には用事があり、骨董市が閉まるまでにはまだ時間がある。
(携帯)
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